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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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地下3層で出会った探検隊

 鼻を痛めつけられ、傷つけられた土竜(もぐら)もどきはまだのたうち回って苦しんでいた。巨体ということもあって体力があるのだろう、すぐには死にそうにない。


 自分たちでさっさととどめを刺せばすぐに解決する話だが、あの全身をうねらせている大きな体はそれ自体が凶器だ。ぶつかって吹き飛ばされたらそれだけで重症になる。


 こうなると、このまま弱るのを待つかそれとも目的は果たせたと立ち去るのかを決断しないといけない。目の前の苦しむ魔物を見ていたユウが相棒に告げる。


「トリスタン、行こう。僕たち、まだ今回はひとつも魔石を拾えていないから」


「そうだった。後回しにしていたんだよな。次の探索のときにこの奥を調べらたいいか」


 ルインナルの基地の物価を考えるといくら稼いでも稼ぎすぎだということはない。むしろ稼げるときに稼いでおく必要がある。何しろ自分たちが稼げなくなっても物の値段は変わらないからだ。


 持ち運べる水と食料の都合上、ユウとトリスタンが遺跡に入り続けられるのは10日が限界である。そのうち往復の移動に9日間使っている2人にとって探索できる今は非常に重要だ。この1日で10日間の活動費と休日の生活費を稼がないといけない。


 荷物を取りに部屋へと戻った2人はそれを背負った。次に遺跡に入ってここへやって来るのは10日から2週間後、恐らくそのときまでにはあの土竜(もぐら)もどきも死ぬかどこかに行っているはずである。


 そういうことを期待しながら通路に出て通ってきた経路を戻り始めた。ユウが略地図を見ながら次に探索する場所を探す。まだ略地図に描き込んでいない最寄りの分岐路を目指すのが手っ取り早い。


 羊皮紙から目を離したユウがトリスタンに顔を向ける。


「次の十字路を右に曲がるよ。そっち側はまだ行っていないから」


「いいぞ。さっきの戦いで結構時間がかかったからな。すぐに何か見つかるといいんだが」


 時間を気にしたトリスタンが希望を口にした。言外に稼いだらすぐに帰りたいという思惑を滲ませる。先程の戦いでそれだけ消耗したということだ。


 思いは同じユウはわずかに苦笑いした。次に魔石を見つけたら帰ろうと心に決める。


 そんなときだった。2人が十字路に差しかかると正面の通路の奥に明かりが揺らめいているのに気付く。意外だった。この辺りの階段はどれも使えないはずだったからだ。しかし、ついに来たかという思いもあった。地下1層や地下2層と同じように地下3層も別の階段から下りて進めばそのうちたどり着けるのは同じはずだからだ。


 問題は相手が誰なのかということである。パトリックたちが地下3層に続く階段を開放しているので誰と遭遇してもおかしくはない。


 一旦姿を隠して様子を見るということも考えたユウだが、この階層で活動できる冒険者は基本的に稼げる者ばかりである。なので、いきなり襲われる心配はないだろうと考えた。


 十字路で待つ2人に相手の一団が近づいて来る。明かりの数から10人以上いた。


 相手の人数を知ったユウは顔をしかめる。思い出すのは遺跡探索クランだ。その可能性はあったが、複数パーティが固まって探索していることまでは考えが及ばなかった。


 やがて相手の姿がはっきりとする。そこでユウは意外な表情を浮かべた。パトリックたち明るい未来ジュースフラムティッドではない。前に酒場でちらりと見たテオドルとヴィゴがいることから判断できる。どの隊員も身なりが良かったり武装が冒険者よりも良い。


 2人の表情は困惑へと変わったが、それは相手も同じだった。探検隊の先頭を歩いている武装した男が迷いながらユウに声をかけてくる。


「お前ら、冒険者か?」


「そうです。そちらはたぶん探検隊ですよね?」


「その通りだ。シーグルド様率いる探検隊の気高い意思(ノーブラオヴシキタル)だ。そっちは?」


「冒険者パーティの古鉄槌(オールドハンマー)で、僕がリーダーのユウです」


 互いに名乗り合ったところで先頭の男が振り向いた。その視線の先にはテオドルがいる。隣には金髪で爽やかな顔つきの人物が立っていた。隊長のシーグルド・アベニウスに違いない。前に遺跡の入口で見かけたことがあることをユウたちは思い出した。


