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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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遺跡内で出会う者たち

 遺跡内で知り合いの冒険者と出会ったユウとトリスタンは現在の遺跡探索クラン明るい未来ジュースフラムティッドの状態を教えてもらった。酒場で喧嘩をした後あのクランがどう出るのか戦々恐々としていたユウだったが、意外にもクランとしては終わった件扱いになっていることを知る。


 ユウからすると奇跡的な話だが、唯一ロビンだけはこの幕引きに納得せずにいるとのことだった。こうなると近いうちに対応を求められることになるだろう。


 ただし、今はどうにもならない。何しろまだ遺跡の中なのだ。予定ではあと2日で遺跡の入口に到達できる。


 略地図を見ながらユウは通路を歩いていた。前に通ったことのある場所なので周囲も判別しやすい。迷わず先に進む。


 すると、前方から複数の明かりが見えてきた。しかし不思議なことに明かりは4つ以上見える。この遺跡に入る冒険者パーティは通常4人なのであれだけの明かりが1度に見えるのは珍しい。


 更に近づくと先の集団は10人以上が集まっていることを知った。真っ先に思ったのは合同パーティだ。何か大掛かりなことをするときに複数の冒険者パーティが集まる方法である。


 特に根拠はなかったが、ユウは何となく嫌な感じがした。本当に何となくだ。別に無視をしても良いような、普通なら無視をする程度の感じ。だが、今は何となく従った方が良いように思えた。


 前方の集団とはまだ距離があり顔も判別できない。そして、すぐ近くには分岐路がある。この感覚に従うのならば今しかない。


「トリスタン、次を右に曲がるよ」


「わかった。それにしても、前から来る連中って誰だろうな。結構な人数じゃないか。なぁ、おい?」


 返事をしなかったことからトリスタンが振り向いてきたが、ユウは早く曲がれと目で合図をした。ますます不審に思った相棒だがとりあえず分岐路へと曲がってくれる。


 分岐先を見るとまっすぐに伸びていた。その両脇にはいくつかの路地が更に枝分かれしている。


「トリスタン、そこの元の通路から一番近い路地に入るよ。それで、入ったら明かりを消して。早く」


「どうしたんだ、何があるんだよ?」


「前から来るあの集団、何か嫌な感じがするんだ」


「精霊でも関係しているのか?」


「いや、今回は全然関係ないよ。あれは魔法関連だけだから」


 急かされたトリスタンは尚も戸惑っていたが言われた通りに松明(たいまつ)の明かりを消してくれた。周囲は真っ暗になり、何も見えなくなる。


 少しすると元の通路から人の話し声が聞こえてきた。反響により内容ははっきりとしない。それでも下品そうであることはすぐにわかった。


 路地から顔を覗かせたユウは元の通路を見つめる。少しずつ明るくなり、やがて人の姿が見える。どの人物も分岐路を気にすることなくユウたちがやって来た方へと歩いて行った。揺らめく松明(たいまつ)の炎が光源なので見えづらいが、それでも何とか人の顔が見える。


 その中でも気になったのは茶髪の老け顔そうな男だった。大きな体でリーダーあるいはアニキの他、パトリックさんとも呼ばれているのをユウは耳にする。つまり、あの集団は遺跡探索クラン明るい未来ジュースフラムティッドだったのだ。パーティにしては人数が多い理由が判明する。更にもう1人、ロビンの姿もあった。自信に満ちた様子で仲間と話をしながら通路の向こうへと消えていく。


 やがて周囲が暗くなったので、ユウはトリスタンに再び明かりをつけるよう求めた。その作業中の相棒からユウは話しかけられる。


「あのまま進んでいたら、まずいことになっていたな」


「まさかあのクランだなんて思わなかったよ」


「よく勘が働いたな。何か気になったことでもあったのか?」


「強いて言えば、人数の多さかな。あんなにたくさんいるのはどうしてだろうと思ったんだ。今から思うと、ここの基地であんなにまとまって行動する可能性があるのって遺跡探索クランと探検隊しかないから、それで引っかかったんじゃないかと思う」


「なるほどなぁ」


 話を聞いたトリスタンが感心したのを見てユウは照れた。後半部分は後付けの理由に近いので、実際は本当に何となくだったのだ。それだけになんとなく落ち着きがなくなる。


 トリスタンが松明(たいまつ)に火を点けると、2人は再び帰路についた。




 更に遺跡の通路を進んだユウとトリスタンは残すところあと1日で遺跡の入口へと到達する見込みだ。この日も鐘6回分歩き、最後に野宿する場所を探す。しばらく探した末に良さそうな部屋が見つかった。


