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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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目覚めた古代人との取り決め

 マガが服を着替えている間、ユウとトリスタンは少し離れた場所で背を向け立っていた。そのときにユウはトリスタンから小声で話しかけられる。


「俺は異界諸言語っていう言葉がわからないから何とも言えないが、実際のところマガはどうなんだ?」


「頭が良くて冷静な人だと思う。寝て起きたら言葉も常識も通じないところになっていたなんて状況になったら、僕はあそこまで落ち着いていられる自信がないよ」


「古代人ってすごいな」


「どうもそういう人を選んであの石棺で眠らせているみたいだよ」


「それを聞いてちょっと安心したな。でも、これからどうするんだろう。自分たちの文明が滅んで何百年何千年も過ぎた後で生きていくなんて大変だな」


「だからせめて最低限必要なことはしてあげたいと思うんだ」


 かつて別れた古代人のことをユウは思い返した。遺跡の中で数日間一緒に過ごしただけだ。しかし、その間に彼は何とか次に進めるようになって別れた。恐らくマガも同じようになるんだろうなと何となく想像する。


「もういいわよ」


 声をかけられたユウとトリスタンは振り向いた。視線の向こうには現代の男性服を着た古代人が立っている。まるで貴族がお忍びのために平民の格好をしているような姿だ。これで人前に出たら目立つだろうなとユウなどは思う。


 それでもあの貫頭衣のようなものよりかはずっとましだ。とりあえずこれで歩き回ることはできる。


「ちゃんと着られたと思うんだけれど、どこか変なところはあるかしら?」


「いえ、変なところはないよ。寒くはないかな?」


「そういえば少し冷えるわね」


「僕の使っている外套と交換したらましになると思うけれど」


「あー、それは。とりあえずこれで我慢しておくわ」


 苦渋の決断といった表情を浮かべるマガを見てユウは力なく笑った。1年近く洗っていない服の臭いはなかなかのものだと察しはつく。同じ立場ならユウだって躊躇うことは間違いなかった。


 そんなユウに対してマガが問いかける。


「ユウとトリスタンの服と私の借りた服はかなり違うけれど、これで大丈夫なの?」


「僕とトリスタンが着ている服は毛皮製品なんだ。北の地方の人たちが冬に着るためのものだよ。それに対して、マガに着てもらった服は一般的なものなんだ」


「ということは、今はもう寒い時期じゃないのかしら?」


「時期は春になったばかりですから地上はまだ少し寒いかな。遺跡の中は地上ほど気温が変化しないので気付きにくいけれどね」


「わかったわ。それじゃこれで我慢する」


 難しい顔をしていたマガがため息をついたのをユウたちは目にした。どうやら何かを妥協したらしい。もし地上に出るのならば何か暖かくなるものを買った方が良いかなとユウは考えた。


 ようやく石棺から出てきたマガを見ながらユウは自分の背嚢(はいのう)に手を入れる。そうして、干し肉と黒パンと水袋を取り出した。それらを持ってマガに近づく。


「これ、僕とトリスタンがいつも食べている保存食と水なんだ。遺跡の中だとこれしかないから、お腹が空いているのなら食べたら良いよ」


「ありがとう。干し肉も黒パンも硬そうね」


「硬いよ。でも、噛みちぎるしかないんだ」


「ん? 何これ、結構塩辛いわね」


「干し肉はそういうものだと思って諦めてもらうしかないよ。あ、黒パンは硬くてぱさぱさしているからね」


「本当ね。あなたたち、よくこんなの食べられるわね」


「これしかないから。でも、酒場だったら温かいスープや柔らかいお肉があるよ」


「水はこれ。ん、けほっ! これ本当に水なの!? 何か変な味がするわよ?」


「えっと、正確には水じゃなくて薄いエールなんだ」


 一口飲み食いする度に声を上げるマガにユウは毎回返答した。色々と言われているがどれも想定内なので落ち着いて説明する。もし地上で活動するつもりならば嫌でも慣れないといけないことも合せて伝えた。


 途中で空腹を感じるようになったユウとトリスタンも一緒に食事を始める。とうの昔に夕食の時間が過ぎていることを思い出したのだ。


 食事中の会話は食事自体の話が大半だった。すべてが初めてのマガに2人がかりで色々と教える。魔法で温めると柔らかくなることをユウが教えると、もっと早く教えてほしかったとマガに不満を漏らされたこともあった。


