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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第25章 大山脈を越え、大陸西部へ
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獣人のいる隊商

 プラウンの町の冒険者ギルド城外支所で色々と話を聞いたユウとトリスタンは、その場で受け取った依頼書数枚を見て引き受ける仕事を考えていた。どれも野獣の森を抜けてコンティの町へ向かうものばかりだ。


 候補として2枚の依頼書を選び抜き、内容では決められないと判断した2人は運任せにすることにした。どちらも丸めてトリスタンに持ってもらい、背を向けて両手にひとつずつ持ってもらう。その隠された依頼書の片方をユウが選ぶのだ。


 準備が整うとトリスタンが声をかける。


「ユウ、いいぞ」


「それじゃ、左の方をちょうだい」


「これだな。えっと、グラントリーっていう商売人の依頼だ」


「この依頼を受けますから紹介状を書いてください」


 声をかけられた受付係は微妙な表情をしていたが紹介状を用意してくれた。トリスタンが依頼書をまとめて受付カウンターに置いている間にユウがそれを受け取る。


 用を済ませた2人は城外支所の建物から出た。受付係から聞いた通り町の北門の郊外に足を向ける。野獣の森へ向かう荷馬車はそちらに点在しているのだ。


 1度間違えて別の荷馬車に声をかけた後、そこの商売人から正確な場所を教えてもらってグラントリーの隊商の荷馬車が集まる所へと向かう。見れば5台の荷馬車が並んでいた。


 通りかかったやや童顔の人足にユウが声をかける。


「冒険者ギルドの依頼書を見て来たんだけれど、グラントリーさんはいますか?」


「旦那? だったらあそこにいるよ!」


 2人が指差された先を見ると、皺の多い顔をした男が誰かに指示を出していた。そのやり取りが終わる頃にユウが声をかける。


「冒険者ギルドの依頼書を見てやって来た冒険者のユウです。こちらは相棒のトリスタンです」


「おお、来たか! 冒険者ギルドに出したやつだから護衛兼人足の仕事のやつだな」


「普段は人足として働いて襲撃されたら戦うんですよね。それで、夜の見張り番はなしで」


「普通ならその通りなんだが、実は野獣の街道を往来する隊商の場合は少し違うんだ。基本的にはずっと人足として働いて、襲撃されたら他の人足と一緒に避難するんだよ」


「あれ? それじゃ護衛っていうのはどういう意味なんですか?」


「襲撃中、獣人に狙われたときに護衛が来るまで時間を稼いでほしいってことなんだ。これは自分だけじゃなく、他の人足が狙われた場合も守ってほしいってことだ」


「人間だと獣人に敵わないからですか」


「その通りだ。無闇に戦おうとして死なれてもこっちが困るんでね。働き手の頭数はある程度必要だからな」


 隊商の護衛戦力として数えられていないことを知ってユウは微妙な表情を浮かべた。しかし、実際に獣人と戦ったことのある身としては反論できない。


 ここで黙っていたトリスタンがグラントリーに質問する。


「それだったら、人足も全部獣人にしたらどうなんです?」


「頭数が揃うならそうしてもいいんだが、獣人はどこも傭兵として引っ張りだこでな。護衛として雇うのが精一杯なんだよ」


「だから護衛兼人足の仕事も人間の冒険者を雇うわけですか」


「そうなんだ。ああちなみに、人足全員を冒険者にするのは無理だぞ。隊商の専属として人足仕事をしている連中もいるからな」


「というより、その専属以外が護衛兼人足の冒険者なんじゃないですか?」


「鋭いな。当たりだ!」


 嬉しそうなグラントリーに対してトリスタンが理解している風にうなずいた。


 雰囲気が和んできたところでグラントリーが更に話を続ける。


「さて、仕事の概要を理解してもらったところで次に移ろう。こちらから聞いておきたいことがあるんだが、2人は隊商や荷馬車で人足の仕事をしたことがあるか?」


「ありますよ。僕もトリスタンも一般的な仕事なら知っています。この隊商特有のことは教えてもらう必要がありますけれど」


「結構なことだ。それじゃ次に、隊商か荷馬車の護衛をしたことはあるか?」


「あります。それも僕たち2人で何度もやって来ました。ちなみに、護衛と護衛兼人足の仕事どちらも経験があります」


「経験豊富ってわけか。いいじゃないか。それじゃ次だが、この町以外で獣人を見かけたことはあるか?」


「ほとんどありません。僕たちは先日野獣の山脈を越えてきたんですけれど、そのときに獣人の襲撃を受けたことがあります」


「それで生き延びたのか?」


 意外そうな目を向けてきたグラントリーにユウはうなずいた。次いでトリスタンも続く。


「襲撃を受けたとき、獣人とは戦ったのか?」


「はい、1回目は獣人が引き上げるまで1体の相手とほとんど1人で戦い続けました。最後にトリスタンに加勢してもらいましたけど。2回目は悪臭玉という道具を使って1体倒しました」


