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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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不意に現れたもの

 遺跡に入る日がやって来た。ユウたち3人は二の刻に起きてゆっくりと準備をする。やることはいつもと変わりない。


 用意ができると3人揃って安宿を出た。ルインナルの基地の門辺りで帰還した冒険者パーティとすれ違う。そのまま遺跡の入口から中へと入った。


 今日はマガが生活していたという都市の地域に転移した後、3人は1日半ほどかけて他の遺跡へと転移する手段を探す予定である。既に転移魔法陣は2つ見つけているので必ず探し出す必要はない。


 ただし、誰も手を抜くつもりはなかった。マガの選択肢が広がることは良いことだからだ。新たに使える転移魔法陣が見つかれば尚良しということである。


 3人は遺跡の入口から最寄りの転移魔法陣を使ってマガが住んでいた都市の遺跡へと転移した。尚、今回マガは転移魔法陣を操作していない。ユウに教えて1人で実行させた。今後も遺跡に入るのならば必要になるかもしれないという理由である。転移先の調整は相変わらず精霊頼みだが、起動の呪文を自分で唱えられるようになったことは大きい。


 魔物が出ないので地下1層の探索は楽である。通路の床に突然穴が空くこともなければ、部屋に入った瞬間天井から攻撃されることもない。ただひたすら目的のものを探すだけで良いのだ。


 前を歩くユウとトリスタンはマガの指示を受けて通路を歩く。転移魔法陣のおおよその位置を知っている古代人が案内をしてくれるのであまり道に迷うことがない。まったくないと言い切らないのは天井の崩落などで最短経路をたどれないことがあるからだ。こういうとき、マガはわずかに不機嫌な顔をする。


 初日の探索は順調だった。障害になる物がほとんどないのだからある意味当然だろう。見つけた小部屋で野営するべくユウたちは中に入った。


 夕食を食べながらトリスタンがマガに顔を向ける。


「荷物は重いか?」


「少し肩が痛い。けれど、平気」


 太陽帝国語でもなく異界諸言語でもない、現地の言葉でマガは返事をした。片言でも話せるようになってきたのだ。


 翌日、出発の準備が整うとユウたち3人は小部屋を出た。探索2日目はほぼ丸1日使って地下1層を巡ることになる。


 探す場所は多少違っても同じ遺跡の同じ階層を歩き回るので前日と何も変わらない。マガの指示に従ってユウとトリスタンは通路を歩き、転移魔法陣の小部屋を目指す。


 地下1層は他の冒険者と比較的出会いやすいが、この地域のこの階層では今まで誰とも出くわしたことがなかった。転移魔法陣を使わずに遺跡の入口から歩くと7日もかかる場所なのである意味当然だが、地下2層以下でたまに遭遇することがあったのでユウなどは不思議に思う。


 探索の途中、ユウたち3人は以前に比べてよくしゃべった。作業に必要な会話ではなく、雑談がかなり増えたのだ。通路を歩いているときや転移魔法陣を調べているときなど、いつであってもである。危険の少ない地下1層だからこそできることであり、マガが現地語を覚えようとしている証左でもあった。


 2日目の探索が終わるといつも地下2層に下りるのに使う階段の近くまで戻る。その最寄りの小部屋に入ると3人は今晩の野営地とした。


 腰を下ろすとユウが口を開く。


「結局、使える転移魔法陣はなかったね」


「残念。でも、2つあるから悲観することはない」


 少しずつ現地語を滑らかに話せるようになってきているマガが微笑んだ。この1日半の探索で成果はなかったが、これで地下1層には何もなかったという事実は手に入る。後になってもし探索していればという後悔はこれでせずに済むわけだ。


 黒パンを取り出したトリスタンがそれに齧り付く。次いで水袋に口を付けて飲んだ。それからマガに話しかける。


「工房地区と行政地区、どちらの転移魔法陣を使うんだ?」


「行政地区の方ね。別にどちらでも良いけれど、行ったことのある都市の方が帝国人を探しやすい」


「行ったことがあるのか。確かにその方がやりやすそうだな」


「ふふ、そうでしょう」


 自分の決めたことを肯定的に受け止められたことにマガが喜んだ。取り出した干し肉をおいしそうに囓る。


 食事が終わるとユウとトリスタンは交代で夜の見張り番に就いた。マガはその奥で毛布に(くる)まって横になる。


 これでマガの住んでいた都市の探索は一区切りついた。




 遺跡に入って3日目、ユウたち3人はこの日から遺跡内の探索場所が変わる。今後はマガの住んでいた都市の北に隣接する都市の遺跡を探索するのだ。5日間の予定で地下2層以下の休眠部屋を探していく。ただし、地下4層に関しては危険だと判断した場合は調査を中断することになっていた。今はまだ、そこまで命を賭ける状況ではないと3人で相談して決めた結果である。


