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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第22章 一山当てたい行商人の旅路

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魔塩の採掘について

 魔塩の山脈でエッベが見つけた魔塩の採掘現場からロルトの町へユウたち4人が戻る間、塩ギルドの塩脈鑑定人は愚痴を漏らし続けた。それをエッベが一生懸命慰める。


 なぜナータンはこれほど文句を言い続けるのかユウは不思議だったが、不満の端々から少しずつ理由を理解した。どうやら鑑定人は鑑定した塩脈の鑑定金額の一部を報酬として受け取ることになっているらしいのだ。そのため、鑑定額が低いと自分の収入が減ってしまうからである。特に採算割れとなるとただ働きになるので鑑定人は皆嫌がるのだ。


 愚痴を聞かされる身としてはたまらないが、ユウとしてはナータンの気持ちもいくらか理解できた。特にエッベが騙したことを知っているだけに後ろめたさも感じている。


 ともかく、1日半をかけて4人は町に戻ってきた。町の郊外にある岩塩の採掘場に差しかかるとナータンが不機嫌なままユウたちから離れて行く。


 それを見送ったエッベが振り向いた。笑顔で2人に話しかける。


「やっと終わりましたね。それじゃ、一旦宿に戻りましょう。さすがに魔塩を背負ったまま酒場に行くのもなんですから」


「本当にこれで大丈夫なの?」


「ええ、大丈夫ですよ」


 当たり前といった様子でエッベに返答されたユウは若干の不安を感じつつもうなずいた。岩塩の採掘場近辺で話せるようなことでもないので、詳しく知りたいのならば場所を変えるしかない。


 3人は重い魔塩の入った麻袋を背負って宿に戻る。エッベが店主から鍵を受け取ると個室に向かった。中に入るとすぐに麻袋を床に下ろす。体が一気に軽くなった。


 解放感溢れる息を盛大に吐き出すユウとトリスタンにエッベが体を向ける。


「本当にお疲れ様でした。おかげで塩ギルドの鑑定人もうまく誤魔化せましたよ」


「あれで本当に騙せたの? 後でばれない?」


「それはこれからのあっしら次第ですね。あんまり派手にやり過ぎると噂が広まって怪しまれますが、細々とやっていれば案外ばれませんよ。この町で個人的に魔塩の採掘をしてる連中は大なり小なり同じことをやっていますから」


「みんながやっているからばれにくいってこと? 塩ギルドはそれに気付いていないんだ」


「薄々は知ってるでしょう。塩ギルドだって馬鹿じゃないんですから。でも、いつか説明しましたが、塩ギルドが実際に魔塩の山脈で管理できてるところは一部だけです。あんまり締め付けを厳しくしすぎると、魔塩の塩脈の探し手がいなくなるどころか手の届かないところで濫掘されかねないですから、それとの兼ね合いですよ」


 厳しい締め付けが有効なのは完全に管理が行き届いている場合のみだ。そうでないと、綻んでいる所から誰もが逃げてしまう。そうなると最終的に困るのは管理者だ。塩ギルドはそれを理解しているというわけである。


 今回目の当たりにしたこととエッベの説明を重ね合わせたユウはそういうものかと納得することにした。若干の不安はあるがそこは折り合いを付けるしかなさそうだ。


 次いでトリスタンがエッベに疑問を投げかける。


「それにしても、よくこの短期間でここまでやったな。爺さんから聞いていたとはいえ、この町に着いてから俺たちと再会するまでに4日間くらいしかなかったっていうのに」


「正直あっしもここまでうまくいくとは思いませんでしたよ。確かにじーさんの教えてくれたことは信じてましたけど、まさかここまでぴったり一致してるとまでは思っていませんでしたから。一番驚いたのは魔塩の塩脈です。言われたとおりそのまま残ってたんですから最初は目を疑いましたよ」


「あれ、かなり昔に誰かが掘った跡だよな。ああいった所を更に掘るなんてことは他にもあるのか?」


「町に来てすぐに聞いて回ったらたまにあるそうですよ。もしかしたら諦めずに掘ったら魔塩が出てくるんじゃないかって思ってね」


「あそこを最初に掘ったのはお前の爺さんなのか?」


「いえ、じーさんの知り合いだそうです。やり過ぎて塩ギルドに追われる直前にじーさんに安値で教えてくれたって聞いています。で、一応自分でも少し掘ってありそうだとわかったそうなんですが、他のもっと有望な所を掘ってるうちにそのままにしちゃったらしいですね」


