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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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どう言い繕うべきか

 空間をねじ曲げて都市と都市がくっつけられていても転移できることをユウたち3人は証明した。これ自体は素晴らしいことである。しかし、転移後に問題があった。


 遺跡に入る度に未踏地域の地図を追記していたユウだったが、さすがに1度も訪れたことのない場所は略地図に記載していない。精霊によって導かれたのはそんな場所だった。


 どうするべきか悩んだユウは最大丸1日かけて周辺を調査することにした。転移魔法陣のある小部屋から前後左右に向かって鐘1回分ずつ遺跡の入口があるか調べるのだ。これで見つからなければ元に戻っていつも通りの経路をたどるしかない。


 祈るような気持ちで通路の探索をした結果、ユウたち3人は最初の鐘1回分で遺跡の入口にたどり着く。元の地図と重ね合わせてみると、転移先の地域は今まで探索したことがない場所だった。


 ともかく、結果的にはかなり時間を短縮して遺跡の入口に到着したわけだが、ここでトリスタンがユウに疑問を投げかける。


「ユウ、マガは基地だと目立つと思うが、問われたらどう説明するつもりなんだ?」


 相棒の質問を耳にしたユウは立ち止まった。そこまではまったく気が回っていなかったことに思い至る。マガの今の出で立ちは正直言って正体不明だ。貴族の女性のような風貌に男性の旅人のような風貌なので違和感が強い。正直に話せれば一番なのだが、そうなると今度は蘇った古代人ということで大騒ぎになる。


「トリスタン、それについては完全に頭の中から抜け落ちていたよ。ここで考えておかないとまずいよね」


「あの基地って全体でも何百人もいないから、マガは特に目立つんだよな。見た目が冒険者か商売人らしかったら言い訳もしやすかったんだが」


 思わぬ点で悩むことになったユウとトリスタンは頭を抱えた。不思議そうに2人を眺めているマガにユウが異界諸言語で問題点を指摘するとマガも悩むそぶりを見せる。


「別の町からやって来た流れ者で通用しないの?」


「今から行くルインナルの基地っていうところは、この遺跡を探索するために集まった人たちが作ったんだよ。だから、何となくやって来たっていう人はいないんだ」


「今の私はどう見えるのかしら?」


「貴族の女の人が貧しい旅人の格好しているように見えるから、かなり目立つよ」


「私が貴族だなんて。だったら、その基地に入ったらすぐに服を仕立てるしかないのね」


「それが、マガの見た目は僕たちには貴族の人に見えるから難しいんだ。古着屋にあるのはどれも平民の服ばかりだし」


 遅れてマガも頭を抱えた。その様子を見ながらユウはまだ他にも問題があることを思い出す。言葉が通じないという点だ。


 ユウは故郷を出発してからモーテリア大陸の各地を回ったが、今のところ言葉が通じなかったことがない。もちろん方言のような言い方の違いなどはあったが、そこまで困ったことはなかった。


 それに対して、今のマガは現在大陸で使われている言葉をまったく使えない。話せるのは太陽帝国語と異界諸言語だ。この状態を何と説明すればいいのか思い付かない。


 今後も遺跡で探索するためにはルインナルの基地を拠点にする必要がある。マガが穏便にこの基地で滞在できるようにするためにも、最低限の背景はしっかりと作っておくべきだった。


 3人は散々話し合った末、マガが魔法を使えるという点に注目する。そして、研究にのめり込みすぎて自分を古代人だと思うようになった在野の女魔法使いという形で落ち着いた。広大な遺跡(ストラルインナル)には噂を聞きつけてやって来たことにする。


 付属の情報も色々と聞いたマガは微妙な表情を浮かべた。しかし、諦めたようにうなずく。


「仕方ないわね。今の私が正体不明なのは確かだから何を言われても反論できないわ」


「せめて言葉が通じたらもう少し何とかなったんだけれど」


「これは現地語を早く覚えないといけないわね。厄介だわ」


「ところで、マガって魔法はどのくらい使えるのかな?」


「ある程度は使えるけれど。どうして?」


「最近ルインナルの基地にやって来たっていうことにするんだけれど、もし1人で魔物をやっつけられるくらい強いなら1人で基地に来たっていうことにしようかなって思っているんだ」