 全員の準備が整うと3人は目的の地域に向かって出発した。魔物が出る場所を通るのでさすがに今回は気を張って歩く。


 マガによると、住んでいた都市の周辺にはいくつもの都市が点在していたそうだ。細部はちょこちょこと違うらしいが基本的な都市設計は共通していたそうなので、空間をねじ曲げられたことにより隣接することになった都市がそれらであればマガの知識は役に立つ。逆に、まったく違う地方の都市が隣接しているとなるとマガであってもお手上げだ。そのときは休眠部屋の探索を諦めることになっていた。


 地下2層に移り、都市時代に北の端だった場所を越えて3人は探索を開始する。鐘1回分ほど調べると、マガが確信を持ってかつて赴いたことがある場所だと断言した。広大な遺跡(ストラルインナル)はどうやら近隣の都市を結合したものらしいことがわかる。そこからの調査は早かった。結果は成果なしであったが。


 遺跡に入って4日目、次は地下3層へと下りた。油断できない階層ではあるが必要以上に緊張することはない。


 そう思っていた3人だったが、ここに来て初めて見るものと遭遇する。


「え、石人形(ストーンゴーレム)? しかも動いている?」


 最初に声を上げたのはユウだった。前方の暗闇から姿を現したのは何と稼働している石人形(ストーンゴーレム)だったのだ。この遺跡では初めてである。


 驚いているのはユウだけではない。トリスタンはもちろん、マガもだ。


 いきなりの出現にユウがマガへと確認する。


「マガ、この石人形(ストーンゴーレム)は僕たちを襲ってくるの?」


「わからない。都市の機能が停止しているから、どうなっているのかさっぱり」


 かつての遺跡では襲われることはなかったが、この遺跡ではその保証がない。その恐怖にユウは顔を引きつらせる。


 ところが、あと少しというところまでユウに近づいた石人形(ストーンゴーレム)はその場で停止した。


 突然のことに全員が呆然とする。何が起きているのかさっぱりわからない。


 恐る恐る近づいたユウは石人形(ストーンゴーレム)に触れてみる。しかし、何も反応がない。本当に止まっているらしい。


 振り向いたユウがマガに声をかける。


「本当に止まっているみたいだよ?」


「動いていたと思ったら止まったなんて。魔力切れ?」


「マガは調べられる?」


「専門の技師ではないから無理。それに、あまり時間をかけていられない。気になるけれど先を急ぎましょう」


 マガの判断によって放置することに決めた3人はそのまま通路を進んだ。しかし、少し離れたところで停止していた石人形(ストーンゴーレム)が再び動き出す。


 これには全員が再び驚いた。一体何がどうなっているのかわからない。


 通路の奥へと去って行ったその後ろ姿を眺めながらトリスタンがマガに尋ねる。


「あの石人形(ストーンゴーレム)ってやつ、もしかしておかしくなっているのか?」


「その可能性はあるわね。魔力の供給が不安定なのかもしれないわ」


 難しい顔をしたマガが何とか返答した。わからないといった様子である。


 何とも重苦しい雰囲気が漂ってきたが、それでも3人は探索を再開した。


 これで終わってくれれば良かったのだが、しばらく歩いていると再び石人形(ストーンゴーレム)が向かってきたので3人は身構える。しかし、前回と同じくやはり近くまでやってくる停止した。


 その様子を見ていたマガが疑問を口にする。


「長い年月で劣化していても、まったく同じ現象が起きるのは珍しい。もしかして、何か条件があるのかもしれない」


「それは僕たちの方にっていうこと?」


「たぶん、そうなる」


「ユウの精霊は考えられないか?」


 それまで黙っていたトリスタンが2人に尋ねてきた。ユウとマガが顔を見合わせる。


 1つの仮説が出たことで、3人は試してみることにした。まずはトリスタンのみを残して他の2人が石人形(ストーンゴーレム)から離れる。すると、いくらか離れたところで石人形(ストーンゴーレム)は動き始め、トリスタンを殴ろうとした。マガでも試すと同じように攻撃しようとしてくる。最後にユウが立ちはだかると動きを止めた。


 やはり原因はユウらしいということがわかる。トリスタンもマガも精霊が何かをしているのだろうと結論づけた。

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