「俺は2回目は他の護衛と2人で戦いましたが、途中で引き上げていきました」


「悪臭玉っていうと、あの臭いが強烈なやつだよな。持っているのか」


「はい。臭いに敏感な獣や魔物相手にたまに使うことがあります」


「そうか。まぁ悪いことではないんだが、うちだと護衛が獣人だからみんな嫌がるだろうな。使わずに戦えるか?」


「1体を相手に防戦一方になりますけれど」


「それで構わない。さっきも言ったが、護衛兼人足に求めているのはそういう戦い方なんだよ。だから、ワシのところに採用となったら使うのを控えてもらいたい」


「わかりました」


 1度破裂させると敵味方関係なく撒き散らすことになるため、この要求は仕方がないとユウは理解した。無理をして倒す必要はないと言われているので受け入れる。


「それじゃ、どの程度戦えるのか試させてもらう。ハワード、ジョンとカイルを連れてこい!」


「わかりました!」


 返事がした方へと2人が顔を向けると、先程案内をしてくれたやや童顔の男が元気よく反応して去って行った。後で聞いたところ、人足であるという。


 そのハワードはすぐに呼ばれた2人を連れてきた。全体的に灰色で腹の部分が白い二足歩行の狼の獣人と白地に茶色の斑点がある二足歩行の猫の獣人だ。


 狼の獣人を見たときにユウは少し緊張した。前の戦いを思い出す。


「狼の獣人がジョン、猫の獣人がカイルだ。どちらもワシの隊商の専属護衛をしてる」


「この2人が今回雇う連中か。どっちも緊張してるように見えるが、獣人を見るのは初めてなのか?」


「野獣の山脈で狼の獣人に襲われたんですよ」


 ユウがジョンの疑問に答えると狼の獣人はばつが悪そうな表情を浮かべた。一方、それを聞いた猫の獣人は面白そうに笑う。


「オレはカイルだ。ツレの連中が悪いことをしたな!」


「そういう言い方は好かん」


「はは、悪かったって! で、旦那、今回はこの2人を試すんですかい?」


「そうだ。人外の街道で獣人との戦闘経験はあるようだが、実際どの程度か試してもらいたいんだ」


「まぁ、やってみなけりゃわかんないですもんねぇ」


「人間が使う練習用の槍もどきの棒と木剣がある。どちらかを使ってオレかカイルと模擬試合をそこでしよう」


 人足のハワードに道具を持ってくるよう命じたジョンがユウとトリスタンに伝えた。グラントリーは黙ってうなずいている。


 話の流れを見ていたユウは内心で喜んでいた。獣人と比較的安全に戦える機会が巡ってきたからだ。何か糸口を見つけようと鼻息を荒くする。


 模擬試合はユウが先にすることになった。相手は狼の獣人ジョンである。木剣を手にして原っぱで対峙した。


 目の前に立つジョンにユウは声をかけられる。


「よし、いつでもいいぞ」


「それならそちらから仕掛けてください。今回の仕事ですと防戦主体の戦い方になりますから、どのくらい粘れるのか見てもらった方が良いと思うので」


「なるほど、その通りだな。なら」


 言葉を切ったジョンが突然突っ込んで来た。以前戦った狼の獣人のように力強く体を動かして噛みつこうとしてくる。


 それを見たユウはぎりぎりで横に転がって飛び起きた。そこから木剣で突くとジョンがしなやかに体を動かしてかわしつつ、右手の爪で切り裂こうとしてくる。危険を察知すると、攻撃を中断して下がりつつ上体を反らして避けた。


 ここからは目まぐるしく動き回る試合運びとなる。ユウはたまに反撃しつつも大半が防戦を強いられていた。


 時間にして数分であったが、最後はカイルの合図で模擬試合は終わる。立ち止まったユウは息を切らしていたが無傷だった。


 次いでトリスタンが木剣を選んでカイルと模擬試合をする。こちらも防戦主体で戦い続けたが、最後にはカイルに転がされて馬乗りされてしまった。足払いを避けられなかったトリスタンはかなり悔しそうにする。


 こうして模擬試合は終わった。グラントリー、ジョン、カイルの3人がユウたちに合格の判断を下す。


 採用試験に見事通った2人は3日後、隊商に合流することになった。

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