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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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凋落したクランの冒険者パーティ

 魔物の巣と化していた休眠部屋を調べ終えたユウたち3人は通路を引き返していた。とりあえずどこかで休憩したいが、魔物が多く死臭の強い場所から離れたかったからだ。同じ休むにしても安心できる場所を望むのは当然だろう。


 まだ探索2日目の途中ながら肉体的だけでなく精神的にも既に疲れた3人だったが、当面休むことはできなさそうだった。通路の先から戦闘音が聞こえてくるとほぼ同時に明かりが見えたのだ。


 通路の先を伺いながらトリスタンがユウに声をかける。


「誰かが魔物と戦っているようだな」


「この辺りにも人が来るようになったんだ。もうのんびりと探索はできそうにないね」


「どうせこの探索が終わったらこの遺跡から離れるんだから別にいいだろう」


「確かに。それじゃ、もう少し近づいて誰が戦っているのか確認しようか」


 この先に進む必要があったユウたち3人は戦場へと慎重に近づいた。通路内で反響した音が徐々にはっきりと聞こえてくるようになる。それにつれて戦っている者たちの姿もはっきりと見えるようになってきた。


 戦っている者たちが誰か気付いたユウとトリスタンは顔をしかめる。その中の1人にロビンがいたからだ。つまり、この冒険者パーティはあの明るい未来ジュースフラムティッドのクランメンバーということである。


「うわ、鋭い矢(スカルプピル)だったか。あのクランメンバーじゃないの」


「あいつらとは結構離れた場所を探索していると思っていたのにな」


「危ないから離れよう」


 ロビンたちが複数の魔物と戦っているのを目にしたユウは他の2人と一緒に戦いの場から離れ始めた。しかし、当然相手側もユウたちのことには気付いている。


「おい、テメェら! 手伝え! 行くんじゃねぇ!」


 戦いながら叫んでくるロビンの声をユウは無視した。加勢する理由はないのでそのまま離れようとする。


 ところが、そう簡単に事は運ばなかった。ロビンのかけ声と共に鋭い矢(スカルプピル)の面々が一斉にユウたちへと向かって走ってきたのだ。


 まさかこんな所、しかも魔物と戦っている状態で襲われるとは思っていなかったユウは武器を構えた。隣のトリスタンも同じようにマガを守る位置に立つ。しかし、その思惑は外れた。


 小馬鹿にした笑顔を浮かべたロビンがすれ違いざまにユウへと吐き捨てる。


「バーカ、あいつらはくれてやるぜ!」


 ユウが言い返す暇もなく、ロビンたちは通路の奥へと走った。ある程度距離を離すと振り向いてにやついた顔を向けてくる。


 振り向いてその様子を見ていたユウは目を見開いた。すぐに正面の様子を窺う。つい先程までロビンたちが戦っていた魔物がこちらに向かってきた。数は10匹程度、ユウとトリスタンが武器を使って追い払うには厄介な数だ。


 顔を引きつらせたトリスタンがユウに声をかける。


「来るぞ!」


「マガ、あの魔物たちをさっきの部屋みたいに魔法で追い払える?」


「できるわよ。やるわね」


「僕が合図をするまで待って! それより、これから走るよ!」


 相棒にも声をかけたユウは踵を返した。向かう先はロビンたちのいる方向である。今いる場所から先程出てきた休眠部屋までは分岐路もない一本道だ。たまに側面に部屋があるが大した意味はない。そして、あの部屋の辺りでこの通路は突き当たりになっている。


 魔物が追いかけてくるよう調整しながらユウは通路を進んだ。近づいて来るユウたちにロビンが怒鳴る。


「おい、テメェら! こっちに来るんじゃねぇ!」


「魔物は返してあげるよ。全部自分で倒して!」


「ふざけんな! おい、行くぞ!」


 それまでにやついていた顔を驚きと怒りで染め変えたロビンたちもユウたちに背を向けて走り始めた。全力で走って引き離そうとする。たまに分岐路がないか確認するために足を緩めることがあるが、ないとわかると再び走った。


 やがて突き当たりにまでやって来るとロビンたちの表情はいよいよ焦りの色が強くなる。逃げ場は階段を降りた例の部屋しかない。


 その様子を見たユウは立ち止まった。仲間も立ち止まるのを見届けると魔物に向き直る。


「マガ、魔物の向こう側に抜けるから魔法で少しだけ追い散らして!」


「いいわよ」


「トリスタン、僕とマガに付いてきて。あっちに抜けるよ!」


「わかった!」


 休眠部屋を探索したときのようにマガが魔物の頭部に魔法で火を点けた。突然自分の頭に火が点いた魔物は驚いて暴れる。


 その間にユウたち3人は魔物がいる範囲を突破した。どの魔物も自分に点いた火を消すのに必死で人間どころではない。


 魔物の群れの中を突っ切った後、ユウたち3人は通路の突き当たりへと振り向いた。魔物が右往左往する奥でロビンたちが顔に焦りの色を浮かべて立ち尽くしている。


 何匹かの魔物がこちらへと近づいて来ようとすると、その度にマガの火の魔法で追い払われていた。それを何度か繰り返すとさすがに魔物も学習したらしく、反対側へと向かってゆく。その先には鋭い矢(スカルプピル)の4人がいた。


