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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第22章 一山当てたい行商人の旅路

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魔塩の山脈の冒険者たち

 ロルトの町の冒険者ギルドの状態をある程度理解したユウはトリスタンと共に外へ出た。すると、相棒がユウに話しかけてくる。


「あんまり面白そうな所じゃないな」


「そうだね。とりあえず近場の遺跡をひとつ見繕ったけれど」


「もしそこに行ってつまらなかったら、冬の森に行くか? あっちの方が面白そうだぞ」


「確かにね。でもそうなると、エッベがね」


「あー、確約したわけじゃないからすまんの一言で済ませてもいいんだろうが」


「何回かは付き合った方が良いと思うんだ」


「最低限の義理を果たすって意味でか」


「うん。こっちの遺跡関連だと稼げそうにないから、あんまり長くいるのはね」


「そうだよなぁ。地元の冒険者はどうやって生活しているんだか。でも、エッベの方で稼げたら何とかなるのか」


「エッベの儲け話、そんなにうまくいくと思う?」


 難しい顔をしたトリスタンが黙り込んだ。エッベは相当やる気のようだが、実際にどうなるかはまだ未知数だ。エッベは祖父に成功した方法を教えてもらったそうだが、本当に有効かどうかはユウたちにはわからない。現実問題として、現時点ではまったく当てにはしていないし、するべきでもないとユウは考えていた。


 大きく息を吐き出したユウがトリスタンに顔を向ける。


「とりあえずは遺跡に行く準備をしようか。明日から3日間のために」


「随分と急だよな。何日か休みを入れないのか?」


「遺跡に行って基本方針を固めてからゆっくりと休めば良いじゃない。今のもやもやした状態だと本当に心から休めないでしょ」


「それもそうか」


 トリスタンの説得に成功したユウは一路貧民の市場へと向かった。


 遺跡に行くための準備とユウは言ったが、実際のところは今回はほぼやることはない。消耗品はまだ充分にあり、失った装備もないからだ。では何のために行くのかというと聞き込みをするためである。


 最初に向かったのは屋台だ。冒険者が寄りそうな串肉を扱う店である。別の冒険者が1人買っていったのを見たユウはその屋台で自分が1本買う。


「おじさん、この串を1本ください」


「あいよ! 中までしっかり火が通ってるから安心して食ってくれ」


「ありがとう。ところで、僕は最近この町に来たばかりなんだけど、色々とわからないことが多いんだよね」


「へぇ、そりゃ大変だなぁ。それで、わからないことってのはなんなんだ?」


 店主の質問をきっかけにユウは串肉を食べながら自分の知りたいことを問いかけた。


 それによると、昔は今よりも遺跡がよく発見されていたので、貧民の市場にも発掘品がたくさん持ち込まれて冒険者も景気が良かった。しかし、最近はすっかり発見の頻度も落ちてしまい、遺跡探索は下火になっている。たまに魔石を持ち帰ってくる冒険者がいるくらいだ。


 では、冒険者はどのように生活をしているのかというと、現在は事実上塩ギルドの下請けみたいになっている。魔塩の塩脈を探して塩ギルドに採掘権を売って稼いでいるのだ。ただし、交渉が下手なので買い叩かれているのが実情である。こういうときのための冒険者ギルドなのだが、ロルトの町では塩ギルドは冒険者ギルドよりも強いので当てにならない。


 話を聞いたユウは更に話を聞き出すために問いかける。


「でもそれだったら、自分で魔塩を掘って売ったら良いんじゃないですか?」


「そんなことを塩ギルドが許すはずないだろ。そもそも魔塩の山脈は塩ギルドの管理下だし、岩塩だろうと魔塩だろうと採掘できるのは塩ギルドだけなんだ。だから、塩ギルド以外の行商人や冒険者が魔塩の塩脈を発見したときは報告を義務づけられてるんだよ」


「ということは、冒険者が売っているっていうのも、もしかして強制的な買い取りなんですか?」


「当たり! ただし、買い叩いてばっかりだとそのうち不満が爆発しちまうから、発見したときに多少掘るのは黙認してるらしいぞ」


「うまいことしていますね」


「まったくだ」


「それじゃ、塩ギルドが塩脈を全部買い取るわけですね」


「採算の取れる塩脈はな。割れる場合は発見者のものになるそうだぞ。少人数で掘るならちょっとした金になるらしい」


「それは素晴らしいですね」


「話がここで終わればな。ところが世の中うまくかないもんでよ、その採算割れの塩脈を巡って冒険者や商売人で取り合いになることもあるんだ。そこでまた塩ギルド様のご登場でな、管理費として利益の一部を上納すると塩ギルドの保護が受けられるって寸法よ。つまり、どうやっても塩ギルドからは逃れられないってことさ」


