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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第22章 一山当てたい行商人の旅路

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岩塩の町

 魔塩の山脈の南東の端に人間が寄り集まっている町がある。山全体が岩塩でできている山脈から岩塩を削り取るためだ。ロルトの町はそのための拠点である。


 その町に何台かの荷馬車がまとまった隊商が到着した。朱い空の下、街道から白っぽい平地へと移ると次々と荷馬車が停まってゆく。


 後を歩いていた徒歩の集団はそのまま隊商の脇を通り過ぎた。そして、もう少しで歓楽街という所で全員が立ち止まる。旅の終わりだ。


 温かいナイフ(ヴァルムクニヴ)のレンナルトがユウへと振り向く。


「この辺りでいいだろう。そろそろ解散しよう」


「そうだね。ありがとう。色々と助かったよ」


「こっちもな。まぁ、同じ冒険者だし、またどこかで会うかもしれん。じゃぁな」


 あっさりとした別れを告げるとレンナルトたちは歓楽街へと入っていった。すぐにその姿は見えなくなる。


 大きく息を吸って吐いたユウは仲間へと振り向いた。それから告げる。


「僕たちも行こうか。とりあえず酒場だね」


「そうだな。早く肉が食いたいぜ」


「あっしは酒ですね。ジョッキを一気にこう、く~っと」


 全員の賛同を得られたユウは脚を動かした。往来する人々を避けながら先を行く。


 歓楽街を往来する人々は人足が多かった。岩塩の採掘が盛んなのでそれ関係であることが推測できる。なので、酒場の中も人足が多かった。ただし、どこも冒険者は少数派である。


 選ぶのも面倒になってきたユウはある程度席が空いている酒場に入った。テーブル席をひとつ占めて料理と酒を注文して座る。


「やっと着いたね。シープトの町から2ヵ月半くらいかかったかな」


「長かったよな。結局大陸北部の短い夏を移動で丸々使ったし」


「この町が北の果てなんだよね。何だか生活感がありすぎてあんまりそんな気がしないけれど。でも、これで大陸の端を全部制覇したことになるのかな」


「すごいじゃないですか。こりゃパァっとやらないといけないですね」


「それでこのまま故郷まで帰ったら、大陸一周することになるんだ。なんだかすごいことをしている気になってきたな」


「お前、今更かよ」


 給仕女が料理と酒を運んでくる最中にも3人はしゃべり続けた。旅路に一段落着いて全員の気が緩んでいる。そんな状態で食事が進んだ。


 木製のジョッキを空にして給仕女に代わりを注文したトリスタンがエッベに顔を向ける。


「エッベはここから稼ぐわけなんだよな。えっと、魔石、じゃなかった、魔塩で」


「そうです! いやぁ、ここに来るまで苦労しましたよ。その分稼いでやりますから」


「魔塩の塩脈、だっけか、あれを探す方法を知っているんだったら楽勝じゃないか?」


「どうでしょうねぇ。そうだとあっしも嬉しいんですが。まずはやってみないことには」


「そうだな。まぁ、応援しているぞ」


「応援だけじゃなくて、できれば手伝ってほしいんですけどね?」


「そうはいっても、この町で何ができるのかまだ確認していないしな。それからじゃないと何とも言えないぞ。確か最初にユウが、俺たちのやりたいことを優先するって言っていただろう?」


「覚えてますよ。あっしとしちゃ、2人がやりたいことを見つけられないのを祈るしかないですねぇ」


「おいおい、ひどいじゃないか」


 トリスタンとの会話で盛り下がるエッベがため息をついた。


 少しかわいそうに思えたユウがエッベに声をかける。


「エッベ、確認なんだけれども、塩脈を探すのは1人でもできるの?」


「一応できます。じーさんも最初は1人で探してたそうですし」


「だったら、まずは塩脈を探したら良いんじゃない? 僕たちはその間に冒険者ギルドに行って話を聞いて、面白そうな話があればそれに乗ってみるんだ。で、その合間にエッベを手伝えば良いんじゃないかな」


「できればガッツリ関わってほしいんですけど」


「そもそもそんな最初からがっつりなんてできるの? 普通だと最初は細々と続けて、それを少しずつ大きくしていくものなんじゃないかな」


「見つける塩脈次第でしょうね、それは。まぁでも、協力してくれる気があるのは嬉しいです。とりあえずはそれで良しとしますよ」


 ユウの言葉でいくらか明るくなったエッベがうなずいた。まずは採掘できる対象がなければユウとトリスタンに協力してもらう意味がない。今すぐ手を借りる必要はないのだ。


 仕事に近い話はここで一旦終わり、話題は別の物へと移ってゆく。これから別行動になる3人は食事を思いきり楽しんだ。




 翌朝、ユウとトリスタンは冒険者ギルド城外支所へと足を向けた。魔塩の山脈でどんな仕事があるのかを知るためだ。小さい石造りの建物に入る。落ち着いているというより静かという雰囲気だった。冒険者の姿もほとんど見えない。


