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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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地下2層の本格的な探索

 休暇の翌日、ユウとトリスタンは日の出前に安宿を出た。まだ日の出前の暗い中、火を点けた松明(たいまつ)を持って遺跡に入る。


 今回は遺跡に10日間滞在する予定だ。地下1層を4日間ひたすらまっすぐ歩き、その最寄りの階段から地下2層へ下りて2日間探索する。地下1層では1日鐘6回分だけ歩くので距離としては6日分進むわけだが、この辺りならば未探索地域も多いだろうという計算だ。


 地下1層ではほぼ魔物が出ないので2人は大胆に遺跡の中を進む。しかも大半の経路は前回の探索で地図を描いているので迷わず歩けた。通過するだけの場所に用はないので探索もしない。ただし、地図をまだ描いていない4日目から先の場所を歩くときはさすがに慎重になる。


 遺跡に入って5日目、階段の近くにある小部屋で睡眠を取ったユウたちは地下2層へと下りた。これからは2人とも松明(たいまつ)を持って周辺を探索しながら進む。


 見た目は上層と同じでも魔物が生息しているとなるとその足取りはかなり遅くなった。周辺にある部屋などを探索していることもあってなかなか前に進めない。


 根気のいる作業が続くわけだが、探索していると良い状況であることがわかったので我慢できる。割とまだ手つかずな場所が多いのだ。これは価値のある物を発見できる可能性が高い。


 ただし、良いことばかりではなかった。誰も探索していない場所が多いということは、その近辺の魔物は退治されていないということでもある。そのため、魔物と遭遇する機会が増えた。


 慎重に通路を歩くユウは先程から何かしらの違和感を抱いて歩いている。明かりで照らす範囲を見る限りでは何もないのだが何かが違うように思えて仕方ない。ただ、その違和感が何かがわからなかった。


 後ろを歩くトリスタンにユウは声をかけられる。


「さっきから更に慎重だな。何かありそうなのか?」


「何があるのかはわからないんだけれど何かありそうなんだ。嫌な感じだよね、これ」


「見える範囲じゃ何もなさそうなんだけれどな」


「はっきりとしてくれたら対処もでき、うわっ!?」


 注意深く周囲を見ていたユウは、突然松明(たいまつ)を持つ左腕を引っぱられてよろめいた。何事かと自分の左腕を見ると、水気を帯びた弾力性のある布のような物が巻き付いている。しかも生臭くて生暖かい。その先を見ると壁からそれは伸びている。いや、厳密には壁に近い場所に浮かび上がる開かれた口内から伸びていた。更に目を凝らすとわずかに目のようなものが空中に見えている。


潜伏避役(ラーキングカメレオン)!」


 距離を半分ほど縮められたところで何とか踏ん張ったユウは左腕を絡め取っているその舌を右手で掴んだ。そうして叫ぶ。


「トリスタン、こいつの舌を切って!」


「よしきた!」


 腰から戦斧(バトルアックス)を取り出したトリスタンがユウの手前に駆けつけた。そして、伸びた舌を切断しようと振りかぶる。そのとき、壁に張り付いているであろう潜伏避役(ラーキングカメレオン)が動いた。次の瞬間、トリスタンが何かにぶつかって体勢を崩される。


 それに巻き込まれたユウは前方に向かって踏ん張っていたのであっさりと仰向きに床へと倒れた。そうして視認しにくい潜伏避役(ラーキングカメレオン)が飲み込もうと迫ってくる。舌はまだ左腕に絡まれたままだ。身動きが取れないユウはとっさに松明(たいまつ)の燃えている先を開いている口の中に突っ込む。一瞬何も感じないのかというくらい反応がなかったが、すぐに潜伏避役(ラーキングカメレオン)はユウの左腕から舌を離して逃げ出した。


 急いで立ち上がったユウは自分も腰から戦斧(バトルアックス)を取り出して構える。潜伏避役(ラーキングカメレオン)の逃げた先を見つめるが、暗闇の向こうへと去られるともう判別がつかない。


 同じく倒されたトリスタンが立ち上がってユウに近づく。


「怪我はないか?」


「ないよ。それより、あいつを見失っちゃった」


「壁と同じ見た目なんて、この暗い中だと見分けられないな」


「あぁ、手がべとべとだよ」


「うわぁ、くっさいな」


 しばらくその場で警戒していたユウとトリスタンは潜伏避役(ラーキングカメレオン)が再び襲って来ないことを確認した。その後、壁際に寄って休憩する。ユウはそのときに水で手を洗い、トリスタンに荷物から手拭いを取り出してもらって拭いた。無傷なのは何より幸いだったが、こういう生物的な汚れというのは嫌悪感を強く抱きやすいものである。


