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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第27章 故郷への帰路
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盗賊騎士の噂

 冒険者ギルド城外支所で相談をしているユウはとりあえず疑問のひとつを解決した。次いで、ある意味本題の質問に入る。


「それともうひとつ質問があります。ここからウォダリーの町に行くような仕事はありませんか? 荷馬車の護衛なんかが一番ですけれど、なかったら他のでも紹介してください」


「荷馬車の護衛は傭兵の仕事だからそもそもないとして、他のも今はないね。ただ、最近はウォダリーの町へ通じる境界の街道がほとんど封鎖されている状態だから、仕事があるかどうか以前の話だけど」


「え、どうして封鎖されているんですか?」


「昨日この町に来たばかりなんだっけ? それなら知らなくても仕方ないか。2ヵ月くらい前だったかな。その頃に、ウォダリーの町に通じる境界の街道に盗賊団が現れたんだ。それ自体は珍しくないんだけど、厄介なことに盗賊騎士に率いられてるみたいなんだよ」


 盗賊騎士と聞いたユウは目を見開いた。かつて1度戦ったことがあることを思い出す。一般的な盗賊とは違い、戦うための訓練を積み重ねた騎士だけに強かった印象がある。あれに率いられている盗賊団となるとそれはとても厄介だと強く思った。


 思わずユウは問いかける。


「もしかして、とても強いですか?」


「そりゃもう。あんまりにも強くて並の傭兵では太刀打ちできずに次々と討ち取られていくせいで、隊商が次々にやられていったんだ。このせいで、ウォダリーの町までの境界の街道を行く隊商は最近だとすっかりいなくなって困ってるんだよ」


「それじゃどうやってウォダリーの町と交易をしているんですか?」


「境界の川があるから船は使えるんだ。だから交易自体はまだできてる。けど、細々(こまごま)としたものや、街道沿いの村なんかは行商人が来ないから困っているだろうね」


 村の話が出てきたことでユウは街道から小道へと入ってゆく行商人のことを思い出した。すぐに困ることはないのかもしれないが、あまりにも長く行商人が来訪しないと生活が行き詰まってしまうだろう。


「こういうときって領主様が討伐隊を派遣したりしないんですか?」


「近いうちに討伐隊が派遣されるんじゃないかっていう話は少し前からある。さすがに街道の往来が止まるほどとなると、領主様の懐にも響いてくるだろうしね」


「早く討伐されないかなぁ。そうか! ということは、しばらく通れないわけですか」


「そうだね。見つからないように進めばウォダリーの町に行けるかもしれないけど、土地勘は盗賊の方があるだろうから難しいだろうね」


 肩をすくめた受付係を見たユウは肩を落とした。まさか仕事がないだけでなく、通ること自体ができなくなっていたなど予想外だ。


 残念な話を聞いたユウは意気消沈したまま城外支所の建物から出ると道を歩く。ウェスモの町でこのことを知っていればレゴンの町へと向かっていたが後の祭りだ。


 気分転換にユウは市場へと向かった。様々な物が屋台や露店で売られていて活気がある。この様子からは境界の街道が使えないことなど想像できない。


 屋台で魚肉の団子を買ったユウはその場で食べる。スープでじっくりと煮込まれた白く丸い塊は囓るとちょっとした弾力があり、中から汁が染み出た。


 半分ほど食べるとユウは屋台の主人に話しかける。


「この市場、なかなか景気がよさそうですね」


「悪くはないけど、前ほどじゃないな」


「そうなんですか?」


「ああ。確か6月くらいだったかな、境界の街道でえらく強い盗賊団が出るようになったんだ。そのせいで隊商が次々と襲われて先月くらいからほとんど誰も通らなくなってから、こっちの客足も落ちたのさ」



「冒険者ギルドで聞いた話ですと、盗賊騎士が強いらしいですね」


「そうだった、そんなヤツが率いてるんだっけ。こっちとしては早くあんな連中なんて討伐されてほしいね」


「さっきほとんど誰も通らなくなったって言っていましたけれど、一部は誰か通っているんですか?」


「そういうヤツもいるっていう話を聞いただけで、ワシだってどこの誰が通ったなんてことまでは知らないぞ。まぁ、よっぽどの命知らずか、それともまったく何も知らなかったのか、どっちかだろう」


