表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
718/852

探検隊救出の準備

 酒場でキャレたちに協力することを決めた翌日、ユウとトリスタンは準備に取りかかった。まさか再び遺跡に入るとは思っていなかったので若干違和感がある。


 それでも最初に武具の手入れをすることで感覚を取り戻した。二の刻に起きて三の刻まで念入りに磨き上げる。


 今までならこの次に消耗品の補充をするのだが、これは後回しにした。先にやっておきたいことがあるからだ。


 そのため、ユウとトリスタンは三の刻から別行動をする。トリスタンは冒険者ギルド派出所に行って有用な情報がないか聞きに行った。


 一方、ユウは道具の細工職人に会いに行った。前に酒場で知り合った人物で顔を合せたら挨拶をする程度の仲である。


 仕事を始めたばかりのその職人をユウは申し訳なさそうに呼び出した。雑貨屋の掘っ立て小屋の奥にある粗末な建物の脇で面会する。


「仕事中に呼び出してごめん。ちょっと急いでつくってほしい物があるんだ」


「なんだいそりゃ?」


「これと同じ物をそっくりそのまま作ってほしいんだ。見かけだけで良いから」


 懐からユウが取り出したのは灰色の円筒形の棒だった。長さは16イテック程度ある。細工職人にそれを手渡してよく見てもらった。更にそのまま話しかける。


「できれば今日中、七の刻までに、無理なら明日の二の刻までにつくってほしいんだ。報酬は金貨1枚だよ」


「金貨1枚!? 本当かよ?」


「前金で銀貨5枚先に渡しておくね。どう、できる?」


「うわ、本当にくれやがった。よし、わかった。やってやる。今日の七の刻にここへ来てくれ。こいつとそっくりなのを作ってやるよ」


「ありがとう。それと、このことは来月末まで誰にも話さないでほしい」


「いいぞ。絶対にしゃべらねぇ」


 口止め料込みの前金を受けた細工職人は真剣な表情でうなずいた。技術的には難しくないので職人からするとおいしい仕事だ。手にした前金を握りしめて仕事場に入っていった。


 それを見届けたユウはその場から離れる。大した時間はかからなかったので冒険者ギルド派出所に足を向けた。


 掘っ立て小屋の中に入るといつも通り何人もの冒険者たちが往来している。相棒はどこにいるのかと顔を巡らせると受付カウンターの前にその背中を見つけた。


 ユウが声をかけようとしたところでトリスタンが振り向く。


「ユウじゃないか。そっちの用事はどうしたんだ?」


「終わったよ。すぐに済んだからこっちに来たんだ」


 話している間にも両者は歩み寄った。その間も話を続ける。


「こっちもちょうど話を終えたところだよ」


「何かあった?」


「特に何もなかったな。連中が行方不明だってことを大っぴらにできないから、聞けることが限られたっていうのもあるが」


「ということは、昼からの打ち合わせ待ちっていうことになるね」


 どちらも今回は冒険者ギルドにあまり期待はしていなかった。なので、そこまで落胆はしていない。


 掘っ立て小屋を出た2人は後回しにしていた消耗品の買い付けに向かった。




 昼からはキャレたちと合流して探検隊の居残り組の代表者と面会した。場所は酒場の一角だ。いくつかのテーブルを寄せて複数の冒険者パーティが代表者を囲む。


 代表者の挨拶から探検隊救出の打ち合わせは始まった。確認の意味も込めて依頼の概要、詳細、条件などが語られてゆく。それから代表者から申告よりもパーティメンバーの人数が多い理由を問われたキャレがユウたちを紹介した。キャレが個人的に雇った冒険者と聞いた代表者が一瞬視線をユウたちに向けただけで終わる。シーグルドと一悶着あったことを知っていてもおかしくないのだが、特に反応はされなかった。


 古鉄槌(オールドハンマー)の説明が終わると次いで探検隊の情報が開示される。探検隊救出に応募した冒険者パーティが次々と提供された地図を描き写していった。4パーティなので各階層の地図を順番にである。ちなみに、ユウたちはキャレに雇われているのでこの地図は描き写す資格がない。もう遺跡探索をするつもりがないユウたちも転写する気はなかった。


 その間にも打ち合わせは続く。最も問題になったのはどこを捜索するかだ。探検隊は遺跡の中を探索しているのであちこち動き回っている。しかも、居残り組が持っている地図は最新のものではなく、ひとつ手前の探索で得た情報まででしかない。つまり、探検隊を捜索する範囲は代表者から提供してもらった地図の場所以外にも広げる必要があった。問題はその範囲をどこまで広げるかだ。


