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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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遺跡探索の成果

 探索5日目、ユウたち3人は野営地である小部屋で目覚めた。軽く体を動かし、食事を済ませて出発の準備を整える。


 この日はとても重要な日だった。稼働していそうな石棺の石の蓋をいよいよ開けるのだ。マガもわずかにいつもより緊張しているように見える。


 そのせいか、野営地での3人はいつもより口数が少なかった。全員準備が終わると無言のまま座っている。しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。


 立ち上がったユウが他の2人に声をかける。


「そろそろ行こうか」


 うなずいたトリスタンとマガも立ち上がって自分の背嚢(はいのう)を背負った。そうして小部屋を出る。


 向かう場所は地下3層の研究地区だ。マガが眠っていた部屋とは別の休眠部屋である。そこにひとつだけ動きそうな石棺があったのだ。


 既に略地図に記載されている場所なので迷うことはない。たまに現れる魔物を追い払いながら目的の場所へと進む。


 ほどなくしてユウたち3人は研究地区の休眠部屋にたどり着いた。マガが眠っていたあの石棺と同じものが縦横に並んでいる。


 その中で石の蓋がされた石棺の一方にマガは向かった。近くまで寄ると目の前に立つ。天井近くには光の玉が輝いているので明るい。


 ユウとトリスタンは少し離れた場所でマガを待った。ここからは話しかけられない。


 目の前の様子を見ていたユウはかつてのことを思い出す。あのときはいくつか石棺を開けたが、目覚めた古代人は最初の1人だけだった。もう1人増えるくらいなら面倒は見られるので目覚めさせられたら良いなと願う。


 しばらくじっと石棺を眺めていたマガが石の蓋に手で触れた。すると、その蓋がゆっくりと石棺の上をずれていく。その間、石のこすれる重い音が周囲に響いた。


 固唾を呑んで様子を見守っていたユウはわずかに首を傾ける。石の蓋が開いた以外に何も変化がない。正常に起動したのなら水蒸気のようなものが溢れて石の箱の周辺に流れ出すはずだ。しかし、その気配がない。状況を察したユウの顔は暗くなった。


 何が起きているのかわからないトリスタンが横からユウに囁いてくる。


「なぁ、どうなっているんだ?」


「駄目みたい」


 短い返答を聞いたトリスタンはそのまま黙った。かける言葉が見つからない。


 離れた場所から見るマガの横顔は無表情だ。少し表情が硬いように見える。


 石棺の中が気になったユウは静かに近づいた。中を覗くと底に人型の白骨が横たわっている。例の液体だけが蒸発してしまったらしい。


 小さく息を吐き出したマガが口を開く。


「駄目だったわ。液が保たなかったみたいね」


「残念だったね」


「まったくだわ。もう1人いてくれるだけでも全然違ったのに」


「これからどうするの?」


「この都市の中にある転移魔法陣を見て回りましょう。この都市とはくっついていない別の都市へ転移できるものがあるかもしれないわ」


「目星はある程度ついているんだったよね」


「都市のおおよその地図は覚えていると言ったでしょう? だから、遠くの都市に転移する魔法陣のある場所もある程度知っているのよ」


「なるほど」


「大半が使い物にならないでしょうけれど、ひとつでも動くのなら望みを繋げられるわ。そうだ、ユウって確か劣化していない魔石を持っていたわよね。もし転移魔法陣が使えたら、それを私にくれない?」


「良いけれど、転移するときに使うの?」


「持って行くのよ。あれがあれば転移魔法陣以外の魔法の道具を動かせるだろうから」


 古代ではあの透明な大魔石が道具を動かす燃料代わりにされていることはユウも聞いたことがあった。今の時代だと余程探さないと見つけられないので、その存在は貴重だ。


 少し考えたユウは隣のトリスタンに声をかける。


「トリスタン、前に透明な大魔石を見つけたじゃない。あれをマガがほしがっているんだけれど、あげても良いかな?」


「何に使うんだ?」


「古代文明の魔法の道具を動かすときに必要になるかもしれないらしいんだ」


「なるほどな。ユウはあれを換金しなくてもいいのか?」


「ただの魔石じゃないから、どこで適切に換金できるかわからないんだ。それに、今の僕たちはお金を充分に持っているし、必要ならまた稼げば良いじゃない」


「それもそうだな。ならいいんじゃないか」


 相棒の許可を得たユウは背嚢(はいのう)を床に下ろすと、中から透明な大魔石を4つ取り出してマガに差し出した。


 それを受け取ったマガが微笑む。


「ありがとう。今すぐでなくても良かったんだけれども」


「どうせあげるんだから、もう今すぐにと思ったんだ。それと、これから遺跡の中を探索するときは魔石も探そう。もしかしたら他にも透明な大魔石があるかもしれないから」


「そうね。そうしましょう」


 ようやく気分が落ち着いてきたらしいマガの笑顔を見てユウは安心した。これでまた探索を続けられる。


 休憩をした後、ユウたち3人は部屋を後にした。




 その後、ユウたちは転移魔法陣を求めて遺跡の中を巡った。魔物の妨害を何度か受けたものの、いずれも3人で撃退していく。マガの住んでいた都市ひとつだけでも結構な広さだが、転移魔法陣の数はそこまで多くない。ひとつずつ丹念に確認して回る。