 魔物に襲われ始めたロビンが絶叫する。


「ちくしょう! ちくしょう! テメェら、絶対にブッ殺してやるからな!」


 襲ってくる魔物を剣で追い払いながらロビンがユウたちに憎悪の目を向けてきた。しかし、魔物に対処するのに精一杯で何もできない。


 そのうち、パーティメンバーの1人が魔物に噛みつかれて悲鳴を上げた。ロビンは慌ててその魔物に剣を突き立てて仲間を介抱し、横にあった階段へと向かう。他の2人もそれに続いた。更に魔物たちがロビンたちを追いかけてゆく。


 ロビンたちの姿が見えなくなったところでユウは背を向けた。そのままトリスタンに声をかける。


「それじゃ行こうか。また魔物がこっちに来ても厄介だしね」


「そうなんだが、とっさにあれを思い付いたのか。お前なかなかえげつないな」


「あんな風に魔物をなすり付けられたらさすがに腹が立つじゃない」


「確かにそうなんだが、あんなにたくさんの魔物、どこから来たんだろうな?」


 歩き始めたユウがトリスタンの疑問を聞いて立ち止まった。確かに地下3層には魔物が複数で襲ってくる場合がある。だからロビンたちが多数の魔物と戦っていたことに疑問は感じていなかった。しかし、ではその数はと問われると確かに普通よりも多い気がする。


 そういえばとユウは今になって思い出した。先程の休眠部屋を探索し終えたときにトリスタンが言っていた言葉をだ。あの部屋からいなくなった魔物はどこに行ったのだろう。


 ユウが相棒に返事をしようとしたとき、休眠部屋から人の絶叫が聞こえた。あそこにいた魔物は殺していないが傷つけている。今はさぞかし気性が荒くなっているだろうなとぼんやりと思った。


 今度こそこの場から離れるべくユウは再び歩く。聞いていても嫌な気分になるだけなので立ち去るのが一番だ。トリスタンとマガも後に続く。


 歩きながらユウは今日の探索がまだ終わっていないことを思い出した。気持ちとしてはもう1日が終わった感じだ。今日は夕食を食べてさっさと横になりたいと願う。もちろんそんなわけにはいかない。遺跡内での活動時間は限られているのだ。ただ、さすがに休憩くらいはしたかった。


 どの辺りまで歩こうかとユウが考えていると背後から悲鳴のような叫び声が耳に入る。不審に思って振り返ると松明(たいまつ)を手に握りしめたロビンが必死の形相で走ってくるのが目に入った。


 その姿はひどいものだった。武器は手放し、荷物は失い、防具は綻び、そして体は傷だらけだ。ここまでの姿になっていっそ松明(たいまつ)を手放さなかったのが不思議なくらいである。


 とても脅威になるような姿だとは思えなかったユウたち3人だが、それでもその迫力に思わず身構えた。何をしでかすかわからない怖さがあったからだ。


 しかし、ロビンはユウたちどころではなかったようで、そのまますれ違うと走り去っていった。精神的にはとうの昔に限界を超えてしまっていたようである。


「あそこから抜け出せたんだ」


「すごいな」


「ユウ、魔物が来ます!」


 魔物の群れから脱出したロビンに感心していたユウはマガの声で我に返った。通路の奥から何かが這ってくる音が床や壁からわずかに聞こえてくる。


「マガ、僕たちもしばらく走ろう。魔物と離れないと休憩もできないよ」


「そうね。火の魔法でたまに追い払えばすぐに諦めるでしょう」


「トリスタン、走るよ」


「あそこからいくらでも湧いて出てきそうだもんなぁ」


 異界諸言語で話しかけたマガと自分たちの言葉で声をかけたトリスタンがどちらもため息をついたのを見て、ユウも小さく息を吐き出した。休みたいのに休めないのはなかなかつらい。


 それでも魔物に追いつかれて戦うよりははるかにましだ。ユウたち3人は揃って反転するとロビンと同じ方向へと走り出す。


 3人が足を止めて落ち着けるのはまだしばらく先のことだった。

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― 新着の感想 ―
 明日への未来は絶望しかないな。自業自得だけど。ロビン単独じゃ、ユウたちには勝てないから報復もできない。
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