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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第22章 一山当てたい行商人の旅路

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冒険者の出した結論と商売人の提案

 冒険者ギルドで話を聞いたように遺跡には何もないことをユウとトリスタンは確認した。やや気落ちした様子で魔塩の山脈からロルトの町へと戻ってくる。


 ただし、ユウに関してはまたもや奇妙なことが起きていることが判明した。遺跡に入ると高い確率で精霊にまつわる何かが起きる。今回の件でこのことを自覚した。


 更にもう1つ、ユウは食事ごとに塩を舐めている。例のユウにだけ紫色に見える塩だ。別にユウ自身は食べたいと思わないのだが、何となく食べた方が良いように思うのである。


 魔塩の山脈から出てきた2人は作業音が満ちる岩塩の採掘場に差しかかった。その脇を通り抜けている途中、トリスタンが雑談のひとつとして塩の件を話題にする。


「お前、そんなに塩ばっかり舐めてて大丈夫なのか?」


「さすがにそこまでたくさん舐めてないよ。持って帰ってきたのも小さい塊だけだしね」


「黒パンに塩を振りかけていたときは目を疑ったぞ」


「だって、塩だけ舐めていてもおいしくないし、干し肉だと辛くなりすぎるような気がするんだもん」


「確かに干し肉に振りかけるよりは、いや、やっぱり黒パンにかけるのも変だ」


 一瞬納得しかけたトリスタンだったがすぐに思い直した。塩を振りかけること自体が間違っていることを思い出したのだ。


 そんなことを話ながら2人は酒場へと入った。背中から荷物を下ろしてカウンター席に座る。通りかかった給仕女に料理と酒を注文すると話を続けた。しかし、ここからは少し真面目な話だ。


 最初にユウが口を開く。


「魔塩の山脈で遺跡に行けたのは良かったけれど、何もなかったのは残念だったなぁ」


「まったくだ。めぼしいところは塩ギルドが抑えているとなると、俺たちの行ける範囲にはあんな遺跡しかないということだな」


「地元の冒険者でさえ塩ギルドに頼らないとやっていけないなら、僕たちなんてどうしようもないよね」


「そうなると、ここで稼ぐのは無理ってことだな。なら、次は冬の森に行くか」


「あそこの冒険者ギルド内は賑やかだったから、面白いこともできそうだしね」


「後はエッベの件だな。俺としてはすぐに行きたいが」


「とりあえず会って話を聞いてから考えよう。もし、エッベのお爺さんから聞いた話が役に立たなかった場合は、すぐに町を出ても良いと思う。そうなると魔塩の塩脈を探すのに結構時間がかかるだろうから」


「さすがにそれは待っていられないってわけか。まぁそうだよな」


 話をしているうちにユウとトリスタンは直近の方針だ定まった。エッベにはかわいそうだがユウたちにも予定がある。うまくいかないことにいつまでも付き合う気はない。


 料理と酒が届けられると2人は食事を始めた。




 翌日、ユウとトリスタンは町を移動する準備を始めた。朝起きてから外出の準備を整えて、それから最初に荷物の点検をする。何が不足しているのか確認するのだ。それが終わると三の刻の鐘が鳴ってから市場へと向かう。早朝に賑わう飲食の屋台は一段落ついたところで、それ以外の店はこれから仕事が始まるところだ。


 今回の買い物はトリスタンが中心なのでユウは相棒の後ろを歩いている。たまにすれ違う人が持つ食べ物の匂いに目が引き寄せられることがあった。


 3軒目の店から出たところでユウはトリスタンに声をかけられる。


「ユウは何か買いたい物はあるか?」


「僕のはどれも酒場で買うやつばかりだから市場はいいかな。あと何軒回るの?」


「2軒くらいかな。店を探すのに時間がかかるくらいだと思うぞ」


「それじゃ行こう、って、あれはエッベ?」


 路地の奥にある十字路を横切ろうとしている見知った顔をユウは見つけた。買い物が終わってから会いたいと思っていた人物だ。思わず声をかけて駆け出す。


 十字路の反対側にその姿が消えかかっていたエッベは立ち止まったのをユウとトリスタンは目にした。もう1度呼びかける今度は2人に気付く。


「ユウにトリスタンじゃないですか! こんなところでどうしたんです?」


「ちょっと買い物をしていたんだ。そっちは市場で何をしていたの?」


「へへへ、手に入れたブツを換金してたんですよ。それで、これからちょっと野暮用です」


「なんだ、これから用事があるんだ。引き止めて悪かったね」


「構いませんよ。ちょうど会いたかったところですし。そうだ、昼飯を一緒にどうです? ごちそうしますよ」


「え、いいの?」


「もちろんですよ! 四の刻に冒険者ギルドの前で待ち合わせましょう」


「一番確実な方法だね、良いよ」


「それじゃ、あっしは先に用事を済ませてきますよ」


 機嫌良く話を切り上げたエッベが去って行く後ろ姿をユウとトリスタンはわずかに呆然としながら見送った。一体何があったのかわからないが、それは昼食時に話を聞くことにする。ユウたちもまだ残っている用事を市場で済ませることにした。




