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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人
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遺跡探索クランの動向

 休暇2日目、ユウとトリスタンは朝の間に武具の手入れをした。消耗品の購入は前日に済ませてあるので、残る重要な作業を始めたわけだ。


 その間、同時にマガの言語修得の学習も並行して行う。昨晩バートと話をしたときに、今の言葉を忘れて古代人になりきっているという説明を相当怪しまれたからだ。本物の古代人で現代語を話せないことは事実だが、それを知らないと言葉を忘れるという設定など普通は信じてもらえないことを改めて確認したわけだ。門番への説明のときはマガが終始黙っていたおかげで在野の変わった女魔法使いとだけ説明しただけで済ませたが、実のところあれで大正解だったのだと今更ながらにユウは実感した。


 次いで昼過ぎになるとユウたち3人は安宿を出て冒険者ギルド派出所へと向かう。遺跡探索の現状を知るためだ。


 受付カウンターの前に立つとユウがよく知る受付係に声をかける。


「おはようございます。最近、他の冒険者の表情がすっかり明るくなりましたよね。酒場や他の店で見かける人たちの雰囲気が1ヵ月前とは全然違いますよ」


「そうだよな。このギルド内もやっといい感じになってきたところだ。これも地下3層に続く新しい階段が公開されたおかげさ。いささか遠いのが難点だが」


「それでも基地内で喧嘩が起きるんですよね。この前も雑貨屋で見たんですよ。値引きをするよう店主に迫っていたが冒険者たちが、別の冒険者とやり合うのを」


明るい未来ジュースフラムティッドの連中だろ? 1週間ほど前だったかにそんな話を聞いたぞ。あそこはもうダメだな」


「追い詰められているとは聞いていましたが、そんなに悪いんですか?」


「無茶な探索をしているのか、クランメンバーが次々と死傷しているらしい。そのせいで内輪揉めも始めたっていう話だ」


「知りませんでした。クランリーダーのパトリックについて行けなくなったんですか?」


「そうらしいぞ。楽に稼げると聞いてやって来たのに話が違うと怒ってソルターの町へ戻ったヤツもいるらしい。遺跡探索がそんな楽なわけないのにな」


「そうなると、あのクランももうクランとして活動できるか怪しいですね」


「ほとんど中核のメンバーしか残っていないと聞いている。パトリックとロランのパーティとあと少しくらいだったか」


「春先までの威勢を考えるとものすごく衰退しましたね」


「まったくだ。階段を公開したあたりでは盤石だと思っていたんだがなぁ」


 首を横に振る受付係の感想とユウも同じ思いだった。遺跡に入る度に報復されないかと気にしていたときに比べると隔世の感がある。


 小さく息を吐き出すユウの隣から今度はトリスタンが一歩前に出た。そうして受付係に問いかける。


「ちょっと前に酒場で聞いた話なんだが、あの探検隊気高い意思(ノーブラオヴシキタル)が地下4層を目指しているらしいな。それについて何か知らないか?」


「その話はこっちでもちらっと耳に入ってる。人足を使って埋もれた階段を掘っているみたいだ。どの程度まで掘れているのかまではわからないが、あそこは地下3層に続く階段も開通させた連中だからな。たぶんやれるだろう」


「地下3層でもきついときがあったが、更に下へ行って探索する自信があるわけか」


「さすが貴族様ってところだな。カネをかけてるだけのことはあると思うぞ」


「あっちは装備からして全然違うもんなぁ」


「お前たちもそれなりに稼いでるんだろ? だったらそのカネでもっといいものを買ったらどうなんだ」


「簡単に言ってくれるよな。こっちの収入が安定していないことくらいしっているだろうに」


「冒険者の元締めとして、探検隊に負けてほしくないってだけだよ」


 渋い表情を浮かべるトリスタンに向かって受付係が肩をすくめた。言っていることはわかるが、それならもっと便宜を図れというのが冒険者側の総意だろう。


 話が一段落着くと、受付係の目がマガへと向いた。それからユウに顔を向ける。


「お前ら、ちょっと前までは2人組だったよな? そいつは新しいメンバーなのか?」


「えーっとですね、実はちょっと事情がありまして」


 尋ねられたユウは言いにくそうにマガの説明を始めた。最初は冒険者と返事をしようとしたが、証明板を提示するよう求められるとまずいことに気が付いて例の設定を話す。在野の女魔法使いでいきなり遺跡に入ったというところで受付係がかなり嫌そうな顔をしたのを目にした。更に古代人になりきって現代の言葉を忘れてしまうという説明で怪訝な表情を浮かべられてしまう。


