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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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発掘品の正体

 休暇が終わり、いよいよ3人で探索するときがやってきた。準備を終えたユウたちは自分の背嚢(はいのう)を背負うと安宿を出る。


 その中でマガはわずかにしかめっ面をしていた。休暇中、生活の面で色々と不満があったのだが、これから更に不満が募る生活を強いられるからだ。本人曰く、慣れないといけないのはわかるが、慣れていくのが悲しいらしい。


 今回は地下2層から地下4層までを7日間かけて探索する予定である。範囲はマガが眠っていた都市のみだ。これはかつてマガが生活し、働いていた場所に限定することで探索しやすくするためである。もちろん当時から直接関係のなかった地区を調べても不明なことばかりだろうが、休眠部屋で帝国人が眠りについているのかを調べることが今回の主目的なので何とかなるという判断だ。


 もっとも、ユウとトリスタンからすると急ぐ必要のない探索である。必要ならば複数回に分けて探索しても良いと考えていた。


 遺跡に入ると2人が松明(たいまつ)に火を点けて掲げる。マガの魔法で周囲を照らす方法もあるが使用は極力控えてもらうことになっていた。在野の女魔法使いという設定なので魔法を使うことは問題ないが、それ自体が珍しいことなので色々と人目を引きやすい。遺跡の中で目立っても良いことは何もないのでこの点は承知してもらっている。


 最初に向かったのは4日前に使った転移魔方陣のある小部屋だ。そこからいつも使っている地下3層へ続く階段に最も近い地下1層の転移魔法陣へと転移する。既に1度使っているのでユウとマガに緊張感はなかった。


 短時間で普段の4日半分の距離を進んだ3人は小部屋を出る。通路に人影はない。最寄りの地下2層に続く階段を降りた。


 振り向いたユウがマガに異界諸言語で声をかける。


「ここからはマガの指示に従って進むよ。僕が地図を描くから進むのにちょっと時間はかかるのは承知してほしい」


「わかったわ。医療地区はあちら側ね。少し歩くことになるわよ」


 相棒に通訳したユウが先頭を歩き始めた。この辺りの略地図は少し描いてあるのですぐに動ける。


 久しぶりに地下2層を探索するユウとトリスタンだが、周囲の風景は他の階層と何も変わらない。魔物が出てくることに気を付けながらゆっくりと進む。


 マガは少しと言ったが、3人は割と通路を進んだ。トリスタンなどはたまに小首を(かし)げていたが、ユウは黙って指示通りに歩き、羊皮紙に略地図を描いていた。


 天井近くの壁に張り付いた毒守宮(ポイゾナスゲッコウ)を見かけた以外は何事もなく進んでいたユウとトリスタンはマガに声をかけられる。


「ここから医療地区よ。これから休眠部屋まで案内するわね」


「まっすぐ行けたら良いんだけどな」


 既に放棄されてかなりの年月が経過している遺跡内は通路の途中で崩落していることも珍しくない。そのようなことがないようにユウは祈った。


 途中、休憩を挟みながら3人は進む。マガは医療地区と言ったが見た目は相変わらずだ。


 それまでしゃべらなかったトリスタンが口を開く。


「ここってどのくらいの広さなんだ?」


「聞かないとわからないよ。マガ、この医療地区ってどのくらいの広さなの?」


「隅から隅まで探索するとなると結構かかかるわね。まず休眠部屋に向かうから、お金稼ぎの探索はその後にしましょう」


「何かあると良いんだけれどなぁ」


「どれだけ時間が過ぎたかもわからないこんな状態じゃ、使える物なんてまずないと思うわよ。魔石が残っているか探した方が堅実ね」


 独り言に返答されたユウはトリスタンに医療地区の広さを伝えてからマガに振り返った。そして、思わず反論する。


「そうでもないよ。珍しい箱だってあったし」


「珍しい箱?」


「ちょっと待って、今取り出すから」


 訝しげな表情を向けられたユウが周囲の安全を確認してから背嚢(はいのう)を床に下ろした。そして、中から金属製の小さく軽い箱を取り出す。縦約5イテック、横約20イテック、高さが約5イテック程度の箱だ。それをマガに手渡す。