 3日かけて地下4層以外をすべて回ろうとしたユウたちだったが、地下1層だけは回れなかった。それでも、何と2ヵ所の転移魔法陣が使えそうなことが判明する。空間をねじ曲げて繋げられた都市にではなく、まったく別の都市へだ。


 これにはマガも喜ぶ。普段表情をあまり変えない彼女が珍しく浮かれるほどだった。

 地上への帰路の中、ユウがマガに確認する。


「地下2層の工房地区と地下3層の行政地区にひとつずつあるんだよね」


「そうよ。まさか使える魔法陣が2つもあるなんて思わなかったわ」


「ということは、次はマガの住んでいた都市にくっついている都市を調べるのかな?」


「そのつもりなんだけれども、どうせなら地下1層も調べておきたいわよね」


「はっきりさせておきたいよね」


「そういうことよ。すっきりとして気持ち良く次の作業に取りかかりたいわ」


 話を聞いたユウもその通りだと思った。後から複数の都市地下1層をまとめて調べるというやり方もあるが、都市単位で範囲を区切って探索にめりはりを付けるという考え方もあるのだ。


 歩きながら話をしていると、今度はトリスタンがユウに話しかけてくる。


「半久の箱だったか? あれの使い方を教えてもらった方がいいんじゃないか? 今、箱が空いた状態のままだろう。閉じる方法も知っておくべきだと思うぞ」


「あれかぁ。その通りだと思うけれど、トリスタン、あの箱を使う場面って想像できるの?」


「いや、俺たちが使うんじゃなくて、売るときにその知識が必要だと思ったんだ。だってそうだろう? あの箱の閉じ方と開け方がわからないと使えないじゃないか」


「なるほど」


 相棒からの指摘にユウはうなずいた。どこで誰に売るにしろ、道具の能力と使い方が明確な方が高く売れるのは確かだ。


 それならばとユウはマガに問いかける。


「マガ、あの半久の箱ってあったでしょ。あれの閉じ方と開け方を教えてほしいんだ」


「何かに使うの?」


「売るときに使い方を教えた方が高く売れるからだよ」


「確かに、使い方もわからない道具を買う人なんていないわね」


 理由を知ったマガが苦笑いした。そうして、すぐに閉じるときの呪文と開けるときの呪文をユウに伝える。


 休憩時間になると、ユウは半久の箱について羊皮紙にまとめたときに書き記した。使うと効力が落ちてしまうので試せないのが残念だが、何度もマガに確認して間違いないことを確認する。これで大丈夫なはずだった。


 やがて遺跡の入口が見えてくる。松明(たいまつ)がなくても明るい場所は久しぶりだ。ユウは自分が少し浮かれたことに気付く。


 階段を上がって地上に出るとそのままルインナルの基地に入った。今回は門番も何も言わない。そのまま素通りだ。これには全員が安堵のため息をつく。


「ああ、やっと帰ってきたぁ」


「トリスタン、先に魔石を換金しておこう」


「真面目だなぁ、ユウは。でも、その方がいいな。今回は臨時収入もあったし、いいことずくめだったぜ」


「1人当たりの金額にすると臨時収入の方が多いっていうのが何ともね」


「まぁ、懐が温かくなる分にはいいじゃないか」


 その通りなのでユウは何も言わずにうなずいた。収入が多くて困ることはないのだ。なのでもらえるもらっておくに限る。


 魔石選別場に着いたユウたち3人は今回手に入れた魔石を換金した。その結果、1人当たり金貨6枚を手に入れる。探検隊への情報提供料と合せると全部で金貨14枚だ。自分の金銭感覚が不安になってくる。それでも嬉しいことには変わりない。


 稼ぎを手に入れたユウたち3人はそのまま酒場へと向かった。

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― 新着の感想 ―
マガの脱出フラグか 三人で旅してほしい 男二人旅は長いしひたすら地味 まあ地味なのもこの話の魅力ではあるが マガのリアクションだけで面白いし 貴重な女キャラだしね
 駄目だったか...( ´-ω-) 各遺跡に一人生きてればいい方、と考えるべきだな。
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