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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第26章 魔法の箱と難破船

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桟橋の死守

 冷気が染み込んでくるかのような不安を感じながらユウたち警邏隊の面々はその場で待機をしていた。どう考えても危険であり、死ぬ可能性が高い。


 そのせいもあり、冒険者たちはあまり言葉を交わさなかった。警邏隊の司令部近くで待機していた頃からまだ1刻も経っていない。


 徐々に追い詰められていくような感覚にユウたちが囚われようとしていると、同じ任務に就く者たちが徐々に集まってくる。


 最初にやって来たのは同じ桟橋を守る冒険者隊だ。初期の頃から港側で戦ってきていた者たちだけあって雰囲気が警邏隊とはまったく違う。有り体に言えば覚悟が決まっていた。


 次いでやって来たのが船に乗り込む冒険者隊だ。こちらはどういう経緯で集められたのかはわからないが鋭い雰囲気がある。


 そうして最後にやって来たのが船乗りたちだ。海洋の魔物の襲撃から生き残った者たちである。一様に表情が厳しい。


 この中で最も雰囲気が緩いのは警邏隊ではあるが、ユウとトリスタンにとっては今そんなことはどうでもよかった。船乗りを率いている人物を見て驚く。


「ダレル船長?」


「ユウ、お前か!」


 お互いに目を見開きながら近づいて握手を交わした。周囲が注目する中、ユウが言葉をかける。


「生きていたんですね。というか、とっくに出港していると思っていました」


「はは、普通だったらその通りだったんだがな。当時は不穏な情勢で次の仕事がなかなか取れなくてもたついちまったんだ。そこを海の魔物に襲われて、な」


「ああ、それは」


「後悔しても遅いが、こういうときは船倉が空でもさっさと別の場所に移るべきだった。おっとそうだ。同じ炊事担当のフレディも生きてるぞ」


「ユウ、お前も生きてたんだな」


「フレディ、無事でよかった。難を逃れたんだね」


「違うんだ。海の魔物が襲ってきた当時、俺は甲板にいたんだよ。それで慌てて逃げたんだが、桟橋の所でヤツらに捕まりそうになったんだ。でも、そのとき、エメリーが庇ってくれてよ、ワシは生き延びたんだ」


「それじゃ、エメリーは」


「ワシの代わりに死んじまった。あいつ若かったんだから、ワシより早く死ぬこたぁなかったのに。バカなことをしやがったよ、あいつ」


 話しているうちに涙ぐんできたフレディをダレルが慰めた。それを見ていたユウも元気をなくす。


「ともかくだ。船を失ったオレは今回の仕事に志願したんだ。あの海の魔物どもに一泡吹かせてやるためにな。フレディも同じだ」


「そうだったんですね」


「ところで、お前の方はどうしてここにいる?」


「冒険者ギルドから足止めされたんですよ。逃げようにも街道に検問所、平野には騎兵隊まで用意して逃がさないようにされていましたから」


「冒険者ギルドに依頼が出せないようになってたのは知ってたが、そこまで徹底してたとはな。まぁしかし、今の状況を見ると正しかったというわけか」


 足止めされたせいで死んだり死にかけたりしている方からすると面白くない発言だが、冒険者たちは特に反応しなかった。失ったものの大きさで言えば、ダレルも多くのものを失っているからである。


 意外な再会の後、それぞれの交流がわずかに進んだ。船乗りと冒険者でいくらか会話がなされる。本当にとりとめもないことだったが、それでも話さないよりかはましだろう。




 随分と待たされたユウたちだったが、いよいよ決行の時が来た。四の刻の鐘が鳴ると共に北門側と貧民街側から陽動の部隊が港に突出し、各桟橋から迫る海洋の魔物に向かって攻撃を始める。


 早めの昼食を済ませていた船乗りと冒険者隊と警邏隊は海船への移動の合図を待つばかりだ。船着き場から目的の船まではそう遠くない。普段ならあっさりとたどり着ける。


 港の中央から西側にかけて人間と海洋の魔物が激しく戦う音がユウたちにも聞こえてきた。その間、いくらかの魔物が桟橋に上がっては大半が中央へと向かってゆく。それもそのうち途切れた。


 例外的に船着き場へとやってきた海洋の魔物を駆除した後、騎士が合図を出す。


「よし、行くぞ、貴様ら!」


 桟橋の先側が持ち場になっているマシューの警邏隊が先頭を切って走り出した。ユウたちがそれに続く。その後、船乗り、護衛の冒険者隊、桟橋を守る冒険者隊が順次走った。


 目的の海船がある桟橋にはすぐに着く。マシューの警邏隊は船を少し通り過ぎた場所で散開し、続く船乗りたちは持ってきた渡し板を船に架けると次々に乗り込んで出港準備を始めた。