「あの都市の中で2人が戦っていた化け物に勝てるかっていうこと? 追い払うくらいだったらできるんじゃないかしら」


「それじゃ1人で基地にやって来たっていうことにするね」


「今更だけれど、本当にその説明で何とかなるの?」


「何とかなるというより、押し通すしかないんだ」


 呆れた様子のマガにユウは言い切った。緻密な説明よりも勢いが大事なときもあるのだ。


 ようやくマガとの話がまとまったところでユウはトリスタンに今の話を要約して伝えた。すると、話を聞いた相棒から疑問を投げかけられる。


「ユウ、大切なことをまだ決めていないぞ」


「何か抜けていることってあったっけ?」


「俺たちとマガがどうやって出会ったかだ。マガが変わり者の女魔法使いという設定は決まっても、俺たちとの接点も考えておかないと一緒にいること自体が怪しまれるだろう」


「あー、どうしよう。マガから護衛の依頼を受けた形が一番すっきりとするんだけれどな」


「冒険者ギルドからの依頼っていうのは無理だよな。そうなると、誰かからの紹介っていうのが一番しっくりくるんだが」


「僕たちだと、アルビンさんから紹介されたってことになるのかな。でもそうなると、今度はアルビンさんにマガのことを説明しないといけないよね」


「どこまで説明するかなんだよな」


 今まで一緒に仕事をしたり頼み事をしたりした商売人のアルビンだが、ではマガのことをすべて打ち明けられるほど信頼できるのかというとそこは怪しかった。一般的には充分信用できるのだが、それは常識的な商売人としてである。深い秘密を共有できるのかと問われるとまだ躊躇われた。


 再びどうしたものかと悩み始めたユウはマガから何事かと問われる。情報を共有するためにトリスタンとの話で持ち上がった難問を通訳した。すると、あっさりと提案される。


「だったら、具体的にどの商売人から紹介されたか言わなければ良いんじゃないの? そこまで問い詰めてくる人っているのかしら?」


「アルビンさんの名前を出さなければ良いっていうこと?」


「そうじゃなくて、架空の商売人から頼まれたことにしてしまえば良いのよ。これなら他の誰かに相談する必要はないでしょう?」


 確かに存在しない商売人から頼まれたことにすれば他人に相談する必要はない。どの商売人かと問われてもはぐらかしてしまえば良いだけだ。


 この提案をユウがトリスタンにもそのことを伝えると賛成された。更にそこから設定を洗練させて、女魔法使いが商売人に無理を言ってここまで案内させたせいで基地に到着すると放り出されて路頭に迷い、親切なユウが仕方なく引き取ったことにする。尚、元々は通訳が1人いてその人物に女魔法使いが使う特殊な言葉を教えてもらったが、その通訳は遺跡に入ったときに不幸にも魔物に殺されてしまったことにした。


 色々と突っ込みどころはあるにせよ、後は出たとこ勝負ということになる。そもそも無茶なことをしようとしているので完璧に取り繕うのは無理なのだ。


 ある程度マガの設定が決まってから地上へと出た3人だが、最初の関門は意外なところにあった。基地に入るための門である。この開きっぱなしの門には門番がいるのだ。


 門を目にしてからそれに気付いたユウとトリスタンだったが、既に門番にも見られているのでいきなり引き返すわけにもいかない。こうなったらさも当然のように振る舞いながら基地の中に入ろうとする。


「お前ら、ちょっといいか?」


「何ですか?」


「その女は誰なんだ?」


 いつも遺跡から出てきたときに話しかけることの多かった門番に今度はユウが呼びかけられた。さすがにそのまま通り抜けることはできないらしい。


「遺跡の中で1人でいたからここまで案内したんだ。本当はもう1人いたんだけれど、魔物に襲われてね」


「ああ、そうなのか。けど、初めて見る顔だよな?」


「僕も基地内では見たことがないよ。死んだもう1人によると、この遺跡に興味のある在野の魔法使いらしいんだ」


 いきなり設定が崩れたユウはその場で何とか取り繕おうとした。この地に到着して基地に入らずいきなり遺跡に入ったと説明する。すると、魔法使いと聞いた時点で渋い表情を浮かべていた門番の顔が嫌そうに歪んだ。初期の頃はそういう変わり者がたまにいたらしい。


 これからユウが面倒を見ることになると聞いた門番たちは幾分か安心して3人から離れた。とりあえず最初の関門は突破だ。


 全身の緊張を解いたユウは他の2人と共に基地の敷地内へと入った。

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― 新着の感想 ―
 ずっと面倒を見るワケにはいかないんだから、探検隊に預けて、異界諸言語と帝国語をレクチャーして離れるべきではないかね。
前の古代人の時にも思ったけど、古代人を目覚めさせられること、特殊な言語でコミュニケーションが取れることを魔法使いやもっと偉い人に伝えられれば大きく状況が変わると思うのだけど。ユウはおばあちゃんの教えを…
当人たちがどう判断するかはともかく、おそらく現代での為政者につながっている探検隊のほうに事情を話して保護を頼むのが普通の流れの気がします。まあそれだと主人公の視点からは何もわからなくなるから読者的にも…
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