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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第27章 故郷への帰路
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討伐隊と盗賊団(前)

 ヴィンセントが立案し、ユウとトリスタンが修正をした境界の街道通過計画は単純なものだった。一言で言うと、討伐隊のはるか後方からついていき、戦闘終了後に通り抜けるのだ。


 領主の討伐隊と盗賊騎士率いる盗賊団の戦いは勝敗の如何を問わずいずれ終わる。そのため、討伐隊が勝利すればそのまま通り抜けば良く、逆に盗賊団が勝っても戦利品漁りが終わればさっさと根城に帰るはずなので見つからずに通り抜けられるというわけだ。


 この盗賊の行動に関しては、ユウとトリスタンが実際に徒歩の集団に混じって旅をしていたときの実体験からも裏付けられていた。隊商から根こそぎ奪い、旅人の身ぐるみを剥いだ盗賊たちはさっさとその場から去ってゆく。人から聞いた話でも例外はなかった。そのため、この1度限りならば割と安全に通過できる可能性が高い。


 最終的な計画が決まった後、ユウはトリスタンと共に準備をした。それほど大したことではないが地味に必要なものを購入したのだ。トリスタンなどは嫌がったが。


 ともかく、出発当日になった。この日は2人とも日の出と共に目覚め、ゆっくりと準備を済ませる。それが終わると安宿を出た。


 真夏の太陽が照りつける中、ユウとトリスタンは集合場所へと向かう。今回は町の南門側の郊外近くだ。境界の街道沿いで貧民街の外れである。


「この暑い中を待つのかぁ」


「早く出発してほしいよね」


 嫌そうな顔をするトリスタンにユウは疲れた笑みを返した。思いは同じである。


 指定された場所にたどり着くとヴィンセントが既に待っていた。他にも3人の大きな荷物を背負った行商人が立っている。


「ヴィンセント、おはよう。同行する人たちは、残り2人はまだ来ていないの?」


「来ないことになったんです。ですから、これで全員ですよ」


「まぁいいや。それで、領主様の討伐隊はまだ出発していないんだよね」


「まだ三の刻前ですから。もうしばらく先ですよ」


 人数の確認が終わるとお互いの自己紹介が始まった。いずれもヴィンセントが両者に紹介する。商売人3人はいずれも一山当ててやろうという気概に満ちた者ばかりだ。


 それから改めてユウが行商人3人に話しかける。


「ヴィンセントから事前に話をしてもらっていると思いますけれど、念のために確認しておきます。これから計画に沿ってウォダリーの町へと向かいますが、町に着くまでは僕とトリスタンの指示に必ず従ってください。僕たちよりもこの辺りの場所に詳しい人もいるでしょうが、危険への対応は僕たち冒険者の方が専門ですから。もし、指示に従わないときは見捨てるので覚悟しておいてください」


 毅然とした態度でユウは行商人3人に告げた。旅の同行者なので立場は対等であるが、ばらばらに行動していては危険の回避はおぼつかない。そのため、今回は冒険者であるユウとトリスタンが明確に上であることを宣言したわけだ。


 これに対して、行商人3人はうなずいた。後になってヴィンセントから聞いた話だが、来なかった2人はこの条件を渋ったからである。


 すべての条件が整った後、ユウたち6人は領主の討伐隊が出発するのを待った。




 三の刻の鐘が鳴った。建物の日陰で待っていたユウたちが反応する。ヴィンセントが街道に出て南門へと目を向けた。まっすぐ北に伸びる境界の街道の先にバウニーの町の南門がある。既に開かれている門の奥には町の風景がわずかに見えた。


 しばらくじっとしていたヴィンセントだったがやがて小首を傾げながら戻ってくる。


「まだ出てきませんね。遅れているのかな?」


「城内で出陣式をやってそこから貴族街と平民いる街を通ってくるから時間がかかるんだと思うぞ。もうしばらくかかるんじゃないか」


「詳しいですね、トリスタン。町の中のことを知ってるんですか?」


「知り合いに聞いたことがあるんだ」


 不思議そうに尋ねてきたヴィンセントにトリスタンが肩をすくめた。当人が書類上はまだ貴族なのでこの辺りに詳しいのは当然だ。しかし、そんな身分を明かしても面倒になるだけなので軽く受け流す。ヴィンセントも深くは聞いてこなかった。


