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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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酒場での雑談

 ユウとトリスタンが実際に探索できる期間は月に2日と思った以上に短い。これは、1度の探索で10日間遺跡に入ってその後3日間休むためであり、遺跡にいる間は9日間を移動に費やすからだ。


 それでも、その2日間で金貨10枚以上を稼げるのならば充分元は取れる。というより大儲けだ。今やかつての魔塩の採掘よりも稼いでいるのだから2人としては本当に来て良かったと思っている。


 特にこの4月というのは2人にとって大当たりの月となった。前半では金属製の長細い軽い箱を発見し、後半では魔石と共に大魔石並みの大きさの透明な水晶をひとつ見つけたのだ。かつてこれを見たことのあるユウは知っている。劣化していない魔石だ。


 地下3層のとある部屋にて、最初にその劣化していない魔石を見つけたトリスタンがユウに問いかける。


「これ、魔石なんだよな?」


「劣化していないやつだね。こんなところにあったんだ」


「そういえば、俺たちがいつも取っているやつは劣化して濁っているんだったっけ?」


「うん。だからたぶん、これって魔石選別場だと値が付かないんじゃないかな」


「それだけ貴重だってこか。そうなると、この魔石はどうする?」


「悩ましいね」


 問われたユウが難しい顔をした。濁っていようがいまいが魔石なので問答無用で魔石選別場に持っていくのが正しいのかもしれない。だが、普段取り引きされていない魔石を持っていって果たして適正な値段をつけてもらえるのかと疑問がある。数を揃えれば魔法陣を起動できるこの劣化していない魔石の価値は相当なもののはずだ。そうなるとむしろ発掘品として扱うべきかもしれない。


 悩んだ末にユウが相棒に顔を向ける。


「とりあえず保留かな。別に地上に出たらすぐに売らないといけないわけじゃないんだし、しばらく悩んでも良いと思う」


「そうだな。けれど、今月中にここから離れるんだったら早めに決めておいた方がいいかもしれないぞ」


「決められなかったら、そのまま持って行けば良いでしょ。基地で魔石を売るときは魔石選別場で換金することっていう決まりはあるけれど、基地から持ち出したら駄目だっていう決まりはないんだから」


 麻袋に魔石を入れながらユウは答えた。従来の魔石だけで金銭的には充分な利益を得ているので、金属製の小さく軽い箱などの発掘品の換金を急ぐ必要はない。そのまま旅を再開しても問題ないのだ。それならば適正な値段で売れるときまで持っているのも方法のひとつというわけである。


 探索を終えたユウとトリスタンは遺跡の入口へと戻った。積もった雪がかなり減った木造の階段を上がって地上へと出る。


「雪もかなり減ったね」


「それでもまだかなりあるぞ。日陰でなかなか溶けないんだろうな」


「これ、6月くらいまで雪が残っていそうに見えるよ」


 土混じりの雪を踏みながらユウとトリスタンはルインナルの基地へと向かった。森の中の白い色はかなり少なくなってきている。


 門番に話しかけて六の刻前だということを確認した2人は魔石選別場に足を向けた。ここでいつものように遺跡で見つけた魔石を換金する。ただし、例の透明な大魔石は売らなかった。


 稼ぎを山分けすると2人は酒場に急ぐ。久しぶりの温かい食事がほしくてたまらない。いつもの酒場に入るとカウンター席を確保し、給仕を呼んで注文を済ませると席に座る。これでどちらもようやく落ち着けた。