 受付カウンターの前には誰も並んでいなかった。これ幸いにとユウはトリスタンを伴って受付係の前に立つ。


「昨日この町にやってきた冒険者です。魔塩の山脈での仕事ありますか?」


「あるよ。ただ、いいのは大抵塩ギルドに取られるけど」


「え? どうして塩ギルドが出てくるんですか?」


「魔塩の山脈は岩塩の塊で、塩ギルドがそれを採掘してるからさ。この島の主産業を抑えてる連中に逆らえるヤツなんていないね」


「いえ、それ以前に、どうして塩ギルドが遺跡に関わるんですか? 岩塩と魔塩を採掘するギルドなんですよね?」


「魔塩の山脈で遺跡を見つけようとすると岩塩を掘らなきゃいけないからだよ。そして、冒険者が勝手に掘っちゃいけないんだ。何しろ、名目上は塩ギルドがこの魔塩の山脈全体を管理していることになってるからな。だから、塩ギルドが岩塩の採掘中に遺跡を発見して、めぼしい物を取ってからでないと冒険者は遺跡の中に入れないんだ」


 思わぬ話を聞いてユウとトリスタンは愕然とした。遺跡は冒険者優先だとばかり思っていたからだ。


 より詳しい話を聞くと、塩ギルドは発見した遺跡の安全な場所だけを周り、そこにあった物を持っていくという。つまり、安全でない場所にある物に関しては関わらないわけだ。岩塩を採掘する場所に冒険者は普段立ち入れないので実際のところは怪しい部分はあるが、少なくとも暗黙の了解でそうなっている。


 話を聞き終えたユウは強い失望感を抱いた。とりあえず気になることだけでも聞いておく。


「ということは、魔塩の山脈で僕たちが遺跡を発見できることは」


「まずないね。外から見える遺跡で誰もいないところは、既に探索し尽くされたところだけだよ」


「土砂崩れみたいなのがない限り、冒険者が最初に遺跡に入れることはないわけですね」


「魔塩の山脈で土砂崩れ、この場合塩崩れとでも言おうか、これは起きたことがない。そもそも岩塩があんなぴったりくっついてるのが不思議だが、その不思議な力で崩れることがないみたいなんだ」


「そんな」


 あまり遺跡との相性が良くないユウにとってもこの話はあんまりだった。塩ギルドは表面上のおいしい部分をさらっと(さら)うだけのようだが、そこに最も価値がある物があった場合は手出しできないことになる。


「近場の遺跡は既に探索し尽くされているけど、たまに魔石が取れることもあるから行く意味がないとは言えないね。これが近隣の遺跡がある場所を記した地図だよ」


「そんなものを見せてもらえるんですか」


「既に探索が終わった遺跡だけだけどね。魔物が住みついている場合は駆除してもらう必要があるから、公開してるんだよ」


「ちなみに、もしこの探索が終わった遺跡で更に奥に遺跡があった場合はどうなるんですか?」


「そのときはオレたち冒険者ギルドの出番だ。そういう事例は一応あるから、この地図に載ってる遺跡にも行ってほしい。期待しているよ」


「わかりました。それじゃ地図を」


「そうそう、ひとつ言い忘れていたことがあった。もし遺跡から何か見つけた場合、この冒険者ギルドに持ってきたらいい。実はこのギルドには古物商から鑑定士が派遣されているから、その人に鑑定してもらうんだ。無料で見てもらえるよ」


「そんなこともやっているんですか」


「遺跡の探索はこの町の冒険者ギルドの主業務だからね。それで、価値のある物なら古物商に買ってもらい、ちょっとした物なら貧民街の買取屋に売ればいいよ。適正な値段で買ってもらえるはず」


 説明を聞きながら、ユウは古物商に買ってもらえない物を買取屋に売るというように解釈した。外れの発掘品は貧民の市場で処分するわけだ。古物商と冒険者ギルドが裏でどんな話をしているのかが気になる。


 ともかく、この魔塩の山脈での探索はあまり面白いものではなさそうだという印象をユウは受けた。遺跡の中で新しい遺跡を発見という形がめったにないのならば、延々と山の中をさまようだけである。


 建物内の雰囲気が寂れたような感じがした理由をユウは理解した。

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