 黙って立っている2人に対してテオドルが進み出る。


「お前たち、この先の探索をしていたのか?」


「そうです。そちらはこの通路の奥を探索していたんですか」


「そうだ。それでこれからこちらの探索をしようとやって来たわけだが、どの程度まで探索したんだ?」


 テオドルの質問に対してユウはどう答えたものか迷った。まだ中途半端にしか探索できていない。ただ、そもそもどこまで探索をしたのか相手に教える理由がそもそもなかった。同じ質問をしたらテオドルはどの程度まで答えてくれるのかという疑問が湧く。


 会話が途切れて沈黙が訪れた。そのとき、隊長のシーグルドが口を開く。


「こちらで君たちの知見を買い取ろう。地図を描き写させてくれたら金貨1枚、地下3層の情報を提供してくれたら更に金貨1枚、でどうかな?」


「隊長、よろしいので?」


「どこを探索したのかという情報は重要だから、簡単には話せないだろう」


「わかりました。ということだ」


 再び向き直ってきたテオドルに決断を促されたユウは考えた。金貨2枚の根拠と自分たちの稼ぎを比較する。結論を出すのは難しくなかった。


 提案者であるシーグルドへと目を向けたユウが返答する。


「地図と情報の提供で金貨12枚を出してくれるのでしたら、お渡ししようと思います」


「それはまた大きく出たね」


「僕たちがこの地下3層で活動を始めてから、今のところ毎回の探索ごとにパーティ全体でそのくらい稼いでいるからです。そちら様の提案額から勘案すると、これが妥当だと思いました」


「私の提案額から勘案、全部で金貨2枚から?」


「はい。恐らくその額は地下2層で活動する冒険者パーティの平均的な稼ぎではありませんか? もしそうでしたら、地下3層ですとこのくらいになるはずです」


「私が聞いた範囲だと、地下3層の平均的な稼ぎは金貨3枚くらいだったはずだけれどな」


「恐らくそれは冒険者1人当たりの平均額でしょう。ここの冒険者パーティは4人組ですから、パーティ全体ですとやはり金貨12枚程度になります」


「君、本当に冒険者なのかい?」


 困惑してやり取りを聞く周囲をよそに面白そうな表情を浮かべるシーグルドが静かに笑った。相手の窓口のはずのテオドルも口を挟めない。


 少しの間笑った後、シーグルドがユウに向かってしゃべる。


「今まで出会ってきた冒険者だと、今の提案で喜んで飛びついてくれたんだけれどね。どうせ例の遺跡探索クランに無償で渡すから金になるだけありがたいって言っていた冒険者もいたくらいだよ。実は商売人だとか?」


「一時期町の中で奉公をしていたことはありました」


「ああやっぱり。それは言いくるめられないわけだ。なら、金貨12枚で交渉成立かな」


「隊長、よろしいのですか?」


「ここの相場を知っているんだから仕方ない。それに、吹っかけずにその値段を提示した相手の誠意にこちらも応えないと。でないと面倒なことになる」


「オレはその方がいいですがね!」


 それまで黙っていたヴィゴがにたりと笑った。シーグルドは苦笑いを浮かべ、テオドルは渋面になる。ヴィゴが余計なことをしないうちにとテオドルがその後の話をユウとまとめた。すぐに別の隊員を呼んで地下3層の地図を描き写させ、ユウとトリスタンから話を聞き取る。


 このとき、ユウはそれまで使っていたあの石製の門を今後は開けっぱなしにすることに決めた。精霊によって開閉していることを知られたくないというのはもちろんだが、探検隊がここまでやって来た以上は周辺を探索されつくすのも時間の問題だ。そのため、あの門を独り占めしておく理由がなくなってしまうからである。


 2人は知っている話を探検隊側に提供したが、最も反応が強かったのは土竜(もぐら)もどきの話だった。ここでシーグルドからあの魔物が巨大土竜(ジャイアントモール)とそのままの名前だったと教えてもらって驚く。


 その場の話し合いが終わってから巨大土竜(ジャイアントモール)がのたうち回っている場所に案内すると更に驚かれた。シーグルドは興味津々で眺め、テオドルは半ば呆然とし、ヴィゴはユウとトリスタンに興味ありげな目を向ける。


 まだその場に残るという探検隊と2人は別れた。思っていた形とは違ったが一応今回の稼ぎは手に入れたので地下3層から引き上げる。もうその存在を知られた石製の門は閉じずに開けっぱなしにして地下1層まで上がった。


 その間、ユウはこれからのことで悩む。これからもあの石製の門を通って別の未探索地域に向かうか、それとも一旦地下2層を巡って別の階段を見つけるかだ。


 遺跡の入口に向かって暗い通路を歩きながらユウは黙って考えた。

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