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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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正体不明の魔物

 広大な遺跡(ストラルインナル)に入って5日目、ユウとトリスタンは地下3層へと足を踏み入れた。初めてやって来たときに比べるとある程度落ち着いて周囲を見ることができる。階段の近辺に脅威となるような魔物はいない。


 作成した略地図を見ながらユウはこの日の経路を組み立てた。階段の近くでもまだ探索していない場所があるので、今日はその辺りを歩き回る予定だ。


 相棒に声をかけたユウは先頭を歩いた。魔物がいないか壁や天井も警戒する。視覚的に隠蔽されるとほとんど見つけられないのが厄介なところだ。


 後方を歩くトリスタンが周りに目を向けながらユウに声をかける。


「どこに魔物がいるかわからないのが厄介だよな」


「そうだね。でも、遺跡自体に罠がないのは不幸中の幸いだよ。落とし穴や吹き矢なんてものがあったら、たぶん僕たちじゃ進めないだろうからね」


「随分と凶悪な遺跡だな。でも、この遺跡って元は何だったんだろうな?」


「人が住む町だったんじゃないかなとは思うんだけれども。でも、こんな歩いて何日もかかる場所なんて一体どうやって作ったんだろうね」


「それも謎だよなぁ。しかも大昔に作ってまだこんなに原形を保っているのも不思議だよ」


「もし古代人に会ったら聞いてみようか」


「それはいいな!」


 のんきな話をしながらユウとトリスタンは警戒しながら通路を進んだ。神経がすり減る中、話すことで気を紛らわせる。何日も暗闇の中にいるとどうしても気が滅入ってくるのだ。これを和らげることはとても重要である。


 いくつかの部屋を探索し、すべて空であることを確認した後、2人は再び通路を進んでいた。丹念に探索しているため歩みは遅い。持ち込める食料の都合上で地下3層を探索できるのは1日と短いのでもっと早くできれば良いのだが、そこは割り切ってゆっくりと進んでいる。今のところ2人が探索している場所に他の冒険者がやってくることはほぼないからだ。孤立していることが良い影響を及ぼしているのである。


 そんな2人はとある通路を進んでいた。現在略地図に描いている途中の新しい通路だ。何度か羊皮紙にペンで描き込んだ後にまた先へと進み始めたユウだったが、途中で何かがおかしいことに気付いた。一旦立ち止まって周囲を確認してみる。


「ユウ、どうした?」


「何かおかしいように思えたんだけれど、何かなぁ」


「今のところ周りに異常はないように見えるぞ」


「うん、僕もそう見えるんだけれど、うーん」


 どうにも納得のいかないユウは再び周囲に顔を向けた。しきりに首を傾けながら考える。


 そのとき、ふと足下へと目を向けた。今までと同じ石畳である。色違いや大きさ違いということはない。ところが、よく見ると手前から奥へと向かって少しずつ沈んでいっているように見えた。何でもない通路の真ん中にこんなへこみがあることは不自然である。


 幸い、通路幅いっぱいにくぼんでいるわけではないので避けることはできた。しかし、妙に気になるへこみである。


「トリスタン、何か重い石ってこの辺にあるかな?」


「重い石? 通路には見当たらなかったな。でも、さっきの部屋に瓦礫があったが」


「だったらそれをここまで運んで来よう」


「何をする気だ?」


「ここの辺りの床が少しへこんでいるでしょ? ここにその瓦礫を落とすんだ」


「何でまたそんなことを。いやしかし、確かにここだけへこんでいるのは不自然だな」


「何だかはっきりとさせないとすっきりとしないから、瓦礫を持って来よう」


 消極的ではあるがトリスタンも賛成したことで、2人は前の部屋で見かけた大きめの瓦礫をひとつずつ運んできた。そして、2人ほぼ同時に瓦礫を窪みの真ん中辺りへ放り込む。すると、へこんでいた石畳全体が崩れ落ちた。


 唖然としてその様子を見ていた2人は2レテム程度の大穴が突如床に現れたのを呆然としつつ眺める。遺跡自体に危険な罠はないという話を前に聞いたことがあるが、それは間違いだったということだ。いや、地下3層ではその常識が通用しないのかもしれない。


 とにかく、目の前に落とし穴が現れた。これは非常に憂慮するべきことである。早速地図に描いて記録しようとしたユウだったが、それどころではなくなる。穴から何かが這い出してきたのだ。穴から突き出てきたのは恐らく頭部だろう。その頭には目も耳もなく、熊のように毛皮に包まれ、突き出た鼻の下には鋭い牙を備えた口がある。その突き出た鼻をひくつかせ、こちらへと向けながら更に出てこようとしてきた。頭部と同じくらい大きい巨体が現れ、鋭い爪が伸びた前足が石畳に噛みつく。


