探検隊の救出(前)
探検隊を救出するために遺跡に入る日がやって来た。ユウとトリスタンも必要と思うべきことを済ませてキャレたちと合流する。
ルインナルの基地の門に集まった救出隊の面々は遺跡の入口へと向かった。木造の階段を降りて遺跡内に入る。全員が次々と松明に火を点けた。明かりを確保した各パーティは通路を歩き始める。いよいよ活動開始だ。
しばらく歩いたところで、古鉄槌と輝く星は他のパーティと別れた。ユウたちとキャレたちだけはまったく違う場所を探すからだ。もう1パーティくらい振り分けても良いのではとトリスタンがぼやいていたが、居残り組の代表者の判断には逆らえなかった。
6人は固まって通路を進んだ。魔物が出てこない地下1層なので遠慮なく歩いてゆく。1日で鐘6回分歩いて鐘2回分休むを繰り返した。ユウとトリスタンなどは6人もいるのでずっと眠れる日があると喜ぶ。1人当たりの夜の見張り番の負担が少ないのだ。
こうして4日半かけて地下2層へと下りる階段にたどり着いた。予定通りにたどり着いたのでそのまま階下へと下りる。ここから先もしばらくは魔物が出る以外は今までと変わりない。
1度現れた魔物を撃退したこと以外は平穏に遺跡内を進んだ6人は地下3層へと下りる階段に到着した。問題はここからだ。
先頭を歩くことになったユウとトリスタンが前に出る。階段を降りると慎重に歩いた。キャレの仲間が地図を見ながら進むべき道を告げてくるのでその通りに進む。
このまま何も出ないよう祈っていたユウたちだが、さすがにそう都合良くはいかなかった。通路の奥から重い足音が聞こえてくる。
「来た。みんな、立ち止まって。石人形がやって来たよ」
「ついにか!」
告げられたキャレたち4人は武器を構えて待ち構えた。その表情は緊張している。
ちらりとその様子を見たユウは普通そうするよねと思った。発掘品の能力がわかるまでは自分たちも同じだったからだ。しかし、今のユウとトリスタンはキャレたちの前にいるにも関わらず武器すら手にしない。
やがて通路の奥から人型に組み上げられた石の塊が姿を現した。石人形だ。そのままゆっくりと近づいて来る。そうして、ユウと対峙したところで立ち止まり、そのまま動かなくなった。
前と同じように石人形が停止してくれたことにユウは安堵する。わかってはいたのだが、やはり怖いものは怖いのだ。
一方、武器を構えて待ち構えていたキャレたちは呆然としていた。事前に伝えられていても停止することが信じられないようである。それはそうだろう、ユウたちだって初めてのときは何が何だかわからなかったのだ。なので、キャレたちを馬鹿にしたり笑ったりはできない。
しばらくして構えを解いたキャレがつぶやく。
「本当に、止まっているのか。一体どうやって、ああいや、ダメだったな」
「石人形はこれで何とかなることがわかったでしょ。僕が離れるとまた動き始めるけれど、少なくともこれで逃げ回る必要はなくなるよ」
「そうだな。これはとても助かる」
「先に行って。みんなが通ったら僕も行くから」
石人形対策について目の当たりにしたキャレたちが元気よく返事をした。感心しながら眺めたり手足を触ったりしながら石人形の脇を通り過ぎてゆく。
全員が通り過ぎたのを確認したユウは最後に自分も前に進んだ。5レテム以上離れると石人形は再び動き始め、そのまま通路を歩き去る。
全員でそれを見送ると再びユウとトリスタンを先頭に通路を進んだ。対策の効果を知ったキャレたちの足取りから不安がなくなる。
もう1度石人形と遭遇してやり過ごした後、6人は地下4層へと降りる階段にたどり着いた。いよいよこれからが本番だ。
人の配置はそのままに6人はゆっくりと階段を降りる。今のところ経験はまだないが、階段を降りた直後に襲われる可能性もあるのだ。油断はできない。
などと思いながらユウたちが階下へと歩いていると、階段を降りた辺りに明かりがふらりと現れた。思わず立ち止まって様子を窺う。
「誰だ?」
それは松明を持ったテオドルだった。多少やつれているようだが声はしっかりとしている。
「輝く星のキャレです。探検隊の皆さんを助けに来ました」
「救援隊か! 待っていたぞ!」
誰何したテオドルの声が明るくなった。それに釣られて探検隊の面々が次々と姿を現す。隊長のシーグルドや隊員のヴィゴもいた。
