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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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遺跡に近かった町

 ソルターの町へとたどり着いたユウの所属する集団は町の北側の郊外で解散する。都合6日の旅だった。ユウとトリスタンが同じ道をロルトの町へ向かったときは4日で済んだが、これは雪上の移動と日照時間の短さによるものだ。


 雪靴(スノーシュー)を履いて歩き続けたユウとトリスタンはいつもの旅よりも疲れていた。普段とは体の、特に下半身の使い方が微妙に違う影響だ。そのため、2人は町の影を目にしたときに心底安心する。


 ともかく、履き慣れない道具を使った旅はこれで一旦お終いだ。専属護衛の冒険者バートが嬉しそうに雇い主から報酬を受け取ったのに続く。


「ユウ、トリスタン。お前たちにも報酬を渡そうじゃないか」


「ありがとうございます。はい、確かに受け取りました」


「よくやってくれた。安心して街道を進めたよ。ところで、これからどうするんだ?」


「しばらくこの町で休もうと思います。その間に冬の森や遺跡について調べて、次にどうするか考えるつもりですよ」


「そうか。また縁があったら頼むよ」


 契約が完了したユウとトリスタンは一礼すると踵を返した。すると、先程同じように報酬を受け取ったバートが目の前に立っている。


「お前ら2人とも、これから飲みにいくのか?」


「そうだよ。さすがに今から酒場以外には行く気はないから。ああ、宿は別だけれども」


「だったら一緒にどうだ? ソルターの町の店だったらちったぁ知ってるんだぜ」


「良いじゃない。トリスタンはどう?」


「案内してもらおうぜ。これで外れの店に行かずに済むしな」


「決まりだ。ついて来な。安くて旨い店に連れて行ってやるぞ」


 嬉しそうにうなずいて歩き始めたバートにユウとトリスタンも続いた。寒い中、3人は町の東門側へと回って歓楽街に入る。バートが迷わず入ったのは年季の入った石造りの店舗だ。まだ日没直後とはいえ、時間は三の刻頃なので客は多くない。人足や行商人の姿がちらほらと見えた。


 開いている席に座ると3人は給仕女に料理と酒を注文する。繁忙期ではないので届けられるのが早い。全員すぐに木製のジョッキを傾けた。


 一息ついたバートが声を上げる。


「はぁ、やっぱり仕事上がりはこの1杯に限るねぇ。はらわたに染み渡るぜ」


「やっぱり良いよね。寒い冬だから温かいお肉も捨てがたいけれど」


「確かに! こう厚く切って口に入れりゃ」


 肉の盛り合わせから豚肉を手に取ってナイフで大きく切り取ったバートがそれを口に入れた。旨そうに口を動かす。


 それを見ていたユウとトリスタンも同じように鶏肉やソーセージを頬張った。熱い身と汁が口の中に広がる。これがたまらない。


 次いで黒いパンを手に取ったバートがトリスタンに声をかける。


「ところで、2人とも今度は冬の森に行くんだよな? 最近噂の遺跡目当てか?」


「そうだよ。さっきユウがアルビンさんにも言ったが、まだこれから調べないといけないけれどな。バートも気になるのか?」


「まぁな。何しろ次はそっちに行くかもしれないから、無視はできねぇよ」


「次に行く? お前、専属護衛を辞めるのか?」


「いやそうじゃねぇよ。我らが旦那様が行くかもしれねぇってことだ」


「冒険者でもない商売人が冬の森に入って何をするっていうんだ?」


「ありゃ? もしかしてルインナルの基地を知らねぇのか?」


「なんだそりゃ。さっきも言ったが、俺たちはこれから本格的に調べるところだから何も知らないぞ」


「マジか。まさか全然知らねぇとは思わなかったぜ。どこから調べるつもりなんだ?」


「まず冬の森がどんなところかだな」


「本当に最初からなんだな。それでよく行く気になったなぁ」


「最初に冬の森と遺跡のことを知ったときは、魔塩の山脈に行く途中だったんだよ。それで、知り合いが急いでいたから調べるのは後回しにしたんだ」


「なるほど。そういうことか。だったらオレがひとつ教えてやろう」


 1度木製のジョッキを傾けて口を湿らせたバートが得意気に言った。ユウもトリスタンも体が前のめりになる。


 バートによると、冬の森はサルート島の南部に広がる森林で塩分濃度の高い水でも耐えられる植物が群生している森だ。そして、その高い塩分濃度のせいで魔物しか生存できない。しかも、その魔物も他の場所よりも短命らしい。かつて高名な研究者が冒険者ギルドの依頼で調べてわかったそうだ。また、この森の中には遺跡が点在している。古代文明の都市らしき跡なのだが、今のところわかっていることはそれだけだ。