「うわぁ」


 得意気に話す店主の話を聞いたユウは唖然とした。魔塩の利権は完全にがんじがらめになっている。そして、冒険者も冒険者ギルドも完全に塩ギルドの下請けだ。このロルトの町で活動するなら知っておくべき話だが、できることなら聞きたくなかった類いの話でもある。


 冒険者ギルドで聞いた話よりもひどい話を知ったユウとトリスタンはふらつきながら屋台を離れた。冒険のネタを取り上げられた上に事実上の傘下扱いとはあんまりな状態である。


「ユウ、知らずに休んだ方が良かったんじゃないか?」


「僕もそう思う」


 力なく歩く2人は大きなため息をついた。冒険者として活動するのならばソルターの町の方が断然良さそうに思える。あちらも他のギルドの傘下扱いでなければだが。


 こんな状態でエッベはどうやって一山当てるのかユウにはさっぱりわからなかった。




 一応気持ちを切り替えてその後も準備などを進めたユウとトリスタンは六の刻が過ぎてから酒場に入った。久しぶりにカウンター席へと座ると料理と酒を注文する。


「明日から3日間の探索か。何て言うか、ここまで心躍らない冒険っていうのも珍しいな」


「結果にかかわらず冬の森に行こうってこと?」


「まぁ、正直に言うとそうだな」


「この辺りだと12月から冬だそうだから、早く行った方が良いのは確かだよね」


「だろう? 北の果てに来たっていう目的は果たせたし、もういいような気がする」


「後は魔塩がどんなものか見てみたいなぁ。それさえ見たら、もうここに思い残すことはないから」


「ということは、エッベの仕事を手伝ってからってことになるな」


「あれ? 結局そうなるんだ」


 不思議そうにユウが首を傾けたところで給仕女が料理と酒をカウンターに並べた。最初にエールで口を湿らせてから肉を切って食べる。


 2人がもそもそと食事を始めると背後で怒鳴り合いが始まったことを知った。振り向くと、総勢8人もの冒険者たちが4人ずつに分かれて対立している。店内の誰もがしゃべるのを止めて注目しているので怒鳴り合いの内容が聞き取りやすい。


 口論の内容によると、どうやら魔塩の塩脈を巡る争いのようだ。モンス率いる折れない矢(オクロッスバラピラル)が発見して採掘していた場所を、オロフがまとめる正しき炎(レッツフランマ)が台無しにしたらしい。しかも、立て続けに2回だ。それにモンスたちが怒ったようである。証拠はないらしいが。


 時間の経過と共に口論は激しくなり、周囲の人足たちも楽しそうに囃し立てた。しかし、あわや衝突というところで体格の良い男が仲裁に入る。そして、店の外でリーダー同士が決闘することになると、店内が歓声に包まれた。


 決闘する2人の他、パーティメンバーや見物人たちが一斉に外へと出て行く。3分の1程度の客が残った店内は一気に静かになった。


 カウンター席に座ったままのユウとトリスタンは顔を見合わせる。


「魔塩で稼ぎたいのなら黙って採掘していれば良いのに、なんで正しき炎(レッツフランマ)の方は余計なことをしたんだろう?」


「さぁ。それ以前にもう一方が余計なことをしたのかもしれん」


「魔塩の採掘もただ掘っていれば良いだけじゃないのかもしれないね」


「エッベは暴力沙汰は苦手だって言っていたが、まずいんじゃないのか?」


 店の外から聞こえてくる歓声と声援を耳にしながら2人は首を傾けた。どうも思った以上に物騒なところみたいであり、暴力的手段を持たない者には厳しそうな環境である。


「今度エッベに会ったら確認してみよう」


「そうだな。せっかく魔塩を見つけても奪われたり台無しにされたりされたら大変だ」


 食事を続けながらユウとトリスタンはエッベに忠告することで一致した。変則的だが旅の同行者だったあの行商人はどうも憎めないのだ。


 どちらも無言になった2人が黙々と食べていると店の外の歓声と悲鳴がひときわ大きくなった。そこに罵声が飛び交うようになる。勝負が付いたらしい。


 最初はちらほらと、次第に大勢が店内へと戻ってきた。客の誰もが口々に決闘の内容について楽しそうに話をしている。それによるとモンスが僅差で勝ったようだ。


 2人にとってはどうでも良いことである。食事を終えるといつものように雑談をせず、早々に店を出た。

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