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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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新たな探索地を求めて

 同じ冬といえど、3月も後半になると日照時間は新年の頃の大体倍くらいになる。非常に変化が大きいが大陸北部では珍しくない。日の出の時間は既に二の刻よりも前となっており、日の入りの時間はほぼ六の刻である。これで雪があまり溶けないのだから冬の寒さの厳しさがわかろうというものだ。


 そんなまだまだ厳しい冬の時期にユウとトリスタンは広大な遺跡(ストラルインナル)に入った。3日間の休暇を経て気力体力はともに充分である。


 前までであれば2人は略地図に描き込んだ経路に従ってすぐに歩いたが、今回は違った。今までとはまったく異なる方向にまっすぐ進むのだ。前回まで使っていたあの門と階段はもう使わず、地下3層へ下りるための新しい階段を探すのである。


 そんな簡単に見つかるものなのかという疑問もあるが、これに関してユウは楽観視していた。地下2層に開かない門というのは前からいくつか発見されているが、ユウはこれを開けることができる可能性が高いためだ。そうであるのならば、現在使われている地下3層に続く階段からできるだけ遠くの門を使えば再び自分たちだけで周辺を探索できる。


 充分に成算があると見込んだユウは今回の探索をこのために費やすことに決めた。幸い、それまでの探索でたくさん稼いでいるので当面の活動費と生活費に不安はない。なので、今のうちに新たな稼ぎ場所を見つけ出すのだ。


 探索の仕方は以前と同じ方法を使う。地下1層を1日鐘6回分で4日進み、地下2層を最大で2日探索するのだ。地下3層に繋がる門を発見すれば開けて階下に進み、時間の許す限り周辺を歩き回る。今回は略地図作成が主目的なので魔石や発掘品は二の次だ。


 遺跡の入口から少し歩き、今までとは異なる通路を選んだ2人は先へと進む。初めて訪れる場所なので略地図作成がある分歩みは遅い。地上へ続く入口近くでは他の冒険者たちとたまに出会うこともあったが、3日頃になるとそんなこともなくなった。


 4日で6日分の距離を歩いた2人は最寄りの階段から地下2層へと下りる。ここからは魔物に襲われる可能性があるので要注意だ。地下3層ほどではなくても死ぬときは死ぬのである。


 地下2層を進む2人は慎重に周囲を見て回った。魔物の有無はもちろん、石製の門があるかどうかもだ。


 手に持つ松明(たいまつ)をあちこちにかざしながらトリスタンが独りごちる。


「あの石製の門って微妙に見づらいんだよな。どうして壁と同じ見た目なんだろう?」


「何か意味があるのかもしれないけれど、もう今は教えてくれる人もいないからね」


「しかしあの門、取っ手がないのは魔法で開ける前提なのか」


「そうなんじゃないかな。でも、ここに住んでいた人全員が開け閉めできる必要はなかったんじゃないかな。一部の人が頼まれてやっていたとか」


「なるほど、そういうやり方もあるのか。全然わからないな」


 雑談で気を紛らわせながらユウとトリスタンは通路を進んだ。途中、魔物が襲ってくることもあったが、2人で連携してこれを撃退する。


 意外に早く階下に通じる階段か門が見つかるのではと期待していたユウたちだったが、これが思いの外見つけられなかった。崩落した階段はいくつか発見したものの、門はなぜか見当たらなかったのである。それでも1日近く探し回った結果、ようやく前に見つけたものと同じ見た目の石製の門を発見した。


 待望の門を見つけたユウはため息をつく。


「結局、遺跡の入口からの距離は前とあまり変わらなさそうだね」


「いいんじゃないか? 近すぎても例の階段から地下3層に下りた冒険者と鉢合わせになってしまうしな」


「そうだね。それじゃ開けるよ」


 腰から巾着袋を取り出したユウは中から少量の魔塩を取りだして舐めた。それから門に手をついて開けてほしいと精霊に願う。すると、両開きの門は中途半端に開いた。中に入って松明(たいまつ)をかざすと下に向かう階段がぼんやりと浮かび上がる。


「良かった。ここから下に行けるみたいだよ」


「これでもう壁と似た見た目の門を探さなくても良いんだな。やったぜ」


 見分けがつきにくい門を探す作業から解放されたトリスタンが喜びの声を上げた。その気持ちがわかるユウがうなずく。


 中途半端に開けた門を閉じたユウはトリスタンと共に階下へと下りた。周囲の風景は前の階段から下りた地下3層と何も変わらない。通路は直進していて先は暗闇で何も見えなかった。