 尚もじっと待っていると、南門を見に行っていた同行する行商人の1人が驚いた表情で戻ってくる。


「来たぞ! 騎士様と兵隊がやって来た!」


 その声に全員が反応した。誰もがやっとかという表情で体をほぐす。地面に置いた大きな荷物を行商人たちが背負い始めた。


 座って建物の壁にもたれかかっていたユウも立ち上がる。背伸びをして体をほぐして大きな息を吐き出した。そのユウにトリスタンが声をかける。


「やっとだな。確か50人くらいだったか、討伐隊の数」


「ヴィンセントの話だとそうだね。もっとも、今から目にするんだから実際に数えた方が確実かな」


 街道へと体の正面を向けたユウは建物の陰から姿を現した討伐隊を眺めた。先頭は馬に乗った騎士で、従者が4人付き従っている。その後に槍と剣で武装した兵士が2列に並んで続いた。


 最後尾が建物の陰から出てくるとユウは一旦目を離す。全部で25組、2列なので50人、ヴィンセントの話は正しかった。


 討伐隊の一行が街道を南へと進んでゆく。それを見ながらトリスタンが自分の荷物を背負った。感触を調整してからユウに話しかける。


「騎士を含めると55人だな。普通なら盗賊を討伐するには充分な数だが」


「強いと噂される盗賊騎士をあの騎士1人で倒せるのかな」


「それなんだよな。よっぽど自信がある奴なのか、しょせん噂と全然信じていないのか」


「大丈夫かなぁ」


「ユウ、トリスタン、それではいきましょう!」


 のんきに話をしているユウとトリスタンに対してヴィンセントが元気に口を挟んできた。他の行商人3人も待ちきれないといった様子である。


 行商人の言葉を聞いたユウは再び討伐隊へと目を向けた。その姿は次第に小さくなっている。そろそろ頃合いといえば頃合いだ。しかし、視線を近場に戻したときに他の行商人や旅人が街道を南へと歩いてゆくのが目に入った。


 もちろんそれはヴィンセントたち行商人も気付いており、その中の1人は指差して叫ぶ。


「あ! あいつ、行かないんじゃなかったのか!?」


「あいつもいるぞ。計画を聞くだけ聞いて抜けやがったのか」


 行商人たちが騒ぐのを聞いてユウはその指が指し示す方に目を向けた。個人までは特定できなかったが、大きな荷物を背負った4人が街道を歩いていくことを知る。更にもう1度討伐隊へと目を向けるとその姿はかなり小さい。


 少し考えてからユウは全員に告げる。


「もう少し待とう。あの行商人や旅人の姿が小さくなるくらいまで」


「え? どうしてですか? そんなに待ったら討伐隊が見えなくなりますよ?」


「それで良いんだよ。討伐隊が見える範囲というのは、同時に討伐隊と戦う盗賊団からも見られるということなんだ。討伐隊が負けた時、こっちの姿を見られていたらまずいでしょ。身ぐるみ剥がそうと追いかけてくるだろうから」


「なるほど確かに。でも、何もなければ前を進む行商人たちに後れを取ることになりませんか?」


「行商人の感覚はわからないけれど、この程度の距離なら向こうの街に着く時間なんてそれほど差はないよ。商売は一瞬が大事なんだと言われたらそうなんだろうけれど、それって自分の命を必要以上の危険に曝してまでやらないといけないことかな?」


「そう言われてみれば確かに」


 落ち着いたユウの説明を聞いたヴィンセントたち行商人は微妙な表情をして黙った。儲けることは重要だが、命がより大切なのはその通りだ。


 行商人たちが静かになったところでトリスタンが声をかけてくる。


「もうそろそろいいんじゃないのか? あっちの行商人も結構小さくなってきたぞ」


「討伐隊は、もう見えないね。よし、それじゃ出発しよう」


 相棒の声で街道へと顔を向けたユウはヴィンセントたちに宣言した。自分の荷物を背負って歩き始める。


 真夏の熱い日差しを浴びてユウたち6人は街道をゆっくりと歩いた。周囲は郊外だと原っぱで、そこが終わると畑に変わる。いずれもさえぎるものがないので地味にきつい。


 街道のはるか先を目で追うといくつかの影が見える。先行する行商人と旅人の集団だ。10人以上いる。目を離していた間に更に合流したらしい。その更に先は地平線まで何もない。


 街道の東側には境界の川が北向きに流れている。川幅と同じく、その両側の河原は広い。これからウォダリーの町どころかアドヴェントの町までずっと沿い続けることになるだろう。


 今回の旅は少し特殊だ。明確な危険に近づきつつもうまく躱さないといけない。そのための情報を集め、計画を立て、実際に見聞きしながら修正していく。無事に次の町へたどり着けるかはこの後の行動次第だろう。

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― 新着の感想 ―
そう言えば前にも似たようなことがあったかと思いますが、その時も先頭は別のグループに任せて安全確保してましたね
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