1日の魔物狩りを終えて
夜明けの森の端で昼食を取ったユウたち4人は休憩が終わると再び森の奥へと向かった。隊形は朝のときと同じで、ユウが先頭、他の3人は少し離れた場所から後を追う。
昼からもユウの魔物を引き寄せる体質に衰えはまったくなかった。魔物がやって来て、戦い、討伐証明部位を切り取り、間もなく次の魔物が襲ってくる。これの繰り返しだ。
やっていることは朝と昼で何も変わらないが、昼の活動も後半に入るとヴィアンとルパートの動きが明確に鈍ってきた。特にヴィアンは朝のような機敏な動きができなくなっている。
「今日はこのくらいにしようか」
「はぁ、はぁ、もう終わりなのか? まだやれるのではないのか?」
「ヴィアンは特に動きが鈍ってきているからもう限界だよ。それに、麻袋も丸1日活動したみたいに膨れ上がっているし、ここで終わった方が良いね」
「俺もそう思うぞ。余裕のあるうちに引き上げるべきだな。ここから町に帰るのだって時間がかかるんだし」
「人が少ないうちに換金を済ませておきたいっていう意図もあるしね」
「ヴィアン様、私も今日は引き上げるべきだと思います。また明日、活動すればよろしいでしょう。今日にこだわる必要はありません」
「まぁ皆がそう言うのであれば帰ろう」
全員から忠告されたヴィアンは若干しょんぼりとしながらも承知した。トリスタンはそれを見て苦笑いしている。
話がまとまったところで4人は早速引き上げ始めた。じっとその場に留まっているとユウに誘き寄せられた魔物が延々とやって来るからだ。
昼休憩のときと同じ程度の時間をかけて森の端に戻って来た4人はそのまま草原へと出た。息苦しかった森の中とは違い、大変涼しく息がしやすい。あれからまた小雨が降ったのか草も地面もすっかり湿っているが、それでも森の中よりはましだった。
大きく深呼吸したヴィアンが声を上げる。
「あー、帰ってきたという感じがするな」
「まったくですね。人心地ついたというのは正にこのことかと思います」
そんなヴィアンとルパートの感想を聞いて微笑んだトリスタンが振り向いた。追いついてきたユウが顔を向けてくると話しかける。
「後は買取カウンターで換金をすればいいだけだよな」
「そうだね。周りにほとんど誰もいないから、待つこともないんじゃないかな」
「しかし、結局服は湿気で湿ったままだよな。これ、明日までに乾きそうにないぞ」
「森の中に入る以上は仕方ないよ。当面はこのままだね」
4人全員が揃うと一行は草原を歩き始めた。森の端から町の端までは町の横幅と大体同じなのでそれほど時間はかからない。西側の城壁にたどり着くと町の南側へと回り込む。この辺りで強い悪臭が漂ってきたのでルパートが顔をしかめた。
最初に見えてくるのは解体場の西側にある買取カウンターだ。夜明けの森で採った薬草と狩った魔物の部位を換金する買取カウンターの建物が並んでいる。お世辞にも立派とは言えない代物で、かなり年季の入った木製の掘っ立て小屋といった見た目だ。壁をくり抜いて受付カウンターにしたかのようなものがいくつも並んでいる。
「ユウ、買取カウンターとやらも臭いがきついな」
「すぐ裏手が解体場だからね。それに、僕たちが持っている魔物の部位も日が経つにつれてあんな臭いがしてくるようになるんだよ」
「なに?」
「もし森の奥に行くことになって何日間か過ごすことになったら、あの臭いがする物を自分たちが持ち運ぶことになるっていうことだよ。特に夏場は大変だね」
不満を漏らしたルパートはユウの返答に絶句した。ヴィアンが夜明けの森の奥へと興味を持ち始めているが、それを実行するとどうなるのかを具体的に頭の中に思い描いたようだ。一方のヴィアンは話を聞いているうちに顔を引きつらせてきた。こちらも似たような感じらしい。
そんな新人2人を尻目にユウは買取カウンターへと近づいた。まだ繁忙時ではないのでどこのカウンターもがら空きである。最寄りの場所へと立ち寄り、麻袋をカウンターの上へと置いた。
暇そうにしていた買取担当者がユウに声をかけてくる。
「随分と早いじゃないか。泊まりで狩ってきたのか?」
「新人が頑張ってくれたんだ。4人分換金して」
「全員の分を出してくれ」
買取担当者の指示に従って他の3人も麻袋の中身を買取カウンターの上に取り出した。まとめてみるとかなりひどい絵面である。ヴィアンとルパートなどは嫌そうな顔をしていた。