 以後もたまに魔物と遭遇しては2人とも立ち止まったり引き返したりを繰り返した。毒守宮(ポイゾナスゲッコウ)に毒を吐きかけられて危うく喰らいかけたり、盲目鰐(ブラインドガビアル)と出くわして追いかけられたりする。魔物を倒しても報奨金は出ないので厄介な相手が出たときはできるだけ避けた。調査できる場所はまだたくさんあるからだ。


 そうやって遺跡のあちこちを巡っていると2人はとある場所で下に続く階段を見つけた。地下1層と地下2層を繋げるものと同じである。ただし、途中から天井が崩落していて埋まっていた。


 明かりをかざして階段の様子を見たトリスタンが残念がる。


「こうやって埋まっているわけか。惜しいな」


「そうなんだけれども、今でもなかなか苦労しているから、更にこの下に行ってまともに探索できるかどうかだよね」


「今まで避けていた魔物だってその気になったら倒せていたんじゃないか?」


「最初の待ち伏せや奇襲をやり過ごせたらの話でしょ。そんなに自信があるなら次から先頭を歩いてよ」


「悪かった」


 呆れた表情をユウが向けるとトリスタンが両手を上げた。今のところ遺跡に入って探索した経験があるということでユウが先頭を歩いているのだ。


 魔物から何度か逃げていたということもあり、2人の探索はあまり進み具合が良くなかった。それでも未探索地域らしき場所を歩き回っているとやがては望んでいる物が見つかることもある。


 それは、珍しく魔物を倒して更にその先に進んだときだった。扉が崩れ去った部屋の中に入ると、あまり大きくはない場所ではあったが一面に魔石が散らばっていたのだ。


 突然の光景に2人とも呆然としたが、床に落ちている魔石を拾って間近で見てみる。


「トリスタン、これ本物だよね?」


「俺にはそう見えるな。ということは、これ全部魔石なのか。はは、嘘みたいだな」


「みんなこういうのを狙って遺跡を探索しているんだね」


「ユウ、お前は違ったのか?」


「いやなんていうか、今までこういうのってなかなか想像できなかったから」


「まぁいいか。とりあえず、手前からどんどん拾って袋に入れていこうぜ。ここにあるやつは全部俺たちの物だ」


 相棒の言葉を合図にユウは荷物を床に置いて麻袋を取り出した。隣で魔石を拾い始めたトリスタンに倣ってしゃがむ。ひとつずつ取っては麻袋に入れていった。


 しかし、ユウはすぐにあまりにも効率が悪いことに気付く。ほうきがあればそれでまとめることもできるが、こんなことは想定していなかったので今は持っていない。スコップはあるが土を掘り返すわけではないので使いづらい。しばらく悩んだ末に槌矛(メイス)を取り出してそれを寝かせ、床を拭くように右から左へと動かす。すると、魔石がほうきで掃くように集まった。これで特定の場所に魔石を集めればまだ取りやすい。


 振り向いたユウはトリスタンに声をかける。


「トリスタン、今から僕が魔石を集めるから、それを麻袋に入れていって」


槌矛(メイス)を使うのか。考えたな。確かにこれは疲れると思っていたんだ」


 役割分担を決めた2人はすぐに作業に移った。ユウはひたすら槌矛(メイス)で魔石を集め、トリスタンは黙々と魔石を拾う。


 時間はかかったがユウたちは部屋の中にある魔石をすべて拾い集めた。かなりの量になったのでなかなか重い。しかし、それは幸せな重さだ。


 2人は麻袋を背嚢(はいのう)へとしまうとそれを背負う。


「屑魔石が多かったけれど、中には中魔石もあって驚いたよね」


「そうだな。確かあれひとつで銀貨2枚だったか。結構な値段だよな」


「これだけあれば一息つけると思う」


「やっぱり探索はこうでないとな!」


 上機嫌なユウとトリスタンは意気揚々と部屋を出た。ここからは再び油断できない場所が続くが、やる気に満ちている今の2人は気持ちも新たに前へと進む。


 しかし、幸運はそう何度も起きてくれなかった。地下2層を2日間に渡って探索を続けたが発掘品や魔石はその後見つけられずに終わる。原因は魔物と遭遇したときの対処だということはすぐに思い至った。避けすぎたのである。


 その点は残念ではあったが、問題がはっきりとわかっているのならば次から適切に対応すれば良い。幸い、ユウの手元には今まで描いた略地図がある。未探索の場所がどこなのかはっきりとしているので次の探索のときに向かえば良かった。それにうまくいけば魔物は別の場所に移動してくれているかもしれない。そうであれば次は素通りできるという目算も少しある。


 色々と期待を膨らませながら2人は帰路についた。

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