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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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探検隊との遭遇(後)

 言葉が通じないマガを不審に思った探検隊の隊員たちから説明を求められたユウは、在野の女魔法使いについての設定を語った。相手の反応は全体的にあまり良いものではないようで、困惑している者や訝しげな視線を向けてくる者が大半だ。


 代表してテオドルがユウに話しかける。


「それはまた、随分と変わった者だな」


「ええ。でも、お供の人が死んじゃって今は1人なんで、放っておけなくて一緒にいます」


「それはまた面白い者じゃないか」


 同じくユウの説明を聞いていたシーグルドが口を挟んできた。興味ありげな視線をマガに向けている。


「自分の研究にのめり込みすぎて頭がおかしくなった研究者の話は私も聞いたことがある。実際にお目にかかったことはこれが初めてだけれどね」


「そうですか」


「風貌からすると貴族のご令嬢にも思えるけれど、どこの出身なのかわかるかい?」


「いえそれが、自分は古代文明の都市の出身だって言うばかりで」


「ほう、それはそれは。私の言葉を通訳できるかい?」


「可能な限りはしますが」


「それじゃこう言ってくれ。あなたはどうしてこの遺跡を調べに来たのか?」


 無表情のマガに対してユウはとりあえず今の経緯を簡単に説明した。その後、シーグルドの質問を通訳する。すると、憮然とした表情で返答した。


 そのまま伝えるかどうか一瞬悩んだユウだったが、妙案を思い付かなかったのでそのまま翻訳する。


「自分の生活していた都市を歩き回っているだけだって言っています」


「ははは! すごいな、本当に徹底しているんだ!」


 何か琴線に触れたらしいシーグルドが大笑いした。他の隊員たちは戸惑うばかりだが、お構いなく自分の質問をユウに通訳させる。内容は主に古代文明の都市での生活についてだ。色々と細かいことまで尋ねてくる。


 しかし、途中でマガは答えなくなった。そして、ユウに不満を伝えさせる。


「地図には対価を支払ったのに私の話に対価なしというのは納得できない、そうです」


「ははは、なるほど。確かにその通りだ。いや悪かった。金貨1枚でも差し上げるべきかな。でも、地下4層の情報は話してもらえるのだろう?」


「それはまぁ」


 今マガが答えた古代都市での生活に関する話は事実だ。しかし、シーグルドは明らかに信じていない。よくぞそこまで妄想を練り上げたと思っているのがよくわかる。マガの表情は最初の頃よりも硬くなっていた。


 これは良くない傾向だと思ったユウはシーグルドに提案する。


「シーグルド隊長、マガの返答の内容はおおよそ理解していただけたと思います。ですので、地下4層の情報提供は僕とトリスタンの2人でしたいと思います」


「そうだな。作り話を語られてもこっちが困る。わかった。それでいい」


「では」


「ところで、最後にひとつだけこの女魔法使いについて教えてほしいことがあるんだが」


「何でしょう?」


「教えてほしいというか見せてほしいだな。魔法使いと名乗っているだけに魔法は使えるのだろう? それを証明してくれないか」


 求められたユウはわずかに困惑した。マガが女魔法使いと名乗っている以上、その要望はある意味当然とも言える。探検隊側からすると、今のところマガは妄想を語る女にしか見えないのは理解できた。


 自分から女魔法使いであると名乗った以上、これは回避できないとユウは判断する。


「マガ、あの隊長が魔法を使えるところを見せてほしいって言っているよ」


「あんまり気乗りしないわね」


「あの光の玉でも見せれば良いんじゃないかな。あれなら攻撃的じゃないし」


 小さくため息をついたマガがユウにうなずいた。それから魔法で周囲を照らす光の玉を頭上に出現させる。


 これにはシーグルドをはじめ、探検隊の隊員たちも驚きの表情を浮かべた。中には魔法使いという話を信じていなかった者もいたようで、そういう者たちは呆然としている。


 出現した光の玉は少しして消えた。周囲は一気に暗くなる。松明(たいまつ)の明かりはいくつもあるが、今の光の玉に比べると何とも頼りなく見えた。


 探検隊の隊員たちが沈黙する中、ユウはシーグルドに声をかける。


「これでよろしいでしょうか?」


「あ、ああ。本当に魔法が使えたんだな。いやしかし、それにしても」


「情報の提供を再開してもよろしいですか?」


 中断していた地図の描き写しと地下4層の話を再開するためユウが許可を求めた。シーグルドが承知するとテオドルたちが再び手と口を動かす。


 そこから先はどちらも淡々と作業を続けた。マガが魔法を使えるということで、探検隊の面々は情報の信憑性も本格的に信用するようになったようである。怪しまれることなくユウたちの情報を受け入れていった。


