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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第28章 故郷での再会
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冒険者の知人は今

 工房街でまた1人知人と再会できたユウは機嫌良く貧者の道を歩いていた。まっすぐ西に向かって進む。


「ユウ、冒険者ギルドに行くのはわかったが、今度は誰と会うつもりなんだ?」


「今回も昨日会ったレセップさんだよ。居場所のはっきりとしている人は一通り会ったから、これからはそうでない人たちについて聞くんだ」


 説明を聞いたトリスタンは曖昧な表情で小さくうなずいた。確かに自分たち冒険者は居場所がはっきりとしないことが多い。いつの間にかいなくなっていることもままある。


 強い日差しを受けながら2人は冒険者ギルド城外支所へとたどり着いた。相変わらず人の出入りが多い。その流れに混じって室内に入る。


 夜明けの森に入る冒険者や獣の森に入る貧民で中はごった返していた。その中を縫うように奥へと進み、ユウは列のない受付係の前に立つ。


「おはようございます、レセップさん」


「何だよ朝っぱらから。勘弁してくれ。俺は働きたくないんだよ」


「それじゃどうして受付係なんてやっているんですか」


「やりたくてやってるわけじゃねぇ。で、何の用なんだ?」


「ここを旅立つ前に仲の良かった冒険者たちを探しているんで、知っていたら教えてほしいんです」


「ああ、お前にも知り合いがいたよな、確か」


「まずは古鉄槌(オールドハンマー)について知りたいです。アーロン、フレッド、ジェイク、レックスの4人です」


 頬杖をついて話を聞いていたレセップが面倒そうに体を起こした。そして、右手で頭をかきながら考えるそぶりを見せる。


「あーあの4人なぁ。アーロンとジェイクはここの職員になって、フレッドとレックスは戦士団に入ったって聞いたな」


「アーロンとジェイクってここにいるんですか!」


「いるぞ。アーロンの方は雑用と新人冒険者の引率、ジェイクの方は雑用と初心者講習と戦闘講習の講師だったな」


「冒険者の引率ってなんですか?」


「そうか、お前、なーんも知らねぇんだったよな。ちっ、説明しなきゃなんねぇのか」


「お願いします」


「お前がここを旅立つ少し前くらいから、夜明けの森で稼げなくなってきていたのは覚えてるだろう。東から流れてきた冒険者たちと魔物の取り合いになったせいで」


「はい、覚えています」


「あれからしばらくそんな状態だったんだが、3年ほど前から魔物の数が日常的に増えて冒険者たちも安定して稼げるようになったんだよ。大体今は冒険者の数が戦争前の5割増し程度で、普段ならこれでトントンっていったところだな。そのおかげで、最近は流れて来た冒険者たちもアドヴェントの町に慣れてきて前よりも騒ぎは少なくなってる」


「良いことずくめですよね」


「そう、熟練の冒険者にとってはな」


「え?」


「逆に、新人だけで組んだパーティなんかだと今の夜明けの森はきついんだ。何しろ魔物の圧力が前以上だからな。そのせいで、駆け出しの死傷率が上がってきてる」


「なるほど、それを解消するための引率ですか」


「その通りだ。以前は新人だけのパーティでも最初からやっていけたんだが、近頃は初回で致命的な損害を受けて解散ってのも珍しくない。新人冒険者の引率ってのは、それを防ぐための対策だ」


「みんなが先輩の冒険者を頼れるわけじゃないですからね」


「そういうこった。ちなみに、魔物の間引きも健在だぞ。以前よりもきつくなったがその分稼げると評判だ」


「新人の人たちは大丈夫なんですか?」


「大丈夫じゃねぇ。だからこれはこれで対策をしてる」


 自分がいない間にアドヴェントの町の冒険者や冒険者ギルドも少しずつ変わってきていることをユウは実感した。そうして続いて疑問をぶつける。


「戦士団に入ったフレッドとレックスはどうしているんですか?」


「知らん」


「え?」


「他の組織に移った奴のことまでは知らん。アーロンかジェイクに聞けばわかるんじゃないか? 最低でも別れ際に何をするのかくらいは聞いてるだろうしな」


「でしたら、アーロンとジェイクは今どこにいるんですか?」


「アーロンは引率をしてるんじゃないか? ジェイクは知らん。少なくとも今はここにいないな」


 すぐに会えると思ったユウは肩を落とした。そのうち会えるのは間違いない。しかし、自分が成長した姿を早く見せたいという気持ちが強く少し気が逸った。


 ユウが黙ると、今度はトリスタンが前に出てレセップに話しかける。


「この町には獣の森もあるんだよな? そっちの方は稼げているのか?」


「あっちはあんまり稼げないのが現状なんだよな。最初は東から流れてきた避難民たちと薬草の取り合いになって、戦争が終わるとその難民も数が減って一旦は落ち着いたんだ。元の町に戻ったりアドヴェントの町の景気が良くなったのでそっちの仕事をしたりしたわけだな。ところが、それでも食えない奴はいて、そういう元難民の連中がまた獣の森に戻って来たんだ。そのせいで、薬草の数は増えてないのに人数は少し増えたもんだから以前よりも稼げなくなっちまった状態だな」


