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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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かつて見たことのある部屋

 休暇を終えたユウとトリスタンは遺跡へと入った。今やすっかり慣れたもので4日半を移動に費やして地下3層まで進む。


 階段を下りた所でユウは立ち止まった。自作の地図を取り出して見る。今回を合せてあと2回遺跡に入ってからこの広大な遺跡(ストラルインナル)での探索を終了するつもりでいるため、どうせなら思い切って冒険しようと考えた。


 地図を見せながらユウはトリスタンに説明する。


「今日はこの辺りを探索しようと思うんだ」


「そっちはまだ行っていなかったな。もうすぐ終わるから行っておこうということか?」


「そうだよ。途中まではこの略地図があるから、今日はその奥に行くんだ」


「いいんじゃないか。行けるところまで行こうぜ」


 賛意を示してくれた相棒にうなずくとユウは先頭を歩いた。探索期間は1日だけなので略地図に記載されている場所は早く進む。そして、未踏の場所に入ると周囲の警戒をより強めた。明かりで周囲を照らして魔物がいないか注意する。


 たまに魔物と遭遇しては撃退しつつ更に奥へと進むと、途中から遺跡の雰囲気が変わったことに2人とも気付いた。所々破損していたり瓦礫が積み重なったりしているのは相変わらずだが、石の造りが変わったのだ。今までは比較的小さい石を敷き詰めて構成されていた床や壁の材質が、表面上は滑らかになったのである。言わば、大理石から光沢をなくして表面をざらつかせた感じの石だ。


 周囲を見ながらトリスタンが独りごちる。


「明らかに造りが他と違うな」


「僕もこういう所は初めてだよ。何て言うか、石より頑丈そうな石に見えるよね」


「そうだな。これなら巨大土竜(ジャイアントモール)も穴を掘れないと思うぞ」


「だったら床は注意しなくても良いかな」


 苦笑いしながらユウは相棒の冗談に答えた。実際のところはどうなのかわからないが、足下から攻撃されないのであれば非常に助かる。


 尚も歩き続けるとようやく部屋が見えてきた。中を確認したが、瓦礫や塵ばかりで役に立ちそうな物はない。以後もたまに見える部屋はあまり調べずに奥へと進んだ。


 やがて突き当たりに差しかかり、左側に下りる階段を発見する。思わず興奮する2人だったが、その階段はすぐに終わりを迎えた。形状からすると半地下のような部屋に向かうための通路のようだ。


 更に先へと進むと扉の朽ちた部屋に差しかかる。中に入ると、いくつもの石棺のようなものが規則正しく並べられていた。その石棺のようなものは蓋の開いているものが大半でいずれもが空である。


 その風景を目にしたユウは固まった。その室内は、かつて入ったことのある遺跡のものと似ている。床、壁、天井の材質が異なる以外はほぼ同じだ。


 部屋の入口で動かなくなったユウに気付いたトリスタンが声をかける。


「ユウ、どうしたんだ?」


「前に転移魔法陣を使った遺跡の話をしたことがあるよね」


「確か、古代人と出会った遺跡だったよな。ちょっと待て。そういえば、その古代人が眠っていた場所ってここと似た場所だったっけ?」


「うん。この石棺のようなものの中で眠っていたんだ」


「この石の箱の中でか。信じられないな」


「人が入っているときは水みたいなもので満たされているからまたちょっと様子が違うよ」


「しかし、こんなのに入ってよく何百年も寝ようとする気になるものだな」


「前に会った古代人は、確かそこまで長く眠るつもりはなかったそうだよ。何十年くらいだって言っていたはず」


「それでも信じられないな。余程使命感が強いんだろう」


「僕もそう思う」


 しゃべっているうちに気を取り直したユウはゆっくりと室内を回った。ほとんどは蓋が開きっぱなしだが、いくつか蓋の閉じてある石棺がある。つまり、誰かが使っているのだ。


 そこまで考えたユウは思い出したかのようにトリスタンへ声をかける。


「トリスタン、蓋が閉じている石棺には触らないでね。何の拍子で開くかわからないから」


「この石の蓋って俺が触っても勝手に開くのか?」


「たぶん大丈夫だったと思う。僕のときは精霊がどうとかって説明されたかな」


「なら俺は触っても大丈夫だろう」


「もしそれで石の蓋が開いたら、トリスタンがその人の面倒を見てよ」


「絶対に触らないようにするぜ」


 ユウが真面目に警告をするとトリスタンも真面目にうなずいた。万が一中に生きた人がいたら前のように世話をしないといけなくなる。しかし、どこまで面倒を見るべきかわからないので復活させない方が無難だ。そもそも、そんな準備はまったくしていない。