「これだよ」


「全然劣化していないじゃない。もしかしてこれ、半久の箱?」


「半久の箱? それってどんな箱なの?」


「箱の中に入れた物は百年千年単位で保存できる箱よ。そういう風に聞いていたけれど、本当にそれだけ耐えられるのね。まさかこんな形でその証を目にするなんて」


「もしかして、魔法の道具なの?」


「そうよ。箱自体の時間を停止させて、中に入れた物を百年千年単位で長期保存が可能になるの。使い捨ての道具ね」


「えっ、使い捨て!? 1回だけしか使えないの?」


「1回使うごとに大幅に劣化するって聞いたことがあるわ。2回目は数十年単位、3回目は数年程度だったかしら」


「それでもまだ使えるんだったらすごいよ。というか、この箱は今どんな状態なの?」


「これ、既に使われている状態よ。中に何が入っているのかはわからないけれど、開けたら何か出てくるんじゃないかしら。空の可能性もあるけれど。開けてみる?」


「え、開けられるの!?」


「この箱は劣化するけれど、まぁそれは仕方ないわよね。どうする?」


「ユウ、どうしたんだ?」


 驚くユウは隣からトリスタンに声をかけられた。異界諸言語を知らない相棒は会話の内容をまったく理解できていないことを思い出す。慌ててマガから聞いた説明を伝えた。


 興奮が伝播したトリスタンも目を見開く。


「本当に当たりの発掘品を手に入れたのか、俺たち!」


「マガに教えてもらってこその当たりだけれどね」


 顔を見合わせたユウとトリスタンは笑顔を浮かべた。現代で最高峰の知識を持つと言われる魔術師でも古代遺跡から発掘された品を解明することは難しい。だが、古代人であるマガにはそうでもないのだ。未解明なままの発掘品も多い中、どんな道具で何に使うのかはっきりとわかるだけで圧倒的に有利なのである。


「それで、ユウ、この箱を開けるのか?」


「開けるしかないと思う。開けないと中に何があるのかわからないままだし、使うにしても1回開けないとどうにもならないしね」


「確かにそうだ。それじゃ、マガに開けてもらうぜ」


「うん。マガ、その箱を開けて」


「良いわよ」


 ユウの判断を気軽に受けたマガは両手で半久の箱を持って何かをつぶやいた。すると、箱が高さ2イテック半の所できれいに分かれる。中から現れたのは、長さ16イテック程度の指2本分くらいの太さの灰色の円筒形の棒だった。


 箱の下半分を差し出されたユウはその灰色の円筒形の棒を手に取る。


「マガ、これが何の道具かわかる?」


「いいえ。初めて見るわ。何に使うのかしら?」


「マガにもわからないとなると、どうしようもないね」


「この都市の研究施設で研究員をしていただけで、すべてを知っていたわけじゃないもの。都市の事典機能が使えたら調べられたのに」


「ああ、別に責めているわけじゃないからね」


「わかっているわよ。それより、先を急ぎましょう。それを眺めるのは地上に上がってからでも遅くはないわ」


 肩を落としたユウはマガに慰められつつも先を急かされた。今何をやっている途中なのかを思い出す。


 発掘品を背嚢(はいのう)にしまったユウは再びトリスタンと通路を進み始めた。マガの指示に従って進み、たまに崩落した土砂で埋まった通路を迂回しつつ目的地を目指す。


 それから再び結構な時間をかけて歩き続けた3人はようやく休眠部屋にたどり着いた。松明(たいまつ)で室内の様子を窺おうとしたユウとトリスタンだったが、ここでマガが魔法で光の玉を出す。室内全体がぼんやりと明るくなって一望できるようになった。


 マガが眠っていた休眠部屋と同じく石棺が規則正しく並べられていた。大半は石の蓋が空いており、そのすべてが空である。


 石の蓋が閉まっている石棺は2つしかない。その石棺をどちらもぐるりと見て回ったマガはため息をついて首を横に振る。


「駄目ね。こっちは底が割れていて、あっちは側面にひびが入っているわ」


「開けてみるまでわからないんじゃない?」


「それが開けられないのよ。この長眠寝箱(ちょうみんしんそう)自体がもう動いていないの」


「ああ、それは」


 そこまで言われたらユウでも駄目なのがわかった。あのときと同じようにかける言葉が見つからない。


 少しの間だけうなだれていたマガは大きく息を吐き出すと顔を上げる。


「ここでじっとしていても仕方ないわ。2人とも、次に行きましょう」


「マガ、本当に大丈夫?」


「平気、ではないけれど、動けなくなるほどじゃないわ」


 少し無理をしている笑顔を向けられたユウが小さくうなずいた。当人がやれるというのなら何も言えない。


 確認が終わったマガが光の玉を消すと周囲が暗くなる。ユウとトリスタンが手に持つ明かりが随分と頼りなく見えた。


 3人は休眠部屋を出る。そして、再びマガの指示を受けたユウが先頭に立って歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
 せっかく箱の正体がわかっても、なぜそんな効果がわかるかが説明できないと売りようがないなぁ。
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