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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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遺跡の地下2層へ

 二の刻に起きたユウとトリスタンは安宿で出発の準備を済ませると外に出た。火を点けた使い捨ての松明(たいまつ)を片手に積もる雪をかき分けて遺跡の入口へと向かう。


 やはり雪が降り積もっている木製の階段を下りて遺跡の床に両足を付けると2人は奥へと進んだ。中は日の出前の地上と同じく真っ暗である。


 前回の探索で描いた略地図をたまに見比べながらユウは通路を歩いた。遺跡の入口近辺ならばこの略地図に従って進めば良い。トリスタンが周囲を警戒してくれた。


 今回は地下1層を3日間進み、最寄りの階段で地下2層へと下りてから1日探索する予定だ。地下1層は可能な限りまっすぐに進んで遺跡の入口からできるだけ離れ、他の冒険者があまり探索していないことを願いつつ地下2層を歩き回るわけである。


 鐘1回分もしないうちに未踏の地へと踏み入れた2人はひたすら直進した。ときおりユウが羊皮紙に略地図を描き足しながら歩いてゆく。


 この探索をするにあたって、2人は松明(たいまつ)を節約して活動時間を延ばすことにしていた。地下1層に魔物がほとんど出てこないという前提で、普段はどちらか一方だけが松明(たいまつ)を持ち歩き、油での再利用をした上で1本使い切ったらもう一方が新しい松明(たいまつ)を使うのである。これで1日鐘6回分移動するのだ。通常の5割増しなので、3日という時間で4日半分の距離を稼げることになる。


 冒険者ギルドの職員によると、遺跡の入口から片道5日間程度の範囲が去年の冬直前までの一般的な活動範囲だったという。最近はこれより先に向かう者が増えているそうだが、片道5日程度の辺りならばまだ魔石くらいは残っている可能性が高いそうだ。そのため、2人は地下1層を4日半進み、その近辺から地下2層を探索することにしたのである。


 果たしてこの思惑が図に当たるのかはこれからわかることだが、願わくば当たってほしいと願いながら2人は黙々と進み続けた。




 予定通り3日で4日半の距離を進んだユウとトリスタンの目の前には地下2層に続く階段があった。予想通り魔物とは今のところ1度も遭遇していない。


 2人は火を点けた松明(たいまつ)をそれぞれ持って下りて行った。下りきって周囲を見渡すと上の階と代わり映えしない風景が目に入る。


「見た目は上と同じだな」


「遺跡自体は同じでも、これからは魔物がこっちを襲ってくるからね。気を付けないと」


「待ち伏せや奇襲かぁ。怖いな」


「僕が先頭を歩くから、トリスタンは後に続いて。後ろ、特に壁や天井には注意して」


「うへぇ、どこにでもいるんだな」


 嫌そうな顔をする相棒から目を離したユウは通路を歩き始めた。ここからはかつて経験したことを思い出しながら進まないといけない。


 地下1層に比べて歩く速度は半分程度になった。警戒はするべきだが歩みが遅くては充分に探索できない。この兼ね合いが地味に難しい。それを誤って成果なしなら良い方で、悪ければ死だ。


 冒険者ギルドの職員や知り合いの冒険者から聞いた魔物についても思い出す。馴染みのある武器を握りしめる右手の握力が強くなる度に力を抜いていた。


 通路を進んだ先に部屋があった場合は中を覗く。最初は正面、次に壁、その次が天井、それから奥だ。部屋に入り込んだ瞬間、真上から襲われた事例もあるだけに油断できない。


 いくつか部屋を見て回ったがいずれも空だった。瓦礫はたまにあったものの、手を付けるような類いの物ではない。体力よりも精神力が削られてゆく作業である。


 そうして進んで行くと、天井近くの壁が他とわずかに比べて盛り上がっていることにユウは気付いた。松明(たいまつ)の明かりでかろうじて炙られるその姿から毒守宮(ポイゾナスゲッコウ)だとわかる。大きさが約60イテックの守宮(やもり)で毒を有する魔物だ。全身白っぽい小さな鱗に覆われ、胴体と尻尾が長い。頭は体の割に大きく、手足の指先が丸く大きい。その瞳がじっとこちらを見つめている。暗闇の中でどうやって見ているのか実に不思議だ。


 毒を吐きつけてくることを知っている2人は反対側の壁へと寄った。そのまま刺激しないように通り過ぎる。この遺跡や冬の森では魔物を倒しても報奨金は出ないのだ。


 鐘1回分程度の時間が過ぎた頃、2人は本日何度目かの部屋を見つけた。まずは魔物がいないかを確認し、安全であることがわかってから中に入る。


「こっちの瓦礫は散らかっているね。誰かが何かを探した跡みたい」


「さすがに後発組だとなかなかめぼしい物にはお目にかかれないか。お、あっちに瓦礫があるな。どけてみないか?」


「やってみよう。この辺りだと、もう目に見える所の物は全部誰かに盗られているだろうからね」


 互いの意思を確認したユウは松明(たいまつ)を壁に立てかけてトリスタンと共に瓦礫を取り除き始めた。最後に割と大きな瓦礫を反対側に倒すと見かけたことのある半透明の灰色の小石をいくつも目にする。