 一旦奥まで調べたユウとトリスタンは石棺以外何もないことを知ると部屋から出ることにした。時間に限りがある以上、稼ぐために他の部屋を探索しないといけないのだ。


 部屋の入口に向かおうとした2人は部屋に続く通路から何らかの音がしたので足を止めた。入口の向こう側が真っ暗ということは同業者ではない。


 じっと正面を見据えるトリスタンがユウに声をかける。


「絶対何かいるよな?」


「いるね、何かが」


「どこかに隠れてやり過ごせると思うか?」


松明(たいまつ)が消せたらあるいは」


「それじゃ無理か。襲ってくるのが1匹だけだったらいいんだけれどな」


 つぶやいたトリスタンが顔をしかめた。毎回襲ってくる魔物が1体ずつとは限らないため、一旦やり過ごして部屋から逃げるという選択ができない。それに、普段から暗闇の中で過ごす魔物たち相手に明かりを消してやり過ごすというのも無理があった。


 つまるところ、ユウもトリスタンも部屋の出入口を抑えられた以上、戦うしかないのである。


「トリスタン、お互い少し離れよう。飛びかかられたときに逃げやすいように」


「荷物はどうする?」


「背負ったままで。魔物の数が多くて逃げないといけないときに、荷物を取りに戻る余裕はないだろうから。ただ、相手が1匹だったりしたら、動きやすさを重視しても良いと思う」


 しゃべりながらもユウとトリスタンはゆっくりと左右に分かれるように歩いた。石棺と石の蓋に行動を制限される。動きづらいが、それは魔物も同じはずだった。


 少ししてから姿を現したのは盲目鰐(ブラインドガビアル)だ。広い室内に遠慮なく入ってきて石棺の上に下顎を乗せた。下半身はまだ通路の中だ。


 その様子を見たユウが声を上げながら前に進む。


「トリスタン、反対側からあいつの足を攻撃して! 今ならあいつはまともに動けない!」


「よし来た!」


 盲目鰐(ブラインドガビアル)に突っ込んだユウは手にした戦斧(バトルアックス)を魔物の右前足の付け根に叩きつけた。その瞬間、目の見えない鰐は叫んで暴れたので一旦退き、次いで大きな爪が生えた手の甲を切りつける。


 時間との勝負だった。ここで前足のどちらかを使えなくできれば、その後はかなり楽に戦える。暴れ回る盲目鰐(ブラインドガビアル)に対してユウは攻撃しては退くという行動を繰り返した。その甲斐あって魔物の右前足を肘の辺りから切断することに成功する。


「やった!」


「おぅわ!?」


 目の見えない鰐の絶叫を背景にユウはトリスタンの異変を察知した。大きな鰐から一度退いて部屋の中央まで戻ってみると、相棒の荷物に潜伏避役(ラーキングカメレオン)の舌が取り付いている。少しずつ引っぱられていた。


 急いでトリスタンの元へとユウは駆けつける。そして、体当たりを敢行してくる潜伏避役(ラーキングカメレオン)の頭に戦斧(バトルアックス)の刃を思いきり叩きつけた。狙い通り脳天を直撃すると血を吹き出しながら潜伏避役(ラーキングカメレオン)が床に倒れて痙攣する。今の間にと急いでとどめを刺した。


 しかし、これで終わりではない。右前足を肘から切断された盲目鰐(ブラインドガビアル)が室内に完全に入り込んで暴れ回っている。明らかに痛みのせいだ。左前足もある程度傷付いているためにうまく動けない様子である。


「トリスタン、あいつを仕留めて終わらせよう!」


「それなら荷物は邪魔だな!」


 完全にやる気になった2人は背負っていた荷物を床に下ろすと盲目鰐(ブラインドガビアル)に向かって走った。目算で8レテム程度の大きな鰐が血を撒き散らしながら暴れているが、ユウは左後ろ足、トリスタンは左前足に攻撃を集中する。まずは魔物の動きを止めることに2人は専念した。


 魔物の足に刃を叩き込んでは退くという行動を繰り返していたユウだったが、あるとき尻尾の動き方を読み間違えてしまう。そのため、攻撃して退いたところを太い尻尾で殴りつけられた。


「ぶっ!?」


 そのまま吹き飛ばされてしまったユウは自分の後方にあった石棺の蓋に叩きつけられて床に崩れ落ちた。朦朧とする頭を抱えて近くの石棺の上に乗った石の蓋に手をついてなんとか起き上がる。しばらく呼吸を整えて意識が戻るのを待った。


 体が動くのを確認したユウは相棒が戦っている盲目鰐(ブラインドガビアル)を見る。厄介ではあるがもう少しで倒せる目処が付くので今しばらくの我慢だ。


 ユウは手放してしまった武器と明かりを探し出して再び手に持つ。そうして暴れる目の見えない鰐へとゆっくり歩み寄った。

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