 そこへ入ろうとしたユウはトリスタンに声をかけられる。


「ユウ、さっきから誰かが俺たちの後をつけてきているのに気付いているか?」


「さすがにあれだと気付くよ。何なんだろう」


「猛烈に嫌な感じがするんだよな」


「それじゃ、どうするの?」


「このまま歩いて振り切らないか? 今止まるのはまずい気がするんだ」


「だったら、ロビンたちをやり過ごしたみたいにまた隠れる?」


「いいなそれ。そうしよう」


 相棒の提案に賛成したユウは考えを改めた。部屋に入るのを止めて再び歩き始める。


 遺跡には分岐路は至る所にあるで行方をくらませることは難しくない。通路をいくつか曲がった末に小部屋に入って松明(たいまつ)の炎を消す。


 そこでじっと隠れていると2人に耳に追跡者の声と足音が入ってきた。近づいて来るにしたがって会話の内容がはっきりと聞こえてくる。


「あれぇ? こっち側に行ったはずなんだけどな?」


「また別の道に曲がったんじゃねぇの?」


「あーもぅめんどくせぇなぁ。さっさと襲っちまえばよかったんだよ」


「んなこと言ったって、真正面からやり合ったらまずいじゃん。あの片方、酒場で4人をあっさりぶっ倒したんだぜ」


「そんなの油断したところを後ろからやっちまえばいいだろ。どんなに強いヤツでも油断してれば大したことないって」


「じゃ、お前が相手をしてくれよ。俺は寝込みを襲う方が絶対安全で確実だからそっちの方がいい」


 尾行している自覚がないのか追跡を諦めたのか、4人組の冒険者は声を小さくすることもなくしゃべっていた。通路沿いにある部屋も覗かないまま歩いてゆく。


「ちっくしょう、もう金がほとんどないから早く手に入れなきゃまずいんだよなぁ」


「下の階に行けたら稼げるらしいけど、あんなのオレたちには無理だもんな」


「安全に大金を稼ぎてぇよなぁ。どっかに行き倒れてるヤツはいねぇかな」


「この階は安全だけど全然稼げねぇもんな。おまけに最近はみんな警戒して引っかかってくんねぇし」


「だから基地に来たばっかりの新顔を狙ってるんだろ。しかもあいつら2人だったから、やりやすいと思ったんだけどな」


「あーあ。なぁ、次の獲物を仕留めたら、もうここ出ていかねぇか? モノが高くていくら稼いでも足りねーよ」


「腹立つよな。商売人の連中、オレたちの足下を見やがって。最近あのヘラヘラ笑ってる顔を見ると腹立つんだよな」


 聞こえていた声もしゃべっている冒険者たちが角を曲がったところで内容は聞き取れなくなった。しばらくしてからその声も聞こえなくなる。


 様子を窺っていたユウは目を見開いていた。正に追い剥ぎに尾行されていたことを知ったからだ。いずれも初めて見る顔だったが、これはルインナルの基地にやって来てまだ間もないので仕方がない。


 隣で顔をしかめているトリスタンにユウが声をかけられる。


「とんでもない連中だったな」


「そうだね。あの部屋で休まなくて良かったよ」


「しかし、あいつらユウのことを知っていたみたいだな。あのとき店内にいたのか」


「さっき顔を見たけれど初めて見るよ。一方的に知られているみたい」


「あれだけ派手にやったんだから仕方ないか。でも、このまま放っておくのか?」


「遺跡の中だと後を追うのは難しいよ。明かりがないと動けないんだから。それより、今後は酒場であの人たちを見つけたら気を付けよう。それで、パーティ名がわかったらそれとなく周りに広めるんだ」


「それくらいしかできないか」


 現実的な案を聞いたトリスタンが肩を落とした。


 その後、元の通路に戻ったユウとトリスタンは少し離れた場所で一晩を過ごす。そうして10日目、ついに遺跡の入口へとたどり着いた。地上へ続く木製の階段がはっきりと見える。


 その風景に安心した2人だが、階段の近くまでやってきたときに下りてくる一団を目にした。いずれも身なりが良かったり武装が冒険者よりも良かったりしている。その中に酒場で見かけたことのあるテオドルとヴィゴの姿もあった。探検隊気高い意思(ノーブラオヴシキタル)だ。ということは、あの金髪で爽やかな顔つきの人物がシーグルド・アベニウス隊長なのだろう。


 探検隊側はユウたちを気にもせず遺跡の奥へと歩き去った。それを2人でぼんやりと見送る。


 やがて寒さで体を震わせた2人は我に返り、雪の積もる木製の階段を上った。

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