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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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予定の軌道修正

 初めて4人で夜明けの森へと入った1日も終わりつつあった。魔物の討伐証明部位を換金し、安酒場街で早めの夕食も食べ終え、宿屋『乙女の微睡み亭』へと戻って来たところだ。そして今、4人はヴィアンとルパートが泊まっている部屋に集まっている。


 2人部屋に男4人が入ると狭いが、ユウは備え付けの机と対になっている椅子に、他の3人は寝台に腰掛けた。そうして最初にユウが口を開く。


「2人がこっちにやって来て1日が終わろうとしているけれど、とりあえず冒険者の活動がどんなものかわかったと思う」


「そうだな。なかなか面白い仕事じゃないか。もう少しのんびりとできたら言うことはないがな」


 にやりと笑ったヴィアンが最初に反応した。隣でルパートが何ともいえない表情でその様子を見ている。トリスタンは曖昧な笑みを浮かべていた。


 そんな3人の様子を見ながらユウが話を続ける。


「それは良かった。だったらこのまま続けられるね。それは良いとして、さっき貧者の道を歩いているときに大きな問題があることに気付いたんだ。ルパートに確認しておきたいんだけれども、今の君たちって町の中にいる自分たちの仲間と連絡を取る手段はある?」


「私たちに何かあった場合は、こちらからフランシス商会アドヴェント支店へ誰かが連絡することにはなっているが」


「向こうからこちらへ連絡したいときはどうするの?」


「それはこの宿に、あ、いや」


「僕たちはこれから別の宿に移るからその手段は執れないよね。更に、直接やり取りするのって危ないと思うんだ」


 途中で言葉を途切れさせたルパートが目を見開いた。ヴィアンも真剣な表情になる。


「しかし、そうは言うが他に方法がないだろう。いや、向こうからこちらに連絡する方法はどうにかする必要があるが」


「ルパート、ユウは何か方法を思い付いたんじゃないのか?」


「ヴィアン様? ユウ、そうなのか?」


「ひとつ、他の誰かにばれにくい方法があるよ。それは冒険者ギルドを経由して連絡を取り合うという方法なんだ。僕たち冒険者が城外支所に行くのは自然なことだから、あそこなら毎日通っても不自然じゃないでしょ」


「悪くないな。というか、現状だとそれしかないように思える」


「だったら、ルパートたちがアドヴェント支店に連絡する場合は、手紙を運ぶ仕事を冒険者ギルドに依頼するんだ。料金を高く設定するほど早く確実に届くことになるよ。逆にアドヴェント支店から君たちに連絡する場合は城外支所に伝言を頼んでもらうんだ」


「冒険者ギルドの制度を利用するというわけか。なるほど、考えたな」


 町の中との連絡手段の提案にルパートは満足そうにうなずいた。これでフランシス商会アドヴェント支店とそこに滞在するルパートの仲間たちとの連携が取れるようになる。


「これならお金が足りなくなったときも、冒険者ギルドに預かってもらえれば安心して受け取れるよね」


「ユウ、あそこに貴金属や金目の物を預けるのは危険じゃなかったのか?」


「だから、預けるときは貴族様の名義にしておくんだ。例えばワージントン男爵とかね。それに手を付ける職員はいないでしょ」


 物の保管について懸念を示したトリスタンに対してユウは解決策を提示した。一般的な冒険者の物の保管については確かに当てにならない。しかし、これが貴族相手となると話は変わってくる。ギルド本部が町の中にあるということは町の支配体制に組み込まれているということなので、貴族の物品となると扱いは非常に丁寧になるのだ。


 半ば呆然として口を閉じたトリスタンを尻目にユウは言葉を続ける。


「ルパート、早速そのことを手紙に書いてくれないかな。六の刻までに出せたら、依頼料次第で明日中に届くと思うよ」


「わかった。すぐに書こう」


「ユウ、その依頼料はどのくらい支払えば良いんだ?」


「フランシス商会はアドヴェントの町の中だから、銀貨1枚で良いと思う」


 手紙を書くため机が必要になったルパートに椅子を譲ったユウは木窓の手前で立った。その間にヴィアンの質問にも答える。ルパートがペンを走らせる音がかすかに聞こえ始めた。


 そこへ再びヴィアンがユウへ相談してくる。


「ユウの案は良いと思う。ただ、そうなるともうちょっと高望みをしたくなるな」


「というと?」


「例えば、宿を転々とするのは構わないんだが、ひとつ拠点になるような場所がほしいんだ。何も立派な部屋じゃなくてもいい。万が一宿泊先で襲われて逃げないといけないときや、何らかの理由で散り散りになったときに集合できる場所だよ」


