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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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何を買って何を買わざるべきか

 在野の女魔法使いをルインナルの基地に案内した翌日、ユウはトリスタンと今後について話し合った。内容はマガの生活についてである。


 ぼろ布を片手に深刻な表情のまま安宿の裏手に向かったマガを見送ったユウは、黒パンを囓りながらトリスタンに顔を向けた。口の中の物を飲み込むと話しかける。


「トリスタン、これからしばらくマガと一緒に生活するけれど、この基地にいる間のことを話し合おうと思うんだ」


「マガについては色々と話すことがあるとは思うが、何についてなんだ?」


「まず、マガは僕たちの言葉をまだ話せないから1人にはできないよね。だから、どちらかが必ず付いていないといけないじゃない」


「そうなると、余程のことがない限りはユウが一緒ということになるな。俺、マガとは直接会話ができないから」


「あー、うん、そうなんだけれども、そうなるとこれからはトリスタンに色々と頼み事をすることになるんじゃないかな。お使いを頼んだり、話を聞きに行ってもらったり」


「それは仕方ないよな。現時点ではユウしかマガとまともに話ができないんだから」


「やっぱりマガには僕たちの言葉を覚えてもらわないといけないよね」


「時間はかかるが最優先だ」


 これは最初からわかっていたことだが、改めてユウとトリスタンはマガの言葉の習得についてその重要性を確認した。もし中長期間同行するのならば必須である。


 ひとつ目の話が合意できたところでユウは次の話に移ることにした。水を一口飲んでからしゃべる。


「次に生活費かな。今のマガは何も持っていないから、必要な物は買い揃えないといけないよね。まずは服なんだけれど」


「ユウ、それなんだがな、服はしばらくマガに貸したままの方が良いんじゃないか?」


「どうして?」


「この基地の物価だよ。ソルターの町の倍はするんだぜ。買うならせめてあっちに移動してからだろう。服なんて古着でも金貨や銀貨単位で何枚もかかるんだ。それがここだと倍。賢いとは言えないぞ」


「ただそうなると、短期間で別れるときはあの服をあげないといけないわけか」


「あの服に思い入れがないんだったらそれでもいいんじゃないか? 別の町に移ったときにユウが買い直せばいいだけだし」


「そうだね。でも、ベルトだけは買わないといけないかな。今は麻の紐で代用しているから」


「ああ、あれな。それは仕方ないと思う。ところで、マガに色々買ってやるときの代金はどうするんだ? 今のところはユウが全部支払っているが」


「このまま僕が支払うよ。パーティーリーダーだからね」


「マガはパーティメンバーってわけじゃないけれどな」


「だったら尚更トリスタンが支払う理由はないでしょ。僕が面倒を見るって決めたんだし」


「そもそも、マガを起こしたのはユウだしな」


「それを言われるとちょっと。でもあれって魔物のせいじゃない」


 一瞬痛いところを突かれたといった様子になったユウだったが、すぐに当時のことを思い出して反論した。魔物に吹き飛ばされてたまたま石の蓋の上に落ちたのは不可抗力というわけだ。


 2人の会話がちょっとした雑談に外れていると、マガが戻って来た。心なしかやつれている様に見える。


「どうしたの?」


「何もかも野蛮だわ」


「マガのいた時代からするとそうなんだろうけれど、これにも慣れてもらわないと一緒に活動できないよ。というか、たぶん生きていけないよ」


「わかっているわよ。だからこうして絶望しているんじゃない。手を洗うことすらしないなんて、どうかしているわ」


「だって水がないんだから仕方ないじゃない。マガも同じでしょ?」


「そんなわけないでしょ! 水の魔法は使えるから、ちゃんときれいに洗ったわ」


「魔法って便利だねぇ」


 目を見開いて抗議したマガに気圧されながらもユウは魔法の便利さに感心した。話によると水の魔法でいつでもどこでもきれいな水を発生させることができるという。ただし、魔力は無限ではないので水を持ち歩く必要はあると当人から教えられていた。水以外の魔法を使うことも考えれば当然だろう。非常時の切り札くらいが妥当な扱いのようだ。


 興奮したマガを落ち着かせたユウは本題に入る。


「マガ、さっきトリスタンと話をしていたんだけれど、しばらく僕たちと一緒に行動するなら僕たちの言葉を覚えてほしいんだ。魔法を使えない僕たちは何日か遺跡内で活動すると必ずこの基地に戻らないといけないし、そうなるとマガもここで生活してもらうことになるでしょ。だから言葉を話せるようになるのは損じゃないと思うんだ」


