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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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いずれ再会するときのために

 生き残りの古代人がいるのかを確認するためにユウたち3人は最後の探索に出発した。いつものように準備を済ませると遺跡に入る。


 今回、3人が探索する範囲は3ヵ所だ。マガの住んでいた都市の東、西、南に隣接する地域である。都市としての基本構造は北と同じはずなので、マガの案内により1ヵ所ずつ探索していった。ひとつの地域につき3日程度の時間を費やす。


 地下4層に関しては大きな落差があった。西と南は何とか探索できたが、東は北と同じく探索できなかったのだ。天井の崩落が激しく危険すぎたためである。


 遺跡探索ならではの苦労を色々と重ねながら休眠部屋の探索を進めた3人は、残念ながら新たな古代人を見つけることはできなかった。文明が崩壊し、当初の想定外の長期間睡眠を経た後の生存率は限りなく低いようである。


 こうして、9日間に及ぶ古代人の探索は終わった。マガが目覚めて1ヵ月以上に及ぶ同胞の救出作業は広大な遺跡(ストラルインナル)において実を結ばなかったのである。


 一時的に落ち込むことのあったマガだったが、すぐに立ち直った。この場所では残念な結果に終わったが、転移できる先にまだ希望はあるからだ。


 遺跡から帰還した3人は次に向けての準備を始める。今回で探索に向けての休暇は最後だ。真っ先にやったことは消耗品の補充である。しかし、ユウとトリスタンは今回あまり買い込んでいない。次回はマガを送り出すためだけに遺跡へと入るので日帰りの予定だからだ。逆にマガは背嚢(はいのう)に入るだけの水と食料を買っていた。当人の筋力から限界はあるものの、転移先でどうなるのかわからないのでそのための準備だ。


 言語の習得についてマガは現地語をある程度話せるようになっていた。たまに詰まることはあるものの、それは口下手な人間がまごついているかのようにも見える。少なくとも日常会話はもうユウの手助けなしでもできた。一方、ユウの方はそこまで進んでいない。太陽帝国語をやっと片言で話せるようになった程度だ。あまりにも違う言語習得能力にユウはマガとの頭の出来の差を痛感していた。




 最後の3日間の休暇が終わった。ユウたち3人は二の刻に起きてゆっくりと準備をする。やることはいつもと変わりない。


 用意ができると3人揃って安宿を出た。ルインナルの基地の門辺りで帰還した冒険者パーティとすれ違う。そのまま遺跡の入口から中へと入った。


 木造の階段を降りきったとき、マガが振り返って空を見上げる。今日も良い天気だ。しかし、この場所で空を見るのは今日で最後である。


 使い捨て松明(たいまつ)を取り出したユウは火口箱を使って火を点けた。上部が燃えると炎が揺れる。トリスタンも同じように明かりを用意した。


 振り返ったままのマガにユウが声をかける。


「マガ、行こう」


 前に向き直ったマガを見るとユウはトリスタンとともに歩き始めた。炎の先が後ろへと揺れる。それが2つ並んだ。


 地下1層で転移魔法陣を使って時間を短縮する。転移先の近くにある階段を使って地下2層に下り、更にそこから歩いて地下3層へと向かった。この日は探索をしないので移動が早い。既に発見している地下3層の行政地区にある転移魔法陣に向かうだけだ。地下1層の階段から鐘2回分もかからない距離である。


 何度か遭遇しては停止する石人形(ストーンゴーレム)の脇を通り過ぎた末に、ユウたち3人は目指していた小部屋にたどり着いた。床には最後に見たときそのままに転移魔法陣が描かれている。


