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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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発掘品の売却

 遺跡から帰還した翌日、ユウたち3人は安宿で三の刻頃まで眠っていた。5月も後半になると冬の影響はほとんどなくなる。そのため、震えながら朝を迎えることもこれからはないのだ。ちなみに、マガは最初に背嚢(はいのう)などをユウに買ってもらったときに毛布も一緒に手に入れている。今はそれを使って寝泊まりしていた。


 それはともかく、安心して充分に眠ったユウたちは次の探索の準備に向けて動き始める。今回はマガも自分で必要な物を買うことになっていた。これは、探索で得た稼ぎを三等分したのでマガも稼ぎを手に入れたからである。更には現地語の練習として自分で言葉を使って用を済ませてもらうことをユウが提案したのだ。


 ユウとトリスタンが見守る中、マガはたどたどしい言葉で店主と言葉を交わす。最初なので助け船もたまに必要だった。一方、相手をした店主は、貴族のような風貌のマガに最初は驚き、次いで言葉を使い慣れていないことに訝しむ。ユウが在野の女魔法使いについて説明すると一応うなずいてはくれたが、それでも最後まで不思議そうだった。金払いは良かったので余計なことは尋ねてこなかったが。


 それが終わるとユウとトリスタンは武具の手入れを始めるが、ユウは並行してマガと言葉を教え合った。マガは店先で使った現地語の復習をして更に習熟度を上げていく。転移先で現地人と円滑に会話ができるようになるためだ。同じようにユウも次の古代人と出会ったときのために太陽帝国語を覚えようとする。この先使うことがないかもしれないが、二度あることは三度あるという不安感から言葉を学んでいた。


 こうして休日も2日目のほとんどが過ぎた。最近は3人が片言で少し話ができるようになっていたので会話がはずむ。それが更にマガの語学力を向上させていった。


 六の刻になるとユウたち3人は酒場へと向かう。この頃になると雪はもう見える範囲にはないので歩きやすい。


 酒場はいつも通り盛況だった。マガに向けられる視線はまだあるが最初の頃ほどではない。テーブル席をひとつ占めると給仕に料理と酒を注文した。


 料理と酒が届くと食事を始めた3人だが、その直後に声をかけられる。ユウがそちらへと顔を向けるとバートが近づいて来た。


 親しげに挨拶を交わすと空いている席にバートが座る。


「いやぁ、疲れた! ついさっきここに着いたばっかりでよぉ。それでここに直行したんだ。やっぱり疲れたときはエールだよな」


「相変わらずソルターの町とここを往復しているんだよね」


「そうだぜ。いい加減この冬の森も慣れてきたってもんだ。お、来た来た!」


 給仕から受け取った木製のジョッキを受け取ったバートが口を付けて一気に傾けた。勢い良く飲んで盛大に息を吐き出すと今度はトリスタンに顔を向ける。


「それで、そっちも相変わらず遺跡の探索をしてるんだよな。景気はどうだ?」


「悪くないね。それなりに稼げているぞ」


「それなりねぇ。どうせオレの何倍も稼いでるんだろ? 羨ましいなぁ」


「だったらバートも遺跡に入ればいいだろう。仲間探しはどうなっているんだ?」


「オレにも事情があるんだよ。あいつはなんで骨折なんてしちまったんだか」


「ところで、アルビンさんはまた前と同じ宿に泊まっているのか?」


「毎回同じ所だぜ。うちの旦那に何か用でもあるのか?」


「ちょっとな。ほら、先月広めてもらった話なんかの件でね」


「あれかぁ。結構稼げたって喜んでたぞ、旦那」


「明日会いに行くから、アルビンさんと会うなら伝えておいてくれ」


「任せろ!」


 トリスタンの頼みをバートは勢い良く引き受けた。それから再び木製のジョッキを傾ける。


 その間にトリスタンが給仕を呼んでエールを追加注文した。終わるとバートと別の話題で盛り上がる。給仕が持ってきた木製のジョッキをバートの前に差し出すと気の良い冒険者は大喜びした。