 現時点でわかっているのは、探検隊が抑えている地下3階に続く階段の場所は遺跡の入口から3日程度の場所にあること、地下4層に続く階段の場所はそこから更に1日の場所にあること、そして出発前の打ち合わせで今回どの辺りを調査するか検討した内容である。


 その話を聞いたユウは約1ヵ月ほど前に遺跡内で出会った探検隊のことを思い出した。キャレの仲間が描く地図を見ると、地下4層に続くユウたちが使っていた階段と探検隊の階段は目測で10日程度離れている。居残り組の代表者の説明からすると片道だけで2週間もかけていることに気付いた。


 気になったユウは代表者に問い合わせてみる。


「探検隊は1度の探索で最大どのくらいまで遺跡の中に居続けるんですか?」


「大体3週間くらいですね。特に地下4層の探索を始めてからは長引く傾向にあります」


 何とも微妙な言い回しだった。3週間以上探索しているのであれば、ユウたちが使っていた階段のところまでやって来ていてもおかしくはない。1日で1日半移動するような強行軍を何日かすれば充分に行動範囲に入る。しかし、この方法で何が起きるかわからない地下4層を進むのはあまりに危険すぎた。


 何にせよ、これ以上推測だけで考えても意味はないとユウは一旦思考を中断した。話の軸を救出へと戻す。


「ということは、それだけ僕たちの捜索範囲を広げないといけないということですね」


「おっしゃる通りです。そこが頭痛の種でして」


「捜索のためのパーティ数はもっと増やせなかったんですか?」


何分(なにぶん)、こちらの声に応じてくださる方々も少なかったので」


 地下4層を探索できる実力を見込んだパーティに声をかけて回ったらしいとキャレから聞いたことをユウは思い出した。全員が応じてくれたわけではないだろうから、居残り組の代表者も苦しいのだろうと推測する。


 知りたいことを一応知れたユウは黙った。話し合いはあくまでも直接雇われた冒険者パーティと代表者の間で行われるべきだと考える。


 その後も色々と話し合いが行われたが、地下3層を徘徊する石人形(ストーンゴーレム)にどう対処するかで他の冒険者パーティは頭を悩ませていた。探検隊の捜索は地下4層なのだが、地下2層からそこまで約1日歩く必要がある。その間に遭遇した場合は迂回するしかないのだが、時間の損失が馬鹿にならないのだ。これは往路も復路変わらない。


 この件でキャレは代表者や他の冒険者には何も伝えなかった。石人形(ストーンゴーレム)の対策はユウ任せでそもそも何も知らない上に、他の者たちに知らせてもその方法を譲ることができないからだ。しゃべって下手に妬まれたり恨まれたりするのを避けるためにも黙った方が良いとユウから口止めされたのである。


 結局、他の冒険者たちの石人形(ストーンゴーレム)対策は出会ったら回避するという結論にしかならなかった。妨げの小棒を持っていなければユウも同じ結論になっていたことは想像できたので、他の冒険者たちに同情する。


 次いで誰がどこを捜索するのかという話に移っていった。キャレのパーティに関してはすぐに決まった。探検隊と出会ったことのあるユウとトリスタンを擁しているので、その場所を中心に探すことになったのだ。その近辺に詳しい者がいるのならば任せてしまおうというわけである。


 打ち合わせの後半は特に何も話さずじっと話を聞いていたユウとトリスタンだったが、終わりの方で他の冒険者たちから地下4層の状態を聞きたがられた。いずれのパーティも居残り組の代表者がこれぞと決めて声をかけた者たちだが、どこも地下4層を探索した経験はない。そのため、経験者の話を切実に求めたのだ。


 最初は得体の知れない冒険者という目で見られていた2人だったが、自分たちの知見を伝えていくに従って何となく頼りになりそうな冒険者という扱いに変わっていた。


 そうして打ち合わせが終わると居残り組の代表者が去ったのを機にそのまま飲み会が始まる。直接同じ場所で捜索するわけではないが、それでも同じ依頼を引き受けた者同士で更に色々と語り合った。2人もその中に混じって飲んだ。


 楽しいひとときであったが、日が暮れる頃になってユウは自分が七の刻に何を頼んでいたのか思い出す。宴会を途中で切り上げて慌てて頼んでいたものを取りに行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