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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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久しぶりの冒険者と商売人

 地下2層の探索を終えたユウとトリスタンは4日かけて地上へと帰還した。門番に時間を確認して六の刻前だと知ると魔石選別場で魔石を換金する。再び1人金貨1枚以上も手に入ったのでどちらも機嫌が良い。


 日没後、六の刻までの間となると、そろそろ酒場には人が集まってくる時間帯だ。席は半分以上埋まっている。


 2人はカウンター席に向かって歩いた。久しぶりの暖かい食事が楽しみで仕方ない。そうして空いた席に座ろうとしたとき、見知った後ろ姿を見かける。


「あれ? バートじゃない?」


「んあ? おお、ユウにトリスタンじゃねぇか! 久しぶりだなぁ!」


「やっぱり。いつこっちに来たの?」


「昨日の夕方だよ。まったく、雪靴(スノーシュー)は歩きにくくていけねぇよな」


 嬉しそうにしゃべりながらバートは木製のジョッキを持って立ち上がった。3人で開いているテーブル席に座る。ユウとトリスタンが給仕を呼び寄せて料理と酒を注文した。


 宴席の準備が整うとバートが木製のジョッキから口を離してトリスタンに話しかける。


「2人と別れたのは確か年が明けて少ししてからだったよな。あれからどうなんだ?」


「最近ようやく稼ぎが安定してきたところだよ。先月の前半は持ち出しばっかりだったから結構大変だったぞ」


「遺跡の探索ってのはそういうところがあるから厄介だよな。当たればでかいが外れたら遺跡に身ぐるみ剥がされるとはよく言うけどよ」


「実際に身ぐるみを剥ぐのは商売人や行商人の方だけどな」


「はは、そりゃ確かに! これはあんまりでかい声では言えないな」


 楽しそうに笑ったバートが木製のジョッキを傾けた。しかし、空であることにすぐ気付いて給仕を呼んで代わりを注文する。


「で、そっちの方はどうなんだよ?」


「オレか? 今まで通り専属護衛の仕事を黙々とこなしてたさ。あれからずっとこことソルターの町を往復する日々だったよ。こっちに2日、片道6日、向こうに3日ってね」


「特に何もなかったのか」


「たまに魔物に襲われるってことはあったが、それくらいだったな。あっちの町でもこれといったことはなかったしよ。ああでも、こっちでおもしれぇ話を聞いたんだ」


「どんな話なんだ?」


「先月、この店で大乱闘があったらしいじゃねぇか。何でもでかい顔をしてる遺跡探索クランと冒険者パーティで。それでクラン側が勝ったが、その後に出てきた別の冒険者1人にみんなのされちまったらしいぜ?」


「うっく」


 それまで黙々と食べていたユウがむせた。正に自分のことだったからだ。しかもバートから目を向けられていた。これからの話の流れを予想して内心でため息をつく。


 予想通り、ユウは直後にバートから通事の話をせがまれた。トリスタンに客観的な補足を入れてもらいながら最後まで話し終える。


「っかぁ、いかにも冒険者って感じじゃねぇか! いいねぇ、オレもその場にいたらなぁ」


「バートって専属護衛だもんね。こっちに残りますって言えないから」


「そうなんだよ。収入が安定してるのはいいことなんだけどよ、やっぱたまには冒険に憧れるよなぁ」


「そのうちどこかに冒険しに行くって予定はないの?」


「今のところはねぇなぁ。何しろ1人だし、専属護衛を止めるとまずは仲間探しからだな」


「ああ、そこからなんだ。大変だよね、仲間探しって」


「だよなぁ。まぁ2人くらい見繕えたら考えようかとは思ってるぜ」


 バートのふわりとした将来の予定を聞いたユウは曖昧にうなずいた。1人で旅を始めた身としてはもっと積極的になってはどうかと勧めたいが、トリスタンと出会うまではなかなかうまくいかなかったことを思い出して黙っておく。


 のんびりと木製のジョッキを口につけたバートをユウは眺めていた。ところが、突然そのジョッキを口から離したかと思うと顔を近づけられる。


「思い出した。こっちに来てからここの冒険者に聞いたんだけどよ、遺跡の地下3層に行った連中がいるんだってな。確か、明るい未来ジュースフラムティッドっていうパーティだったか」


