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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第22章 一山当てたい行商人の旅路

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魔塩の山脈に至る道

 ソルターの町で1日休んだユウたち3人は翌朝町の北側の郊外に向かった。二の刻の鐘が鳴る頃に宿を出て日の出前に平地へとたどり着く。


 今回は冒険者4人と行商人3人の徒歩の集団に加わった。冒険者は1つのパーティで暖かいナイフ(ヴァルムクニヴ)といい、黄土色の髪をした線の細い男レンナルトがリーダーをしている。一方、行商人は今回もばらばらで一昨日一緒だった人物はいない。


 前回は他の冒険者が行商人に護衛の話を持ち込んだが、レンナルトたちはそのようなことをする気配はなかった。行商人側も魔物からの保護を願う話はなかったので、つまりはそういうことであろうことが推測できる。


 既にエッベを守る約束をしているユウはどうしたものかと内心で悩んだ。既に3人の中で契約は完結しているので、他の冒険者と行商人に同じ提案をするのは筋違いである。それならばこの集団から離れて移動すれば話はすっきりとするのだが、夜の見張り番などを考えると少なくとも冒険者たちとは一緒にいたい。そうなるとやはり行商人が冒険者を雇うという提案をするべきかと考えが戻ってくる。


 色々と考えている内に隊商の荷馬車が動き始めた。平地から街道へと入って北に進んでゆく。それに合わせて徒歩の集団も動いた。ユウたち3人も同じである。


 結局、提案できないまま魔塩の山脈に向かう旅は再開された。とはいっても、道中でやることは前と変わりない。


 町を出発して初日の夜、最初の野宿が始まった。荷馬車の集団から離れた場所に陣取った徒歩の集団は主に3つに別れる。ユウたち3人と暖かいナイフ(ヴァルムクニヴ)の4人、それに行商人3人だ。


 しかし、夜の見張り番をするならば、少なくとも冒険者とは組んだ方が良いとユウは思った。なので、朝に挨拶をしたきりのレンナルトへと話を持ちかける。


「レンナルト、どうせ夜の見張り番をするなら一緒にしない? 6人ならある程度まとまって寝ることができるでしょ」


「確かにそうだな。いいんじゃないか。2人一組で3組が順番に担当するか」


「うん、それで良いよ」


「決まりだ。ところで、そっちにいるあいつは行商人なのか?」


「そうだよ」


「さっき干し肉と黒パンをもらってたが、もしかして雇われてるのか?」


「うん。街道を歩く間の護衛だよ。1日3食の食事でね」


「いいよなぁ、お前ら。それに引き換え、あの3人と来たら」


「僕たちの行商人は僕たちで守るからね」


「そうしてくれ」


 話がまとまるとユウたち3人は暖かいナイフ(ヴァルムクニヴ)の4人と合流した。そして、2人一組で交代して夜の見張り番をこなしてゆく。満月の時期なので視界はある程度利くのが幸いだ。


 何事もなく一夜を明かすと、隊商も徒歩の集団もロルトの町を目指して再び歩み始めた。この日は昼前頃から地面が傾き始める。魔塩の山脈の麓に入ったのだ。しかし、変化があったのはそれだけで、相変わらず塩の混じった白っぽい地面が続いていた。


 サルート島を旅していて襲ってくるのは魔物だけだが、その魔物の襲撃は夜だけではない。昼間のこともある。地面が傾き始めてからしばらくすると、前方を進んでいた隊商の荷馬車が停車する。そして、荷台から冒険者が出てきて前へと走っていった。


 その様子に気付いた徒歩の集団も立ち止まる。風に乗ってかすかに届く戦闘音から魔物と戦っていることに気付いたからだ。


 不安そうなエッベがユウに声をかける。


「何と戦ってるんでしょうね?」


岩蜥蜴(ロックリザード)って言葉が聞こえたから、たぶんそれなんだと思う」


「ユウ、それってどんな魔物なんだ?」


「2レテムくらいの大きな蜥蜴(とかげ)で、表面の皮膚は岩のようなざらついた肌をしているんだ。これがまた硬くてなかなか倒せないんだよね。しかも、意外に俊敏だから鈍そうな見た目に騙されるとやられるよ」


