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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第27章 故郷への帰路
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遭遇した傭兵団

 フロンの町を出て2日目になると街道の南側に西端の森が迫ってきた。北側とは違ってまだ開拓が進んでいないのだ。それでも片側が開けた場所なのでまだ見晴らしは良い。これが3日目の終わりにいよいよ本格的に森の中へと入ると周囲の様子は一変する。街道の両側から空を覆わんとばかりに枝葉を伸ばしてくる木々に強く圧迫感を感じるのだ。


 森の中で野営をすると遠くを見通せないので不安になる。これは護衛以外の人々も何となく感じていることだ。早く開けた場所に出たいと誰もが願う。


 4日目、この日もいつも通り朝の準備を終えて隊商と開拓団が野営地を後にした。そろそろ道も半ばなので開拓団の人々も慣れてきた頃だ。


 集団の最後尾を歩くユウとトリスタンも安心して前を歩く開拓希望者たちを眺めていた。この様子だと全員ウェスモの町にたどり着けそうだと感じる。


 ところが、好調な滑り出しを見せたこの日の旅はすぐに中断した。出発してそれほど時間が経っていない頃に先頭から順次止まってゆく。隊商と開拓団が全員止まると、街道の脇の森から粗末な武装をした者たちが姿を現した。


 それらを目にしたユウが怪訝な表情を浮かべる。


「盗賊? それにしては様子が少し違うような」


「両脇に10人ずつくらいいるな。後ろは前にどのくらいいるかだが、ざっと30人程度か」


 隣に立つトリスタンの言葉にユウは小さくうなずいた。ろくでもない者たちなのは一目見てわかるが、何をしようとしているのかがわからない。前の方を見ていると、商隊長が護衛を2人引き連れて街道を塞いでいる一団の代表と対面したところだった。


 明らかに嫌な感じがしたユウは開拓団の人々と共に様子を窺っているオズワルドへと近づく。


「オズワルドさん、あの話し合いに参加しないんですか?」


「交渉事が得意じゃないオレが下手に出て行っても役に立たないだろうから、しばらくここで様子を見るんだ」


「え? だったらせめて前に出てじっとしていれば良いじゃないですか。知らない間に下手なことを決められたら自分の首が絞まりますよ?」


 開拓団の団長の発言にユウが呆れた。この集団を引っぱっているのは確かに商隊長の方だが、形式上はオズワルドと対等な関係なのだ。そのため、外部との交渉が発生した場合は自分たちの集団が不利にならないよう必ず出向く必要がある。


 明らかに人の上に立つことに慣れていないオズワルドの態度にユウは不安になった。何とも言えない表情のまま、不穏な集団の代表と話をしている商隊長に目を向ける。すると、1人の人足がこちらに向かってくるのが見えた。


 小走りの人足がオズワルドの前に立つ。


「旦那様が呼んでいますので、こちらに来てください」


「わかった。レイフ、一緒に来てくれ」


 呼ばれたオズワルドが不安そうな表情で人足に案内されて前方へと向かっていった。レイフがそれに続く。


 ユウのいる場所から商隊長は背中を向けているのでその表情はわからないが、相手の代表は何とも嫌な感じのする余裕が感じられた。にやついた笑顔が実に不快だ。


 尚も前方を見ていたユウは横からトリスタンに話しかけられる。


「ユウ、こいつら何だと思う?」


「今ちょっと嫌なことを思いだしたんだ。故郷で町の依頼を受けて巡回していたときに盗賊について教えてもらったことがあったんだよ」


「こいつらが盗賊だというのか?」


「たぶん今はまだ違うと思う。でも、向こうの要求を断ったらそうなるかもしれない」


 前置きを終えるとユウはトリスタンに説明を始めた。


 盗賊は町の中と外で大きく分かれ、その中でも外の場合だと農民と傭兵で更に異なる。どちらも食いっぱぐれた者たちには違いないのだが、傭兵の場合は相手を皆殺しにして根こそぎ持って行くと一般的には思われていた。


 基本的な話をした後、ユウは本題に入る。


「でもね、傭兵団の中には治安を維持するという名目で通行料を要求したり、町の近くまで護衛するという名目で金品を巻き上げたりすることがあるらしいんだ」


「穏便に金と食料を奪うってわけか」


「うん。こいつらはどうなのかな」


 粗末な武装をした者たちにちらりと目を向けたユウが言葉を切った。恐らく1人1人は大したことがないのだろうが、トリスタンの目測で三方向に約30人がいる。レイフがオズワルドと共に前へ行ったのでこの場の護衛はパーシーとサムを合わせても4人だ。襲いかかってこられた場合、開拓団に来るのが両脇合わせて10人だとしても25人全員を守り切るのは難しい。