キャレたちが先に階段を降りきり探検隊の隊員たちと握手をしたり抱擁を交わしたりする。次いでユウとトリスタンもだ。2人が以前見たときに比べて隊員の数が半分以下に減っていることに気付く。
ひとしきり感謝と安堵の言葉を交わして感情が落ち着いてきた両者はようやく話ができる状態になった。そこでキャレが懐から羊皮紙を取り出す。
「これは皆さんを救助するという契約を記したものです。ここから地上まで皆さんをお送りします」
「それは心強い。こっちは地下4層と地下3層でひどい目に遭ったから、随分と心細かったんだ」
キャレの言葉に笑顔で答えたシーグルドだったが、その返答にユウは疑問を抱いた。それはキャレも同じだったらしく、若干不思議そうな顔で探検隊の隊長に尋ねる。
「地下4層と3層ですか?」
「そうなんだ。地下4層での探索終了後、帰ろうとしたら魔物に襲われて被害を受けて、それでここまで戻って来て地下3層へと脱出したんだ。けれど、運悪くあの石人形に襲われてこの階段まで逃げてきたんだ」
「石人形に襲われたんですか。それは大変でしたでしょう」
「そうだとも。こちらの武器は全然通用しないのに、あちらは1度人間を殴れば重傷か死亡だ。とても戦いにはならなかったよ。君たちはここまで来たということは、あいつに運良く合わなかったのかい?」
「いえ、2回遭いました。しかし、今回は対策していますので安全に地上までご案内できます」
「ほう、対策とは興味深い。どんな方法なのか教えてほしい」
「あーそれは、彼らです」
問われたキャレはユウとトリスタンに顔を向けた。釣られて顔を向けたシーグルドは微妙な表情を浮かべる。2人は無表情だ。
再びキャレに顔を向け直したシーグルドが尋ねる。
「あの2人が? 一体どうやったんだい?」
「どうやったのかは俺にもわかりません。ただ、近づいて来た石人形が止まったんです。それで、俺たちが脇を通り過ぎて離れるとまた動いて通路の奥へと去って行きました」
「あの2人がその間に何かをしたというのか」
「いえ、何もしているようには見えませんでした。今回、この救出の依頼を受けたのは俺たちなんですが、あの2人に協力を求めたんです。そのときの条件で、石人形対策については一切問わないという約束をしました。これは探検隊の皆さんも含まれます。ですから、俺たちは何も知りません」
返答を聞いたシーグルドが再びユウたち2人に目を向けた。その表情は訝しげである。何も教えられないというのだからある意味当然だ。
今度はユウにシーグルドが問いかける。
「なぜ答えられないんだ?」
「話をしても良い結果になるとは思えないからです。しかし、キャレとの契約で地下3層は確実にご案内します。そこは信用してもらって構いません」
「あのキャレが実際に試して有用だと言っているのなら、とりあえず信用しようか」
いささか憮然とした様子だがシーグルドはそれ以上の追求をしなかった。今は知的欲求を満たすよりも生存を優先したようである。
この日はこの地下4層の階段で一晩過ごすことになった。魔物に来襲されるのは恐ろしいが、地下3層であの石人形と遭遇するよりはましという判断だ。
キャレたちと探検隊の面々は打ち解けていた。自分たちを救出しに来てくれたのだから当然だろう。一方、ユウとトリスタンの2人とは微妙だ。隊長であるシーグルドとの関係が影響している。2度情報提供した実績があるのでその能力は信用されているが、それだけという感じだ。
それでもユウにとっては悪くない状態だった。シーグルドの対応によってはもっと険悪になる可能性もあったからだ。素直に妨げの小棒を見せても良かったのではと今更ながらに少し思ったが、本当に今更なのでそちらの方向では考えないようにする。
夜の見張り番をこなしながら一晩を明かした一行は野営を何事もなく終えた。最低限の見張り役を残してそれぞれが出発の準備を整えてゆく。こういうときは早く済ませられる者ほど評価が高い。
全員が慣れているので用意は遅れることなく終わった。隊列はユウとトリスタンの2人が先頭でキャレたち4人がそれに続く。シーグルド率いる探検隊はその後だ。
テオドルが号令を掛けると階段を上がって地下3層に戻り、通路を進む。救出活動は折り返しを迎えた。




