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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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遺跡探索クランの異変

 ユウたち3人がこの後探索するべき範囲は3ヵ所である。マガの住んでいた都市の東、西、南に隣接する地域だ。都市としての基本構造は北と同じはずなので今までと同じ調子で探索できるとマガは主張していた。


 それならば一気に探索してしまおうとトリスタンが提案する。1つの地域に3日かければ探索できるという提案だ。手早く済ませられるならばそれに越したことはないので、ユウもマガも賛成する。ただし、地下4層の探索については可能な限りという但し書きが付いた。北側の惨状を見た3人が簡単ではないと感じたからだ。


 この方針を念頭にユウたちは準備を進めた。


 そんなある日、3人は奇妙な一団を目にする。まるで戦争に負けた敗残兵のようだ。装備を失い、負傷した者たちは支え合っていた。


 遺跡から命からがら帰ってきた冒険者なのだろうとユウなどは思ったが、その者たちをよく見て驚く。何とパトリックやロビンなど明るい未来ジュースフラムティッドなのだ。最近凋落しているという話は聞いていたが、これほどひどい状態だとは思っていなかった。あまりの様子に半ば呆然とする。


 立ち止まってぼんやりと見ていたのが悪かったのか、ユウは相手のクランメンバーと目が合った。何人かは腹立たしげだったり悔しげだったりする顔を背けたが、ロビンだけは猛然と食ってかかってくる。


「テメェら、見つけたぞ! ブッ殺してやる!」


「ロビン、やめろ!」


「兄貴、止めないでくれ! こいつらのせいでオレのパーティメンバーが死んだんだ」


「今はそれどころじゃないだろ。早く行くぞ」


「全員でやっちまえばあいつらをぶっ殺せるんだ。みんな手を貸してくれ!」


「今のオレたちの状態がヤバいことを忘れたのか? おい、ロビンを連れて行くぞ」


「おい、離せって! あいつをブッ殺すんだ! 仲間のカタキなんだ!」


 今にも飛び出しそうなロビンを仲間であるクランメンバーが抑えて引きずって行こうとしていた。クランリーダーであるパトリックが言って聞かせようとしているがあまり効果はないようである。


 ユウたちからすると自分たちから仕掛けておいて何をという感じだが、そんな理性的な考えを求められる相手ではないことはよく知っていた。なので嫌な気持ちになる。


 ただ、ロビン以外は何か別のことに気を取られているようだ。それが何かまではわからないが、逃げるように去って行った。


 結局よくわからないまま見送ったトリスタンが口を開く。


「なんだったんだ、あれは?」


「ロビンの言動はまだわかるけれど、それ以外はさっぱりわからないよ」


 まるで何かに追われているような感じに見えたが、魔物はここまで追ってくることはなかった。そうなると別の何かを気にしていると言うことになる。しかし、それが何かはまったくわからない。


 きっとろくでもないことなんだろうなと3人は思った。




 翌日、手が空いたときにユウたち3人は冒険者ギルド派出所へと出向いた。冒険者について知るなら最適の場所である。


 中は相変わらず冒険者たちが何人もいた。自分たちの目的のために仲間と集まったり職員と話したりしている。


 ただ、単に賑やかというには雰囲気に緊張感があった。何事かと思いつつも3人は受付カウンターに続く列に並ぶ。


「ユウ、石人形(ストーンゴーレム)っていう単語が聞こえたな」


「厄介だもんね、あれ」


 周りから聞こえる単語を耳で拾ったユウとトリスタンは声を抑えて会話した。あまり良い賑わいではないらしい。


 やがて自分たちの順番がやってくると、今回はトリスタンが受付係に声をかける。


「ちょっと確認したいことがあるんだが、あの遺跡探索クランの明るい未来ジュースフラムティッドって最近どうしているんだ?」


「あいつらの話か。近頃は聞かないな。まだ遺跡で探索はしているんだろうが」


「昨日あいつらをこの基地内で見かけたんだが、何かから逃げるような感じだったぞ」


「何かから逃げる? 何かって何だ?」


「俺もそれはわからない。でも、ロビンが俺たちに飛びかかろうとしたのをクランメンバー全員で止めてそのままどこかへ行ったんだ。あのときのパトリックの焦り方が妙に気になってな」


「最近落ち目だからな。もう余裕がないのかもしれん」


 受付係の反応は鈍かった。4月頃は遺跡探索クランを評価していた冒険者ギルドも最近は相手をしていないようである。浮き沈みの激しい仕事ではあるが、この辺りはなかなか厳しい。