 四の刻頃、ユウとトリスタンは冒険者ギルド城外支所の前で立っていた。トリスタンの買い物があの後短時間で終わったので早めに来て雑談で暇を潰す。途中で城外支所の中にある打合せテーブルの席に座っておけば良かったと思った頃には鐘が鳴り始めていた。


 少し遅れたエッベと合流した2人は歓楽街の酒場へと向かう。食堂を兼ねている店が大半なので酒場前の通りの往来はなかなか多い。かろうじてテーブルの空いている店を見つける3人は滑り込むようにして入った。


 給仕女を掴まえたエッベが料理と酒を注文すると席に座って他の2人に顔を向ける。


「これでやっと一息つけますねぇ」


「エッベ、僕たちの方から話すことがあるんだけれど、先に良いかな?」


「構いませんよ。何でしょう」


「僕とトリスタンは、昨日まで3日間かけて魔塩の山脈の中にある遺跡に行っていたんだ。それで色々と見て回ったんだけれども、見るべき物もない上に遺跡の探索ではほとんど稼げないことがわかったんだよね。それで、ソルターの町に行って冬の森に行くことに決めたんだ」


「あっしも詳しく調べて驚きましたが、思った以上に塩ギルドが強いんですよね。冒険者ギルドが完全に格下扱いですから」


「そうなんだ。それで新しい遺跡の発掘もままならないと知って、ここじゃ何もできないと思ったんだよ」


 塩ギルドと冒険者ギルドの関係をエッベも知っていることにユウは一瞬驚いた。しかし、屋台の店主ですら知っていることなのだから当然だと思い直す。


 話が途切れたところで料理と酒が届けられた。空腹であることを思いだした3人は一旦食事に集中する。奢ってもらった料理と酒はいつだっておいしいものだ。


 ある程度食べるとトリスタンがエッベに話を向ける。


「それで、エッベの話はどういうものなんだ?」


「2人が遺跡に行っている間、あっしは魔塩の塩脈を探していたんですよ。じーさんの話を信じて。するとどうだ、発見できたんですよ」


「え、本当にか?」


「もちろん本当ですよ! 朝に会ったときに言ったでしょう、ブツを換金したって」


 満面の笑みで話をするエッベをユウとトリスタンは呆然と眺めた。大して信じていなかった話が当たったようなのだから驚きもする。行商人の祖父の教えは本物だったらしい。


 尚も黙ったままの2人に対してエッベが提案を持ちかける。


「2人は冬の森に行くと言ってましたから、今はもうやることもないんですよね? だったら1度一緒に魔塩を採掘しましょう。仕事の内容は魔塩の採掘と運搬とあっしの護衛、1回の採掘で6日間活動して1日休暇、これで報酬は金貨1枚です」


「え? 状況にもよるけれど、同じ期間なら日当銅貨4枚の荷馬車の護衛なら盗賊を8人倒したくらいの報酬じゃない? 採掘と運搬と護衛の仕事を合せても高いように思えるけれど。襲撃されたときの撃退報酬と戦利品の扱いはどうなっているの?」


「一般的なものにしますよ」


「追加報酬ありなの!?」


「そうそう、言い忘れていましたけれど、活動中の3食はこちらで提供します。他にも、荷物を保管するための宿、4人部屋ですけどね、これも提供します。もちろん宿は休暇の間も使えますよ」


「逆にそこまで言われると胡散臭いよな」


 木製のジョッキを持ったままトリスタンが訝しげな視線をエッベに向けた。それを受けた行商人が愛想笑いをする。


「へへへ、それだけ儲かるってことですよ。もっとも、採掘場所なんかの秘密を守ってもらうための口止め料も入ってますがね。それに最初に言ったでしょう、一緒に儲けましょうってね」


「そういうことならまだ納得できるか」


 付け加えられた説明にトリスタンがうなずいた。


 実際にやってみないとわからない部分はあるものの、かなりの好条件の依頼だ。襲撃されることがなければ、6日間穴を掘って塩を運ぶだけで金貨1枚である。


 断る理由が見つからなかった。

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