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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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地下3層に続く門

 ようやく広大な遺跡(ストラルインナル)での稼ぐ端緒を掴んだユウとトリスタンは再び遺跡へと入った。前回作成した地図に従って1日鐘6回分歩き、4日で6日分の距離を進む。階段近くで1泊すると地下2層へと下りた。


 前回は魔物が現れると引き下がることが多かったため、中途半端にしか探索できていない場所は多い。そこで今回はその途中で終わっている更に先を中心に探索する予定だ。


 略地図を見ながら指示を出すユウの言葉でトリスタンが先頭を進む。この遺跡の探索にもある程度慣れてきたこともあって、今回はトリスタンが先を行くのだ。その顔はいつもより緊張している。


 魔物は前回引き返した場所にいたりいなかったりとまちまちだった。獲物を求めてさまよう魔物は同じ場所にはおらず、ひたすら待ち続ける魔物とは再び相まみえる。


 手にする武器は2人とも戦斧(バトルアックス)だ。遺跡内の魔物は硬いといえども皮膚は石でもなければ金属でもない。なので理屈の上では刃物で切れる。そのため、思いきり殴りつけるように叩きつけられる武器を選んだのだ。


 これで盲目鰐(ブラインドガビアル)のような巨体の魔物とも2人は戦う。背負っていた荷物を下ろして機敏に動けるようになってから相手をした。もちろん簡単に倒せる相手ではない。巨体にもかかわらず俊敏な魔物なのだ。背後に回っても尻尾による横殴りの攻撃で思うように近づけない。


 それでも2人は時間をかけて少しずつ相手に傷を負わせた。特に特定の脚を集中して狙う。正面を担当するユウは盲目鰐(ブラインドガビアル)の右前足を、後方を担当するトリスタンは左後ろ足を攻撃し続けた。そしてついに脚を2本使えなくして身動きを取れなくなった魔物の本体に刃を突き立てる。


 かなりの長時間をかけて戦った2人はやっとの思いで勝利した。倒した魔物の死体を前に座り込む。


「はぁはぁ、やっと倒せたね」


「そうだな。ここまで手間がかかるとは」


「正直なところ、割に合わないかな」


「俺もそう思う。でも、倒さないと先に進めないんだよなぁ」


「誰かに倒してもらうと僕たちの稼ぎがなくなっちゃうし」


「しばらくはこんな感じの探索が続くわけか。なかなかきつそうだ」


 思い付くままにしゃべっていた2人はある程度休むことで体力を回復させた。それからゆっくりと立ち上がって床に置いた背嚢(はいのう)を背負い、先へと進む。


 今までとは何も変わらない見た目の通路を2人は慎重に歩いてゆく。同じ通路ではあるが初めての場所となるとやはり緊張感は増すものだ。


 ある程度進むごとにユウは略地図に経路を付け加えていく。部屋を調べたときはその部屋も描き込んだ。手間ではあるが次の探索のときに苦労しないためにも手は抜けない。


 そうやって丹念に通路を進んで行くと待望の場所を発見する。魔石が多数ある場所だ。喜んで魔石を麻袋へと入れてゆく。


「やっぱりこういうご褒美がないとな!」


「そうだね。この調子でどんどんいろんな場所を探索していこう」


 嬉しそうに手を動かすトリスタンに対してユウは満面の笑みで応えた。略地図が埋まっていくという充足感は悪くないが、やはり実利があるとやる気はまったく違う。


 大きな成果を上げた2人はその後も続いて遺跡を探索していく。魔物と遭遇したときの対応はそのときどきで違ったが、今回は戦うという選択肢もあったのである程度思う場所へと進めた。


 地下2層の探索はそうして2日目の終わりを迎える。わずかな魔石を拾いながら遺跡を歩き回ったユウは現在自分の描いた略地図を見ていた。前に描いた部分と現在地点の間にいくらかの空白がある。


「うーん、これは埋めておきたいなぁ」


「どうした?」


「ここ、手前と奥の間がまだ空白なんだ。たぶん繋がっているはずなんだけれど、この際だから確認しておきたくて」


「いいんじゃないか? だったら今回はそれで探索を終わりにしようぜ」


 相棒の許可を得たユウは先に進むことにした。トリスタンが先頭になって再び歩く。


 あまり距離はないはずだったので通路の確認はすぐに終わるはずだった。ところが、途中で珍しいものを見つける。通路の壁面の一角に門があったのだ。高さは大人の背丈の倍程度、横幅は大人6人分程度の両開きの門である。