 何となくであるが、ユウはこれに見覚えがあった。はっきりと見たわけではないが、少なくともこれの同種を別の遺跡で見たことがある。そして、今更ながらにかつて友人がこれと同じ穴に落ちたことを思い出した。


 この種類の魔物は冒険者ギルドの話の中には覚えはない。ということは、上の階では現れたことがないということだ。なのでどんな魔物かがはっきりとしない。別の遺跡で見たことがあるのは確かだが、そのときも姿を一瞬だけ目にしただけである。戦ったことはなかった。


 そんな魔物が穴から這い出て来ようとしている。


「ユウ、これは逃げた方がいいんじゃないのか!?」


「そうなんだけれど、知らないからって避けていたら、この先に進めないよ!」


「確かにそうなんだが、ということはやるんだな?」


「とりあえず、1回当たってみよう!」


 珍しく戦うことを選択したユウはトリスタン共々大きく後退した。そこで背中から荷物を床に下ろすと戦斧(バトルアックス)を手にして再び前に出る。


 こうして、2人は名前もわからない魔物と戦うことを選んだ。


 目も耳もなく熊のように毛皮に包まれた魔物は必死になって体を動かして穴から出てくる。目算で4レテムは姿を現しているそれは頭部、特にひくつかせた鼻を2人に向けてきた。


 左右に分かれたユウとトリスタンはほぼ同時に挟み込むようにして魔物に突っ込んだ。わずかにどちらを相手にするか迷うそぶりを見せたその魔物の前足にユウは戦斧(バトルアックス)を思いきり叩き込む。命中したという手応えはあった。しかし、薄暗い中よく見ると熊のような毛に阻まれて刃が皮膚にまで届いていない。


 これはまずいと思ったユウはすぐに退いた。直後に前足から伸びる鋭い爪が振り回される。その範囲外に逃れるため更に下がった。


 反対側から戻ってきたトリスタンが少し焦った様子でユウに声をかける。


「あの毛の部分、刃が全然通らなかったぞ」


「僕もだよ。これってもっと柔らかいところを狙わないと駄目みたいだね」


「目も耳もないし、手には鋭い爪があって危なくて、口は奥過ぎて論外、ということはあの鼻か」


「でも、当然前足の爪の範囲だからね」


「そうなんだよな」


「とりあえず、僕が牽制するから、トリスタンは機会があったら鼻に攻撃して」


「わかった」


 簡単な作戦を取り決めた2人は再び前に出た。特に今回はユウが先んじる。右側から回り込むようにして近づいて戦斧(バトルアックス)で斬りつけた。しかし、どうやって察知しているのか不明だが、その刃は前足の爪によってはじかれる。


 一歩下がったユウは再び踏み込んで今度はその前足を狙った。うまくいけば指を傷つけられるか切断できることを期待してだ。ところが、やはり器用に爪ではじかれてしまう。


 戦っている最中にユウはちらりとトリスタンへ目を向けた。あちらは踏み込もうとしてやはり反対側の前足で阻まれている。二方向からの攻撃を同時に対処しているわけだ。かなり器用な魔物である。


 トリスタンが大きく踏み込むためにはこの魔物の意識を更にユウへと向けさせる必要がある。そう判断するとユウは鼻を狙える位置まで踏み込んで戦おうとした。次の瞬間、ユウへの攻撃が激しくなる。確かに魔物の意識はユウに向いた。しかし、同時に意外なこともされる。


「ギヤヤヤアアアア!」


 それは悲鳴か雄叫びなのか、魔物が突如叫んだ。予想していなかったユウは一瞬体が強ばり、振り回された魔物の鋭い爪で右の太ももを抉られてしまう。


「くっ!」


 これ以上の接近戦は危険と判断したユウは大きく後退した。それを見たトリスタンも同じく退いて近づいて来る。


「ユウ、どうした?」


「足をやられた」


「もう逃げよう。このままやっても勝てないぞ」


「うん、わかった」


 顔をしかめたユウは魔物から更に離れ、自分の荷物を背負うとその場を離れた。幸い、魔物は追ってこなかったのですぐに逃げ切れる。


 既に探索済みの部屋に入った2人は一旦そこで休憩し、その間にユウは自分で負傷を治療した。傷は浅かったので大事には至らなかったがすっかり意気消沈する。


 それでもそのままじっとしているわけにはいかない。2人は落ち着くとその場を去った。

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― 新着の感想 ―
帰らずの森と同じ魔物が出てきてるならと思ったら案の定出てきましたね、ブレント喰った手口も通路崩落させて落とすだったしそういう習性の魔物なんでしょうね
ブレント…
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