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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第28章 故郷での再会
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森から戻ってきて

 すっかり寝不足の状態であるユウとトリスタンは足を引きずるようにして夜明けの森から帰還した。冒険者たちが粗方森の中に入った後なので解体場近辺は閑散としている。


 そんな悪臭漂う場所に2人は足を運んだ。麻袋いっぱいの魔物の部位を換金するためである。


 夜明けの森で採った薬草や狩った魔物を換金する買取カウンターの建物は解体場の西側に並んでいた。建物はお世辞にも立派とは言えない代物で、かなり年季の入った木製の掘っ立て小屋だ。壁をくり抜いて受付カウンターにしたかのような建物が並んでいる。


「トリスタン、あそこで魔物の部位を換金するんだ」


「ここか。早く換金しようぜ。かさばる上に重いからな」


 元気はないが一応返事をした相棒を見たユウは買取カウンターの前に立った。換金する冒険者の数が少ないせいもあり、周囲の買取担当者も2人に目を向けている。


「魔物の部位を換金してください。この麻袋2つと、トリスタン、カウンターの上に置いて。この2つもです」


「目一杯入ってるじゃないか。相当森にいたんだな」


「いえ、昨日入って今朝出てきたんですよ」


「何? それでこんなに狩ったのか? まさか」


「その辺は何でも良いですから、とにかく数えましょう」


 寝不足でやり取りが面倒になったユウは話を切り上げた。買取担当者も小さく肩をすくめて作業に取りかかる。


 体液の付いた麻袋の口を開けたユウと買取担当者は1袋ずつ魔物の部位を取り出していった。夏場なので傷むのが早いが、さすがに昨日の今日では腐敗もほとんど進んでいない。


 すべての麻袋から魔物の部位を取り出すと買取カウンターの上にはちょっとした小山がいくつか並んだ。魔物の種類ごとに分けられたそれらの数を今度は数えてゆく。


 魔物ごとに金額を集計し、最終的にすべて足し合わせると銅貨54枚になった。その額に周囲の買取担当者も目を見張る。


「合計で銅貨54枚か。大した額じゃないか。これを1日で稼いだなんて出来過ぎだな」


「ひっきりなしに襲われましたからね。夜も全然眠れませんでしたし」


「ご苦労なこった。でも、6人で割ると1人銅貨9枚か。ああなんだ、今の時期だと珍しくないな。他の仲間はどうした? 先に帰ったのか?」


「僕たち2人だけですよ。確かにありますね。それでは」


 換金額を数え終わったユウはその半分をトリスタンに手渡すと自分の分を懐にしまった。そうして用が済むと呆然とする買取担当者を無視して買取カウンターから離れる。


「疲れたな、ユウ」


「そうだね。まさかこんな形で久しぶりの夜明けの森の探索が終わるとは思わなかったよ」


「しかし、あれが当たり前だっていうんなら、これからは考えないといけないな」


「そうだね。森の奥になんてとても行けるとは思えない。浅い場所でも精一杯だよ」


「新人だけの冒険者がすぐにやられてしまう理由がよくわかったぜ」


「そうだね。むしろ中堅の人たちがどうやって森の奥にまで行っているのか知りたいよ」


 重い足取りで歩いていたユウとトリスタンは西端の街道にぶつかった。そのまま人の流れに乗って北側に向かい、貧者の道へと入る。


 それにしてもとユウはぼんやりとする頭で考えた。当初は夜明けの森で魔物を狩って生計を立てようとしていたが、今回の探索で難しそうだと感じる。森の本当の境目辺りで魔物を狩ってその日に街へと引き上げる方法もあるが、当初考えていたやり方とはかなり違った。どちらかというと、かつて獣の森で薬草を採取していた頃のやり方に近い。


 ともかく、今後アドヴェントの町でどうやって生活をしていくのか考え直す必要に2人は迫られた。




 契約を解除した翌日に再び宿泊することになった宿屋『乙女の微睡み亭』の部屋でユウとトリスタンはその日夕方まで眠った。昼食さえも抜いて寝台で横たわっていた結果、目覚めた頃にはすっかり元気になる。


 代わりに猛烈な空腹が2人に襲いかかってきた。そこで六の刻の鐘を耳にしたのを機に2人は酒場へと向かう。


「お腹空いたなぁ」


「昼飯食ってないもんな。まぁ、昨晩は事実上ずっと戦っていたんだし、あれだけ寝てしまうのは仕方ないと思う」


 腹をさすりながら歩くユウとトリスタンは酒場『昼間の飲兵衛亭』にたどり着くとすぐに中へと入った。店内は大勢の客で賑わっており、ほぼ満席状態だ。


 どうにか座る場所を探すために周囲へ目を向けたユウはとあるテーブル席に注目する。


「あの3人、今日も集まってるんだ」


「どうした? カウンター席が空いているぞ」


「あっちに知り合いがいるから相席させてもらおう。トリスタンのことも紹介したいし」


 興味を引かれた様子のトリスタンが黙ってうなずいたのを見て、ユウは3人の座るテーブル席へと向かった。テーブルの脇に立つと食事をしながら談笑していた3人に顔を向けられる。