「なかなかうまくいかないもんだな」


「そういうこった。どっちの森も微妙に問題が残るんだよな。嫌だよな、仕事が増えるのはよ」


 大きなため息をつくレセップを目の当たりにしたトリスタンはユウへと顔を向けた。最も働いていない受付係が何を言っているんだというわけだが、そんなことを本人に言っても無駄なのは昨日からの短いやり取りでトリスタンも理解している。なぜ職員を続けていられるのか不思議で仕方なかった。


 ともかく、これで先輩についての話は聞けたのでユウは次の質問に移る。


「他にも仲が良かったパーティのことを知りたいんです」


「具体的にはどこだ?」


火蜥蜴(サラマンダー)森蛇(フォレストスネーク)黒鹿(ブラックディア)緑の盾(グリーンシールド)です」


「その中で森蛇(フォレストスネーク)はここ数年話を聞かないな。森でやられたのか、あるいは別の町に移ったのかどっちかだろう」


「え、そうなんですか?」


「あのときは戦争を気にして別の町に移ったパーティもちらほらいたからな。大方そんな感じじゃないのか? 別に移動の度にギルドに申告する必要はないから、いなくなるときは本当にいつの間にかいなくなってるもんだ」


 旅に出る前、ユウは仲の良い別パーティの面々と度々会っていた。そのとき、どこかのパーティが別の町に移ることを検討していることを耳にしたことがある。もう具体的には思い出せないが、もしかしたら森蛇(フォレストスネーク)はそれを実行したのかもしれないと考えた。


 元気のなくなったユウをよそにレセップは話を続ける。


「他のパーティは今も夜明けの森で活動してるみたいだぞ。火蜥蜴(サラマンダー)のローマンなんてバカみたいに元気らしいし、黒鹿(ブラックディア)はメンバーの入れ替えがあったって聞いたことがあるな」


「え!? テリーやマイルズはまだいるんですか?」


「詳しくは知らねぇよ。ただ、抜けたっていう話も聞かねぇからまだいるんじゃねぇの?」


 まだはっきりとしたことはわからないが、レセップの言葉を聞いたユウはとりあえず安心した。こうなると緑の盾(グリーンシールド)のウォルトも気になるところだが別途確認する必要がある。


 こうして色々と知り合いの確認をしていくユウだったが、最後に1人、その様子を聞いておきたい人物がまだ残っていた。わずかに緊張しつつもその名前を口にする。


「それじゃ最後に、ダニーについて何か知っていますか? 僕が旅に出る頃に夜明けの森で無茶をして大きな被害を出したらしいんですが」


「ダニー? 聞いたことあるな」


「強引な勧誘をしてたとも聞いたことがありますが」


「たまにそういう奴もいるからな。いちいち覚えてないぞ。ああでも、もしかしてそいつ、森で自分以外のメンバーが全員死んだって奴か?」


「確かそのはずです」


「戦争が本格化してからは話も聞かなくなったな。お前の言う通りだとしたら、悪評が立ちすぎてこの町じゃ活動できなくなったんじゃねぇの?」


「ということは、別の町に移ったかもしれない?」


「恐らくな。少なくとも、俺は知らんぞ」


 腕を組んで首を傾げるレセップが最後に首を横に振った。いくら冒険者ギルドの職員でも冒険者全員の状態を把握しているわけではないので、これ以上話してもらえることはなさそうである。


「夜明けの森でまだ活動しているパーティなら、ここか酒場で見かけることはできますよね?」


「生きてりゃな。急ぐ理由がないんなら、気長に再会するのを待ってりゃいいんじゃねぇのかな」


「そうですね。そうします。ありがとうございました」


 自分の疑問を全部ぶつけたユウはレセップに礼を述べると受付カウンターから離れた。トリスタンも後に続く。


 今も夜明けの森で活動している者や噂を聞かなくなった者など様々だ。5年ぶりともなると、それぞれが自分の選択をして動いていることがよくわかる。


 城外支所の建物から出たユウは夏の強い日差しに目を細めながら歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
おもろすぎて1週間ほどで最新話まで読了 大陸一周し故郷に返り咲いたユウのこれからも楽しみですし また夜明けの森にもあると思われる遺跡関連も触るのかどうか ワクワクしながら待ちます
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