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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第31章 行商人の悲喜こもごも

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捜し人のいる場所(前)

 姿を見せなくなったトリスタンを捜していたユウは町の中でその手がかりを手に入れた。自分の客だと言う娼婦ベティの兄ジョッシュに雇われたらしい。踏み倒された代金を取り戻すために。


 それにしてもとユウは思った。代金を取り戻した後の支払いでしかも不足分は妹のベティが体で支払うなどという変則的な報酬をトリスタンはよく承知したものだ。相手は有力な商売人モートンの配下である行商人ハンフリーということらしいが、冒険者1人を雇って取り戻せるのか正直怪しい。


 なんだかあの兄妹にいいように使われたのではと思うユウだったが、それは今のユウにも当てはまる可能性があった。一通り話し終えた後、ベティが懇願してくる。


「あんた、トリスタンを捜しているんでしょ。だったら、アタシの兄さんも一緒に捜してくれない?」


「まぁ、今もトリスタンと一緒にいるならたぶん一緒に見つかると思うけれど」


「そうよね! それじゃ、兄さんのことをお願いするわ!」


「いやちょっと待って。お願いって言われても」


「どうして、ついでに捜してくれたらいいじゃない」


「ついでに捜すのは良いけれど、お願いされるのはさすがに困るよ。責任持てないし」


「もう歯切れが悪いわね! そういうときは全部引き受けるって言わないと、女にモテないわよ!」


 相棒も面倒な人と関わったなとユウは内心で辟易とした。ベティの態度からするとトリスタンが見つかってもジョッシュが見つからない場合、最後まで捜してもらおうと考えているのが透けて見える。さすがに見たこともない他人でしかも契約もない人物の要求を受け入れるつもりはなかった。何より、つい最近大赤字の依頼をこなしたばかりである。これ以上傷口を増やすわけにはいかない。


 早く捜し出したいからという理由で話を切り上げたユウはその場から離れた。




 歓楽街で有力な情報を掴んだユウはそれを元に町の中で更に聞き込みをすることにした。現在は昼下がり、仕事や家の用事で誰もが忙しく働いている。尋ねる相手には事欠かない。


 とはいうものの、多くの人々がいる町の中で闇雲に尋ねても時間が過ぎるばかりだ。それに、ベティによると最近は町の中で商売人や行商人の争いが絶えないので、漠然と質問をしても望む回答は得られそうにない。


 そこでユウはまず聞き取りをする場所を選んだ。町の中に住んでいた頃に商店で働いていたが、そのときに教えてもらったことを思い出す。それによると、行商人は歓楽街の隣の商工房地区で取り引きすることが多い。商工房地区は他にも商館から船場まで広がっているが、あちらは商人や商売人が中心なのだ。


 ベティはジョッシュもハンフリーも行商人だと言っていた。そうなると、取り引き現場は自然と限られてくるはずである。


 考えをまとめたユウは動いた。歓楽街から同じ町の南東にある商工房地区に移る。この辺りはかつての生活圏でもあるので、あちこちに知っている場所があった。これは多少聞き取り捜査が楽になるのではと期待する。


 実際に聞き取りを始めてみると想像以上に難航した。トリスタンとジョッシュについて人々に尋ねるが答えてくれる人は少ないのだ。そもそも2人を知らない人が大半で、最近でも行商人同士のいざこざも珍しくなくなってきている。人々の記憶に残りにくいのだ。


 また、身なりが冒険者そのものと言うこともあり、町民からの受けが悪いのも聞き取りが難航する原因のひとつだった。町の外の貧民だからとまともに相手にされないのである。


 それでも、一部ではユウのことを覚えてくれている人もいた。町の外に出て冒険者になっていることには大層驚かれたが、生きていることを喜んでくれた人も確かにいたのだ。これを知ってユウは町の中に入って良かったと思う。


 聞き取り捜査で色々とあったユウだが、それでも有力な手がかりをひとつ手に入れた。それは、とある商店で働いていた小間使いに話を聞いたときのことである。


「ああ、ジョッシュの旦那だったら知ってるよ。前に取り引きしたことがあったからね」


「そうなんですか。で、ハンフリーという人と何か取り引きをしていたという話は聞いたことがありませんか?」


「聞いたっていうより、揉めてるところは3日ほど前に見たよ。ちょうどあの辺りで」


「え、見たんですか!?」


「ここからじゃちょっと遠いから話までは聞けなかったけどね、言い争ってる感じだった」


「それでどうなったんですか?」


「それが変なことになってたんだよ。最初、ハンフリーの旦那の用心棒がジョッシュの旦那に突っかかろうとしたんだけど、それをジョッシュの旦那の用心棒が止めて引き離したんだ。それで、用心棒同士が離れたところで、今度はハンフリーの旦那がいきなり仰向けに倒れたんだよね。あんときの悲鳴だけは少し聞こえたかな。周りの人も一瞬顔を向けたし」