「2日ぶりだね。前に言っていた僕の相棒を連れてきたよ。トリスタン、この3人は僕と仲が良い知り合いで、右からテリー、マイルズ、ローマンだよ」


「初めまして、トリスタンだ」


「早速だね。俺はテリー、黒鹿(ブラックディア)のメンバーだよ」


「テリーと同じパーティのマイルズ、よろしく」


火蜥蜴(サラマンダー)のローマンだ! 2日ぶりだなんて奇遇だな、だっはっは!」


 機嫌良く3人はユウとトリスタンを迎え入れてくれた。勧められた席に座った2人は給仕女に料理と酒を注文する。それが終わるとどちらもテーブルに向き直った。


 木製のジョッキを片手に持つテリーがユウに話しかける。


「昨日から3日ほど夜明けの森に入るんじゃなかったのかい?」


「思った以上に魔物が襲ってきて今朝出てきたんだ。あんな頻繁だとは思わなかったよ」


「どのくらいの頻度で襲われたのかな?」


「昨日の朝から今朝まで麻袋4つがいっぱいになるくらい。夜もほとんど眠れなかった」


「魔物の間引き期間くらいか? いや、それ以上? やけに多いな」


「みんなあんな中、どうやって森の中で活動しているの?」


「普通はそこまで襲われないよ。いくら3年前から魔物の数が増えたからといってね」


「そうなの?」


 どうやら話に食い違いがあることに気付いたユウが首を傾げた。マイルズとローマンに顔を向けると2人とも首を横に振る。


「この時期も魔物は多い方だけど、そこまで襲われ続けたことはないかな」


「オレもだぜ。他のヤツがそんな話をしてたらフカしてんじゃねーって笑い飛ばすところだ」


「銅貨で54枚分稼いだんだけれど、買取担当者は6人パーティだとこの時期当たり前だって言ってたよ?」


「昨日の朝入って今朝出てきたんだろう? ということは森の端から1日以内の浅い場所にいたわけだ。確かに金額だけ見たら平均的だけど、稼いだ場所が浅すぎるよ。俺たちが同じくらい稼ごうと思ったらもっと奥に行かないと無理だね」


 考えるそぶりを見せながらテリーがユウの疑問に答えた。前よりも魔物の数が増えた今でも相応に稼ぐにはやはり奥へと足を踏み入れる必要がある。


「俺もテリーと同じ意見かな。稼ぎを2人で等分すると1人銅貨27枚も稼いでいるんだよね。1日で稼ぐ額じゃないよ。しかも、魔物の間引き期間とは違って換金額が割り増しじゃない状態でだなんて」


「だよな。よく2人だけで無事帰って来たもんだ」


 マイルズは難しい顔をしながらうなり、ローマンがうなずきながらエールを飲んだ。3人とも同じ意見らしい。


 給仕女が運んできた料理と酒に手を付けていたトリスタンが首を傾げる。


「だったら、どうして俺たちはあんなに魔物に襲われたんだろう?」


「うまそうだったから?」


「お前は食うことばっかりだな、ローマン」


「マイルズだってあんまりかわらねーだろう」


「この2人の話はともかく、原因はわからないかな。偶然ということもあるしね」


「ということは、しばらく入ってみないとわからないっていうことか」


「そうだよ。話を聞いているといささか危なそうだけど、何度か試さないとわからないこともあるはずだから」


「まぁそれはそうだけれど、あれって偶然なのか?」


 テリーに相談を受けてもらったトリスタンがどうにも腑に落ちないという様子のままだった。しかし、いくら考えてもこれという推測すらできないのも確かだ。


 料理をいくつか口にしていたユウがやや困惑した表情を浮かべる。


「トリスタン、もう何回か入ってみて確かめてみよう。偶然ならもうあんなに襲われないだろうし、そうじゃなかったら早めに危ないことを知っておいた方が良いよ」


「確かにな。しかし、何か気持ち悪いんだよなぁ、今回の件」


 どうにも落ち着かない様子のトリスタンがため息をついた。ユウとしても気持ちはわかるので小さくうなずく。ただ、何か問題があるのなら早く解決しておきたい。


 5人はその後も首を傾げながら食事を続けた。

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