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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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石人形対策の魔法の道具

 特定の人物にだけ反応することから、石人形(ストーンゴーレム)はユウの中にいる精霊に反応しているとトリスタンとマガが結論づけた。そのため、今後はユウを前面に押し出して目の前の脅威を避けることになる。


 しかし、ユウはこの結論にどうにも納得できなかった。前の遺跡で出会った石人形(ストーンゴーレム)は長らく遺跡を守り続けていたらしかったが、今回はこの日になって突然現れたものである。同じ石人形(ストーンゴーレム)でも違うような気がするのだ。


 それならば一体ユウの何に反応しているのかということになるが、色々と考えた末にひとつ怪しい点を思い出した。それは、半久の箱から取り出した灰色の円筒形の小さな棒である。未だにあれが何の道具であるかは判明していない。


 どうしても気になったユウは仲間2人に相談してみる。


「2人とも、僕はやっぱり石人形(ストーンゴーレム)が止まるのは精霊のせいじゃないように思うんだ」


「だったら何が原因なんだ?」


「前に半久の箱を開けたら灰色の円筒形の小さな棒が出てきたじゃない。もしかしたらあれかもしれないよ」


「あれか。確かマガでも何かわからなかった発掘品だよな」


「あの道具ね。気になるなら次に出会ったときに確認する?」


 出した結論にそこまでこだわりはないのか、トリスタンもマガもユウの主張に耳を傾けてくれた。そこでユウは灰色の円筒形の小さな棒の能力を試すことにする。最初に長さ16イテック程度の棒をトリスタンに手渡した。


 こうして3人は再び地下3層の探索を再開した。石人形(ストーンゴーレム)は脅威だがその対策は主目的ではない。遭遇しない限りは休眠部屋の探索が優先だ。


 どうでも良いときはいくらでも出会うのに、肝心なときになるとなかなか出会わなくなることがある。今回が正にそうで、鐘1回分以上は平穏に探索ができた。たまに殴り潰された魔物の死骸を見かけるだけである。


 昼休憩を挟んで探索を再開した3人はその後も順調に地下3層を調査した。もしかしらたらもう今日は出会わないのではと思えるくらいだ。


 しかし、さすがにそのようなことはなかった。ユウたち3人は久しぶりと思えるくらいに待ち続けた石人形(ストーンゴーレム)と再び遭遇する。一旦小走りに来た道を戻ると、灰色の円筒形の小さな棒を手にしたトリスタン1人が前に進み出た。すると、かなり近づいてから石人形(ストーンゴーレム)が停止する。


「本当に止まったぞ!? この棒が原因だったのか!」


 おっかなびっくりだったトリスタンは止まった石人形(ストーンゴーレム)に触りながら独りごちた。不思議そうに手に持った棒と見比べる。


 後から遅れてやって来たユウとマガもその石の肌を触った。確かに止まっており、動く気配はない。


 今度はマガが灰色の円筒形の小さな棒を持って石人形(ストーンゴーレム)に1人で近づいた。すると、やはりトリスタンのときと同じように停止する。


「本当にこの棒が原因みたい。全然わからなかった」


「後はユウがその棒を持たずに近づいたらどうなるかだよな」


「え、それやるの?」


「どうせだったら精霊が無関係なことを証明しようぜ」


 なぜか楽しそうなトリスタンがユウに勧めた。断る理由もなかったのでユウも応じる。気になることではあったからだ。


 マガが灰色の円筒形の小さな棒を持ったままトリスタンと共に離れてゆく。石人形(ストーンゴーレム)の側に立ったままのユウはじっとその様子を窺った。すると、当たり前のように動き始めたそれに殴られそうになり、慌てて離れる。


 ここまで調べれば確実だった。石人形(ストーンゴーレム)を停止させていたのはこの灰色の円筒形の小さな棒なのだ。


 返してもらった灰色の円筒形の小さな棒を手にしながらユウはマガに問いかける。


「マガ、これって何だかわかる?」


人形(ゴーレム)のような魔導物体、人間が作り上げたものを動けなくする道具があることは聞いたことがある。名前は確か、妨げの、何かだったと思う」


「それじゃ、これは妨げの棒だね」


「小さいから妨げの小棒でいいんじゃないか?」


「だったらそれで決まりにしよう。この妨げの小棒を持っていたら、石人形(ストーンゴーレム)は止まるんだね」


「そうね。ただ、この棒について正確にはわからないから、石人形(ストーンゴーレム)以外に効果があるのかはその都度確認する必要がある」


 マガも完全にわかっているわけではないらしく、解説は中途半端だった。残念なことではあるが、魔法の道具の性能と効果がある程度わかっただけでも幸いである。


 疑問が解決したところでユウたち3人は地下3層の探索を再開した。途中、石人形(ストーンゴーレム)が魔物を殴り殺すところを実際に目撃するなどして衝撃を受ける。ただ、これは都市を守る防衛機構が本来の機能を果たしているとも見て取れた。


