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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第24章 魔法の道具と古代人

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新しい場所での探索

 他の地方ではもう春である4月も大陸北部ではまだ冬だ。しかし春の訪れは確実に迫ってきており、この時期になると雪はほとんど降らない。加えて昼の長さも1日の半分を越え、積もった雪のかさも日に日に低くなっていた。


 早朝、ルインナルの基地の安宿を出発したユウとトリスタンは遺跡の入口まで歩く。最近は雪をかき分ける必要がなくなったので地上の移動も楽になった。そろそろ雪靴(スノーシュー)は必要なくなる時期だ。


 朝日を受けながらユウはトリスタンへと声をかける。


「前よりも寒くなくなったよね」


「それでもまだ結構寒いけれどな。吐く息もこんなに白いし」


「4月でもまだ雪がこんなに残っているなんて、北の方ってすごいねぇ」


「どうりで寒いわけだ。ところで、聞いておきたいことがあるんだが」


 遺跡の入口にある木造の階段に差しかかった。探索を終えて帰還してきた他の冒険者たちとすれ違う。階段はもちろんのこと、階下の周辺の雪はまだ前とかさがあまり変わらない。その中を歩く。


「この遺跡でいつまで活動するんだ? さすがに年単位ってわけじゃないんだろう?」


「そこまではしないよ。春になる頃くらいかなぁ」


「曖昧だな。けれど、そうなると来月あたりで切り上げるのか」


「今は雪で移動が大変だから、まともに歩けるようになってからの方が良いでしょ」


「そうなると護衛の仕事がなくなるな」


「そこは痛し痒しだと思う。幸い、この遺跡で充分に稼げるから、街道を歩く路銀もまとめて稼いでおけば良いと思うんだ」


「ここからソルターの町に出てマギスの町までか。それならもう充分に稼げているな」


「だから、隊商の護衛にはこだわらなくても良いんだよ。サルート島にいる間はね」


 松明(たいまつ)を点けて遺跡の中を歩く2人は雑談がてらに今後のことを話し合った。最近は自分たちで探索して稼ぐという冒険者らしいことをしているが、いつまでも広大な遺跡(ストラルインナル)に留まるつもりはない。どこかで区切りをつける必要があった。


 地図に目を向けつつ遺跡内の通路を歩くユウが若干悔しそうに話を続ける。


「でも、どうせなら魔石ばっかりじゃなくて、発掘品のひとつも見つけたいよね」


「確かにな。これだけ広い遺跡なんだから、ひとつくらいあっても良さそうなんだが」


「他の人たちは何か見つけているらしいのになぁ」


「大半はただのがらくただって聞いたことがあるぞ。ひどいやつだとただの石ころを発掘品だっていう奴までいるらしいが」


「そんなことをする人がいるから買取屋も警戒するんだよね」


「買い叩かれる方はたまったものじゃないけどな」


 肩をすくめた相棒を見たユウは渋い表情のままうなずいた。お互い様と言えばそれまでなのだが、今では冒険者と買取屋はすっかり騙し騙される関係になっている。ユウはたまにそのやり取りを眺めることがあったが、あの様子を見ると取り引きしたいとは思えない。


 ともかく、愚痴とも言えるようなことを話しつつも2人は遺跡の奥へと進んだ。地下1層を4日半歩き、地下2層に下りて新しく見つけた石製の門を開けて地下3層へと降り立つ。ここからが本番だ。


 2人とも松明(たいまつ)を手に慎重に通路を歩いて回った。部屋を発見すると中に入って何かないか探す。もちろんその間に魔物が何度か襲ってきた。いずれも暗闇からの奇襲してくるので最初の対応が難しい。ただ、その最初を乗り切れば何とかなった。


 新しい場所の探索は何をするにしても時間がかかる。持てる食料の数量から10日のうち1日しか探索できないのでユウもトリスタンも真剣だ。1度の探索で銀貨5枚を使うので成果なしは何としても避けないといけない。


 そんな強い気持ちで探索していた2人はあるときとある部屋に入った。一見するとどこにでもあるような遺跡内の部屋である。


「魔物はいないみたいだね」


「あんまり時間もないから早く探そうぜ。今日はまだ成果なしだからな」


「僕はあっちの壁際を探すよ。本棚みたいになっていたから気になるんだ」


 言い終えたユウは部屋の奥の壁へと近づいた。そこは壁をくり抜いて作った棚らしきものがある。元は扉付きの棚だったのかそれとも隠し棚だったのかはわからない。扉らしきものは床に落ちて完全に朽ち果てているからだ。


