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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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締め付けの始まり

 新しい稼ぎ場を確保したユウとトリスタンは意気揚々と遺跡から帰還した。今回は稼ぎがないものの、次の探索で大金を手に入れる自信に溢れている。


 雪が積もる中を歩き、ルインナルの基地へと入った2人は酒場へと向かった。朱くなり始めた日差しを受けながら建物の中に入る。


 店内はいつも通り盛況だった。しかし、微妙に暗い雰囲気が混じっている。何だかおかしい感じがした2人は途中で足を止め、改めて室内を見回した。すると、気付いたことがある。一部の冒険者の顔が暗いのだ。そうでない人々の一部は怒っているらしい。


 店内の隅で客の言葉に耳を傾けたユウが難しい顔をする。


明るい未来ジュースフラムティッドが何かしたらしい、ね?」


「みたいだな。何かまでははっきりとわからんが」


「とりあえず席に座ろう」


 空腹だったユウはトリスタンと共にカウンター席に向かった。給仕に料理と酒を注文して席に座る。


「あのクラン、何をしたんだろう」


「店内の様子じゃ何か制限をかけたみたいらしいが。これを見ると、ユウがアルビンさんに提案したことは先見の明があったってことだな」


「みんなを助けるためじゃないけれどね。あ、来た」


 注文した料理と酒が目の前に並ぶとユウとトリスタンはまず空腹を満たすことにした。寒い中、苦労してここまできただけに暖かいスープと肉が身に沁みる。冷えていた体の芯が温まるのを実感しながら2人は食事を楽しんだ。


 ある程度食べると今度はゆっくりと飲みながら談笑するわけだが、そこで背中から声をかけられた。振り向くと輝く星(リーソンデファーノ)のキャレが暗い顔をして立っている。


「ユウ、トリスタン。ちょっと話を聞いてくれないか?」


「いいよ。隣に座る? それともテーブル席に移る?」


「隣でいい」


 給仕にエールを注文したキャレがユウの隣に座った。木製のジョッキがやって来るまでカウンターを見つめ続け、給仕からそれを渡される傾ける。


 いつもと違う知り合いの表情にユウは戸惑った。ちらりとトリスタンへと目を向けると首を傾けているのが見える。普段のキャレは自信に溢れた様子なので珍しい姿だ。


 エールを飲んで落ち着いたのか、キャレが2人に顔を向けて話を始める。


「俺のパーティが遺跡の地下3層で活動してるのは知ってるだろう。それができるのも、あの明るい未来ジュースフラムティッドが管理してる階段を使ってるからなんだが、最近になって階段を使う条件がひとつ増えたんだ」


「どんな条件なの?」


「地下3層を探索しているときに連中と利害関係が対立したら無条件で譲ること、っていうものなんだよ。例えば、俺のパーティとあいつらのクランのパーティがある場所でどちらがこの場所を探索するかで対立したら、俺たちが譲らないといけないということだ」


「同じ場所に偶然ほぼ同時にやって来た場合なんだったら、まぁそれくらいは仕方ないんじゃないの?」


「実際は全然違うんだよ。後からやって来てここから立ち去れって言われたり、魔物を退治してこれから探索ってときにその場所から追い出されたり、ひどいときには魔石なんかを見つけて手に入れようとしたら横取りしてくるんだ」


「えぇ」


 想像以上にひどい実例にユウとトリスタンは引いた。そんなことをされては遺跡探索などやっていられない。


「それじゃまともに活動できないじゃないの」


「そうなんだよ! しかも、俺たちのパーティだけじゃない、他のパーティもそんな目に遭ってるんだ」


「ああ、それでここの店内のお客にも暗い顔をしたり怒っている人がいたりしているんだ」


「その通りだ。この基地の物価は高いから、このままじゃすぐに蓄えがなくなってしまう」


「うーん、でもそれなら、みんなで止めてほしいって交渉したらどうなの?」


「有力なパーティは個別に話し合いで条件を緩和しているらしくてな、話がまとまったら交渉から抜けてまた地下3層で稼ぎ始めた。しかも、弱いパーティだと見做されたところは裏で襲撃されて大怪我を負ったんだ」


「そこまでするんだ」


「連中にとっての金ヅルだからな。必死なんだろうさ、はぁ」


 しゃべり終えたキャレは木製のジョッキを傾けた。飲みっぷりが荒い。完全にやけ酒である。


 話を聞いたユウはどうしたものかと考えた。以前、集めた話からいずれ締め付けが始まるのではと予想していたが、思ったよりも早い。キャレたちよそ者全員で団結すれば数で圧倒できるのだが、パトリックたち遺跡探索クランも搦め手からキャレたちの分断を図っている。こうなると数の多さを活かせない。