「そんなことまで教えてくれたのか」


「じーさん、親父の体たらくをかなり悔しく思っていたらしいんですよ。それで、あっしが行商から身を立てたいって言ったら、えらく気に入ってくれて期待してくれたみたいなんです」


「ああ、女で身持ちを崩したんだっけか」


「そのせいで、遊びはほどほどにしておけって口を酸っぱくして言われましたよ。目の前でその実例を見ていたんで、言われなくてもそうしてましたけどね」


 力なく笑ったエッベが肩をすくめた。それを見たトリスタンが苦笑いした。お互いに実の親がやらかしているだけに(まと)う雰囲気が似ている。


「今の話を聞いていると、エッベの爺さんは他にも手つかずの場所を知っていそうだな」


「はい、いくつか教えてもらいました。まだ確認はしてませんけど、この調子だとどこも残ってるかもしれませんね。全部が当たりだとは限りませんが」


「もしそうだったら、エッベが一山当てるのは確実だな」


「へへへ、だったらいいんですけどねぇ」


「それ以前に今掘っているところが当たってくれないと困るわけだが」


「あっしも少しだけ掘りましたが、たぶんあるんじゃないですかね。じーさんが教えてくれた当たりの塩脈の型と一致してましたから」


「あの塩ギルドの鑑定人はそれを見抜けなかったのか」


「鑑定人にもピンからキリまでいるってことです」


「ということはお前、駄目な鑑定人をわざと選んだのか」


「へへへ」


 愛想笑いをするエッベにトリスタンが何ともいえない表情を見せた。


 その話を聞きながらユウは持って帰ってきた麻袋にちらりと目を向ける。その袋には岩塩と魔塩が混じったものが入っていた。エッベに顔を向けると問いかける。


「エッベ、今回の採掘って鑑定人に見せるためだって言っていたけれど、赤字なの?」


「わざと岩塩ばっかり掘ってもらっていましたからそうですよ。またそう見せないと鑑定人を誤魔化せないですしね」


「なら、次からは儲かると考えている?」


「そうですよ。大丈夫ですって。ここまでじーさんの言うことがぴったり一致しているんです。損はしませんって」


 明るく返答するエッベにユウはうなずいた。実際には信じるしかないと言ったところではあるが、ともかくやるしかないのは確かだ。


 それに、ユウが掘るならば見当違いの場所を掘ることもない。常人にはただの塩に見える岩塩にでもその濃淡が見えるので、1度うっすらとした紫の色を見つけるとほぼ確実に魔塩のある場所を探れるからだ。


 この能力に関してユウはエッベにはっきりとは伝えていない。以前酒場で自分語りをしたことはあるが一部の話は意図的にぼかしたのだ。そのため、精霊と出会った古代遺跡に入ったこと、森の中の古代遺跡で転移したこと、魔窟(ダンジョン)で魔法の道具の効果を目の当たりにしたことについては語ったが、精霊と出会ったこと、古代人と出会って精霊の力で転移したこと、幽霊や魔法や魔力が見えることは語っていない。


 尚、トリスタンもこの件については黙っていてくれている。不用意に話をしてどうなるかがわからないからだ。


 そんなことをユウが考えていると、エッベが急に何かを思い出して懐から小袋を取り出した。そして、そこから金色に輝く貨幣を取り出す。


「そうだ、忘れないうちに今回の報酬を2人に渡しておきましょう」


「金貨、本当にもらえるんだね」


「そりゃそうです、契約したんですから」


「あれだけでこんなにもらえるとはなぁ」


 それぞれ1枚ずつもらった金貨を眺めながらユウとトリスタンはため息をついた。普段の仕事からすると難易度の割に高額の報酬だ。


 報酬を手渡したエッベが小袋を懐にしまって宣言する。


「今回は稼げませんでしたが、次回からは大きく稼ぐつもりです。2人には期待していますよ」


「やるからには全力で掘るよ。たくさん出てくると良いよね」


「これからが本番ってわけか。どのくらい魔塩を採掘できるんだろうな」


「そんなのたくさんに決まってますよ。でなきゃあっしが破産してしまいます。死ぬ気で掘ってくださいよ」


 明るく迫るエッベにユウとトリスタンはうなずいた。儲かるというのならばまだ力も入ろうというものである。


「さて、それじゃ疲れを癒やすために酒場へ行きましょう。持って帰ってきた魔塩は明日市場で売ります」


「塩ギルドにじゃないんだ」


「もちろんあのギルドの息はかかってますよ」


 ユウの疑問に対してエッベが肩をすくめて答えた。そうだろうなとユウも納得する。


 3人は話をしながら宿の個室から出た。

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