 大きく息を吐き出したトリスタンがユウに話しかける。


「やっと帰ってきた感じがするな」


「そうだね。遺跡の中は静かだから、この騒がしさが新鮮に思えるよ」


「後はエールを飲んで体の内から実感するだけだ」


「遺跡の中じゃ飲めないもんね。あ、来たよ」


 ユウの言葉に合せるように給仕が料理と酒を持ってきた。最初にトリスタン、次いでユウの頼んだ品物をカウンターに置いてゆく。


 どちらもすぐに木製のジョッキを傾けた。喉を鳴らして飲むと次に肉へと手をつける。それから黒パンとスープだ。一通り食べると人心地付く。


「あー生き返るぅ」


「やっぱり温かい飯はいいな! 遺跡の中でも食えたらいいのに」


「人足を雇って荷物を持ってもらったらいけるんじゃないかな」


「人足を雇うほどは稼げていないだろう、俺たちは。それに、2人だけじゃ人足を守るのは難しいぞ」


「まぁね。だから帰ってきたときは必ず酒場に寄るんじゃない」


「まったくもってその通り。あー、ずっとこうしていたいなぁ」


 何も考えないまま2人は食べながらしゃべった。緊張の連続である遺跡から帰還した直後とあって思いきり気が緩んでいる。至福の時だ。


 ある程度食べて食欲を満たすと2人は木製のジョッキを片手に話へと比重を移してゆく。しばらく何でもない雑談を続けた。


 代わりのエールを注文したトリスタンがユウに話しかける。


「前に少し聞いたが、春になったらこの遺跡を離れるって言っていたよな。具体的にはいつ頃のつもりなんだ?」


「来月にあと2回遺跡に入れるでしょ。それで終わりにしようと思う」


「もう充分に稼いだってわけか」


「それに、発掘品も手に入れたしね。もう思い残すことはないよ」


「発掘品は前から心残りだったもんなぁ」


「そうでしょ。でも、今は2つも手に入れたからね」


「魔石の方は発掘品と言っていいのかちょっと怪しいけれどな」


「怪しくなんてないよ。遺跡から取ってきたんだから発掘品じゃない」


「その理屈なら今まで拾って来た魔石も全部発掘品になるぞ」


 反論されたユウは少し首を傾けた。確かに指摘通りである。しかし、解釈の違いは大した問題ではないのだ。自分がどう思うかである。


 心の中でそう結論づけたユウは気を取り直してエールを一口飲んだ。そして、気持ち良く息を吐き出したところで再びトリスタンに問いかけられる。


「発掘品って言えば、約束がひとつあったよな。ほら、アルビンさんとの」


「アルビンさんの約束。あ、ああ。あったね。発掘品を売るっていうやつ」


「今のところひとつも売っていないが、どうするつもりなんだ?」


「どうするって言われてもなぁ。発掘品は手に入ったけれど、今のところは急いで売るつもりはないし。それに、魔石の方はここじゃ売れないかもしれないしね」


「そうなると、金属製の箱の方ってことになるな」


「せめてあれが何なのかわかってから売りたいよね。でないと適正な値段なんて付けられないだろうし」


「でも、大抵の発掘品なんてどんなものかよくわからないまま取り引きされているんじゃないのか? だって、動かないものも多いんだろう?」


「どうなんだろう」


 口に入れた肉を噛みながらユウは考えた。発掘品の売買については知識がないので何とも言えない。次にアルビンに会ったら教えてもらおうと心に決める。


「ともかく、今のところは誰かに売る気はないかな。せっかく苦労して見つけたんだから、もう少し持っていたっていいでしょ」


「せめてどんな道具なのか知りたいよな」


「それこそ古代人に教えてもらうしかないよね」


「つまり無理ってことじゃないか」


 首を横に振ったトリスタンが小さく笑った。現代で最高峰の知識を持つと言われる魔術師でも、古代遺跡から発掘された品を解明することは難しいとされている。なので、ユウの返答は事実上解明不可能と言っているのに等しかった。


 しかし、ユウの脳裏にはかつて会った古代人の顔が浮かぶ。あのような奇跡がそう何度も起きるとは思っていない。だが、同胞を探していると言っていた彼の古代人のことを思うと、どこかで出会えた方が良いのかもしれないとも思えた。


 少し感傷的になっていたユウだったが、トリスタンに肘で(つつ)かれて顔を向ける。


「どうしたの?」


「さっきから周りの話し声を聞いていたんだが、どうも例の階段は他の冒険者に当たり前のように使われているみたいだな。少し前にアルビンさんが大きく広めたらしい。今はもうあっちの階段を使うのが当たり前だそうだな」


「この10日の間に随分と状況が変わったね」


「それだけみんなあのクランのことを嫌っていたってことだろう。あいつらやり過ぎたんだ」


「もっと穏便にすれば良かったのにね」


 残念そうな顔をしたユウが軽く首を横に振った。


 遺跡内の情報を手に入れられるという利点で満足していれば、遺跡探索クランは今も優位な位置を占めていられただろう。確かに魔石や発掘品は手に入れにくくなるが、それならば他の方法で稼げば良いのだ。例えば、何パーティ分もの集めた情報を売る、あるいは地図作製者(マッパー)としてクランメンバーを売り込むなどである。


 色々と考えていたユウであったが、再びトリスタンに呼ばれて別の話題へと移った。今度はこの基地に賭場と娼館がないことの愚痴である。


 しょんぼりとするトリスタンをユウは慰めた。

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