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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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他の生存者を期待して

 医療地区とマガが呼んだ場所でその後もユウたち3人は探索を続けた。休眠部屋は他にももう1ヵ所あったが、そちらは使われた形跡がなかったのですぐに立ち去る。残念ながら医療地区に生存者はいなかった。


 何となく気まずい雰囲気を感じ取ったユウとトリスタンだったが、マガの態度に変化は見られない。気丈に振る舞っている可能性が高いものの、両者ともに何と声をかけて良いのかわからないので黙ったままだった。


 しかし、悪いことばかりではない。医療地区にある魔石の保管庫の場所をマガがおおよそとはいえ知っていたのでそこを探索した結果、いくつかの魔石だけでなく、劣化していない魔石も3つ発見した。結構な収獲である。


 そうして3人による遺跡の探索初日を終えた。幸い戦闘はなかったものの、いくつかの大きな出来事があった1日だった。


 とある小部屋で3人揃って夕食を食べているとき、ユウがマガに異界諸言語で尋ねる。


「マガ、明日はどこを探索するの?」


「地下3層の研究地区ね。私が働いていた場所よ。もうひとつ休眠部屋があるの」


「だったら明日はあそこかぁ」


「何、どうしたの?」


「マガが眠っていたあの部屋で魔物を倒したんだけれど、その死骸はそのままだから今頃かなり傷んでいるんじゃないかなって」


「うっ」


 話を聞いたマガが顔を歪めた。あの休眠部屋にもまだ石の蓋が閉じたままの石棺はある。腐敗の進んだ魔物の死骸を横に最後は確認をしないといけないわけだ。なかなか、いやかなりきつい。今の話の内容をユウから聞かされたトリスタンも嫌そうな顔をした。




 翌日、活動準備を終えたユウたち3人は小部屋を出発した。最初に目指したのはあらかじめ探し出しておいた医療地区の転移魔法陣の小部屋である。この魔法陣の転移先は地下3層の研究地区にある転移魔法陣だ。


 この魔法陣を発見できたのは実は偶然ではない。マガが知っていたのだ。というのも、まだこの遺跡が都市であった頃に仕事で何度か使った経験があったからである。


 転移魔法陣は幸い破損することなく使えそうなことはすぐにわかった。問題は2点、ひとつは転移先の魔法陣が破損していて使えない可能性があること、もうひとつは転移した瞬間に魔物に襲われる可能性があるということだ。


 そこで色々と3人で検討した結果、いつもの通りマガが転移魔法陣を起動し、ユウが精霊に願う形をとることになった。ただし、今回ユウが願うのはもし魔物がいたら転移しないというものである。


 本当にこれが可能なのかはやってみないとわからない。歩くと半日くらいかかりそうな距離なので試してみる価値はあると3人は最終的に判断した。


 決断するとユウたちは転移魔法陣を起動する。ユウもトリスタンも臨戦態勢だ。特にユウは精霊に願いながらなので忙しい。そうして転移したところ、何事もなく転移できた。


 警戒を解いたトリスタンがユウに疑問をぶつける。


「ユウ、これってうまくいったと考えていいのか?」


「魔物がいる場合も試さないとはっきりとわからないよ。だって、魔物がいてもそのまま転移する可能性だってあるし」


「だよなぁ」


 結局不安が残る結果を抱えたまま、3人は研究地区の探索を始めるしかなかった。


 研究地区でも探索の進め方は初日と変わらない。マガの指示でユウとトリスタンが通路を進む。尚、この地区では魔石を回収できた。やたらと正確な指示にユウが驚く。


「すごいね。マガはこの辺りのことに詳しいんだ」


「当然よ。私の感覚では数日前まで勤めていた仕事場なんですもの」


「発掘品のありかも教えてくれると嬉しいんだけれども」


「それが全然ないのよね。どれも朽ち果てたかどこかに持ち去られてばかりなのよ。魔石だって本当ならもっとたくさんあるはずなのに」


「それなら、また昨日みたいに透明な大魔石が見つけたいなぁ」


「どれも劣化したものばかりだものね」


 稼ぎながら進んだ先に研究地区の休眠部屋はあった。マガが眠っていた部屋とは別の場所である。中はやはり石棺が規則正しく並べられていた。石の蓋が閉じられている石棺は2つあり、そのうちのひとつは破損している。


「ユウ、石棺のひとつは大丈夫そうなのか?」


「らしいよ。ただ、開けるのは探索が全部終わってからにするそうだけれど」


「目覚めたばかりの古代人を連れ回して探索はできないからな」


 問題がなさそうな石棺をじっと見るマガを少し離れた場所から眺めるユウとトリスタンは小声で言葉を交わした。マガの仲間が生きているよ良いなと思う一方で、目覚めたらその世話が大変だなとも思ってしまう。