「私もそう思うわ。色々とお世話になっている上に、言葉まで教えてもらえるのはとても助かるわね。代わりに私からは帝国語を教えましょうか?」


「単語を少ししか知らないから、覚えられたら面白そうだね。僕の方はある程度余裕が出てきてからということにしよう」


 言葉の習得についてマガに承知してもらえたことをユウは喜んだ。教えるのは大変だろうが、覚えてもらえると後々自分たちも楽になる。いつになるかわからないが、ユウはそれを期待した。


 気を良くしたユウは更に異界諸言語で話を続ける。


「それと、服のことなんだけれども、当面はそのまま僕の服を着てもらおうと思うんだ」


「どうして?」


「この基地は物価は他の町の倍くらいもあるんだよ。だから、もし他の服を買うなら別の町に行ったときにしようと考えているんだ」


「2倍も。それは確かに考えてしまうわね」


「もし他の町に行くまでにマガと別れるようならその服はそのままあげるよ。すぐに他の都市に行ける方法がわかったときなんかだね」


「ありがとう。とても助かるわ」


「ただし、ベルトだけは今日買うつもりだよ。さすがに紐のままというのはね」


 マガの腹部辺りにユウが視線を向けるとマガがうなずいた。


 その後、遺跡の探索に必要な最低限の道具と消耗品も買い与えるとユウは伝える。既に自分の荷物を抱えるユウとトリスタンの背嚢(はいのう)にはもうあまり余裕がないからだ。


 こうして必要なことを伝えると、ユウは三の刻が過ぎてから3人で行動を開始する。最初にマガに必要な背嚢(はいのう)や水袋という道具を買ってやり、次いで干し肉、黒パン、薄いエールを買い与えた。また、麻の紐と取り替えるために革のベルトも買う。


 武器や防具こそ買っていないが、それでもこれだけの物を他の町よりも物価の高いルインナルの基地で買えば結構な値段になった。当たり前のように金貨と銀貨が手元から離れてく状況にユウは内心で震え上がる。懐が温かいとは言え、こういう状況はめったにないので慣れなかった。


 その様子を見ていたマガが嘆息する。


「時代や世界が変わっても、生きるのにお金が必要なのは変わらないのね」


 その言葉を聞いたユウは古代も生きるのが大変だったことに思いを馳せた。


 他には、ユウは布を買ってマガのために手拭いを作ってやる。3つに切り分け折り重ね、裁縫道具で縫い付けたものだ。裁縫するところを眺めていたマガに器用だと感心された。ちなみにマガは裁縫がまったくできないらしい。


 こうして、結構な費用をかけてマガの探索の準備は整った。




 六の刻頃、ユウたち3人は夕食のために酒場へと入った。店内は盛況で席の大半が埋まっている。3人は何とか空いているテーブル席を見つけると給仕に料理と酒を注文して座った。注文の品が届くまでユウとトリスタンはマガの言語学習を手伝う。


「おお、ユウとトリスタンじゃ、お? 他にもいるな」


 木製のジョッキを持ったバートがユウたちのいるテーブルに近づいて来た。いつものように声をかけてくるが、マガの姿を認めると困惑の表情を浮かべる。


「ユウ、もしかして仕事の途中なのか?」


「別にそういうわけじゃないんだけれど、この人としばらく一緒にいることになったんだ」


「バート、そこに座ったらどうだ」


 トリスタンが席を勧めるとバートは戸惑いながらも席に座った。ユウ、マガ、トリスタンの顔へと順に目を向ける。


 そんな知り合いにトリスタンが在野の女魔法使いについて簡単に説明した。話を聞くに連れ、バートのマガを見る目が開いてゆく。表情も引きつっていった。


 説明してくれたトリスタンに顔を近づけたバートが声を(ひそ)めて言葉を返す。


「お前ら、随分と大変なことになってるな」


「俺もまさかこんなことになるとは思わなかったよ」


 知り合いの冒険者から同情の眼差しを受けたトリスタンが肩をすくめた。


 それからお互いの近況を語り合う。ユウとトリスタンはマガと出会った経緯を話したが、もちろんあの作り上げた設定の方だ。門番から聞いた話を添えたことで一応は納得してもらえる。ただ、完全に腑に落ちたというわけではなさそうだ。


 これは他の人を説得させるのは大変そうだなとユウは思った。

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 まさか、このまま嫁に…?
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