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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第26章 魔法の箱と難破船
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■■に帰すべきもの(4)

 色々とおかしいことが判明したことで動揺する『大鷲二世』号の面々だったが、このままじっとしているわけにはいかなかった。目の前の島が何であるのか調査する必要がある。


 ダレル船長は自分以外にも、船乗りと冒険者の中から比較的元気な者を4人ずつ選んで乗船させることにした。この8人を2人一組で4つの小集団に分けて近辺を調べさせるのだ。ユウもこの中の1人に選ばれている。


 用意された小舟に移った船長以下9人は島の浜辺に向かって進んだ。船の底が砂浜に着くと膝まで海水につかりながら上陸する。


 特に何か危険があるようにも見えない静かな浜辺だった。誰にも荒らされたことがないような砂が一面に広がっており、その奥は風化によってあちこちが削り取られた岩がその表面を見せている。植物がまったくないという以外は特に言うこともない風景だ。


 予定通り2人ずつ4組に分かれて調査を開始する。それぞれ、西の砂浜沿い、西北西の岩場、北北西の岩場、北北東の砂浜沿いだ。時間は鐘1回分である。


 ユウは船員の1人と組んで西北西の岩場を進んだ。人が歩くことなど考慮されていない地形なので歩くのに苦労する。ただ、周囲にさえぎる物がほとんどないので見晴らしは良い。北北西を進んでいる冒険者2人の姿が遠くに見える。


 やがて切り立った崖の前にやって来た。この近辺からだと上に登ることはできそうにない。ただ、右手に少し回ると谷間のような場所がある。ここからなら更に先に進めそうだ。


 最初は5人くらい並んで歩けそうな広い谷間はすぐに4人分、3人分とその横幅を狭めていった。そうしてついに横幅が2人分程度になった辺りで洞窟を発見する。


「うわ、暗いね。これじゃ何も見えないや」


「ちょっと待ってろ。松明(たいまつ)を点けるから」


 船員が腰に吊した麻袋から松明(たいまつ)を取り出すと火を点けた。それを片手に船員が先頭を歩く。


 洞窟の穴は下へと緩やかに下っていた。自然の洞窟らしく、2人が何とか並んで歩ける程度の広さがある。天井は安心して立って歩ける程度だ。


 どこまで続くのかと思われた洞窟だったが、突然大きな部屋のような場所に出た。松明(たいまつ)の明かりが届かないくらい高さも横幅も奥行きも広い。そして、そんな場所に場違いなまでの小さな神殿があった。白い石で立てられ、細かい彫刻が彫られた古そうな神殿である。


「え、何これ?」


 つぶやいたユウは神殿へと近づいた。扉は元からないようでそのまま中に入ることができる。中は一部屋のみで中央にはユウの腰辺りまでの高さの台座があり、それ以外は何もない。また、反対側の奥はそのまま神殿の外に出られるようであり、左右も同様だ。構造としては四阿(あずまや)に申し訳程度の壁が取り付けられた感じの建物である。


 自然の洞窟にあるにしてはあまりにも不自然な建物にユウたちは困惑した。思わずユウは台座に手をつく。


 すると、脳裏に鮮明な風景がわき上がった。それはかつての情景で、台座の上にあの魔法の箱が安置されている。


 台座から手を離すとその景色は消えた。なぜそれが昔で、なぜ安置されていると理解できたのか、ユウはわからない。ただ、あれはここに戻すべきだということだけは感じ取れた。


 振り向いたユウは船員に話しかける。


「一旦戻って船長に報告しよう。これ以上調べても僕たちじゃわからないから」


「そうだな。オレもそれでいいと思う」


 船員の同意を得たユウはすぐに洞窟から出て砂浜に戻った。そして、ダレル船長に洞窟とその奥にある神殿について報告する。


「なんでこんな何にもないところにそんなもんがあるんだ?」


「わかりません。それともうひとつ、その神殿の中にあった台座を触ったら、頭の中に例の箱が安置されている風景が浮かび上がったんです。なぜかはわかりませんが」


「何だと? ということは、あれはここから持ち出されたものだっていうのか?」


「浮かんだ風景が正しければですが」


「1度見るしかないな。おい、お前は一旦船に戻ってフレディにこう言え、船長室にある1辺50イテック程度の木箱をこの砂浜に持ってこい、とな。絶対開けたり落としたりするんじゃないぞ」