 面白くなさそうな顔をした屋台の主人が首を横に振って話を締めくくった。


 その後のユウは魚肉の団子を食べながら別の話題を主人と話す。そして、すべて食べ終わってから屋台を離れた。




 六の刻の鐘が鳴る頃にユウは冒険者ギルド城外支所へと着いた。建物の前にはトリスタンとヴィンセントが立っている。


「トリスタン、ヴィンセント、それじゃ行こうか」


「今日は勝ったからな! 懐が温かいんだ」


「オレの方はちょっと話があるんです。酒場に入ったら聞いてください」


 困った顔をしたヴィンセントから告げられたことにユウはうなずいた。恐らくこれだろうと事情を察しつつも歩き出す。


 昨日と同じ酒場に入った3人はテーブル席に座った。給仕女への注文を済ませると早速ヴィンセントが口を開く。


「今日は次の町で売れる物を仕入れるために市場で買い付けをしていたんですが、ちょっと嫌な話をきいたんですよ。境界の街道沿いに強い盗賊団が出てくるっていう話です」


「僕、冒険者ギルドと市場の屋台でその話を聞いたよ」


「俺も賭場で少し聞いたぞ。休憩中に他の客から」


「それなら話が早いです。2ヵ月くらい前にその盗賊団は境界の街道に現れたそうですけど、これを率いる盗賊騎士が随分と強いそうなんですよ。このせいで護衛の傭兵は次々と討ち取られ、隊商は財産をすべて奪われたそうです。そんな状態ですから、今あの街道は誰も使っていないとか」


「冒険者ギルドの受付係から、近々領主様が討伐隊を派遣されるっていう噂を聞いたけれども実際は」


「ああ、その話、本当らしいぞ」


 話を途中でさえぎられたユウはトリスタンの顔を見た。確定の情報が出てくるとは思っていなかったので驚く。


 そのとき、給仕女が料理と酒を持ってきてテーブルに並べ始めた。そこで一旦話を中断する。注文の品を配膳した給仕女が去るとすぐに会話が再開される。珍しく料理にはまだ誰も手を付けていない。


 最初にヴィンセントがトリスタンに確認する。


「本当に領主様が討伐隊を派遣されるんですか?」


「事実らしい。さっき休憩中の客から盗賊団の話を聞いたって言っただろう? その客が町の中で兵舎に勤めている使用人から聞いたそうだ。今月の4日に出発する準備をしている途中らしい」


「4日ですか! ということは3日後ですね。もう1度確認しますが、その話は確実なのですね、トリスタン」


「嘘じゃないと思うぞ。町の中だとちらほらと聞く話だと言っていたからな」


「わかりました。それでは、この件について、明日改めて話をさせてください」


 いささか真剣味を帯びてきたヴィンセントの顔を見てユウとトリスタンは当惑した。噂話を改めて話す理由がわからない。


 気になったユウが問いかける。


「ヴィンセント、改めて何を話すつもりなの?」


「その討伐隊の話が事実ならば、その後をついていって討伐直後にそのまま脇をすり抜けてしまえば、ウォダリーの町へ他の人に一歩先んじて入れるのではと考えたんです」


 まさかの提案にユウとトリスタンは唖然とした。商機を重んじる行商人らしいとも言える。


「今ぱっと思い付いたものでまだちゃんと形になっていません。ですから、少しだけ時間をください。噂が本当なのか確認して、今言ったことが本当にできるのか検討したいんです。初めて会ったときにオレが話したことを覚えてますか? そのうち大きく儲けるような仕事をしてがっつり稼ぐって話です。今がそのときなんですよ!」


「行商をやっているとなかなか大きく稼げないって言っていたが、この盗賊団の話を好機と捉えるのか」


「そうです。荷馬車持ちが街道を使えない今だからこそ、歩いてどこへでも行けるオレのような行商人が儲けられるんです!」


 熱く語り始めたヴィンセントにユウは驚いた。そういえばいつか町の中で店を構えたいと言っていたことを思い出す。ユウたちは討伐隊の結果を知ってから行動しようと考えていたが、どうも行商人としてはそれでは遅いらしい。


 とりあえずユウとトリスタンは明日の夕食時に話を聞くことにした。判断はその内容を聞いてから下すことになる。


 そうして翌日の夕方に改めてヴィンセントの話を聞いた2人だったが、意外にも何とかなりそうな計画を提示されて逆に頭を抱えた。やけに現実的なのはそれだけ真剣に検討したということなのだろう。金が絡むと大したものだと2人は妙に感心した。


 少し怪しいところはユウたちが意見をして修正をしてもらう。これで2人も文句はない。

 こうしてユウとトリスタンは境界の街道を予定通り進むことになった。

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