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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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高貴な冒険者の誕生

 宿の部屋で話をしていたユウたち4人は五の刻の鐘を耳にした。ヴィアンとルパートは聞き流していたが、ユウとトリスタンは顔を見合わせる。


「トリスタン、そろそろ2人を冒険者ギルドに連れて行こうと思うんだ」


「そうだな。この後は夜明けの森からみんな帰って来るから今のうちに済ませておこう」


「2人とも、何の話をしているのだ?」


「冒険者として活動するには冒険者ギルドで登録する必要があるんだ。だから、今から城外支所へ行って2人の登録をしようかと相談していたんだよ」


 不思議そうに問いかけてきたヴィアンにユウが返答した。すると、ヴィアンの顔に笑顔が広がる。


 雑談を切り上げた4人は宿を出て冒険者ギルド城外支所へと向かった。ユウに先導されて路地を西へと進む。しばらく歩いた後に西端の街道へ出ると目の前に城外支所が目の前に現われた。石材を要所に使った木造の古めかしい建物である。


 そこへ出入りする人の数は多く、大半が粗末な服を着た男たちだ。たまに軽武装した男たちも混じっている。いくつかある開け放たれたままの出入口はそんな者たちで賑わっていた。室内に入ると騒がしく、ときおり怒号や悲鳴も聞こえる。東側の壁から20レテムほどの場所に受付カウンターが南北に延びており、その西側に受付係の職員が並んでいた。


 周囲の様子を見ていたルパートが眉をひそめる。


「やはり臭いがきついな。この裏手にある解体場のせいだったか」


「ここに来るときは我慢するしかないぞ。ここの冒険者にとったら金の臭いだからな」


「何とも因果な仕事だな」


「ルパートも今からその1人になるんじゃないか」


 トリスタンから楽しそうに言い返されたルパートは目を逸らした。例え仮初めとはいえ、これから同業者になるのだ。その事実は変えられない。


 どこの受付係の前であっても待ち行列が発生している中、唯一それがない場所があった。ユウはそこへ迷わず足を向ける。相変わらず頬杖をして仕事をしていない。そんな受付係の前に立つと声をかける。


「こんにちは、レセップさん。今日は冒険者登録をしに来ました」


「お前さんはもう何年も前に済ませただろ」


「僕じゃなくてこの2人なんです」


 今気付いたという様子のレセップがヴィアンとルパートへと目を向けた。それまでのやる気がなさそうな表情が怪訝なものへと変わる。


 興味深げなヴィアンとなんだこいつという顔をするルパートに目を向けられたレセップは気にせずユウに話しかけた。珍しく姿勢を正す。


「どう見ても冒険者になるような連中じゃないだろ」


「でも、冒険者登録をしに来たのは間違いないですよ。見た目もそうでしょ?」


「最近来ないと思ってたら、お前一体何をやってるんだ」


「人助け、かなぁ」


「うさんくせぇ人助けもあったもんだな」


「レセップさんがこの前伝言してくれた件ですよ、これ」


「よしわかった。これ以上は何も聞かねぇ。さっさと登録を済ませるぞ」


「あれ、この2人の素性は聞かないんですか」


「表の素性なんぞ聞いても意味ねぇし、本当のことを知ったらヤバいだろ」


 嫌そうな顔をしたレセップが立ち上がると奥へと姿を消した。それを機にヴィアンがトリスタンに話しかける。


「随分と変わった職員だな」


「冒険者の間じゃ有名なんだ。働かない受付係ってことで」


「よくそれで解雇されないな」


「仕事をするとできるらしいから何とかなっているって聞いたことがあるぞ」


「なるほどな。問題が発生したときに必要とされる人物というわけか」


「それでもあの態度はどうかと思いますけれどね」


 感心しているヴィアンに対してルパートが呆れた様子で口を挟んだ。


 手に羊皮紙を持って戻って来たレセップがそれを受付カウンターの上に置く。


「そこの2人、文字は書けるか? 書けるならペンを貸すから自分で書け」


「これだな。私から書こう」


 差し出されたペンとインクを使って最初にヴィアンが羊皮紙の項目欄を埋めていった。名前、性別、年齢、出身地と書くこと自体は難しくない。ただ、大半が偽りなだけだ。あらかじめユウたちと素性を決めていたからこその滑らかさである。