 船員に指示を出したダレル船長をユウは洞窟へと案内した。借りた松明(たいまつ)に火を点けて中に入ると神殿まで進む。


 その建物をみたダレル船長は唖然とした。外をぐるりと1周して中に入ると台座を触る。


「何も見えんな。ユウ、お前はこれを触ると何か見えたんだよな?」


「はい」


「もう1度触ったら見えるか?」


「あ、見えますね。僕だけ?」


「この台座にあの箱が安置されているのか?」


「そうです」


「確かに収まりは良さそうだが」


「もういっそのこと、本当にここにおいたらどうですか? 元々海に捨てるつもりだったんですから、ここに置いていっても良いんじゃないかって思うんですよ」


「その発想はなかったな」


「でも、船長だってそう考えたからあれを島に持ってくるように命令したんでしょ?」


「いや、もうこの洞窟の奥に捨ててしまおうかと思ってたんだ。海に捨てるとあの魔物どもに盗られるような気がしてな」


 全然違う理由を聞いたユウは微妙な表情を浮かべた。しかし、まだこの神殿を見る前に判断したのだから違う理由で当たり前だということに思い至る。


「それで、どうしますか?」


「まぁそうだな。この奥に捨てるのも、ここに置いていくのも大した違いはないな。わかった。あの魔法の箱をここに持って来よう」


 意見がまとまったユウとダレル船長はうなずくと浜辺に戻った。すると、既にフレディが船員2人と一緒に砂浜に立っている。その足下には木箱があった。


 洞窟から戻ってきた船長にフレディが声をかける。


「船長、持ってきたぞ。ビスケットの箱よりかは軽かったな」


「あのビスケットは中身が詰まってるからな。それより、開けたり落としたりしてないだろうな?」


「見てねぇよ。これ、例のあれだろ? 正直こんな厄介なのには関わりたくないんだから」


「この任務に参加しておいて今更だな」


「直接触れたくないんだよ。それで、これをどうするんだ?」


「この先に洞窟があるから、その中に捨ててくる。海に捨ててあの魔物どもに盗られちゃ敵わんからな」


「いい考えだな、船長」


 神殿の台座に設置することを話さなかったことにユウは気付いた。神殿の存在は別の船員に知られているので別に構わないような気がするのだが、その意図がわからない。なので、余計なことを言わずに黙っておく。


 船長の指示で木箱ごと持って行くことになったため、ユウはそれを両手で持ち上げた。重くないのは助かるが、角の粗い断面がちくちくするのは地味に厄介だ。


 そのまま再び洞窟へと向かう。先頭は船長、後に続くのがユウだ。両手が塞がった状態で岩場を歩くのはなかなか厳しい。こけないようにゆっくりと歩く。


 洞窟にたどり着くと船長が松明(たいまつ)を持った。その明かりで奥へと進み、あの神殿の前までやって来る。


「木箱からあれを取り出して台座に置いてくれ」


「わかりました」


 地面に木箱を置いたユウはナイフを取り出してその刃先を蓋の脇に差し込んだ。そのまま刃先を押し上げると蓋が開く。おがくずをかき分けると恐らく半久の箱であろう魔法の箱が姿を現した。手を差し込むとそれを持ち上げる。


 おがくずを払い落としてきれいにした魔法の箱をユウは神殿の中へ持ち込んだ。そして、台座の上にゆっくりと置く。


 その瞬間、周囲から歓声が上がった。半漁人(マーフォーク)が、海蜥蜴(シーリザード)が、飛翔嘴魚フライングビルフィッシュが、巨大烏賊ジャイアントスクイッドが、巨大蛸ジャイアントオクトパスが、大海蛇(シーサーペント)が、その他にも様々な海洋の魔物が喜びの声を上げる。


 しかし、それは一瞬のことだった。なぜそんなものが聞こえたのか、なぜそれが喜びの声だと理解できたのか、ユウはわからない。ただ、もう関わりたくないという感情だけがこみ上げてきた。


 じっと魔法の箱を眺めているユウにダレル船長が声をかける。


「どうした。また何か見えたのか?」


「いえ、何も見えませんでした。これで終わりですよね?」


「ああそうだ。これで終わりだ。やっと帰れるぞ」


「早く行きましょう。あ、この木箱はどうしますか?」


「このまま置いていこう。時が経てば土に帰るからな」


 持って帰るのが面倒だったユウはダレル船長の意見に賛成した。行きとは違って手ぶらで洞窟を出る。


 その後、船長と共に砂浜に戻ったユウは他の方角を調査している船乗りと冒険者を待った。フレディは食事の準備があるため先に船へと戻る。


 3方向から戻って来た6人はいずれも空振りであることを船長に報告した。ユウなどはこれ以上何かあってほしくないので安心する。


 全員揃うと9人は小舟に乗って船へと戻った。それからダレル船長がすぐにこの島を離れると宣言する。『大鷲二世』号が動き出したのはしばらくしてからだった。

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― 新着の感想 ―
いつもすごく面白いです!特に最近のお話はワクワクしてきます! 魔法の箱には何が入っていたんだろう、ユウじゃなかったら得意気に半久の箱を開けて、きっと詰んでましたね。。。
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