 話題を変えてトリスタンが更に受付係と話す。


「わかった。ところで、さっき列に並んでいるときに石人形(ストーンゴーレム)って単語を耳にしたんだが、あれって話題になっているのか?」


「最近現れたばかりみたいでまだあまり情報は集まっていないんだ。わかっていることと言えば、通常の武器では傷つけられないので逃げるしかないことと、石人形(ストーンゴーレム)がいる場所といない場所があるらしいということくらいだな」


 話を聞いたユウとトリスタンは目を向け合った。最初のは理解できる。あの石の塊を武器で殴りつけても良くて表面を少し削れるだけなのは知っているからだ。しかし、いる場所といない場所があるというのはよくわからない。


 今度はユウが受付係に問いかける。


「場所によって石人形(ストーンゴーレム)がいたりいなかったりするんですか」


「みたいだな。たまたま長期間遭遇しなかっただけという可能性もあるからまだ確実な話じゃないが。ただ、今のところ地下3層に限定されるのは確かなようだ」


「僕たち、2日前に遺跡から出てきたんですが、その探索のときに地下3層で初めて石人形(ストーンゴーレム)に遭遇したんですよ。それまでは1度も遭遇したことがないのに」


「こっちに話が入ってきたのは一昨日からだから、たぶん現れたのは3日前からなのかもしれないな。なるほど、情報の提供に感謝する」


 受付係から礼を述べられたユウは曖昧にうなずいた。良い感じがしないことに少し顔をしかめる。まだ確実なことはほとんどわかっていないというのが厄介だ。対処できる魔法の道具を持っているのが救いである。


 結局、大した話を聞くこともできずにユウたち3人は冒険者ギルド派出所を出た。




 五の刻が過ぎた辺りでユウたち3人は酒場へと入る。中途半端な時間なので店内に客は少ないがそれでもちらほらと席に点在していた。


 給仕から木製のジョッキを受け取った3人はテーブル席から室内を眺める。あまり声が重ならないので小さい声以外は割と聞こえた。


 大抵の話は石人形(ストーンゴーレム)だ。今のユウたちにとっては聞いたことのある内容ばかりである。自分たちが遭遇したやつは途中で逃げていったなどという話もあるあたり与太も含んでいるのだろうが、新しく現れた脅威に誰もが注目していた。


 木製のジョッキから口を離したトリスタンがマガに顔を向ける。


「あの妨げの小棒なんだが、マガは持って行った方が良いんじゃないか? 転移した先で石人形(ストーンゴーレム)に襲われたらたまらないだろう」


「それを言ったら、あなたたちも同じよ。私が転移した後、石人形(ストーンゴーレム)を避けて地上に戻らないといけないわ」


「それはそうなんだが、俺たちの場合はあの階層をやり過ごせたら当面は必要なくなるからな」


石人形(ストーンゴーレム)に出会ったからといって、必ず襲われるとは限らないわ。ユウだって別の遺跡では無視されていたでしょう」


 次第に滑らかにユウたちの言葉を話せるようになってきたマガが返答した。マガがまったく別の都市に転移するときに使う魔方陣は地下3層にあるのだ。そこからの帰路となると石人形(ストーンゴーレム)は避けられない。


 一口エールを飲んでからユウがつぶやく。


「妨げの小棒が2つあったら良かったんだけれどね」


「まったくだな。いっそ2つに切って分けられたらって思うぜ」


「効果が半分になるくらいだったらやっても良いと思うけれど、試せないよね」


「まぁ普通は壊れるよな」


 提案したトリスタンも本気ではない様子で、ユウからの反論を受けるとあっさり引き下がった。切断可能な魔法の道具など聞いたことがない。


 そこからはとりとめもない話が始まった。主にマガの言語習得のためにユウとトリスタンは積極的に話しかけてゆく。マガも以前より受け答えが流暢になってきていた。


 そんな中、パトリックたちの話が耳に入る。隣のテーブル席で仲間としゃべっている酔っ払いによると、今朝の二の刻頃にあの遺跡探索クランが基地の東門から出て行ったということだった。遠目から見ても人目を避けているのは明らかだったそうである。通常、遺跡に入るなら西門を使う。東門を使う場合はソルターの町へ向かうときだ。


 つまり、パトリックやロビンたちは今朝早くこの基地から出て行ったのである。この遺跡はオレたちのものだと息巻いていたのにだ。それに、負傷者の傷が癒えないまま冬の森を通るのは危険である。なぜそこまで急いでいるのだろうか。


 酔っ払いの笑い声を聞きながらユウは不思議に思った。

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― 新着の感想 ―
 まさかスタンピードの兆候とか、うっかり石人形の保管部屋を解き放ったとかじゃないよな?
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