 翌朝、ユウたち3人はアルビンが宿泊している安宿に向かった。大部屋に入ろうとするとちょうど本人が出てくる。


「アルビンさん、お久しぶりです」


「元気なようだな。結構なことだ。そちらが噂の女魔法使い殿か?」


「バートから聞いたんですか?」


「そうなんだよ。言葉を話せないらしいな」


「少し前までは。今は学習中なので少しだけ話せますよ。ところで、今よろしいですか?」


「すまない、これから用があるんだ。話があるなら後で聞くよ」


「わかりました。発掘品を売りたいので今日中にお願いします」


 発掘品という言葉を聞いた瞬間、アルビンの目つきが変わった。真面目な顔をしてうなずいてくる。そして、会う時間を約束すると一旦別れた。


 昼下がりの五の刻になると3人は再び安宿に足を運ぶ。すると、宿の出入口の隣でアルビンが待っていた。今までとは態度が違うことにユウは少し驚く。


「アルビンさん、こんにちは。どこで話をしましょうか?」


「この宿の脇、少し奥に行ったところにしよう。ちょっと臭うが、だから誰も人が寄ってこないんだ」


 顔をしかめる臭い漂う場所に案内されたユウは背負っている背嚢(はいのう)を下ろした。そして、その中から金属製の小さく軽い箱を取り出す。半久の箱だ。


 それを見せながらユウが話を始める。


「これは、半久の箱という発掘品で、箱自体の時間を停止させて中に入れた物を百年千年単位で長期保存する魔法の道具です。ただし、使う度に大幅に劣化するのが難点ですね。2回目は数十年単位しか長期保存できません。現在は1度使用した状態でしたので、次に使うのでしたら保存は数十年単位ということになります」


 半久の箱をぐるりと回し、更に開けて中を見せながらユウは半久の箱についての説明をした。もちろんそっくりそのままマガからの受け売りである。


 話を聞くアルビンの顔は真剣だった。ユウから受け取った金属製の小さく軽い箱を色々な角度から眺める。


「物を長期保存するための魔法の道具というわけだな。なかなか興味深い。それで、色々と確認したいことがあるんだが、まず最初に聞いておきたいことがある。この発掘品の説明をしてくれたが、それはどうやって調べたんだ?」


「僕が調べたんじゃないです。隣にいるこのマガが教えてくれたんです」


「女魔法使い、だったな」


「マガ、魔法を使って」


 異界諸言語でユウが伝えるとマガがうなずいた。次いで何事かつぶやくと頭上に光の玉が出現する。その輝く玉をを見たアルビンは呆然とした。


 半久の箱を持ったまま光の玉を見上げるアルビンにユウが話しかける。


「どうです? 実際に魔法は使えますし、古代文明の知識も確かですよ」


「そうだな。そこいらの詐欺師とはまったく違う。いや、ユウたちをそんな風に思ってたわけじゃないが」


「その半久の箱が本物だということは信じてもらえましたか?」


「ああ、信じよう。しかしそうなると、次はどのくらいの値を付けるかだな」


 そこからユウはアルビンの質問攻めにあった。本物ならば大金で購入することになるので当然だろう。幸い、隣には本物の古代人がいるので、わからなければ太陽帝国人(せんもんか)に相談すれば良い。


 使い捨ての魔法の道具なので実演できないというのが難点だったが、それでもアルビンはユウとマガの説明を信じてくれたようだ。そして、値段交渉の結果、金貨60枚で取り引きが成立する。正体不明の発掘品だと金貨数枚でも売れたら成功と言われる中、かなりの金額だ。これは魔法の道具の正体とその使い方が判明しているからこそだった。


 やり取りが終わるとアルビンが良い笑顔でしゃべる。


「ありがとう! こういう取り引きをしたかったんだよ」


「僕も高値で買ってもらえて嬉しいです」


「それじゃ、早速対価を持って来よう。ちょっと待っていてくれ」


「ちょっと待ってください。実は別にお願いがひとつあるんですが」


「なんだろうか?」


 急いで大部屋に戻ろうとしていたアルビンをユウが引き止めた。そうして語った願いとは金貨を砂金や宝石と交換してほしいというものだ。国を跨いで旅をしているので通貨の交換が大変だからだと伝えるとアルビンも納得する。


 ただし、その数量が少し多かった。何しろ発掘品の売却額にこの遺跡での稼ぎの大半なので結構な額になった。


 その数字を聞いたアルビンもさすがに躊躇う。


「いやまぁ、あることはあるが、えぇ」


「もし交換に応じてもらえれば、その半久の箱の説明書をお譲りしますよ。施錠と解錠の方法も記載したものです」


「なんだって!?」


 大体伝聞などで説明ですら怪しいことの多い発掘品に使用方法まで記載された書類が付くのは珍しい。今回の場合は試せないという難点はあるものの、それでも信じるに足る書類があるというのは転売するときに大きな利点になる。


 このことを知っているアルビンは最終的にユウの要求を飲んだ。

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― 新着の感想 ―
 この際、トリスタンにも異界諸言語と古代帝国語を教えるべきだな。
> 次の古代人と出会ったときのために もう会うこと前提になっている(笑)
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