 なかなか遭遇することがないと思っていた石人形(ストーンゴーレム)は、再び遭って以降頻繁に見かけるようになる。妨げの小棒があるおかげでもはや脅威にはならなくなったが、その数は随分多いとユウは感じた。どこにそんな数をしまっていたのかと不思議に思うくらいだ。


 それでもユウたち3人は探索を続けた。




 遺跡に入って5日目、ユウたち3人は昨日地下3層で調べきれなかった地域の探索から始めた。何とか休眠部屋を見つけたが、使われている石棺は見当たらない。つまり、この階層にも生存者はいないということだ。


 またしても残念な結果であったが落ち込んでいる暇はなかった。それならばと3人は地下4層へと下りる。しかし、階下までたどり着けなかった。階段の途中から水没していたのだ。


 その様子を見たユウが顔を引きつらせる。


「どうもこの都市の地下4層は行けなさそうだね」


「他の階段を使ったら行けるんじゃないか? 地下4層へ続く階段がひとつだけってことはないだろう」


「ここまで水没しているっていうことは、階層全体がそうだと思うけれどな」


「マガ、別の階段に案内してくれるか?」


「わかった」


 トリスタンの提案で別の階段から地下4層を目指すことにしたユウたちは一旦地下3層へと戻った。そうして、マガにおおよその位置まで案内してもらう。


 そうして3人は時間をかけて大回りをして石製の門が閉じている場所にたどり着いた。マガが門を開けて階段を下りる。階下の床はうっすらと泥水が張っていた。


 床から2段上の階段上からその様子を眺めるトリスタンが顔をしかめる。


「何だよこれ。水浸(みずびた)しじゃないか。行けないことはないのかもしれないが」


「トリスタン、これは行けないよ。この都市の地下4層は諦めるべきだね」


「水没しかかっているからか?」


「床がほとんど見えないからだよ。前に行った地下4層を思い出して。巨大土竜(ジャイアントモール)が掘ったらしい大きな穴がいくつも空いていたでしょ。こんな風に泥水が張っていたら、穴を見つけ損ねて落ちちゃうよ」


「うへぇ、怖いな!」


 説明を聞いたトリスタンが身震いした。何も知らずに踏み込んでそのまま泥水の中に沈んでしまうなど恐怖でしかない。


 隣で嫌そうな顔をする相棒にユウは更に話を続ける。


「それに、どんな水棲の魔物がいるのかもわからないからね。そんな相手にとったらここは自分の庭どころ家だろうし、僕たちが(かな)うとは思えないよ」


「魔物の脅威もあったな。最近石人形(ストーンゴーレム)ばかり見ていたから忘れていたぞ。危なかったぜ」


 魔物の可能性をを指摘されたトリスタンが顔を引きつらせた。後ろ向きのまま階段を1歩上がる。早く階段を登りたそうな雰囲気だ。


 振り向いてマガに顔を向けたユウが口を開く。


「ここの地下4層の探索は無理みたいだよ」


「わかった。なら、上に戻って魔石集めをする。今回は最後までお金稼ぎをしよう」


「そうだね。たくさん稼げるよう案内してよ」


「大金持ちにしてあげる。ちゃんと物が残っていればね」


 マガはユウの言葉に微笑んでうなずいた。そのまま踵を返して地下3層へと上がって行く。他の2人もそれに続いた。


 結局、マガの住んでいた都市の北に隣接する遺跡の探索は空振りに終わる。魔石がいくらか取れたのでまったくの成果なしというわけではなかったが、それは本命の成果ではなかった。


 その後、探索の期限を迎えたユウたち3人は一旦地上へと帰還する。これから3日間休んでその後は再び探索だ。残る範囲はマガの住んでいた都市の東、西、南に隣接する地域である。今回と同じような調子で探索できるのならばあまり時間はかからないだろう。


 本来のユウとトリスタンの予定ではこの辺りで遺跡を離れる予定だった。しかし、マガという予定外の古代人が蘇ったためにまだしばらくは遺跡に入ることになる。ここまで来るともう何としてもマガを最後まで支える気になっていた。


 特にユウは2度目の古代人なのできちんと送り出したいという気持ちが強い。1人目に送り出してもらっただけに今度は自分がというわけだ。今回はあのときよりも最初から恵まれた状況なので、できるだけ万全な状態にしておきたい。


 酒場でテーブルを3人で囲みながらユウはそんなことを思った。

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― 新着の感想 ―
 『妨げの小棒(仮称)』は探索隊…というよりは魔術師に売ったらいい値付きそうだけど、マガが持っていった方がいいような気もするな。
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