 2人は壁や天井だけでなく、床も慎重に気を配って歩く。巨大土竜(ジャイアントモール)が床に穴を開けて通路に出てきたのを見て以来、もう四方のどこも信用できなかった。遺跡自体は無害でも、魔物は有害なのである。あの件はそれを思い知った。


 直進できるのはここまでのようである。通路は左右に分岐していた。通路の造りはまったく同じである。


 ここでユウは立ち止まった。どちらに向かうかの前に残り時間について考える。


「トリスタン、今日の探索はここまでにしよう。そろそろ時間だよ」


「5日目が終わりかぁ。明日はどれだけ探索できそうだ?」


「計算上だと鐘2回分だけれど、1回だけにしておいた方が良いかな」


「帰りも同じくらいかかるもんな」


「そうなんだけれど、地下2層の門にたどり着くための最寄りの階段を地下1層で確認しておかないといけないから」


「今回は経路の確立だもんな。そっち優先か。まぁ、お楽しみは次回に取っておくか」


 今回の目標を思い出したらしいトリスタンが肩をすくめた。


 1泊する場所は階段を上がった石製の門の裏側だ。閉じたままなので行き止まりになっており、魔物がやって来るとすれば階下からのみとなる。


 地下1層を移動しているときは夜の見張り番の時間を除いて1人鐘1回分しか眠れないが、地下3層を探索する日は1人鐘2回分眠れた。さすがに探索するときは最低このくらい眠らないとどうにもならない。


 見張り番の順番を決めると片方はすぐ横になる。もう片方は座ったままだ。地上ほどではないにせよ、地下もやはり寒い。


 こうして1日が終わり、また新たな日を迎えた。




 翌日、ユウとトリスタンは支度を済ませると石製の門の裏側から階下に下りて地下3層を探索して回った。とは言っても、今回は通路をあちこち回っただけで部屋の探索はしていない。略地図を作りたかったのと、見かける魔物は別の地下3層と同じなのか確認するためだ。通路の造りが同一だからといって姿を現す魔物まで同じだとは限らない。


 足下に注意しつつ壁と天井にも目を向けて2人が慎重に歩いていると、先頭を歩くユウが立ち止まった。同じく立ち止まったトリスタンに声をかけられる。


「ユウ、どうした?」


「かすかに生臭いような気がするんだ。遺跡の中でこんな臭いがするってことは」


「普通なら魔物だよな」


 戦斧(バトルアックス)を手にしたトリスタンが生唾を飲み込んだ。基本的に生命の感じがしない遺跡で生き物の臭いがするのならば魔物を疑うべきである。遺跡の今の住人は人間ではないのだ。


 そのままじっとしているユウはトリスタンに手頃な石を拾って闇の向こう側に投げるよう指示した。1度だけでなく、通路の幅を等間隔に区切って順番に投げていくのである。すると、通路の半ばほどで床に当たる乾いた音ではなく、生き物に当たったかのような鈍く小さい音が耳に入った。


 次の瞬間、シャッという鋭い鳴き声と共に暗闇の向こうから白い巨体が現れる。大きな白い蛇だ。


巨大蛇(ジャイアントスネーク)!?」


 突っ込んで来た大きな白い蛇の開けた大口から逃れたユウは戦斧(バトルアックス)を手に取ってその体に叩き込んだ。しかし、その皮膚というか鱗は柔軟性があるようで、刃があまり深く通らない。


 一旦魔物から離れたユウとトリスタンは改めて魔物の姿を見た。揺れる明かりに照らされたそれは全身が白くどう見ても蛇だ。しかし、頭部の目があるべき場所には何もない。どうやら退化しているようだ。一般的な巨大蛇(ジャイアントスネーク)とは少し違うらしい。


 戦ってわかったことは音に敏感だということだ。それならばと、石を投げて魔物の意識をそちら逸らして別の方向から攻撃をするということを繰り返す。そのうち、動きが鈍くなってきたところで集中的に攻撃して倒した。


 戦闘後、一休みしているトリスタンがユウに声をかける。


「1匹だけで良かったな。これ、複数だったらちょっときつかったぞ」


「そうだね。地下3層にしてはましな方だったけれど、これからが本番なんだろうな」


「何にせよ、やっぱり簡単にはいかないみたいだね」


「そうだな」


 休憩が終わると2人は踵を返して元来た通路を戻り始めた。今回はここまでだ。本格的な探索は次回からになる。今は次は地下2層に上がって最寄りの階段を上がり、遺跡の入口までの経路を完成させなければいけない。


 これからは帰路になるが、2人にはまだやるべきことが残っていた。

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