 相棒に顔を向けたユウが自分の知識を披露した。砂漠で遭遇したときのことを思い出す。


 しばらく騒がしかった隊商の先頭も魔物を倒したことで静かになった。護衛の1人が仲間に担がれて荷馬車へと戻ってゆく。


 後始末が終わると隊商は再び動いた。それに合わせて徒歩の集団も歩く。この後は何事もなく先に進めた。


 2日目の夕方、ユウたちは再び野宿をする。ユウたちとレンナルトたち7人が一塊になった。そして、行商人たちは横になる場所をかなりユウたちに近づけてくる。


 昼間の出来事が影響していることはユウにもはっきりとわかった。気持ちは非常によく理解できる。しかし、これはいくら何でもあからさま過ぎた。


 注意するのも違うとユウが悩んでいると、レンナルトが商売人たちに声をかける。


「おい、なんでこんな近くに寄ってくるんだよ。昨日はもっと離れてただろ」


「オレたちがどこで寝ようと構わないだろう。たまたまあんたたちの近くっていうだけだ」


「そうだ。とやかく言われる筋合いはないぞ」


 反論されたレンナルトが目を剥いたが口は開かなかった。怒りで顔を歪めたパーティリーダーは反転すると自分の仲間とユウに声をかける。


「おい、場所を変えようぜ。ここでなんて寝られやしねぇ」


「だったら、あの隊商の前に行く? 今と同じくらい離れた場所なら文句も言われないだろうから」


「そりゃいいな! みんな、行こうぜ」


 ユウの提案を気に入ったレンナルトの声かけで7人は隊商の荷馬車を中心に反対側へと移った。荷馬車の関係者が不思議そうに眺めているが気にしない。


 こうして2日目の夜が始まった。




 9月の半ばだとまだ残暑の季節なので暑さの名残のようなものがあるが、サルート島のような北の端になるとすっかり気候は秋である。そのため、毛皮製の服を着ていても夜は外套があった方が良い。


 島にやって来てすぐにそのことに気付いたユウは洗って麻袋に入れていた全身を覆える毛皮製外套を羽織っていた。夜はじっとしているとこれでちょうど良いくらいである。


 自分の番がやってきたユウはトリスタンと共に周囲を見張っていた。月明かりで照らし出される風景は昼間と大きく異なる。どこから魔物がやって来るのかがわからないので全体を満遍なく見張るのが非常に面倒だ。たまに動くのが眠気覚ましになるというくらいしか利点がない。


 行商人の3人はユウたちとレンナルトたちを追ってこなかった。さすがにそこまで図々しくなかったのか、それとも怒ったレンナルトに殴られると思ったのかは定かではない。素直にレンナルトのパーティを雇えば良いのにとユウなどは思う。


 ともかく、隊商の荷馬車の向こう側にいる行商人の姿はユウのいる場所からは直接見えなかった。早く見張りが終わってほしいと思いながら周囲を眺める。


 しかし、残念ながらそういうわけにもいかなかった。ほぼ真南、冬の森側から何かが複数近づいて来るのに気付く。


「4本脚、動物? いや、魔物だから獣じゃない。そうか。みんな起きて、黒妖犬(ブラックドッグ)が来た」


 暗闇に溶け込みそうなその姿から魔物を特定したユウがレンナルトたちを起こした。その後、武器を持って構える。


 この位置からだと進路の特定が厄介だとユウは感じた。街道に沿って南東から北西に商売人3人、隊商、ユウたちと野宿しているので、誰を襲おうとしているのかはっきりとしない。


 レンナルト率いる温かいナイフ(ヴァルムクニヴ)は全員すぐに戦える状態に移った。見張り番のトリスタンはもちろん、エッベも起きていつでも逃げられる体勢だ。


 複数の黒妖犬(ブラックドッグ)は三方に分かれた。2匹がユウたちへ、3匹が隊商へ、1匹が行商人へそれぞれ突っ込む。


 ユウたちの集団で戦ったのはトリスタンとレンナルトの仲間だった。どちらも第一撃を躱すと反撃する。動きは滑らかで淀みがない。他の手助けを必要とすることもなく倒した。


 ほぼ同時に襲われた隊商の方もあらかじめ待ち構えていたようだ。複数人が戦い始める。あちらは人数も充分いるので心配する必要はない。


 ところが、戦う術のない行商人たちはそういかなかった。隊商の荷馬車の向こう側から男の悲鳴が聞こえてくる。


 戦いが終わったユウたちは悲鳴が上がった方へと顔を向けた。しかし、隊商の荷馬車にさえぎられてその向こう側は見えない。


 不安そうな表情のエッベがユウに声をかける。


「あっちはどうなってるんでしょうね?」


「悲惨な目に遭っているのは間違いないんだろうけれど」


 ユウはそれ以上口にしなかった。見た目が悲惨なことになることも知っているので確認しようとも思わない。


 悲鳴は長く続かなかった。そして、ユウたちの側に逃げてくる行商人もいなかった。


 翌朝、隊商は何事もなく野営地から出発すると向こう側の視界が開ける。ユウたちはちらりと見たがほぼ予想通りだった。ほぼというのは、何と1人だけ無事だったのだ。その行商人は惨劇が起きた現場で他の行商人の荷物を集めている。何ともたくましい光景であった。

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