「ジョッシュがハンフリーを押し倒したわけですか」


「うーん、それがねぇ。ジョッシュの旦那は何もしてないように見えたんだよな。最初から最後まで単に立ってただけのはずなんだ。でも、後から来た官憲はジョッシュの旦那とその用心棒をしょっ引いてったんだよね」


 当時の様子を見ていたという小間使いは首をひねりながらユウに教えてくれた。まさかの事態に聞いて驚く。官憲に連行されているとは予想していなかったのだ。


 礼を言って小間使いと別れるとユウは中央広場へと向かった。あの周囲の一角には庁舎があり、そこには官憲の部署があるのだ。トリスタンたちが連行されたというのならば必ず1度は連れて行かれているはずである。


 それにしてもとユウは道中首を傾げた。かつてトニーはチンピラに何日も監禁されていたが、あれは何らかの理由があってそうされていたはずだ。一方、ジョッシュは冤罪の可能性が高い。しかも相手が負傷したわけでもないのに3日も留めておくことなどあるだろうか。


 どうにも腑に落ちないユウだったが、考えているうちに中央広場へとたどり着いた。その東側に立派な建物がある。町の行政を担う庁舎だ。ユウはかつてここで証明印を捺印してもらったことがある。少しだけ懐かしかった。


 わずかな感傷を抱きながらもユウは庁舎へと入る。中は前に入ったときと何も変わらない。まるで時間が止まっているかのようだ。実際は中で働く人々が変化しているわけだが、役人個人を知らないのでそんな細かいところまでは判別できない。


 ともかく、何とか誰かに話を聞いてもらってトリスタンの居場所を突きとめないといけない。そうしてちょうど通りかかった役人に声をかけようとしたユウだったが、嫌そうな顔をして避けられてしまう。かつてギルドホールで起きたことを思い出した。そして、しまったという顔をする。


「今の僕は、臭いんだ」


 つぶやいたユウは顔をしかめた。まさか庁舎にやって来るとは思わなかったので臭いは誤算だった。水浴びと洗濯をしたからといって扱いがどのくらいましになるかは怪しいが、少なくとも今のユウは町民からすると臭うだろう。商工房地区での聞き取りでも嫌な顔をされながら避けられたことがあったが、あの中にはこの臭いを嫌った者も間違いなくいるはずだ。


 しかし、だからといって簡単に引き下がるわけにはいかない。ここで諦めると相棒に繋がる手がかりが途切れてしまうのだ。


 少し考えてから、ユウは改めて周囲を見た。色々な部署の対応窓口が受付カウンターの上に並んでいる。その中には官憲の窓口もあった。そこへ向かう。


「あの、人を捜しているんですけれど」


「なんだお前、ここは貧民の来るところじゃない。さっさと町の外に帰れ」


「その貧民が3日前にここへ連行されたらしいんですよ」


「そんなに前ならもうとっくに町の外へ放り出されてるだろう」


「帰ってきていないからここに来たんです。まだ牢屋に入れられていませんか?」


「お前ら貧民なんてそんな何日も入れて一体何の得があるんだ?」


「町の中に住んでいる行商人に雇われていたんですよ。それで、その人と一緒に連行されちゃったんです。行商人はジョッシュ、雇われていたのは冒険者のトリスタンです。ジョッシュの妹のベティも捜しているんですよ」


 ぞんざいな対応をしていた受付係が固まった。厄介なという表情を浮かべる。


「そのベティという妹はどんなヤツなんだ?」


「行商人ジョッシュの妹で、歓楽街の娼館で働いている娼婦です」


「どこの娼館だ?」


「えっと、夜の止まり木っていう所だったはずです」


「ちょっと待ってろ。まずそのベティってヤツを調べる。嘘だったら牢獄にぶち込むからな」


 鋭い目つきでユウを睨みながら立ち上がった受付係が奥へと向かった。


 ユウは黙ってそれを見送る。そして、小さくため息をついた。

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