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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第28章 故郷での再会
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先輩との再会

 夜明けの森に入る前日、ユウとトリスタンは夕食を一緒に食べる約束をしていた。別行動をしてからは朝食以外は別々に食べていたので最後くらいはという理由からだ。


 宿の部屋で合流した2人は外に出る。そのまま一旦貧者の道へと出て普通なら安酒場街へと足を向けるところだ。しかしこのとき、ユウは反対側にある冒険者ギルド城外支所へと向かうことにした。


 怪訝に思ったトリスタンにユウは尋ねられる。


「ユウ、どうして反対側に向かうんだ?」


「ちょっとね。もしかして知り合いに会えるかもしれないと思って」


 不思議そうな表情を浮かべるトリスタンはそれ以上何も言ってこなかった。ここ数日間知り合いと再会しようと色々回っていた上に、前夜はようやく知人と会えたと聞いていたからだ。


 六の刻の前、城外支所はごった返していた。今日中に用を済ませてしまおうとする者たちが次々と駆け込んできた結果だ。


 中に入ったユウは迷わず頬杖をついている受付係の前に立つ。ここだけ相変わらず誰も並んでいない。


「レセップさん、アーロンとジェイクはいますか?」


「こんな閉店間際になんだよ。まったく。北の壁際でちょっと待ってろ」


 心底面倒そうな顔をしたレセップだったが、それでも立ち上がって奥へと姿を消した。それと同時にユウとトリスタンは言われたとおりに北側の壁際へと移る。


 しばらくすると、受付カウンターの奥からではなく、北側の壁にある出入口からレセップが姿を現した。次いで、丸坊主で厳つい顔の中年とやや小柄で精悍な顔つきの中年が入ってくる。


「ユウ、連れてきたぞ。お前ら、弟子が帰ってきたぜ」


「おおおおおおおおお、ユウじゃねぇか!」


「うるせぇ! 近くで叫ぶな!」


 顔を歪ませたレセップがアーロンを怒鳴るがまったく効果はなかった。むさ苦しい中年がユウに抱きつく。その近くでジェイクが苦笑いしていた。


 舌打ちしたレセップが去るのも構わずにアーロンは騒ぎ続ける。さすがに迷惑なのでジェイクがなだめつつユウからアーロンを引き離した。


 少々疲れた様子のユウだったが気を取り直して挨拶をする。


「アーロン、ジェイク、戻って来たよ」


「おう、久しぶりだな! 元気そうで何よりだ!」


「まったくだね。こんなに立派になって帰って来るとは思わなかったよ」


「隣にいるのは相棒のトリスタン、古鉄槌(オールドハンマー)のメンバーなんだ」


「なんだと!? そりゃすげぇ! 俺は元リーダーのアーロンだ!」


「オレはジェイク、元メンバーだ」


「トリスタンだ。こんなに騒がしいとは思わなかったよ」


「ははっ、暗いよりよっぽどいいぜ! それじゃ、今日はみんなで飲みに行くか!」


 終業を告げる職員の声を背景にアーロンが宣言した。それに他の3人はうなずく。


 城外支所の建物を出たユウたちはアーロンを先頭に貧者の道を東へと進んだ。そのまま安酒場街の路地に移ると酒場『昼間の飲兵衛亭』へと入る。ほぼ満席状態の店内だったが、何とか空いているテーブル席を見つけて座った。


 給仕女に注文を頼んだ後、幾分か落ち着いたアーロンがユウに話しかける。


「それで、この町から旅立った後、お前は何をしてたんだ?」


「最初はレラの町まで行って、その後白銀の街道沿いに東へと進んだんだ」


 最初の町から始まって、ユウは西方辺境から南方辺境へ、更に森の中の遺跡から別の場所に転移させられてからも更に東へと進み、ついに大陸の東端にたどり着いて今度は北回りでアドヴェントの町に戻ってきたことを話した。料理と酒が運ばれてきてわずかに中断した以外はずっとしゃべり続ける。