 そんな森の中で、最近広大な遺跡(ストラルインナル)と呼ばれる地下遺跡が見つかった。発見された経緯は本当に偶然だそうで、とある冒険者パーティが今年の夏頃に冬の森を探索しているときに大きな穴が開いているのを見つけたという。詳しく調べて見ると地下遺跡の天井が崩落し、地面の下に広い遺跡が広がっていることが判明したのだ。以後、何人もの冒険者がその地下遺跡に入り、発掘品や魔石を持ち帰ることに成功する。そうなるとその成功を聞きつけた冒険者たちが更に集まるという循環が発生した。


 こんな儲けの臭いを商売人や行商人が見逃すはずがない。やがて、冒険者ギルドも巻き込んで、冬の森の中にある広大な遺跡(ストラルインナル)の近隣に冒険者のための探索拠点が開設された。これがルインナルの基地だ。現在では、冒険者以外で200人ほどが駐在している。輸送手段が徒歩のみに限られるため輸送費が高額になることから物価がソルターの町の倍以上になっているそうだが、いちいち町に戻るよりはましということで冒険者には受け入れられているそうだ。


 話終わったバートが再び木製のジョッキを傾けた。旨そうに息を吐き出す。


 話を聞いていた2人は半ば呆然としていた。思わずユウが感想をもらす。


「思ったよりもちゃんと説明してくれたね。もっとあっさりとしたものだと思っていたのに」


「はは、見た目が馬鹿みたいに見えるからってか? 実際その通りだが、自分の知ってることくらいはまとめて話せるぜ」


「うん、見直した。そして、どうしてアルビンさんが冬の森に行くのかもわかった。実際にはルインナルの基地っていうところに行くんだね。品物を持って」


「そうさ。旦那だって商売人だからな。持ってったら持ってっただけ物が売れる場所だったら、そりゃ目一杯商品を持って行って売りさばくだろうさ。で、お前たちもそこへ行って遺跡に入るんだよな」


「そのつもりでいるけれど」


「今の話を元に更に調べたらいいぜ」


「だったら、そのルインナルの基地に行くときにまたアルビンさんの護衛ができたら嬉しいなぁ」


「あー、そりゃ悪くねぇ話だな。けど、帰りが困っちまうか。今のところオレ1人しかいねぇし。往復するなら4人はほしいよなぁ」


 木製のジョッキを片手に考えながらしゃべるバートをユウは見た。元々冬の森の中を探索するつもりだったので最悪単独でルインナルの基地を目指すという方法もある。しかし、どうせなら安全に稼ぎながら進みたい。自分を雇う相手なら尚安心もできる。もっとも、雇う側の事情はユウとトリスタン側でどうにもできないことだが。


 そんな真面目な話をしつつも、大抵は馬鹿話で夕食を3人で楽しく過ごした。




 翌朝、ユウとトリスタンは三の刻を過ぎてから冒険者ギルド城外支所へと向かった。建物の中はやや閑散としている。その様子を見ながら2人は受付カウンターの前に立った。


 以前会ったことのある隻腕の受付係にユウが声をかける。


「おはようございます。ルインナルの基地へ向かう商売人か行商人の護衛の仕事はありますか? 広大な遺跡(ストラルインナル)に行きたいんです」


「あの遺跡のことなら、ルインナルの基地に行って冒険者ギルド派出所で聞くといい。遺跡に興味のある冒険者はみんなルインナルの基地へと移ったが、それに合せてギルドの業務も遺跡関連はあっちに移したんだ」


「わかりました。それで、仕事の方はありますか?」


「ルインナルの基地へ向かう行商人の集団の護衛の仕事はある。今は冬の上、しかも道が整備されていないから荷馬車が使えないからだ。しかし、魔物が住む冬の森を通過するから危険は街道の比ではないぞ。あの森で人を守りながら進むのは大変だからな」


「でも、それで冒険者が引き受けるのを尻込みしてばかりいたら、誰もルインナルの基地に品物を届けられませんよね」


「確かにな。それに、お前らのように遺跡目的の冒険者だけでは帰りの護衛がいなくなるから、他の冒険者も何人か就くはずだ。なのであまり気負う必要はない」


 単なる脅しだと気付いたユウとトリスタンは苦笑いした。ここで腰が引けるようなら行く資格はないということだろう。


 紹介状を用意してもらった2人は行商人の集団の代表と面談し、無事採用された。出発は3日後の早朝、後は準備をするだけである。

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