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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第22章 一山当てたい行商人の旅路

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商売人との合流

 モーテリア大陸北部でも暦の上では夏になる8月、インゲマル船頭の船はドワムの町に到着した。ユピームの町のようにこちらの船着き場も船の出入りが多いので賑やかだ。


 不凍の湖は非常に広い湖だったので、ユウとトリスタンにとっては穏やかな海上を航海しているように感じられた。湖賊に襲われたとき以外はすることもなかったので体を休められたくらいである。


 船着き場の桟橋脇に船が停泊すると2人は背嚢(はいのう)を背負って船首から船尾へと向かった。舷に沿った狭い通路も慣れた様子で歩く。


「インゲマルさん」


「おお来たか。傭兵の連中はもう先にカネを受け取って出て行ったぞ。これがてめぇらの分だ。湖賊をやっつけた分も入ってるからな。ちゃんと数えろよ」


「はい。確かにありますね。ありがとうございます」


 湖賊の討伐報酬により膨れ上がった報酬を数えたユウは笑顔でそれを懐にしまった。トリスタンと共に礼を述べると桟橋へと移る。そのまま町の歓楽街、ではなく冒険者ギルド城外支所へと向かった。これはエッベと交わした取り決めだ。


 ユピームの町で別れたエッベと再会するにあたって、最も問題になったのは場所と時間である。合流しようとする両者ともに移動しているので合わせにくいのだ。そこで自分たちの行動予定を話し合った結果、先に町へと着いた方がドワムの町の冒険者ギルド城外支所で六の刻頃に待つということに決まった。会えなければ数日間同じ場所で同じ時間に待ち続けるのである。


 まだ六の刻になっていなかったが、中途半端な時間だったので2人は城外支所へと立ち寄った。石造りの建物の中は小さいが冒険者で賑わっている。


「エッベはまだ来ていないみたいだね」


「俺たちの方が早く着くって言っていたから、まだ町にもたどり着いていないんじゃないか? 3日間はここで待つことになっているが、果たしてどうかな」


「駄目なら先にティパ市まで行くんだったよね。だったら、待っている間に次の仕事を探そうかな」


「それがいいな」


 暇潰しも兼ねてユウとトリスタンは受付カウンターへと向かった。列に並んでしばらく待ち、順番がやって来るとユウが受付係に話しかける。


「僕たち、今日この町にたどり着いた冒険者なんです。ティパ市に向かう隊商か荷馬車の仕事ってありますか?」


「護衛兼人足の仕事だね。2人だけかい?」


「そうです」


「だったら1件だけあるかな。ティパ市行きの隊商の護衛兼人足の仕事だよ。日当は銅貨6枚、魔物と盗賊に襲われたときの義務と権利は一般的なものだね」


「出発する日はいつですか?」


「11日ってあるから、今日から4日後かな」


 エッベと合流するために町で待つ期間よりも後に出発するのはユウたちに都合が良かった。トリスタンに顔を向けると小さくうなずかれる。ユウは受付係に紹介状を書いてもらうことにした。


 紹介状を受け取ったユウはトリスタンと共に室内の一角に寄る。


「このヤーコブっていう商売人とは明日会うことにしよう」


「今日はもう遅いしな。後はエッベが来るのを待つだけか」


「来るかな?」


「どうだろうな。国境の辺りで盗賊に追いかけられていなかったら、何とかなるんじゃないか?」


「こういう待ち合わせは初めてだから不安だなぁ」


「まぁ、なるようにしかならないだろう」


 隊商の後を着いてきていたときとは違い、今回は同じ場所にいないので手を差し伸べることはできない。ユウとトリスタンはただじっと待つのみであった。




 翌朝、ユウたちは紹介状を持って町の西側に広がる郊外へと向かった。間違って2つの隊商に話しかけた後、3つ目で目的の集団にたどり着く。荷馬車は8台あった。


 目に付いた隊商関係者に用件を伝えて商隊長の所まで案内してもらう。


「初めまして、冒険者ギルドで依頼に応募したユウとトリスタンです」


「そりゃ嬉しいね。オレは商売人のヤーコブだ。紹介状は、本物か。2人だけかい?」


「はい」


「なるほど、わかった。それじゃ、いくつか聞きたいことがあるから教えてくれ」


 こうして2人はヤーコブとの面談に臨んだ。伝えられた目的地と各種条件は冒険者ギルドの説明と一致しており、ヤーコブ側の要求も常識的な範囲である。ユウたちの要望も通ったことで両者の思惑は一致し、採用となった。