 すぐにマガが使える状態か魔法陣を確認した。ユウとトリスタンはそれを見守る。


 一通り魔法陣を見て回ったマガが2人の元に戻ってきた。その表情は晴れやかだ。

 そんなマガにユウが話しかける。


「この転移魔方陣は使えそうかな?」


「使えるわね。後は私が中に入って起動させるだけよ」


「いよいよかぁ。マガと出会ってまだ1ヵ月ちょっとけれど、随分といろんなことがあったね」


「そうね。目覚めた直後は何がどうなっているのかわからなくて驚いたわ」


「眠る前と全然違うみたいだったから、それも仕方ないと思うよ」


「ああそうだわ。この服、結局もらっていくことになるわね」


「うん。さすがに返せとは言えないもんね。それにしても、前のときといい、出会う古代人に毎回服をあげている気がするなぁ」


「仕方ないわよ。だって起きた当初は薄着1枚しか着ていないんだから」


「今度から遺跡を探索するときは、替えの服を用意しておかないといけないかな」


「それが良いわ。そうしたら私たちも風邪をひかずに済むもの」


 古代人と服について語ったユウとマガは笑った。外に連れ出すのならば用意しておくべき物なので割と重要な点である。再び出会うのであればであるが。


 次いでトリスタンが口を開く。


「途中から話ができて良かったよ。最初は言葉がさっぱりわからなかったもんな」


「私が現地語をまったく理解できなかったものね。教えてくれてありがとう」


「それだけ話せたらとりあえずは何とかなると思うぞ」


「きっとそうね。貴族もあなたみたいな人だったら良いんだけれども」


「どうだろうな。俺の家みたいに破産していないと難しいかもしれんぞ」


「それじゃ期待できないわね」


「どうせ平民か貧民とばかり話をするだろうから、あんまり気にしなくてもいいだろうさ」


 小さく笑うマガに対してトリスタンは肩をすくめた。今は遺跡と化しているはずの都市に関わる者たちはの中に高貴な身分の者はほとんどいない。それを考えると現実的な助言と言えるだろう。


「そうだ。2人とも、これを渡しておくわ」


「何? お金?」


「そうよ。今の時代はたくさん国が別れていて、それぞれの場所で通貨が発行されているのでしょう? だったらここでしか使えない貨幣は持っていっても仕方ないわ」


「銅貨と鉄貨はともかく、金貨と銀貨は持っておくべきだよ。通貨として使えなくても貨幣の中の金と銀には価値があるはずだから、現地でいくらかのお金と交換できるはずだよ」


「なるほど、金と銀として持っておけってことね」


「そうだよ。現地の人と接触するなら必ず必要になるから」


「わかったわ」


 差し出した手を元に戻したマガがうなずいた。それから背を向けて魔法陣の中央に立ち、魔法陣の外側に留まるユウとトリスタンに向き直ると笑顔で声をかける。


「それじゃ魔法陣を起動するわ。その前に、最後に伝えて起きたいことがあるの。私の名前、本当はマガじゃないのよ」


「え?」


「ふふふ、驚くわよね。でも考えてみて。目覚めたら突然目の前に言葉も通じない男が2人もいたら不安になるでしょう? だからとっさに偽名を使ったの。マガは帝国語で女魔法使いという意味よ」


 最後の最後に意外なことを伝えられたユウとトリスタンは目を見開いた。変わった名前だとは思っていたがやはり本当の名前ではなかったらしい。


 驚く2人を面白そうに見るマガが伝える。


「私の本当の名前はフォルトゥーナよ。運命、あるいは幸運という意味なの」


 ユウとトリスタンが絶句する中、フォルトゥーナは笑顔を浮かべながら魔法陣を起動させる呪文を唱え始めた。すぐに円と内側の模様らしきものがうっすらと暗く輝き始める。同時にその体が宙に浮いた。


「さようなら、また会う日まで!」


 円筒形の範囲内が次第に明るく輝く中、フォルトゥーナは笑顔のまま別れを告げた。その後も輝きは強くなる一方でやがて真っ白になる。もうお互いの姿は見えない。


 その輝きが頂点を迎えたがすぐにその輝きは失われてゆく。再び魔法陣の中が見えるようになったときには、その内側には誰もいなくなっていた。やがて転移の輝きがすっかり失われる。


 しばらくはどちらも黙ったままだった。それからゆっくりと互いに顔を向け合う。


「最後にあんなことを伝えられるなんてね」


「あのときは言葉が通じなかったからそんなものだとしか思わなかったからなぁ」


「その後は慣れちゃって何とも思わなくなったし」


「また会う日までか。会えると思うか?」


「わからないよ、そんなこと。前の古代人とは未だに再会できていないんだけれどな」


 最初に出会った古代人は永遠の別離という気でいた。一方、今回の古代人は再会を願って別れている。どちらが正しいかなどユウにはわからない。会えるものならば会いたいが、いつ、どこで、どんな風になどは想像もつかなかった。


 ぼんやりとしていた2人だったが、ようやく立ち直ったユウが相棒に声をかける。


「僕たちも帰ろうか」


「そうだな。あー、外までここから半日くらいかかるのかぁ」


「1週間歩くことを考えるとはるかにましじゃないの」


「いやまぁそうなんだけれどな」


 言い返されたトリスタンが苦笑いした。それでも面倒なものは面倒なのである。


 沈黙した転移魔法陣を背にして2人は小部屋から立ち去った。

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― 新着の感想 ―
現代知識もなく戦闘能力もろくになく一人で別の場所に向かうっていう思考がよくわからんな あと主人公は魔力の認識方法を教えてもらえたのかな?
前回といい、絶対にしばらくユウと行動した方がいいと思うんだけどなぁ...生活基盤や魔物の脅威的に。どうして皆早々に別れようとするんだろう。
前の古代人とフォルトゥーナが出会って、現地人の話をしているうちに同じ人間に世話になったことがわかったりとか、もしかしたらユウの知らないところで起こるかもしれないですねー。
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