「冒険者ギルドは?」


「あれは存在そのものが目立ちすぎるだろう。もっとひっそりとした所が良い」


 問われたユウは考え込んだ。その点についてはその都度考えるつもりでいたので案を用意していなかった。ヴィアンの要求を満たすような場所はどこになるのか。


 ユウとヴィアンが黙るとトリスタンが口を開く。


「とりあえずあればいいなら、ここはどうだ? 今俺とユウが借りている部屋をそのまま借り続けるんだ」


「それは良いな。ユウ、君たちの部屋をこれからも借り続けてもらいたいのだが、構わないか?」


「良いですよ。そうなると、必要のない荷物は全部こっちに置いておけるかな」


 トリスタンとヴィアンから提案された部屋の維持の件をユウは承知した。ジェナたちは不思議がるかもしれないが、損はしないので文句は言わないだろう。


 いきなり呼び出されて突然始めることになった潜伏生活だが、それが今急に整いつつあった。1日過ごしたことで皆が具体案を出せるようになってきたわけだ。


 手紙を書き終わったルパートが次いでユウに話しかけてくる。


「ユウ、提案があるんだが、この宿を拠点にするのなら緊急連絡先に指定しても良いか?」


「ここを?」


「冒険者ギルドが何らかの理由で使えなくなった場合、すぐに代替案が必要になるだろう。拠点にするここならふさわしいと思うのだ」


「ということは、ここの主人に手紙を預けたり伝言したりするの?」


「そうなるな」


「今回の件にまったく関係ないから、どれだけ当てになるかわからないよ?」


「承知の上だ。それに、何も知らない方が良い場合もある」


「わかった。ただし、伝言はなしで手紙のみで。その手紙も必ず僕たちの部屋に入れてもらうようにしよう。どうせなら完全に何も知らないようにするんだ」


「それでいい」


 提案が受け入れられたルパートは再びペンを走らせた。そうして書き終わると封筒に入れて封をする。


「これで良し。後は出すだけだ」


「僕が持って行こうか。冒険者登録したときの受付係の人に渡したら大丈夫だから」


「あの怠け者みたいな奴か? 本当に?」


「普段は働かないことで有名だけれど、あの人は働くと優秀だよ」


「信じられんな」


「何にせよ、この手紙は城外支所が預かるんだから、どの受付係に渡しても同じでしょ」


「やけにあの受付係にこだわるな」


「だって、あの人の前だけ行列がないから待たずに済むもんね」


 こだわる理由を聞いたルパートが呆れた。しかし、それでも手紙と依頼料をユウに手渡す。


 お使いを引き受けたユウは宿を出て冒険者ギルド城外支所へと向かった。六の刻まではもうそんなにないはずなので走る。幸い雨は降っていない。


 宿屋街の隣にある城外支所の周辺は今や冒険者でごった返していた。夜明けの森から戻ってきた者たちだ。その間を縫うようにユウは進む。


 建物の中も外と変わらない。もうあまり時間がないにも関わらず人の姿が途切れる気配はなかった。そんな中をユウは行列のできていない受付カウンターの一角まで歩く。その人物はいつも通りまだいた。少なくとも勤務時間は律儀に守るらしい。


 受付カウンターの前に立ったユウが頬付けを付いた受付係に声をかける。


「こんにちは、レセップさん」


「こんなぎりぎりに珍しいな。もうじき閉店だぞ」


「知っています。それで、今から手紙を出したいんで、依頼書を書かせてください」


「明日にしろよ」


「しゃべっている間に書きますから」


「しょうがねぇなぁ」


 心底面倒そうにレセップは立ち上がると近くの棚から羊皮紙を取り出した。そうして戻ってくると受付カウンターの上に置く。


「さっさと書け」


「はい」


 ペンとインクを受け取ったユウは羊皮紙の項目をひとつずつ埋めていった。手紙を出すだけなので大して手間はかからない。書き上げるとレセップに依頼料共々差し出す。


「手紙ひとつに銀貨1枚ねぇ」


「レセップさんが届けてくれたら確実ですよね」


「これは冒険者の仕事だ。取り上げたらまずいだろ」


「それじゃお願いしますね」


 用件を済ませるとユウは踵を返した。そのとき、六の刻の鐘の音が聞こえてくる。ぎりぎり間に合ったのだ。


 足取りも軽やかにユウは建物から出た。

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― 新着の感想 ―
何も知らないままの方が良いから、字が読めない人に手紙を扉の中に入れといてーってするのは良い案かもですね! もし中見てもわからないですしー
ユウが基本的に優秀… 日勤金貨1枚は破格だとしても、お買い得というか、ユウを引き当てた依頼人ってみんなラッキーだよな…
町の中に入る為のお金は依頼料とは別なのかな。
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