 若干表情が緩んだヤーコブが最後に2人へと伝える。


「出発は3日後の朝だ。二の刻までに来てくれ。それと、隊商の連中とは2日後の三の刻に顔合わせさせる。全員がばらばらになる前の方が紹介するのも楽だからな」


「わかりました」


 面談が終わるとユウとトリスタンは隊商から離れた。これから3日間は休暇だ。エッベを待ちつつも羽を伸ばす。


 ユウはトリスタンと別れると市場へと向かった。そうして1店舗ずつゆっくりと眺めてゆく。2つ前の都市で店巡りをしてから目覚めたのだ。特に屋台がお気に入りでたまにその場で食べられる物を買っている。


 東端地方で日常に黒パンを食べることを覚え、大陸北部へたどり着いてからは再び昼食も酒場で肉をたくさん食べるようになった。そして、最近になってそこへ食べ歩きも加わる。以前と比べてユウの食費は確実に増えていた。


 そうして休暇初日の夕方、ユウは再び冒険者ギルド城外支所に立ち寄る。昨日よりも六の刻により近い時間だ。石造りの小さな建物に冒険者やその他の人々が出入りしているのを眺める。待っている途中でトリスタンがやって来た。2人は並んで立つ。


「今日は来るかな」


「俺は3日目ぎりぎりか来ないんじゃないかと思うな」


「来ないとティパ市で待ち合わせだね。そこで3日間くらい待つっていうことになっているけれど」


「そこでも駄目だったらサルート島で移動する度に冒険者ギルドで待つんだったよな。夕飯前についでに寄るだけでいいとはエッベも言っていたが、そこまで行くともう縁がないように思える」


「魔塩の山脈の麓にある町で合流するのが一番現実的かもしれないよね。あそこでならそのうち出会えるように思えるな」


「あそこが最終目的地だからな。そうなると、もっと気楽に待てばいいのか」


 待っている間はやることもないのでユウとトリスタンは雑談に終始した。その間に六の刻の鐘が鳴る。


 この日もエッベは現れなかった。




 休暇2日目、ひとしきり羽を伸ばした後にユウとトリスタンは冒険者ギルド城外支所の前で立っていた。時刻は昨日と同じ六の刻の前である。往来する人々の中に目的の人物の姿はない。


 あくびをしたトリスタンが背伸びをする。


「ん~、今日も来なさそうだな」


「そうだね。でも、鐘が鳴るまでは待とうよ」


「もちろんだ。けれど、この様子だと俺の勘が当たりそうだな」


「そうだね。って、あれは」


「ユウ、トリスタン!」


 雑踏を眺めていたユウはそこに見知った愛想笑いの似合う顔を見つけた。相手も気付いたようで声をかけてくる。


 荷物を担いで歩いて来たエッベは2人の前で立ち止まる大きな息を吐いた。顔には疲労の色が濃い。


「いやぁ、死ぬかと思いましたよ。2回も盗賊に襲われちまいましてね」


「前のようにやり過ごしたんじゃないの?」


「ええ、あのやり方でそっちはやり過ごせたんですが、2回目なんかは小さい野犬に襲われて追い払うのが大変だったんですよ」


 再会するなり道中の苦労話を話し始めたエッベをユウはなだめた。まずは3人で酒場へと向かう。テーブル席に座ると料理と酒を注文し、大いに食べて飲んだ。


 その際、ユウは次の仕事先が決まっていることをエッベに伝えた。すると、その隊商の商売人に会わせてくれと頼まれる。これを予想していたユウは承知した。


 翌朝、顔合わせのときに2人はエッベを伴う。戸惑うヤーコブにユウが事情を説明すると呆れと苦笑いの混じった表情を浮かべられた。


 今度はユウたちが戸惑っているとヤーコブがしゃべる。


「オレも行商をしていた若い頃にはよくやってたな。エッベと言ったか、大抵の隊商には断られているだろう」


「その通りです。理由も事情もわかるんで仕方ないとは思ってます」


「いきなりやって来られても簡単には受け入れられないからな。最低限、どこかの紹介がないと安心して雇えない」


「そうですね」


「ただ、飛び込みには違いないが、一応ユウとトリスタンの紹介があるからな。うーん、そうだな、3度の飯の賄いは付けるが、無償でなら人足として雇ってもいいぞ」


「本当ですか! その条件で構いません。あ、でも、途中町に寄ったら少しだけ商売させてもらえませんか?」


「路銀稼ぎだな。休暇中は何をしててもいいぞ」


「ありがとうございます!」


 期待薄だと思っていたユウは交渉が成立したことに驚いた。こういう雇われ方もあることを知る。


 こうして、ユウとトリスタンはエッベと共に隊商で働くことになった。

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― 新着の感想 ―
娼館行かないし賭場もあんまり行かないから、食費が多少上がっても良いですわなー
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