すべて出すとユウ、トリスタン、買取担当者の3人で討伐証明部位を選り分ける。まずは同じ魔物の部位で固めるのだ。その作業が終わると次いで金額計算である。冒険者にとって最も重要な部分だ。
計算が終わると買取担当者がユウに告げる。
「買取金額は合計で鉄貨2400枚ちょうどだな。きりがいいじゃないか」
「そうだね。銅貨で24枚にしてください」
「ちょっと待ってろ」
背後に控えていた職員に金額を伝えた買取担当者は買取カウンターの上にある討伐証明部位を片付け始めた。その間にもユウへと話しかける。
「そこのお前らよりも装備のいい2人は初めて見る顔だな。最近この町に来たのか?」
「いや、町の中から出てきたって聞いたよ。先月の密輸組織摘発騒動があったでしょ。あれでやらかした人の関係者らしいんだ。それ以上は聞いていないけれど」
「あーあれかぁ。この2人はお咎め無しだったのか」
「自分の家族がやらかしたらしいけれど、本人は全然知らなかったそうだよ」
「うわぁ、それはたまらないなぁ。でも、だったら町の中で」
「いられないから外に出てきたんじゃない」
「なるほどね。ご愁傷様だな」
同情の眼差しを向けてきた買取担当者に対して、ヴィアンとルパートは居心地悪そうな表情を浮かべた。演技だとしたら悪くない対応である。
討伐証明部位の片付けが終わった買取担当者が職員に声をかけられた。そうして小袋を手渡される。
「これが買取金額だ。確認してくれ」
「確かにありますね。ありがとうございます。この袋は返しますね」
買取カウンターの上で金額を数えたユウは銅貨だけを手に持った。そうして振り返って仲間3人へと顔を向ける。
「今からみんなに分けるからね。1人銅貨6枚だよ」
「お~、あの短時間で結構稼げたんじゃないのか?」
「これが報酬か。自分で稼いだとなると、結構感慨深いな」
「確かにそうですが、あれだけ働いてこれだけというのは」
報酬を手渡すと色々な反応が返ってきた。トリスタンは嬉しそうに受け取り、ヴィアンは感動しており、ルパートは不満を漏らしている。
その様子を見ていたユウは困った感じの笑みを浮かべていた。背後から買取担当者に声をかけられる。
「腕はどうだか知らないが、金銭感覚は早くこっち側に慣れさせた方がよさそうだな」
「そうですね」
「でなきゃ、他の連中からぶっ飛ばされちまう」
「ルパート、これでも貧民にとっては大金なんだ。今日1日の宿代と食事代をちょっと計算してみてほしい。それと比較すれば、トリスタンみたいな感想になると思うんだ」
「あ、ああ、なるほど。今日1日かけた費用は確かに、これで賄えるな」
ユウに指摘されたルパートはようやく気付いた様子だった。比べるのはあくまでも貧民街でかけた費用だ。日々利益になるかどうかで計算しなければならない。町の中なら同じことをするとより高い報酬を得られるのは当然だが、そちらと比較するのは別の機会である。
「よし、もういいだろう。酒場に行こうぜ!」
横で話を聞いていたトリスタンが声を上げた。すると、ヴィアンが賛成する。ユウも説教がしたいわけではないので賛意を示した。
そうして安酒場街へと向かう。通りすがりの人に最後になった鐘は何かと尋ねると、五の刻の鐘が前に鳴ったと返された。夕飯には早いが人が増えてくる六の刻までゆっくりすれば良いと考えて入る安酒場を選ぶ。
適当に選んだ安酒場は閑散としていた。さすがにまだ客は少ない。給仕女にエールを頼んでテーブル席のひとつを占める。
エールはすぐに届けられた。木製のジョッキを握って全員が口を付ける。その瞬間、全員が微妙な表情を浮かべた。
顔を突き合わせつつ、トリスタンが口を開く。
「薄いな」
「やっぱり、気のせいではなかったか」
「ということは、ここは外れなのか?」
「いや、この薄さだったらまだ許容範囲だと思う。ある程度妥協しないと、どこのお店も入れなくなるよ」
顔をしかめるヴィアンとルパートに対してユウが待ったをかけた。選びすぎるのは良くないと主張する。
結局、今回はユウの主張を受け入れてこの安酒場で夕食を食べることにした。注文して供された料理は我慢できる味で安心する。
ヴィアンとルパートは今後毎日これを続けるのかと頭を抱えた。