「在野の魔法使いという時点で相当だが、言葉を忘れただなんて本当なのか?」


「僕だって最初は信じられませんでしたよ。でもこっちの言葉が全然通じないし、お供の通訳だった人しか会話ができなかったんです」


「それが今はお前だけは話せるようになったのか。この短期間で?」


「会話って言っても、単語を並べてどうにかですよ。通訳だった人が死んでからはこのマガに今も言葉を教えてもらっています」


「変な話もあるもんだなぁ。今時いきなり遺跡に入ろうとするヤツだけのことはあるが。で、お前らはしばらくこの女魔法使いと一緒に行動するのか」


「はい。通訳だった人は同時にお供だったので今は世話をする人もいないということですから」


「物好きな。ちゃんと依頼を出してほしいもんだが」


「手持ちの財産を遺跡で失ったらしいんで、依頼料はすぐに払えないそうです」


「マジかよ。依頼も出せないどころか、生活すらできんだろ」


「だから、今は僕たちが面倒を見ているんです。屋敷に戻ったら財産はあるそうなので、費用を請求するためにもそこまで付いて行くつもりですよ」


「貴族らしい顔つきだから本当に財産があるのかもしれんが、大変だなぁ」


 受付係から哀れみの目を向けられたユウは苦笑いで返した。怪しまれつつもとりあえずは話した設定を受け入れられたことに内心で安堵する。冒険者ギルドにとりあえず話を通せれば後は大抵どうにかなるので、何としてもこの設定を押し通そうとした。


 その試みは最終的に成功する。最後まで怪しまれていたが、自分たちで女魔法使いの面倒を見るという意思を見せ続けたのでそれ以上は不問となったのだ。


 用が済んで掘っ立て小屋を出た頃、ユウはすっかり疲れ果てていた。




 夕方、ユウとトリスタンはマガと共に酒場へと入った。店内は冒険者や商売人で賑わっていたが、マガに目を向ける客がちらほらといることに気付く。ちょっかいを出されることも覚悟していたユウたちだったが、今のところは見られるだけで済んでいた。


 テーブル席に座って給仕に料理と酒を注文するとユウがマガに話しかける。


「マガ、次に遺跡に入るときのことについて色々と確認しておきたいから、今から話し合おう」


「良いわよ。何から話すのかしら」


「まず、確認なんだけれど、マガはこれから遺跡で同じ古代人、マガからすると帝国人が他にいないか探すんだよね」


「そうね。ユウが他の帝国人と出会ったんだから、最低1人はいるということじゃない。探す価値はあると思うわ」


「僕とトリスタンはあの遺跡内でマガに協力するつもりだけれど、あの遺跡以外の場所でも古代人を探すつもりなのかな」


「他の都市に転移できる方法が見つかればね。もし見つからないと」


「そこが僕たちも気になっていたんだ。どうするのかなって」


「他の手がかりと言ったら、ユウが前に帝国人と出会った都市くらいしかないのよね」


「あそこって大陸の南の端だったから、ここからだと正反対だよ」


 話を聞いたマガの表情が渋くなるのを見たユウは小さく息を吐いた。その古代人が黙っている間にトリスタンへと会話の内容を要約して伝える。


「ユウ、マガに聞いてほしいんだが、もしあの遺跡から他に転移できなかったら、俺たちについて来るつもりなのかって。今の俺たちって西の果てに行く途中だろう。マガがついて来るかどうかで大きく変わってくると思うんだ」


「わかった」


 頼まれたユウは相棒の質問をマガに伝えた。すると、マガの表情が若干つらそうなものになる。


「そうね。他に頼りにできる人がいないから、一緒について行くことになると思う。できればユウには例の都市まで案内してほしいんだけれど」


「ここから直接っていうわけにはいかないかな。まずは故郷に帰りたいっていうのもあるし」


「お願いする立場なんだから、そこは強く言えないわね」


「僕たちに同行してこの世界での生き方や旅の仕方を学んで1人で行くっていう選択肢もあるけれど」


「そこは私1人で行けそうな場所なの?」


 かつての道中を思い返したユウは若干目を逸らした。街道を行くにしても森の中を行くにしても1人は危険なことを思い出す。


 何度も死にそうになったことを思い浮かべながらユウは返答の言葉を探した。

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― 新着の感想 ―
前の古代人(名前忘れた...)、流石に生き延びてるとは思えないが... 装備も食料も水も現代の知識も無いのに転移先をユウと別にした時、自殺志願者だと思ったものな。(状況的に自殺志願でもおかしくはないが…
 『帰らずの森』の古代遺跡は致死率99.99999999999999999999999999999%の超危険地帯だからな。ユウが生き残ったのは奇跡としか言えない。そういう意味でもマガを連れていくワケに…
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