 そこでユウは以前アルビンに頼んだことを思い出した。正にこのときのための対策である。相手が予想よりも早く動いたのならば、こちらも前倒しで対応すれば良い。


「キャレ、もしかしたら君にとって良い話を僕は知っているかもしれない」


「いい話? どんな話だ」


「僕はこのルインナルの基地に来るときにアルビンっていう商売人の護衛をしながらやって来たんだ。それ以来、たまに会って話をすることがあるんだけれど、そのときに興味深い話を聞いたんだ」


 前置きをしたユウは、アルビンが遺跡探索クランが抑えている以外の地下3層に続く階段の情報を持っていることを話した。曰く、充分稼いでこの基地を去る冒険者から託された秘密の情報であると。


 さすがにこれだけでは信用できないらしいキャレが訝しむ。


「興味深い話だが、なんか嘘くさいな。ユウが嘘を言っているとは思わないが」


「でも、僕はこの階段のおかげで地下3層に行って稼げたから間違いないよ」


「マジか」


 これは間違いなかった。何しろユウ自身が発見して利用していた階段である。ただ、事実関係の説明が意図的に歪められているだけだ。階段の存在は本物である。


「このアルビンっていう商売人がこの基地にやって来たときは、大抵その専属護衛のバートっていう冒険者がこの酒場に来るんだ。だから、その人に頼んだら紹介してもらえるんじゃないかな」


「専属護衛のバートだな」


「うん、相手は商売人だから対価を求められるかもしれないけれど、階段の存在は間違いなくあるからそこは不安にならなくても良いよ」


「そうか。考えておく」


「うん。せっかく遺跡を探索しているんだから、もっと自由にやりたいよね」


「ああ、そうだな。その通りだ」


 希望の光が見えたことにより、キャレの表情はいくらか明るくなった。


 それを見たユウは安心する。これで再び旨い酒が飲めると喜んだ。




 休暇最終日の夕方、ユウはトリスタンと共に酒場で夕食を食べていた。そこへバートがやって来る。テーブル席に2人は移るとバートも含めた3人で話を始めた。話は正に雑談というものが大半だったが、ある話題でバートが首を(かし)げる。


「2人とも聞いてくれよ。実はオレ、旦那から変なことを頼まれたんだ」


「変なこと? なんだそれは?」


「それが、この基地にいる知り合いの冒険者を何人か呼んでくるように言われたんだ」


 食事をしていたユウが手を止めた。バートの話し相手をしているトリスタンに目を向ける。一瞬目が合った。


 視線をバートに戻したトリスタンが言葉を返す。


「どうしてまた冒険者なんて呼ぶように言われたんだ?」


「何でも遺跡を探索する冒険者のためになる話をするためらしいんだ。けどよ、それが何かは後で教えるって言われて知らないままなんだよな」


「あー、それは気になるよな」


「まぁな。でも、商売に関係することならそういうことも珍しくねぇし、とりあえずは承知したんだけど」


「けど?」


「お前ら、ちょっと付き合ってくれねぇか?」


「俺たちを連れて行く気かよ!」


「だってこの基地での知り合いってなると、真っ先に思い付いたのがお前たちなんだよ!」


 脇で木製のジョッキを傾けていたユウがむせた。それは意味がなさ過ぎる。アルビンに話を持ち込んだ当の本人が聞いても意味がない話だ。


 それはトリスタンも理解していたので首を横に振る。


「恐らくその話、俺たちはもう知っているやつだ。だから俺たちが言っても意味がない」


「マジかよ。それは困ったな」


「だったら、輝く星(リーソンデファーノ)のキャレって奴に話を持っていってやれよ。あいつには絶対必要なはずだから」


「そいつはどんなヤツなんだ?」


「えーっと、それはだな」


「あっちのテーブルにいるの、もしかしてキャレとそのパーティメンバーじゃないかな?」


「え? お、でかしたユウ! よし、どうせだ、今から会いに行こうぜ!」


「お、おお?」


 急に立ち上がったトリスタンの勢いに押されたバートがなんとかうなずいた。そうして続いて立ち上がり、戸惑いながらトリスタンについて行く。


 テーブル席に1人残ったユウはくすりと笑った。キャレたちのいるテーブルで何かを話しているのが見える。きっと話はまとまるに違いない。


 そう確信したユウは木製のジョッキを傾けた。

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