 若干嫌そうな顔をしたトリスタンにユウが小声で話しかけられる。


「戦いになって守り切れると思うか?」


「全員は無理だよ。街道の北側にいる僕たちで襲ってくる5人は何とかできても、南側にいるパーシーとサムは抜かれるはず」


「ああ、パーシーはまだしも、サムがか」


「サムは狩人だから弓が使えると強いんだろうけれど、最初からこんなに近いと弓は使えない。それにそもそも、サムは戦いに慣れていないはずだよ」


「見張り番としてならともかく、戦力としては厳しいか」


 ため息をついたトリスタンが黙ったそばでユウは再びオズワルドたちに目を向けた。何を話しているのかわからないのがもどかしい。もっと前に進めば漏れた声が聞こえるのだろう。しかし、開拓希望者たちの護衛を放棄するわけにもいかない。交渉が決裂する可能性は常にあるのだ。


 相手の代表の表情が次第に変化していくのが遠目でもわかった。何となくオズワルドの腰が引けていることから交渉は難航しているのだろう。


 もうそろそろと判断したユウが急いでパーシーに近寄った。顔を近づけて声を抑える。


「たぶん、交渉が決裂すると思う。そうなったら襲われるから気を付けて」


「わかった。サムにも伝えておく」


 状況を伝え終えたユウはすぐに元の場所に戻った。すると、ちょうど相手の代表が大声を上げるのを耳にする。


「てめぇ、このテッド様の善意がわからんというのかぁ! そんな少ない10人程度を雇うよりも、オレたちのような大人数を雇えば安心だろうがよぉ!」


「ユウ、あれって傭兵団でいいのか?」


「たぶん、食い詰めた傭兵団だと思う。なるほど、護衛の押し売りだったんだ」


 相手の正体と目的が判明したことでユウはようやく現在の状況に納得した。しかし、問題は何も解決していないどころか悪化している。


「ウォーレス、女を1人連れてこい! こいつらにわからせてやるぞ!」


 自分の方へと目を向けてきた代表のテッドの視線を追ってユウが振り返ると、トリスタンの向こう側にいる大男が近づいて来るのが目に入った。相棒がその正面に立つ。


 この辺りが限界かとユウは思った。トリスタンがウォーレスという相手を殴り倒せば戦いが始まり、逆にトリスタンが殴り倒されても今度はユウが殴り返すのでやっぱり戦いが始まる。穏便に事が済むことは元々あまり期待していなかったが、実際にそうなりそうになると暗澹とした気持ちになった。


 多少の押し問答の末、ウォーレスに殴りかかられたトリスタンがそれを躱し、逆に顎を打ち抜いて倒す。すると、傭兵団側の傭兵にわずかな動揺が走った。


 相手の代表であるテッドも当然それを見ていたわけだが、大男が無様に倒れた直後に怒り狂って叫び出す。


「てめぇ、ナメたマネしやがって! そいつをブッ殺せ!」


 動揺していた傭兵たちの初動は遅かった。とりあえず武器を手にしたがトリスタンを遠巻きに見て近づこうとしない。恐らく傭兵団の中でも相応に強かったのだろう。そんな人物をあっさりと倒した相手と真正面からやりたくないという思いが伝わってくる。


 剣を手にした相棒と対峙する5人の傭兵に対して、ユウは槌矛(メイス)を右手に握ると無言で襲いかかった。最も近い1人の右手を槌矛(メイス)で打ちすえて武器をたたき落とし、左手で突き倒して次の傭兵に向かう。この時点でトリスタンも動いた。すると、すぐに5人は右手や右腕を押さえてうずくまる。


「ははは、5人がかりで2人にやられる傭兵団なんて、雇う意味はないよなぁ?」


「てめぇ、ふざけやがって! ブッ殺してや、ぎゃ!?」


 大声で啖呵を切ったトリスタンに激怒したテッドが叫ぼうとしたところ、近くにいたレイフに槍で腹を刺された。傭兵団の団長は苦しそうに片膝を付いてうめき、今度は首を刺されて絶命する。


 その様子を見ていた傭兵団の面々は顔を青くして森の中へと逃げ出した。ユウとトリスタンが倒したあの5人も四つん這いになりながら森の奥へと消える。


 突然現れた傭兵団が逃げ去った後、しばらく隊商と開拓団は騒然とした。そして、無事に切り抜けられたことを喜び合う。


 ひとしきり今の出来事を話し合った人々だったが、やがて再出発の準備を整えると先頭から順に動き始めた。

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― 新着の感想 ―
トリスタン煽るやん! それで大きな隙が出来たんですねえ。
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