 護衛の冒険者隊が乗り込んでくる中、ダレルが船乗りたちに叫ぶ。


「とりあえず川まで動かせりゃいい! 最低限の確認だけしてすぐに動かすぞ!」


 一般的な出港準備にかかる時間を知っているユウだが、最短で動かすための準備時間までは知らなかった。しかしそれでも、ある程度かかるのではと予想している。


 桟橋を守る冒険者隊が船の真横と後方に広がった。これで第一段階は成功だ。


 そのとき、トリスタンが叫ぶ。


「来たぞ! もっとゆっくりと来ればいいのに!」


 最初に桟橋に顔を出したのは半漁人(マーフォーク)だった。魚面を海面から出して桟橋を上がろうとする。


 そんな海洋の魔物相手に冒険者たちは容赦しなかった。上がる前に武器を突き立てて海に返そうとする。


 手の届く範囲にいる海洋の魔物はそれで何とかなった。後はそれを繰り返していれば時間を稼げる。今回は海船の回航が目的なのでそれまで現状を維持できれば良い。


 問題なのは、冒険者全員が担当できる範囲より桟橋全体が広いということだ。人間がいないところから這い上がってきた海洋の魔物が次々と迫ってくる。


「船より向こうの桟橋はいい! その辺りで魔物を食い止めろ!」


 マシューの指示で桟橋の途中から先は防衛の対象外となった。船首よりいくらか先の辺りの桟橋から手前で冒険者たちが奮戦する。


 ユウはジーンと組んで桟橋の上を歩いて迫ってくる海洋の魔物と戦っていた。主に半漁人(マーフォーク)だが、たまにどうやって上がったのか、海蜥蜴(シーリザード)も這ってくる。それらに対して、ジーンが槍で牽制し、ユウが槌矛(メイス)で殴り倒していた。一方、トリスタンは桟橋に這い上がろうとする半漁人(マーフォーク)の指先を片っ端から切断している。倒すことは二の次にしている様子だ。


 桟橋でこんな状態なので当然船の方にも海洋の魔物は迫っていた。こちらは簡単に這い上がれないので半漁人(マーフォーク)は苦戦しているが、代わりに飛翔嘴魚フライングビルフィッシュが突っ込んで来ている。ただ、助走が足りないのか船体にぶつかっては海に落ちる個体が続出していた。


 どちらも必死になって目的を果たそうとしているが、形勢は少しずつ海洋の魔物側に傾いていく。人間の言い方で増援がいくらでもやって来るので多少の損害は帳消しにできてしまうからだ。それに対して、人間側はやられてもその場にいる者たちで何とかするしかない。


 また、時間の経過とともに人間側には小さな失敗が増えつつあった。そして、それがある程度積み重なると結果として表れてくる。例えば、足を滑らせて海に落ちる者や追い詰められて集中攻撃を受ける者などだ。他にもこれは人間側の失敗ではないが、大きな海洋の魔物が発生させた波に攫われる者などもいる。この波は一緒に桟橋に上がった魔物も海に流してしまうが、そんな魔物たちは再び桟橋に上がれば良いだけだ。それに対して人間は海に落ちれば溺れて死ぬ。


 死にかけたのはユウもトリスタンも同じだった。海洋の魔物に囲まれて逃げ場がなくなったところに大波がやって来たのだ。波が引いた後は魔物の圧力が減って楽になったが、見かけなくなった冒険者もいた。そうして徐々に苦しくなってゆく。


 船の出港はいつになるのか、いつまで桟橋を守れば良いのか、警邏隊も冒険者隊もわからないままひたすら戦い続けた。


 しかし、ついにそのときがやって来る。桟橋に固定する縄を切り、(いかり)を巻き上げた船が帆を張って動き始めたのだ。海洋の魔物に取り付かれながらもそれを振り切るように進んでゆく。


「引き上げるぞ!」


「トリスタン、ジーン、行くよ!」


 誰かが叫んだ言葉を耳にしたユウは仲間2人に声をかけた。すぐに反応した2人はユウに続いて桟橋を港に向かって進んでゆく。ただ、その道は困難を極めた。四方から海洋の魔物が迫ってくるからだ。


 船がどうなっているのか気にする余裕はない。それに気にしてもどうにもならない。なのでひたすら前を見て進む。立ちはだかる海洋の魔物は殴り倒し、海に叩き込んだ。


 警邏隊と冒険者隊の生き残りが船着き場の元の場所に戻ってきたのはそれからかなり後のことだった。待機していた冒険者隊が追いすがる海洋の魔物を防いでくれる。


 ふと気になったユウは川へと目を向けた。すると、船着き場へと近づく船の姿が目に入る。それを見て、ようやく作戦の成功を確信できた。

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