 意外にも食事で話がはずんだことをユウは内心で喜ぶ。当面は一緒にやっていけそうな手応えを感じた。


 それにしてもとユウはマガの頭の良さに感心する。最初はたどたどしかった祖母の言葉をもうある程度使いこなしていた。意識のすり合わせのときから結構話をしていたとはいえ、土台があってもこんな短期間で言葉を習得できるのは余程頭の回転が速くないとできない。太陽帝国語などまだ単語も充分に覚えられていないユウとは大違いだ。


 食事が終わると話題も自然に変わった。トリスタンがユウに通訳をしてもらいながらマガに問いかける。


「マガはこれからどうするつもりなんだ?」


「同じ帝国人がいないか探すわ。ユウによると最低1人はこの時代に目覚めたらしいから、他にも誰かいてもおかしくないはずなのよ」


「この遺跡の他の場所にも石棺はあるのか?」


「休眠部屋なら他にもあるわね。研究地区のここだけじゃなくて、医療地区や都市制御地区にもあるわよ」


「となると、最初はそれを探すところからか」


 質問を終えたトリスタンが水袋に口を当てた。まずは近場から探すわけである。


 ただ、言い終えたマガは少し難しい顔をしていた。それに気付いたユウが話しかける。


「何か問題でもあるの?」


「今の状況は問題しかないわ。それはともかく、今この都市がどんな状態なのかは知っておきたいから、まずはそれを調べるところからね。周りの環境がよくわからないうちに他の帝国人を起こしても大変なだけだから」


「具体的には何をするつもりなの?」


「都市の状態を確認するために、この下の階層へ行くわ」


「でも、階段は埋もれているし、門は閉じられて開けられないよ」


「さっきあなたから聞いたから知っているわ。だから、転移魔法陣を使うつもりよ」


「あれ、ちゃんと動くやつって残っているのかなぁ」


「それも含めて調べないといけないわね。最終的には他の都市にも行きたいから」


 考えながら話すマガを見ながらユウも首をひねった。遺跡と呼ばれるほどに歳月を経た都市で動くものとなるとそもそも限られる。あまり期待はしない方が良いと思えた。


 2人で話をしているとユウは横からトリスタンに声をかけられる。


「マガは何て言っているんだ?」


「この遺跡がどうなっているのか調べてから蓋の閉じた石棺を開けるらしいよ。そのためにこの下の階層に行くつもりだそうなんだけれど、階段が使えないから転移魔法陣を使うんだって」


「まともに動くやつなんてあるのか?」


「それも調べる対象だって言っているよ。最終的には他の都市に転移したいそうだから」


「時間のかかりそうなことだな。ということは、1回地上に戻るのか? 保存食の予備はあるが、水の余分はないぞ」


 相棒から指摘されたユウはしまったという表情を浮かべた。少なくともユウとトリスタンの2人はこれから地上へ戻るところなのだ。もしマガも同行するのならば、今からだと水を節約しながら何とか帰還できるという状況である。


「マガはこの後どうするつもり? 僕たちと一緒に来る? それともここで別れる?」


「一緒に行くしかないわね。こんな状況じゃ都市の研究員なんていう肩書きは役に立ちそうにないし、食べ物だって手に入るとは思えないから」


「実は僕たち本当はこれから遺跡の外に帰る予定だったから、手持ちの水や保存食に限りがあるんだ。だから、一旦地上に戻らないとこれ以上何もしてあげられないんだよ」


「それなら私も地上に出ないといけないわね。かなり不安だけれど」


「そこは慣れてもらうしかないよ」


「わかっているわ。どのみち1人で調査はできそうにないし」


「ああ、あれね」


「眠る前はあんな化け物を目の当たりにするなんて想像もしていなかったわ」


 しゃべりながらマガはユウたち2人の奥にちらちらと見える大きな魔物の死骸へと目を向けた。松明(たいまつ)の炎の揺れに合せて動く影は不気味だ。初めて気付いたときは思わず叫び声を上げたくらいである。


 振り向いたユウもマガと同じ考えだった。古代人がどれだけ優秀で強くてもできることには限りがある。しかも、遺跡内の魔物は奇襲や待ち伏せをしてくるのだ。一瞬の油断でやられる可能性が高い。


「それじゃ、1度地上に戻って準備をしてから3人で調査するということでいいんだね」


「ええ、お願いするわ」


 当面の方針が決まったマガがうなずいた。ユウはトリスタンに話の内容を通訳する。


 これでしばらく3人で行動することになった。

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ようやくヒロイン登場かな?(多分違う)
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