「バート、パーティじゃなくてクランだ。遺跡探検クランだよ。しかし本当か? あの連中、ついに到達したのか」


「そうなんだよ、トリスタン。ついに行きやがったらしいんだ。結構評判は悪いらしいが、さすがにクランってだけのことはあるわな」


「俺たちがおこぼれにあずかれることはまずないだろうけどな」


「確かよそ者には厳しかったんだったよな、あそこ」


「それもあるんだが、ユウがあそこのクランメンバーとやり合ったから尚更」


「あー、そうだったな! ということは、探検隊の方に期待か?」


「あっちはあっちで他の連中を通してくれるかは怪しいぞ。何しろ同業者ですらないんだからな。というか、探検隊の方も地下3層に到達しそうなのか?」


「旦那がそんなことを言っていたのをちらっと聞いたことがあったんだ。詳しくは知らん。ただ、旦那は発掘品の売買に参加したがってるんだが、なかなかうまくいかなくて困ってるらしい」


「そういえば、興味があったんだったな、アルビンさん」


 横で話を聞いているユウはアルビンが遺跡の発掘品を扱いたいと語っていたことを思い出した。地下3層に行く目処がついたのだが、そこから持ち帰った物をどうするのかということはまだ充分に考えきれていない。


 1ヵ月ぶりに再会したバートとの宴会はその後も続いた。3人は楽しくしゃべっておいしく飲み食いする。


 この日は珍しく、ユウとトリスタンは遅くまで酒場にいた。




 翌日、ユウはトリスタンと今後の魔石と発掘品の取り扱いについて話し合った。それら手に入れた物をどうするのかということをある程度決めておく必要があるからだ。


 発掘品を自分たちの手元に置いておくのならば単に山分けの方法を決めるだけで済むが、売却するとなると少し面倒なことがある。買い叩かれないようにするにはどうすれば良いかだ。冒険者が買い叩かれていたという話があるので油断できない。また、売却したのが自分たちだと知られたら厄介だ。一攫千金を狙う者は大勢いるし、殺してでも奪いたいと思う者も少なくない。買取屋が黙っていてくれる保証はどこにもなかった。


 それらを考えた上でアルビンに相談することを2人で決めた。発掘品の売買になかなか参入できなくて困っているのならば交渉の余地はある。ロルトの町からの付き合いという積み重ねにいくらかの信用と信頼があると信じられるのならば、うまく利害関係を調整して手を結ぶことも充分可能だと2人は考えた。


 朝の間に2人で話をまとめると、昼からは探索の準備をして夕方にアルビンの泊まる安宿へと向かう。昨晩バートから教えてもらった通り、アルビンは大部屋の中にいた。


 先に見つけたユウがアルビンに声をかける。


「アルビンさん、お久しぶりです」


「ユウにトリスタンじゃないか。元気にしているようだね」


「ええ。探索も良い調子ですよ。それで、今日はちょっと大切な話をしに来たんです。一緒に外へ来てもらえますか?」


「ああ構わないよ」


 寒い中、宿の外に出た3人は顔を向け合った。最初にユウがアルビンに話しかける。


「実は、僕たち遺跡の地下3層に続く階段を発見したんです」


「なんと! それは本当か?」


「はい、明日から探索に出かけるつもりなんですが、魔石と発掘品の売却先で困っているんです」


「買取屋に買い叩かれるっていうことだね」


「はい。それで、今僕たちがこの基地の中で一番信用できるのがアルビンさんなんですよ」


 そこからユウは今の自分たちの置かれた状況を説明し、地下3層の魔石や発掘品を売ったと知られると面倒なことになることを説明した。そのため、ユウたちが売ったことを漏らさず、なおかつ買い叩かないアルビンに売りたいということを伝える。更に、ユウ側の条件が飲めるのならば、今後広大な遺跡(ストラルインナル)の発掘品はアルビンにのみ売るとも話した。


 話を聞き終えたアルビンは少し難しい顔をしつつ返答する。


「ワシを信用してくれているのはとても嬉しい。発掘品については適正な値段でワシが引き取ろう。秘密にすることも約束する。会えるときが限られるからそれで良ければだが」


「構いません。そもそも発掘品を見つけられるかどうかも怪しいですからね」


「そこは頑張ってくれ。それで魔石の方だが、これは魔石選別場に売却する取り決めになっているはずだから、少なくともこの基地やソルターの町でワシは扱えないな」


「そうですか」


「だから、魔石の線から秘密が漏れることは覚悟するしかないと思う」


 完全に秘密にすることはできそうにないことを知ってユウは顔を歪めた。しかし、魔石ならばまだ誤魔化しようがある。とりあえずはその線で何とかするしかない。


 ユウはとりあえずアルビンの協力を取り付けただけでも良とすることにした。

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