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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第23章 冬の森の遺跡

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冬になると増える街道での仕事

 年も押してきた13月の半ば、この日の空は曇り、夜明け前から雪が降っていた。白く染まっていたロルトの町は一層白くなる。そのため、町では朝から雪かきをする人々の姿が散見された。


 もちろん道もすっかり白一色だ。既に地面は冷え切っているので多少雪が踏みしめられたところで泥と混じり合うこともない。それどころか、いよいよ歩きにくくなるくらい降り積もってくる。


 魔塩の山脈では最後の方だとこのくらい積もっていたことをユウは歩きながら思い出した。つい10日前くらいまで当たり前のように歩いていたが、よくあんな雪の積もった不安定な山腹を歩いていたものだと振り返る。やはり儲かるということで興奮していたのかもしれない。


 現在、ユウはトリスタンと共に冒険者ギルド城外支所へと向かっている。ソルターの町へと向かうための仕事を探すためだ。昨日別れた行商人の助言を受けてである。それによると、冬の間は地元以外の冒険者にも護衛の仕事が回ってくる可能性があるらしいのだ。


 というのも、モーテリア大陸北部の冬は雪が大量に降るため荷馬車が使えない。更にサルート島では塩の影響で盗賊や獣も生存できないため、荷馬車の代わりに(そり)も使えないのだ。そのため、冬は隊商も全員が徒歩での移動となり、隊列が伸びるので護衛の数を増やす必要があるのだった。


 ちなみに、それならば荷馬車を牽く馬はなぜサルート島にいるのかというと、荷馬車に大量の飼い葉を詰め込んでいるからだ。ロルトの町まで行くとなると飼い葉専用の荷馬車も必要になる。そして、冬の間はマギスの町に集められ、船で運ばれてくる飼い葉を与えられながら町に仕事に従事するのだ。


 この話を聞いた2人は希望を胸に城外支所の建物に入った。秋にやって来たときよりも若干活気がある。


 受付カウンターの列に多少並んだ後、ユウはトリスタンと共に受付係の前に立った。しばらく魔塩の採掘に従事していたので久しぶりだ。一呼吸置いて職員に声をかける。


「おはようございます。冬だと隊商も歩きになるから護衛の仕事が増えると聞いたんですけれど、ソルターの町までの依頼はありますか?」


「マギスの町までならあるんだが。ソルターの町でまたこっちに引き返す理由が隊商にはないからな。しかし、商売人の護衛依頼ならあるぞ」


「商売人? 行商人じゃないんですか?」


「あいつらは護衛なんて依頼することなんてないよ。この商売人っていうのは、荷馬車を1台しか持ってない連中のことなんだ。冬になると雪で使えなくなるから、人足を雇って町の間を歩くのさ。こっちも人足の数が増える分、少し護衛の数を増やすんだよ」


「でしたら、その商売人の依頼を引き受けたいです。どんな条件ですか?」


「一般的だな。日当は銅貨4枚、3度の飯付き、あとは魔物の討伐報酬なんかもそうだ」


 説明を聞いたユウは特におかしな点もなかったので引き受けることにした。紹介状を受け取ると教えられた安宿屋へと向かう。


 雪の降る中、2人は宿屋街の前を歩いた。宿泊客の出入りは落ち着いているので路地を往来する人の数も多くない。屋根に上って雪かきをする人の姿も見える。


 とある安宿屋を見つけて中に入ったユウは商売人らしい人を探した。しかし、見当たらない。仕方がないので1人ずつ尋ねて回ると、荷物番をしているらしい冒険者に出会う。


「この宿にアルビンという商売人が泊まっていると聞いたんですが、ご存じですか?」


「その人に何の用なんだ?」


「冒険者ギルドで護衛の依頼を引き受けたんです。僕はユウ、古鉄槌(オールドハンマー)のリーダーで、隣はメンバーのトリスタンです」


「おお、やっと来たか。これで旦那も安心するだろう。けど、うちの旦那は今宿の裏庭に行ってるんだ。もう戻って来ると思うから、ちょっと待っててくれ。ああそれと、オレはバート、見ての通り冒険者だ。アルビンの旦那の荷馬車の専属護衛さ」