「魔石だ! この部屋にもまだ残っていたんだ」


「どれも小さいな。いくらくらいになるんだろう」


「ほとんどは屑魔石だから10個で銅貨1枚だったはずだよ。これなんかはちょっと大きいから2個で銅貨1枚だね」


「結構あるように見えるが、あんまり金にはならないのか」


「それでも見つかったんだから良かったじゃない。これで手ぶらで帰らなくても済むよ」


 部屋の様子から完全に残り物だがユウはそれでも喜んだ。広大な遺跡(ストラルインナル)での初めての収入である。


 気を良くしたユウとトリスタンだったが、部屋を出て少し進んだところでその気分は一気に吹き飛んだ。全身堅そうな鱗に覆われ、頭部には目がなく頭の半分が鋭い牙で覆われた口の魔物に出くわした。盲目鰐(ブラインドガビアル)である。最大で8レテムもある盲目の魔物で、音もなく獲物に近づいて強力な顎で噛み砕いて丸呑みするのが特徴だ。


 そんな魔物と真正面からかち合ってしまう。一瞬固まったユウだが、次の瞬間急いで斜め後ろに飛び退いた。わずかに遅れて盲目鰐(ブラインドガビアル)の大きな口が開いてユウの元いた場所で派手な音を立てて閉じる。巨体という姿に惑わされてこの俊敏な動きにやられる冒険者は多い。


「あっぶな!」


「ユウ、怪我は!?」


「それより逃げるよ!」


 迷わず踵を返したユウは走り出した。目を見開くトリスタンも慌てて続く。どちらも後ろを振り向くことなく通路を駆けた。動きが俊敏な相手に迷っている暇はない。


 地図の経路に従って逃げたユウは途中で立ち止まった。後ろを走っていたトリスタンも息を弾ませながら足を止める。


「追っては、こない、ようだな」


「あの手の魔物は瞬発力はあっても持久力はないそうだから、これだけ離れたらもう大丈夫だよ」


「あのでかぶつ相手だと最低4人はほしいよな。できれば6人」


「そうだね。それより、こっちの通路はしばらく行けないね」


「他の場所を探そう。あんなのを相手にするよりかはずっとましだ」


 息を整えたトリスタンが諦めた様子で肩をすくめた。他に探索できる場所はいくらでもある。例え戦って勝てるとしても、割に合わなければ避けるべきなのだ。


 思わぬ場所で休憩しながらユウは自作の略地図を眺めた。現地点から最寄りの未探索地域を探す。まだ2度目の探索なのでいくらでもあった。その中から何となくある場所を選ぶ。相棒に相談すると賛成してもらえた。


 気を取り直したユウとトリスタンは探索を再開する。再び慎重に進みつつも部屋を見つければひとつずつ中を確かめていった。


 鐘2回分の時間が過ぎる。予定ではここで探索を終え、後はルインナルの基地目指して帰るのみだ。2人ともその気ではある。しかし、ちょうどこのときにまたもや部屋を発見した。ユウの目から見ると古代の保管庫を彷彿とさせる。


「トリスタン、最後にここを調べてから昼休憩にしない?」


「それから帰るわけだな。今まで取った魔石の数だと全然足りないからいいんじゃないか」


 相棒の賛意を得たユウは魔物の確認をしてから中に入った。続いてトリスタンも部屋に入り、周囲を調べて回る。


「ユウ、この辺りが大きく崩れているぞ。掘り返してみようぜ」


「わかった。今行くよ」


 別の場所を調べていたユウがトリスタンの求めに応じた。瓦礫が多いが順番に取り除いてゆく。すると、多数の魔石を発見した。大きさはもちろん、赤色や青色といった色付きの魔石も多数ある。


「すごい、こんなにたくさん魔石があるなんて」


「やったな、ユウ! 大発見じゃないか!」


「これで何とか生活費を稼げるね。あぁ良かった」


「持てるだけ持って帰ろうぜ」


 待望の発見にユウとトリスタンは喜んだ。近頃は出費ばかりだったので久々の収入に浮かれる。持ってきていた麻袋にまとめて入れていった。


 久々に明るい顔をした2人は楽しく昼休憩に入る。単調な食事も今は旨い。帰って魔石選別場で売却するときがどちらも楽しみで仕方なかった。

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盲目鰐ーー! 久しぶりの再会にギャッ(楳図かずお)ってなります こいつは読者がちょっと目を離したらムキムキ戦士職を丸呑みするから怖い
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