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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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探検隊との遭遇(前)

 地下4層の探索は終わった。結果としては収獲なしである。2日間の探索が空振りに終わったわけだが、これは覚悟の上だったのでまだ受け止めることはできた。都市制御地区の休眠部屋に関しては衝撃的だったが、どうにもならないことなので諦めるしかない。


 地下3層へと上がる階段に戻る途中、とある小部屋で3人は休憩していた。そのときにマガがユウへと話しかける。


「この都市は完全に死んでいるわね。目覚めてから周りの風景がこんなだから覚悟はしていたけれど、あそこまで徹底的に崩れ去っているのを見るとさすがに実感するわ。私たちの文明は滅んだんだなって」


「僕はそういう体験をしたことがないから気持ちはわからないけれど、大変だね」


「あなたが前に会ったスキエントっていう帝国人は、どうやって折り合いを付けていたの?」


「最初は確かに落ち込んでいたみたいだけれど、他の古代人を探すって目標を持ってすぐに立ち直ったように見えたかな」


「強い人だったのね」


「そうだね。ところで、結局あの古代人を眠らせている石棺で動かせそうなのはひとつだけなんだっけ?」


「そうね。地下3層の研究地区のやつがひとつ。それもちゃんと動くのかわからないんだから困ったものだわ」


「もしもう1人眠りから覚めたら、とりあえず一旦地上に戻る?」


「それが良いと思う。まずはちゃんと服を用意してあげないと」


「僕はもう替えの服を持っていないから、次はトリスタンだね」


 話し終えたユウが相棒に目を向けるとマガも倣った。2人の視線を受けたトリスタンは少し驚く。


「2人で一体何の話をしているんだ?」


「もう1人が起きたら、今度はトリスタンの服を借りることになるって話をしていたんだよ」


「まぁそうなるな。ちゃんと洗ってあるからきれいだぞ。あれから使ってないし」


「ベルトだけは紐になるけれどね」


「はは、そうだな。ところで今更の話なんだが、この地下4層の各地区に行くまで随分と苦労したじゃないか。これって直接各地区に下りられる階段を使った方がもっと楽だったんじゃないのか? マガならその階段を知っていると思ったんだが」


 疑問を受けたユウは確かにその通りだと思った。遺跡を探索するのはこういうことだと思い込んでいたので、トリスタンが言ったことは考えつかなかったのだ。


 自分も気になったユウはトリスタンの質問をマガに通訳する。


「直接各地区に行く階段はないのよ。これは保安上の問題ね。だから、今回使った道が最短の経路になるわ」


 もらった回答をユウが伝えるとトリスタンがうなずいた。理解できたという様子である。


「町の中の道がやたらと曲がっていたり、城までの道のりがやたらと遠回りだったりするのと同じ理由か」


「そういうものなの?」


「町の中の道が曲がりくねっているのは軍事上の要請からだな。この遺跡の地下4層もそれに近い理由だってことだろう」


 その辺りの事情は考えたこともなかったユウは素直に感心した。色々とよく考えられて町や都市は造られているわけである。


 休憩が終わるとユウたち3人は再び歩き始めた。魔物の集団に気を付けながら先を急ぐ。


 これでやるべきことがひとつ終わった。残るは、空間がねじ曲げられて連続している隣の都市に向かって石棺と呼ばれる長眠寝箱(ちょうみんしんそう)で眠っているはずの古代人を探すことと、まったく別の都市に転移するための魔法陣を探すことだ。


 今回の探索の残り日数は3日、マガの住んでいる都市の範囲は探索できるだろうと思われた。




 略地図を見ていたユウは地下3層に上がる階段がもう少し先だということに気付いていた。ようやくこの悪夢のような階層から抜け出せるかと思うと、思わず気を緩めてしまいそうになる。巨大土竜(ジャイアントモール)が床に開けた穴を通り過ぎたところでその気持ちはますます強くなった。


 しかし、あと少しというところで通路の先に明かりが揺れていることにユウは気付いた。魔物は明かりを点けないので人間ということになる。そして、今から向かう先にいるということは開けっぱなしの門を通って階段を降りてきたということだ。


 可能性としてはどこかの冒険者パーティが発見することはユウも考えていた。確かにあまり人の来ないところの階段を使っているが、別に絶対というわけではない。現に先日はロビンにも出会ったのだ。こういうこともあるだろう。