 大まかな話を聞き終えたアーロンとジェイクは最初呆然としていたが、やがて大笑いした。アーロンは心底面白そうに、ジェイクは若干呆れが入っている感じだ。


 エールで喉を潤したユウがわずかに口を尖らせる。


「そんなに面白かった?」


「おお、最高だぜ! 本当に大陸を1周するとはなぁ」


「普通はそんなことをしないからね。壮大すぎて現実味がないくらいさ」


「もっとこう、感心してくれると思ったのになぁ」


「感心してるぜ? それは間違いない」


「そして、旅の途中で1人メンバーに加えたのか。よくここまでついてきたね」


「まぁいいかなって思ったし、途中で別れる理由もなかったしな。それに、いろんな所を見て回れたのはやっぱり楽しかったから」


「なるほどね」


 トリスタンから理由を聞いたジェイクが納得顔でうなずいた。ユウと似た部分がないとここまでついて来なかったはずなので、この回答はある意味当然だ。


 その後もアーロンとジェイクから様々な質問がユウとトリスタンへと投げかけられる。返答を聞く度に元メンバーの2人は楽しげに反応した。


 宴もたけなわとなってきたところで、ユウは前から気になっていたことをアーロンに尋ねる。


「アーロン、フレッドとレックスは戦士団に入ったって聞いたけれど、その後どうしているのかな?」


「あの2人か。今も元気にしてるぞ。フレッドの方はピオーネ村に駐在してて、レックスはウェスティニーの村に駐在してるぜ。俺は春にフレッドと会ったから間違いねぇ」


「レックスの方は先日オレがあったから保証するよ。昨日ウェスティニーの村から帰ってきたばかりなんだ」


「へぇ、そうなんだ。元気で良かった。でも、よく戦争に駆り出されなかったね」


「元々の戦士団の団員が駆り出された後、村に駐在する人手がなくなって困ってたときに入ったからな。逆に駆り出せなかったんだよ、あの2人は」


「ユウがまだ旅立つ前、オレたちと一緒に村の依頼を引き受けたことがあっただろう。あのときから団員不足で困っていたんだが、覚えてないか?」


「ああ、そういえばそうだったかな」


「ま、それを確認してからあの2人を戦士団に放り込んでやったからな!」


 最後に言い切るとアーロンは旨そうに木製のジョッキを空にした。すぐに追加を給仕女に注文する。今度は同時に2杯だ。


 肉を食べていたトリスタンがそれを飲み込むと口を開く。


「アーロンとジェイクは新人の冒険者を引率しているんだろう? どんな感じなんだ?」


「オレは引率してないよ。初心者講習と戦闘講習の講師が中心だ。3年ほど前から夜明けの森を舐めてかかって再起不能になる新人冒険者が増えたからね、新人だけの冒険者パーティによく教えてるよ」


「戦闘講習の方は新人でなくてもやるじゃねぇか」


「あーうん、そっちはね」


「それでアーロン、引率はどうなんだ?」


「やっぱ手間がかかるな。ジェイクの講習を受けたヤツを引率するときはまだましなんだが、そうでなきゃほぼ完全に素人だからな。言うことを聞かねぇヤツらをぶん殴りながら躾けてるぜ」


「大変そうだなぁ」


「死なれちゃ困るから大変だぜ。何しろ森の浅い場所でも油断できねぇからな。特に野営するのが大変だ。夜も遠慮なしに襲って来やがるからよ」


「それは厄介だな。俺たち2人しかいないし」


「確かになぁ。別の少人数の連中と組めたら一番いいんだろうが、それもうまくいくとは限らねぇし」


「難しいよな」


 途中、ジェイクの話を交えながらもアーロンが夜明けの森での引率について語った。それを聞いていたトリスタンは難しい顔をする。夜の見張り番は人数が多いほど楽になり、少ないほど厳しい。個人の強さの問題ではないだけに厄介だ。


 しばらく飲み食いに集中していたユウが次いで口を開く。


「僕たち、明日から夜明けの森の浅い場所を一巡りするつもりなんだけれど、アーロンとジェイクはどう思う?」


「浅いところだったら大丈夫だと思うぜ。お前たち2人の実力を見てねぇから断言はできねぇがな。ただ、さっきも言ったが問題は夜だ。2人だと眠れねぇんじゃねぇか?」


「そんな頻繁に襲ってくるの?」


「来るときはくるぞ。まぁ、そんときゃ6人いても眠れねぇんだがな!」


「最近だといくつかのパーティでクランを結成して対応してるところもある。それで、2パーティで常に行動し、一方が戦っているときにもう一方は眠り続けるそうだ」


 横から説明を加えてきたジェイクにユウは困惑した表情を向けた。トリスタンも同様だ。少しの間黙った後にジェイクへと問いかける。


「すぐ近くで魔物との戦いがあるのに眠れるのかな?」


「さすがに難しいとは聞く。だが、他に有効な手立てがないのも事実だ」


「そんな状態でどうやって森の奥に行くの?」


「こっそり隠れながらとか、魔物避けの香を焚くとか、一応手立てはある」


「その香を焚くっていうのは効果があるの?」


「あるというヤツもいるし、ないというヤツもいるね」


「何それ」


 何とも頼りない回答にユウは肩を落とした。


 なかなか厳しい現実を突き付けられたユウとトリスタンだったが宴会自体はかなり楽しむ。


 こうして2人は明日の活動のための英気を養った。

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― 新着の感想 ―
こんなに再会を喜んで貰えるなんてユウは幸せ者ですねw 元オールドハンマーにとって、ユウはただの弟子ではなく名を継ぐ後継者なので 5年ぶりに帰ってきたら嬉しいですよね。
オールドハンマーメンバーが元気そうで安心しました!
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