 やがて情報の提供が終わる。そうしてユウはテオドルから報酬を受け取った。金貨の枚数を数えてきちんと枚数があることを確認すると懐に入れる。


 しかし、テオドルと別れの挨拶を交わした直後、ユウはシーグルドから呼び止められた。不思議そうな顔を探検隊の隊長へと向ける。


「どうされました?」


「君たちを雇いたいんだ」


「僕たちをですか?」


「そうだ。古鉄槌(オールドハンマー)の2人は情報の精度から能力が高いことがわかるから、探索を手伝ってもらえたら私たちはとても助かるだろう。それに、マガの魔法も非常に有用だ。先程の明かりひとつ取っても、あれだけ周囲を照らしてくれたら探索がしやすくなることは間違いない」


「残念ですが、僕たちにもやるべきことがあります。ですので、ご要望には応えられません」


「そのやるべきことというのは?」


「僕とトリスタンはお金を稼ぐことです。こちらのマガはこの遺跡の探索です。僕たちの方はまだしも、マガが求める探索を進めるのならば3人の方がやりやすいのです」


 ユウは自分たちの事情をぼんやりと話しつつもはっきりと断った。曖昧にすると自分の都合の良いように受け取られてしまうと考えたからだ。


 ここで諦めてほしいと思いながらユウはシーグルドとの会話を続ける。


「何が起きるのかわからない遺跡の中なら人数が多い方が心強いだろう。特にここ地下4層はそうだ。鼠もどきの魔物が集団で出てきたときなど、とても3人では対処できないはず。ならば、私に雇われても良いのではないのかな?」


「僕たちにも都合がありますので、そういうわけには」


「あくまでも断るというのか」


「そちらの探検隊は独力でここまで探索されたのでしょう? でしたらそのまま探索されたら良いと思いますが」


「地下4層が上層と比べても探索しにくいことはお前も知っているだろう。だから、私は力を合わせるべきだと言っているのだ」


 いくらか不機嫌になった顔を向けてきたシーグルドを見たユウは内心でため息をついた。割と話ができると貴族だと思っていたが、やはり貴族らしい側面はあったようだ。


 どうにか諦めてもらえないかと思いつつユウは返答する。


「お心遣いは嬉しいですが、やはり都合が合うとは思えません。幸い、僕たちの知っていることもすべてお話したのですから、そちらは単独でも探索できるでしょう」


 自分たちの方が劣っているとは思っていないはずのシーグルドはつらそうな表情を浮かべた。最終的にはユウたち3人を諦める。


 話が終わるとユウは一礼してすぐに探検隊と別れた。雰囲気が悪くなったので早く立ち去りたかったのだ。


 地下3層に上がって探検隊と完全に分かれたところでユウたち3人は緊張を解いた。トリスタンが首を鳴らしながら口を開く。


「あー疲れた。あの探検隊の隊長が俺たちを雇いたいだなんて言うとは思わなかったな」


「そうだね。もしかして、探索がうまくいっていないのかもしれない」


「確かに地下4層じゃ結局魔石ひとつ手に入れていなかったからな。ある程度探して成果なしで焦ってたのかもしれない」


 実際はどうなのかわからないがその可能性はあるとユウは思った。それに、例え雇われて何らかの成果があったとしてもそれはユウたちの手には入らない。それが面白くないと何となく思ったのだ。


 相棒と雑談をしていると、ユウはマガに話しかけられる。


「感じの悪い人だったわね、あの隊長って人。あれが今の時代の貴族なの?」


「あの人が貴族の代表的な人物とは思わないけれど、まだましな方だと思うよ」


「貴族には会いたくないわね」


「でも、トリスタンだって一応貴族なんだよ?」


「え?」


 心底意外という表情を浮かべたマガがトリスタンに目を向けた。異界諸言語がわからないトリスタンは怪訝そうな顔を向ける。こちらは特殊な事例だと知っているユウは苦笑いした。


 探索4日目はこうして終わる。今回の探索は毎日が波乱含みなので全員疲労の色が濃い。しかし、まだ探索期間は3日ある。


 明日に備えて、ユウたち3人は寝床になる小部屋を見つけて仮眠を取った。

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― 新着の感想 ―
このシーグルド氏、貧民に気安い顔しつつ小銭であしらう小技利かせてたし、色々苦労してそうな… 借金で遺跡探検隊を仕立てて、成果がないと後がないとかなのかな そういやそもそも貴族が探検隊を仕立てる目的てな…
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