 さすがに無視できなかった2人は門に近づいた。触ってみると壁と同じ石製である。非常に重量感があり、人で動かせるようには見えない。


「これ、どうやって開けるんだろう。取っ手はどこにもないし」


「そもそもこれは本当に門なのか? 石像みたいなものにも見えるが」


「うーん。駄目だ。全然動かないや」


「古代人はこれをどうやって動かしていたんだろうな。魔法を使うんだろうか」


「あー、人の力で動かすものじゃないっていうわけだね。魔法かぁ。僕も使えたらなぁ」


「いっそのこと、ユウの中にいる精霊に頼んでみたらどうだ? 魔塩を舐めたら何かやってくれるんだろう?」


「そんな安直な」


「いいから1回やってみろって。失敗しても何も失わないんだから」


 楽しげに勧めてきたトリスタンに応えてユウは腰から魔塩の入った巾着袋を取り出した。口を開けてわずかに塩を取りだして舐め取る。


 今までは自分の体内だけでしか精霊に頼みごとをしていないのにできるのかと思いながらユウは門に手をついた。しかし、そこで突然思い出す。転移魔法陣で転移するときに精霊の力を借りたことがあることを思いだしたのだ。


 わずかに期待を寄せるようになったユウは門を開けてほしいと体の中の精霊に願う。見た目は壁の延長線上のような造りの門なので半信半疑ではあったが、開けられるものなら開けてほしいとは思った。


 それまでまったく動かなかった門がゆっくりと音を立てながら内開きに開き始める。中程まで開くとそこで止まった。


 まさかの事態にユウとトリスタンも呆然とする。こんなにあっさりと開くとは思っていなかったので次の行動に移れない。


 門を開けた当人であるユウが相棒へと振り向く。


「どうしよう、本当に開いちゃったよ」


「そんなことを言われてもな。今の俺も同じ思いだよ。とりあえず、中を調べてみようぜ」


 徐々に立ち直りつつあったユウは深呼吸をしてから門の内側に松明(たいまつ)の先をかざした。すると、下に続く階段が目に入る。門の奥の他の場所に目を向けても他には何もない。


 魔物の奇襲を受ける心配がなさそうなことを確認した2人はゆっくりと中へと入った。中途半端に開いた門の奥にはやはり下に続く階段のみである。


「トリスタン、とりあえず下りてみようか」


「そうだな。せめて階段の先がどうなっているのかくらいは知りたいぜ」


 さすがにここで引き返すという選択はどちらも選ばなかった。ユウを先頭に2人は階段を下りて行く。順当にいけば地下3層に到達するはずなので緊張感は増した。


 階段は少し長く続き、踊り場をひとつ経て階下に到達する。2人が下りた先は今まで見てきた遺跡の通路と何も変わらない。壁に寄って触ってみても意見は変わらなかった。


 階段の周囲をしばらく探索した2人だったが通路の床も壁も今までと同じという結論に達する。何となくそうだろうと思っていたことなので意外性はない。


 階段の前に戻ったユウがトリスタンに声をかける。


「トリスタン、興味深いのは山々だけれども、ここを探索するのは次にしない?」


「そうだなぁ。今回の探索時間はもう使い切っているもんな。保存食は帰りの分しか残っていないのか?」


「食料は余分が少しあるけれど、松明(たいまつ)がぎりぎりなんだ。これってかさばるからあんまり持って行けないんだもん」


「そういうことなら仕方ない。今回は稼げたから、ここは次のお楽しみにしよう」


 結論を出したユウとトリスタンは踵を返して階段を上った。地下2層の門の前までやって来るとユウは振り向く。


「この門って、また閉じることってできるのかな?」


「試してみたらわかるんじゃないか? でも、どうして閉じるんだ?」


「だって、他の人がここを見つけて先を越されるのって悔しいじゃない」


「それもそうだ」


 相棒と話をしてから門の前に立ったユウは再び魔塩を舐め、中途半端に開いた門に手で触れた。それから閉じるよう精霊に願う。その直後、門は開いたときと同じようにゆっくりと閉じ始めた。


 石製の門が完全に閉じると今度はトリスタンが門の前に立って全力で押す。しかし、まったく動く気配がない。これで元通り完全に閉じたことを確認できた。


 門から離れたトリスタンがユウに笑顔を向ける。


「大丈夫だ。これなら誰も入れないぞ」


「良かった。それじゃ戻ろうか」


「地下3層か。どんな感じなんだろうな」


「絶対魔物で苦労すると思う」


 楽しげに話しながらユウとトリスタンは歩き始めた。炎の揺らめきと共に門のある場所から離れてゆく。次の探索場所のことを考えながら2人は笑顔で帰路についた。

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― 新着の感想 ―
やった!盲目鰐を倒した!しかも稼げるしなんかファンタジーみもキタ! マップ完成させて達成感味わうゲーマーじゃないしゆとりある貴族でもないし、遺跡探索は生活とロマンの両立が難しいなぁ ほんとに門が開いて…
各地を旅をしているのも楽しいですが、やはりダンジョン探索はワクワクします。新たな階層の探索が良い結果になりますように!
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