 棚らしき場所にはいくつもの崩れた何かだったものの小山ができている。時間の経過に耐えられないものばかりだったのだろう。ユウが触ると更に崩れた。


 しかし、その中でひとつだけ原形を留めているものをユウは目にする。それは金属製の小さな箱だった。横幅が約20イテック、縦と高さが約5イテック程度と細長い。上面に埃こそ積もっているものの、それ以外はまるで昨日ここに置いたかのようにきれいだ。


 さすがに見過ごせなかったのでユウはその金属製の小さな箱を手に取った。とても軽い。


「なんだろう、これ。うわ、けほっ、けほっ」


「ユウ、何を見つけたんだ? 埃がすごく舞っているじゃないか」


「今払ったばっかりなんだよ」


「金属製の箱か? 開けられそうか?」


 金属製の小さく軽い箱を覗き込むように見るトリスタンの前でユウは箱を開けようとした。ところが、何をどうやっても開かない。ついには盗っ人の小手先を取り出して開けようとしたものの、そもそも解錠するための穴や隙間がなかった。


 ついに諦めたユウは金属製の小さく軽い箱を軽く振りながらつぶやく。


「これってそもそも箱なのかな?」


「そこからの問いかけになると、これの正体が何かは俺にもわからないな。そうだ、魔塩を舐めて精霊に頼んでみたらどうだ?」


「まだその手があったね。やってみるよ」


 助言を受けたユウは巾着袋に指を入れて少量の魔塩を取り出すと舐めた。それから改めて金属製の小さく軽い箱を手にすると精霊に開けるよう願う。魔法的な何かであれば大抵はこれで解決するはずだった。


 ところが、今回はユウがいくら精霊に願っても箱に変化は見られない。再び魔塩を舐めたり強く願ったりしても同様だった。


 目を見開いたままユウはつぶやく。


「もしかして、魔法とは全然関係ないのかな?」


「駄目だったか。そうなると、今の俺たちにはお手上げだな」


「そうだね。でも、この遺跡で初めて手に入れた発掘品だから諦めたくないなぁ」


「発掘品には違いないんだから、とりあえず持っておけばいいだろう。遺跡の別の場所でこれが何かわかるような発見があるかもしれないからな」


「ということは、これの正体はしばらくお預けってことだね」


 いささかがっかりとしたユウは背中から背嚢(はいのう)を下ろし、その中に金属製の小さく軽い箱を入れた。謎のままではあるがようやく見つけた発掘品だ。何とかしたいという思いは強い。


 準備が整って再び背嚢(はいのう)を背負ったユウがトリスタンに向き直る。


「それじゃ、次の場所に行こう」


「ユウ、今見つけたやつはしばらく売らないんだろう?」


「そのつもりだよ」


「だったら早く魔石を見つけないとな。このままだと今回は稼ぎなしのままだ」


「確かにそうだね。成果はあったんだけれども」


「次はどこへ行くんだ?」


「今度は階段に向かって進むよ。ただ、今まで歩いた通路とは別の通路をたどるんだ」


「探索しながら帰るわけか。それはいいな」


 ユウの提案にトリスタンが笑顔でうなずいた。時間いっぱいまで突き進んで帰りは今まで歩いた経路をひたすら戻るという方法もあるが、地下3層を探索しながら戻る方が精神衛生上は良い。特に稼ぎがない状態では新たな期待が持てるだけに尚更だ。最近のユウたちはこの方法で地下3層を探索している。


 その後、ユウたち2人は往路とは別の経路で階段まで探索を続けたが成果はなかった。毎回何かを発見できる保証などないのでこんなものだと言われればその通りだが、やはり落胆の色は隠せない。


 探索を終えて地下2層へと続く階段を登っている最中にユウがつぶやく。


「そう都合良く魔石は転がっていなかったね」


「今まで見つけるのが魔石ばっかりだったから、魔石くらいは見つかると俺たちも思い込んでいたのかもな」


「この遺跡に来たばかりの頃を思い出したよ。しばらく無収入だったよね」


「すっかり忘れていたよ。最近は金貨単位で稼ぐのが当たり前になっていたからなぁ」


 苦笑いする相棒の顔を見ながらユウはここ数ヵ月の生活を思い返していた。サルート島に渡ってからは無収入か大金を稼ぐかの両極端な日々ばかりだったことに気付く。自分が感じている以上に浮き沈みが激しい。今のところ稼ぎが大きいので問題ないが、無収入の日々が長引くと首が絞まってくる。


 まだ焦るような時期ではないことをユウは理解していた。しかし、空振りが何度も続くことは避けないといけない。


 新しく探索する場所が実りの多い地域であることを祈りながらユウは遺跡内の通路を歩いた。

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