 問題は誰なのかということだ。乱暴な冒険者たちだと厄介なことになりそうである。


 色々と考えながらユウは緩み駆けた気を引き締めた。こんなところで追い剥ぎみたいな連中にやられるわけにはいかない。


 緊張しながら通路を進むと相手の正体が判明した。探検隊の気高い意思(ノーブラオヴシキタル)だ。前にも遺跡内で出会い、情報を売った相手である。


 近づくにつれて相手も自分たちを警戒していることにユウたちは気付いた。しかし、こちらの正体に気付いた探検隊の面々が肩の力を抜いたこともすぐに知る。


「お前たちか。確か古鉄槌(オールドハンマー)と言っていたな」


「お久しぶりです。テオドルさんでしたよね」


 直接の交渉相手として進み出てきたテオドルにユウは挨拶をした。前に聞いた噂話を思い出す。


「そちらが地下4層に行くという噂を聞いたことがありますが、本当に探索されていたんですね」


「まぁな。しかし、驚いたぞ。まさかお前たちがここで活動しているとはな」


「たまたま地下4層に続く階段を見つけられたからです」


「地下3層に続く階段のときも同じことを言ってた気がするな」


「そうですね。案外、例の冒険者たちの後追いになっているのかもしれません」


「例の冒険者?」


「あの噂を知りませんか? 自分たちは充分儲けてこの遺跡から立ち去るときに、自分たちが見つけた下層に下りる階段の場所を商売人に教えた冒険者たちの話ですよ」


「その話なら聞いたことがあるぜ。ウソくせぇと思ったけどよ!」


 他の隊員と同じ場所に立っていたヴィゴが獰猛そうな顔に笑顔を浮かべた。周囲の隊員たちも例の噂話を知っているようで何人かがうなずいている。


 若干険しい顔をしていたテオドルの表情が微妙なものへと変わった。しかし、口調はそのままでユウとの会話を続ける。


「まぁいいだろう。それで、お前たちもこの層を探索しているのか?」


「はい。今から上の階層に上がるところですけれど」


「この階層の情報は売れるか?」


 予想していた質問にユウは考え込んだ。地下4層における自分たちの探索は既に終わっている。なので、情報を秘匿する意味は特にない。


「地図と情報の提供で金貨24枚を出してくれるのでしたら、お渡ししようと思います」


「あのときの倍か! しかし、この階層の情報となると」


「いいじゃないか。どの程度教えてくれるのかにもよるから、その一端を示してくれて納得できれば支払おう」


「シーグルド隊長。わかりました。ユウ、何か示せるものはあるか?」


 問われたユウは地下4層の略地図を差し出した。昨日今日と探索した3地区について結構な地図が描かれている。


 受け取ったテオドルと更にその地図を手渡されたシーグルドも目を見開いた。床に空いた穴や大量の魔物が発生する場所なども書き込まれている。


「これはなかなかのものじゃないか。確かに金貨24枚の価値はある。いいだろう、支払おうじゃないか。地図にない情報も教えてくれ。テオドル」


 隊長から命じられたテオドルはうなずくと他の隊員たちと共に動いた。1人は略地図を描き写し、他の者たちはユウたち3人から話を聞こうとする。


 ここで問題が発生した。隊員たちは3人から話を聞こうとしたが、マガとは会話が成立しないからだ。マガはまだ現代の言葉を覚え始めたばかりであり、隊員たちは太陽帝国語も異界諸言語も当然知らない。なのでまったく意思疎通ができないのだ。


 困惑したテオドルがユウに説明を求める。


「ユウ、この者は口を開こうとしないのだが」


「えっと、この人は在野の女魔法使いなんです。古代遺跡のことを調べるのに夢中になりすぎて、自分のことを古代人だと思い込むようになったそうですよ。そのせいで言葉も忘れたらしくて」


「普段どうやって話をしているんだ?」


「特殊な言葉を使ってやり取りしています。僕の方は片言しかわかりませんが」


「この者は、そういえば名前は何という?」


「マガです」


「このマガという女魔法使いは前にお前たちと会ったときにはいなかったな?」


「ええ、今月に入って遺跡の中で出会ったんですよ」


 その後もユウは作り上げた設定を話し続けた。初めて遺跡で出会ったときには通訳を兼任するお供がいていくらか言葉を教えてもらったこと。無謀にもその2人だけで遺跡に入ってお供は死んでしまったことなどだ。話を聞いたテオドルたちは唖然とする。


 何とかこれで押し通そうとユウは頑張って説明した。

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― 新着の感想 ―
やっぱり素性を隠すルートですか。扉や棺を開けたり魔法使えば一発で信じてもらえそうですが。ただモルモットならまだマシで、上層部は古代人を危険視して秘密裏に処分する方針の可能性もあるかな。今までに古代人が…
 『実はこの人、本物の古代人です。亡くなった祖母から教えられた言語が何故か通じて僕は意志疎通が可能なんです』よりはこの設定押し通した方がまだ信じてもらえるんだよな…だから納得ぷりーず貴族の坊っちゃん。
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