「1人で荷馬車の専属護衛をしているんですか?」


「本当はもう1人いたんだけどね。それについては旦那が戻ってきてから聞いてくれ。お、噂をすれば」


 話している途中でバートがユウから目を離して振り向いた。すると、その視線の先には灰色がかった金髪の顔の大きな中年男がこちらに向かって歩いて来ている。


「バート、知り合いか?」


「違いますよ。こっちの出した護衛の依頼を引き受けたいって言ってきた同業者です」


「おお、そうか。ワシは商売人のアルビンだ。春から秋までは荷馬車1台で街道を行き来してるが、今のような冬には歩いて町から町へと品物をはこんでる」


 ここから再び自己紹介を繰り返したユウとトリスタンは早速アルビンと条件の突き合わせに入った。冒険者ギルドで提示された内容と同じなのでユウ側に問題はない。そして、冬の森へと向かうという話で盛り上がった。アルビンも最近見つかったという遺跡から持ち出される物に注目しているらしい。そのため、親近感を抱いてもらえる。


「真っ当そうな冒険者で良かったよ。これならちゃんと護衛してもらえそうだ」


「ありがとうございます。それじゃ、採用してもらえるんですね」


「もちろんだ。商売人も冒険者も常に周りに目を光らせておかないとな。挑戦するのはいいことだよ。ああそれと、島外から来たと言っていたな。それなら、今の時期は雪靴(スノーシュー)を履くべきだということを知ってるか?」


「知っています。まだ買っていませんけれど」


「それはいけない。今日中に買っておいてくれ。ワシたちは全員それを履いて歩くんだ」


「わかりました。そうします」


「これから本格的に雪が降ってくるからな。あれがないと外を歩けなくなってしまう」


「背丈以上に積もるんでしたっけ?」


「そうだ。必ず買っておいてくれよ。あれの有無で体力の消耗が大違いなんだ」


 機嫌良く念を押してくるアルビンにユウとトリスタンはうなずいた。これで契約成立である。


 そこで疑問がまだひとつ残っているのに気付いた。しかし、ユウが口を開くよりも早くトリスタンがアルビンに問いかける。


「荷馬車1台の護衛って普通は2人ですが、どうして1人だけになったんですか?」


「解雇した冒険者は酔っ払って転んだ挙げ句に手首を骨折したんだ。町に着いて気が抜けたんだろうな」


「うわ、それは」


「いいヤツだったんだが、手が使えないとなると護衛としては雇えない。だから解雇してすぐに冒険者ギルドに依頼を出したんだ。出発前に新しく見つかって安心したよ」


「出発は明日の朝なんですよね」


「そうなんだ。日の出と共に出発したいからそれまでに合流したいんだが、ところで2人は別の宿に泊まっているのか?」


「はい。ここから遠くはないですが」


「どうせならこっちの宿に泊まらないか?同じ宿に泊まれば明日の朝に合流することまで考える必要はなくなるからな」


「それはいい考えですね。ユウ、どうだ?」


「僕も賛成だよ。遅刻をする心配がなくなるしね」


 手間が省けるとユウも喜んだ。待ち合わせ時間を調整するために無駄に待つこともあるので、それがなくなるだけでもありがたい。


 宿に関する話もまとまったユウはトリスタンを伴って市場へと出かけた。雪靴(スノーシュー)を買うためである。靴なので古着屋にあると予想したユウは2人で店を回った。しかし、どこにもそれらしき物はない。


「トリスタン、雪靴(スノーシュー)って古着屋に売っていないのかな?」


「靴だからここだろうと勝手に思っていたが、もしかして違うのかもしれないな」


 立ち止まって首をひねっても2人にはわからなかった。仕方がないのでユウが古着屋の店主に尋ねてみる。


雪靴(スノーシュー)ってどこに売っているんですか?」


「雑貨屋だよ。あれは靴に縛り付けて使う道具扱いなんだ」


 意外な話を聞いたユウとトリスタンは目を丸くした。雪靴という名称から靴の類いだと思っていたが違ったらしい。


 教えてもらった通りに雑貨屋で探すとすぐに見つかった。かつて行商人が教えてくれた形とほぼ一致している。値段は銅貨30枚と道具にしては高いが靴と思えば安い。


 買わない選択肢はなかったので2人は比較的ましな一品を選んで購入した。履き方を店主に教えてもらって履き心地を知る。さすがに歩きにくい。


 歩き慣れるため、2人は町の郊外で雪靴(スノーシュー)を履いて歩き回った。荷物を背負った状態でも雪面からほとんど沈まないことに驚く。慣れても歩きにくさはあまり変わらないことから走り回って戦うことは無理だと判断した。次いで組み手をしてみたがほとんど動けずその場で殴り合うのが精一杯である。


 こうしてユウたちは町を出る準備を進めた。やることを終えると酒場で1日中過ごす。寒いので外に出る気になれないのだ。そして、夕食を食べ終えるとアルビンたちの泊まる安宿に入る。


 後は明日を待つだけとなった。

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 かんじきかな。
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