 書き終えたヴィアンに次いでルパートがペンを握った。こちらも滞りなく書いてゆく。すべて記入するとレセップに2人分の羊皮紙を返した。一緒にペンとインクも添える。


「書けたぞ」


「それじゃ銅貨1枚用意しとけ。今から証明板を作って持ってきてやる」


 2人分の書類を手にしたレセップが再び奥へと姿を消した。それを眺めながらユウがつぶやく。


「懐かしいなぁ。僕が登録したときってお金がなかったから証明板を作れなかったんだ」


「待て、金がないとはどういうことだ?」


「当時、僕は予定より早く冒険者になったんですけれど、そのせいでお金のやり繰りがうまくいかなかったんです。それで、本当に必要な物だけをとにかく揃えたんですが、そうすると手元に鉄貨10枚しか残らなかったんですよ」


「なんだそれは。それでやっていけたのか?」


「どうにか。そのとき入れてもらったパーティに恵まれて安定して稼げましたから」


「ユウにも苦労した時期があったんだな」


 理解したという様子でうなずくヴィアンを見ながらユウは曖昧な笑顔を浮かべた。今ではちょっとした笑い話だ。


 再びレセップが戻ってきた。手にしていた鉄級の証明板を受付カウンターの上に置く。


「これがお前ら2人の証明板だ。文字が読めるならどっちが誰のだかわかるだろ」


「ほう、これが」


 差し出された鉄級の証明板を手に取ったヴィアンがそれを熱心に見つめた。手のひら程度の大きさで、木製の板に文字の刻まれた薄い鉄板が貼られている。その表面には『アドヴェント冒険者ギルド ヴィアン』と刻まれていた。


 自分の正面盤を眺める2人の新人に対してレセップが説明する。


「こいつは冒険者が冒険者ギルドに所属している証で、町民にとっての身分証明書みたいなもんだ。こいつがありゃ、少なくとも根無し草じゃねぇってことは証明できる」


「身分証明書か。羊皮紙ではないのだな」


「冒険者は泥臭く動き回る仕事だからな。羊皮紙なんぞ肌身離さず持ってたら、すぐにボロボロになっちまう。だから丈夫に作ってあるのさ」


「さっき鉄級と言っていたが、他にも級があるのか」


「あるぞ。冒険者ギルドにどの程度貢献しているかを明らかにするためにな。証明板にゃ、鉄、銅、銀、金の4種類あるが、順に貢献度が高くなる。最初は鉄で、次は銅、普通はここまでだ。銀は特大の貢献が必要だし、金に至っては歴史的な貢献をしなきゃならん。生活だけを考えるんなら気にしなくてもいい」


 話し終えたレセップが席に座った。ヴィアンとルパートは礼を言うと証明板を懐にしまうのを見ながら再び頬杖を付く。


「レセップさん、ありがとうございました」


「お前も死なん程度に頑張れよ」


 受付係に礼を言ったユウは他の3人を引き連れて受付カウンターから離れた。今度は北側の出入口から建物の外に出て町の城壁が近い原っぱへと出る。


 適当な場所で立ち止まって振り向いたユウはヴィアンとルパートに怪訝な顔を向けられた。それに構わず2人に話しかける。


「冒険者登録を済ませたから、これでヴィアンとルパートは夜明けの森で冒険者としての活動ができるようになったんだけれど、入る前に2人の実力がどの程度なのか見せてほしいんだ」


「私とヴィアン様を試すということか」


「そうだよ。ワージントン男爵邸で護衛に足るか僕たちを試したように、2人が夜明けの森でどの程度活動できるか知っておきたいんだ。2人が戦っているところは見たことがないからね」


 あの邸宅でユウとトリスタンが対戦したのはフランシス商会アドヴェント支店で姿を消した2人だった。ヴィアンとルパートも言われてそれに気付く。


「私は構わないぞ。模擬試合でもするのか?」


「そうだよ。冒険者ギルドで木製の剣を借りてここでしよう」


「む、トリスタンがいないな?」


「今、木製の剣を借りに行ったんだ」


 普通ならとりあえず森の中に入って腕を試すという流れになるが、ヴィアンに同じことをするのはルパートが渋るとユウが判断したからだ。それに、本当にヴィアンが使いものにならない場合だと危ない。事前に力量を知っておくことは重要だった。


 ユウの話の途中で木製の剣を借りに行ったトリスタンが戻ってくると模擬試合を早速始める。最初にユウがルパートと対戦した。さすがに貴人の警護しているだけあって強い。充分な力量があることを知った。一方、トリスタンはヴィアンと対戦した。こちらは素直な攻防には強いが変則的なやり取りになると弱いが、一応水準を満たしている。


 とりあえずどちらも夜明けの森に入れそうなことがわかってユウとトリスタンは安心した。

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