 気持ちの落ち着いたマガから告げられて2人は休眠部屋の外に出た。次はマガが目覚めた場所に向かう。石棺の様子を確認するのと、前に倒した魔物の死骸の様子を見るためだ。特に後者は気が進まないが、石の蓋が閉じている石棺の上に乗っていたら取り除く必要がある。想像するだけで足が鈍った。


 黙々と歩き続けた3人はとある通路を進む。略地図を描きながら進んでいたユウは前に通ったことのある辺りであることにすぐ気付いた。やがて突き当たりに差しかかると左側に下りる階段を目にする。この階段の奥がマガの目覚めた部屋になるわけだが、周囲に腐敗臭が漂っていることに全員が顔をしかめた。


 顔をしかめたトリスタンがうめくようにつぶやく。


「これは、かなり強烈なことになっていそうだな」


「手拭いを鼻と口に巻き付けよう。直接息をするのはつらすぎる」


 提案したユウは自分の手拭いを顔の下半分に当てて後頭部で結びつけた。大して腐敗臭を防げるわけではないが気持ちとしてはやらずにはいられない。


 他の2人にも促して準備をさせるとユウが先頭になって階段を降りた。記憶の通りすぐに階下に着くと通路を進む。腐敗臭は強くなるばかりだ。


 休眠部屋に入る手前で立ち止まったユウは松明(たいまつ)を前にかざした。すると、ぼんやりとした明かりに照らされた盲目鰐(ブラインドガビアル)の食い荒らされた下半身が目に入る。ひどい有様などという程度ではなかった。


 ところが、その死骸が食い荒らされているのは現在進行形の話だったらしい。マガが魔法で光の玉を出して室内へと送り込むと、毒守宮(ポイゾナスゲッコウ)潜伏避役(ラーキングカメレオン)が死骸に群がっていた。更に、そんな魔物を狙って盲目蛇(ブラインドスネーク)が他の魔物と争っているのも目の当たりにする。


 この遺跡の生態の縮図を見せつけられたユウたち3人は硬直した。とても中に入れる状態ではない。考えてみれば当たり前の話で、口にできる物が少ない遺跡の中で生きようと思うのならばお互いに食い合うしかないのだ。そんな環境なのだから、どんなに強い魔物であっても死んでしまえばただの肉の塊である。飢えた魔物たちにとってこれほどのごちそうはなかった。


 何匹かの魔物が部屋の入口に意識を向けてきたことに気づきながらユウはマガに問いかける。


「マガ、この中には入れそうにないんだけれど」


「これはすべてを駆除するのは面倒ね。私が石棺を調べている間だけ追い払いましょう」


「魔法で何とかするわけ?」


「そうよ。あの化け物に火を点けて遠くへ追い払っている間に石棺を調べるわ。その間、周囲の警戒をあなたたちにお願いするわよ」


 要望を聞いたユウはすぐにトリスタンへと通訳した。理解した相棒がうなずくとマガに顔を向ける。


 仲間の了解を得たマガは調べたい石棺の近くにいる魔物の頭部を次々に火の魔法で炙った。すると、悲鳴を上げて魔物たちがその場を離れてゆく。


 新たなひどい光景に半ば呆然としていたユウとトリスタンだったが、マガに促されて部屋に足を踏み入れる。たまに松明(たいまつ)で近くの魔物を威嚇しながら目的の石棺をひとつずつ回った。特に死骸の隣にある石棺は精神的にもなかなか調べにくい。


 石の蓋が閉まっていた石棺は全部で3つあったが、そのどれもが破損して機能を停止していることをマガが突きとめた。すべてを調べ終えて肩を落とした彼女だが今はそれどころではない。


「マガ、とりあえず外に出るよ!」


「わかっているわ!」


「魔物の数がさっきより減っていないか?」


 それぞれが口を開きつつも部屋の入口を目指した。進路上にいる魔物はマガが火の魔法で追い払い、周囲で自分たちを狙う魔物をユウとトリスタンが撃退する。


 どうにか部屋から出ると3人はそのまま通路まで戻った。体の力を抜いたことで、部屋に入ってから緊張しっぱなしだったことに気付く。


 結果は残念なものだったがとりあえず探索はできた。すっかり魔物の巣のようになっていた休眠部屋だが、もう訪れることはないだろう。後は魔物同士で好きなだけ食物連鎖を続けてもらえれば良い。


 気持ちを落ち着けたユウたち3人は巻き付けていた手拭いを顔から取る。それを懐にしまうと、来た道を引き返した。

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― 新着の感想 ―
マガが幸せになれるように願います。
 せめて、もう1人くらいは起こせたらなぁ。『帰らずの森』で起こした彼とばったり再会できたらいいなぁ。
気心知れた同僚が起こせるならマガも希望持てたんやろうになぁ マガだけ漂流教室(楳図かずお)とかサバイバル(さいとうたかお)なのよね 20人くらい叩き起こして治安良くて物価安い土地へ転移しよ
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